Desire ―好きだと言えなくて、誰とも結ばれない物語―

雷仙キリト

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28.再構築。異常あり

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 鳥の囀りを遠くに聞きながら、意識を浮上させる。

 しばらくの間、オレはぼんやりと白い天井を眺めていた。

 何でアラームが鳴らないんだろう……ああ、そうか。休みだった。

 頭の中でもやもやと思考を渦巻かせながら、ベッドの上で手を這わせる。あの硬いプラスチックの感触はない。仕方なしに体を少し捻ってベッドの下を見下ろした。予想通り、そこにはスマートフォンが寝っ転がっていた。

 足裏の熱をフローリングが吸い取っていく。一歩、二歩、三歩。歩くたびに少しずつ現実に適応していく脳が、昨日の記憶を表層へと引っ張り出す。

 小可さんとユキさんと海に行った。その帰りにユキさんが倒れた。小可さんがDesireまで連れていってくれた。そして_____

 病的に静まり返った室内には、あの人の気配はない。リビングには父親が座っている。

 オレは何度も目をこすり、目の前の光景が夢ではないことを認識する。

 ダイニングテーブルの一角を陣取り、スマホを眺めていた親父は、オレに気がつくとぱっと顔を上げ、ぎこちなく笑みを浮かべる。

「おはよう、希」

「……はよ」

「お前が昨晩作ってくれたシチューがまだ残っていたから、キッチンに置いてある。火をかけてるから、すぐにでも食べられるはずだ」

 嫌な予感がしたオレはキッチンに向かい、コンロに置かれている鍋を覗き込む。
 ああ、予想通り。

「父さん、シチュー、焦げてる」

「え?」

「コンロの温度、3のままにしてただろ。これじゃ保温じゃなくて加熱になるから焦げるんだよ」

 親父が慌ただしくキッチンにやってきて、オレの後ろから鍋を覗き込む。

「……本当だ」

……面倒くさい。

「いつも飯とかどうしてたの? あんまり料理とかしてない感じ?」

「スーパーやコンビニで出来合いのものを買っていた」

「栄養が偏るだろ。若くないんだから、もっとちゃんとしたのを食べなよ」

「正直、食べる気がしなかったから……」

 親父はそう言いかけて、咳払いをする。

「だが、シチューは本当に美味しかった。久しぶりに味のするものを食べた気分だ。作ってくれてありがとうな」

「……別に」

 シチューは大部分が焦げてしまい、とても食べられるようなもんじゃなかった。
 シンクに水をつけて放置しておき、冷蔵庫に入れていたチーズを口に含む。

 昨日からあまり食欲はなく、チーズを食べただけでもう十分だった。

「仕事はどうしたんだよ」

「今日は休みを取っている。ユキを迎えにいくんだろう?」

「迎えくらいならオレだけで十分だ」

「でも、バスで行くよりも車で向かった方が_____」

「父さん。分かってくれよ。あんたが家にいると、ユキさんが不安がるんだ。頼むから、どっかに行っててくれ」

 オレが何とかするから。
 親父は表情を失った。ただでさえ血色の悪い顔からさっと血の気が引き、青白くなる。

 オレはそんな親父から目を逸らした。

「……悪い。その、えっと、そういうつもりじゃなくて_____」

 親父は寄るべなく笑みを浮かべる。

「……そうだな」

 親父はテキパキと準備を進めていった。一晩経って僅かに生えた髭を剃り、寝癖のついた髪を整え、ネクタイを結び、白シャツの上にスーツを羽織ると、そこにはいかにも仕事のできそうな壮年の男ができあがる。

「どこかで時間を潰してくる。何かあったら連絡してきなさい」

 何かってなんだよ。どうせ電話しても、ろくな返事くれないくせに。

「分かった」

 誰もいなくなったリビングで、こめかみを突き刺す頭痛を堪えながら、深く息を吐き出した。





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