Desire ―好きだと言えなくて、誰とも結ばれない物語―

雷仙キリト

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23. Replica

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「あいつは?」

 小可さんが小声で尋ねてくる。こんな場所で小可さんの声を聞くのは、なんだか違和感がある。

「レイ。ここに住んでる」

「あの脚じゃ、もっと都心寄りのところに移った方が良いんじゃないのか? それに、こんなところに子供が住むなんて……」

 廊下を進み、一室に入った。

 ペンの先端が紙を引っ掻く神経質な音が、静かな部屋に響き渡る。

 白衣を着た痩せぎすの女性が、安っぽい丸椅子に座り、熱心に何かを書きつけている。

「刹那、モモを連れてきました」

 名前を呼ばれ、刹那さんは振り返った。眉の上で雑に切り揃えられた前髪に、眉間に深く刻まれた皺。
 不機嫌を隠しもしない細められた瞳がオレ達を一通り観察し終えると、面倒くさそうに小さくため息を吐いた。

「部外者は入れるなと何度も言っていたはずだが……まあ良い。後で見ておこう。君は契約者に連絡を」

 連絡?

「今まではそんなものいらなかったはずだけど」

「モモの状態はこれまでとは違う。君もそれが分かるから、ソレをここに急いで連れてきたんだろう」

 刹那さんはペンを机に置き立ち上がる。

「誓約書を作成してくる。モモはその辺りにでも置いておけ」

 刹那さんはヒールの音を響かせて部屋の外へと出ていった。

「小可さん。背負ったままでは疲れるでしょう。そこのベッドにモモを寝かせてください」

 レイが小可さんに呼びかける。

「……モモ?」

「失礼。これはボク達の呼び方です。今はユキと呼ぶんでしたね。

 小可さん。ユキをそこのベッドに降ろしてください。刹那が戻ってくるまでに、ボクはあなたの認証を済ませておきたいです。その方が次にあなたが来た時にスムーズに案内ができます」

 小可さんは言われるがまま、ユキさんを部屋の隅に置かれたベッドに降ろした。
 周囲を観察しながら、乾いた笑い声を上げる。

「ちょっと待って。どういうこと? 修理だとか契約者だとか認証だとか、意味分かんないんだけど」

 そこまで矢継ぎ早に言って、

「え……というか、ユキさんって何者なの?」

 答えを求めてオレに視線を向ける。

「ユキさんはオレの保護者だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 オレはスマホを握りしめる。
 親父に連絡をしねぇと。

「ユキはボクを元に作られた個体です」

「レイ。黙れ」

「そのどれもが失敗作で、数日と持ちませんでした。ユキは初めての成功品です」

 喉の奥で、息が詰まって変な音が鳴った。
 耳鳴りと共に、視界が真っ白に変わる。

……何が、何が成功品だよ。

「黙れって言ってんだろ!」

 自分のヒステリックな叫び声が脳内で木魂する。

 気持ち悪い。頭が痛い。小可さんがオレの肩を抱き、心配そうに覗き込んでくる。レイに何かを言おうと口を開きかけ、だけど止めている。

「何を怒っているんですか? ボクはただ小可さんの質問にお答えしただけですよ」

 レイに悪気がないことくらい分かっている。だが、今はその存在自体が目障りだ。

「……小可さんにはオレが後で説明する。お前は何も言わなくて良い」

 こいつには、言わせたくない。

「ボクの方がより正確にお伝えできます」

「必要ない。お前はただ、刹那さんの言うことを聞いていれば良いんだ」

 スマホを握りしめる。今は余計な諍いをしている場合ではない。

「……親父に連絡してくる。小可さん、外に出ましょう。ついてきてください」

 これ以上ここにいたら、オレまでおかしくなってしまいそうだ。




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