33 / 39
32.最悪。何をしても
しおりを挟むカーテンのないすりガラスから、さんさんと太陽の光が降り注ぐ。
ロック音楽をかけさせるのはもちろん阻止した。代わりに、動画サイトで「オルゴール」と検索して一番最初に出てきた動画をスピーカーから流している。
一時期学校の勧めで行かされていた場所の雰囲気を思い出して、気分が悪くなった。
朝一さんはオレの話を頷きながら聞き、オレが話し終わると黙り込んだ。
ややあって、口を開く。
「……なるほど。それで君は私のところに来てくれたのか」
今日この店にやってきたのは、他でもない、ユキさんの話だ。
ユキさんと一緒に暮らすつもりはないか。
オレはそう言うつもりで来たのだった。
予想していたよりも、朝一さんの反応は芳しくなかった。それどころか、ユキさんの正体を明かしても、驚きもしない。
ユキさんから既に聞いていたのだろうか。だとすれば、ユキさんは朝一さんにかなりの信頼を置いていたことになる。
「私は、はっきり言って賛成できない。君はまだ未成年者であり、保護者が必要な立場だ。ユキさんを君から引きはなすようなことはしたくない」
「引きはなすなんて、そんな。ここは家からそんなに遠くないし、それにオレ、ユキさんがそう望むなら毎日ここに来ますよ」
「ユキさんは何と言っているんだい?」
「あの人にはまだ言っていません」
「なぜ?」
「きっと、悲しむから」
オレは朝一さんに頭を下げる。
「お願いします。朝一さんからも、ユキさんがここで暮らすように説得してくれませんか。それがユキさんにとっても一番良いんです。オレみたいな奴と暮らすより、好きな人と一緒にいる方があの人は幸せになれると思うんです」
朝一さんは深いため息を吐き、額に手を当てる。眉間には深々と皺が刻まれている。
「そういう考えは良くないよ。君が、あの子の幸せを一方的に決めつけるべきじゃない」
「でも、朝一さんはユキさんと暮らせるなら暮らしたいですよね?」
「君から奪ってまで、あの人を自分のものにしようとは思わない。良いかい? まずは良く話し合うべきだ。ユキさんにちゃんと君の考えを話して、それでユキさんが納得してくれるなら、私は彼女をここに置いても構わないよ。だが、君一人の一方的な意見を聞いて、はい分かりましたと了承するつもりはない」
朝一さんは優しく、しかし突き放すように言う。
「それに、もし何も言わずにユキさんをここに連れてきたとしよう。ユキさんはどう考えると思う? きっと、こう思うはずだ。自分は見捨てられたんだ、って」
見捨てられた。その言葉を聞いて、胸が苦しくなる。
「朝一さんのところに行きたいか」と尋ねると、ユキさんはぽろぽろと涙を流して泣いていた。
あの時のことがあるから、オレはユキさんに何も言い出せない。ユキさんが悲しむことが分かっているから。
「それは、君の望むことではないだろう?」
朝一さんの落ち着いた声を聞いていると、だんだんと別の考えも浮かび上がってくる。
オレは本当に、ユキさんのためを思ってこんなことを言っているのだろうか。ユキさんの幸せを願っているから、朝一さんに全てを託そうと思っているのだろうか。
……いや、違うだろ。
オレは、ユキさんに愛してほしかった。
そして今は。
「……そう、ですね」
オレが、耐えられないんだ。
「でも、もう……限界なんです」
オレはもう一度、更に深く頭を下げた。下げるしかなかった。朝一さんの顔が見られなかった。
「ユキさんと一緒にいると、苦しいんです」
オレの作った料理を自分が作ったかのように振る舞い、毎日同じセリフを繰り返し、自分の異変に気がついていないユキさんをこれ以上見ていたくない。
だけど、ユキさんと過ごした日々の記憶を消すことはしたくなかった。
どんなに応急処置をしたところでユキさんが朝一さんを好きでいる限りは、ユキさんが治ることはないのだ。
もしこのまま記憶を消し続けていたら、最後にはオレの存在そのものがユキさんの中から消えてしまうだろう。
それだけは嫌だ。
ユキさんだけは、オレを「いないもの」として扱わないでほしい。だけど、一緒にいるのは苦しい。
全てはオレのわがままだ。
「お願いです……助けてください」
オレは初めて、家族以外の誰かに自分から助けを求めた。
ユキさんのことを幸せにできるのも、助けてあげられるのもオレではない。
オレは誰の一番にもなれない。
「希君。顔を上げなさい」
朝一さんに呼びかけられ、ゆっくりと視線を上げる。
「君の気持ちを聞かせてくれて、ありがとう。でも、私はやはりすぐに頷くわけにはいかないんだ」
朝一さんは優しく笑い、オレの頭に手を伸ばしてくる。
「君は私以上に頼るべき人がいるはずだ。今言ったことを正直に話してみなさい。きっと、力になってくれる」
頭を優しく撫でられ、胸の奥から突如として迫り上がってくる衝動に歯を食い縛って耐える。
笑わなければ。
でも、どうやって? 誰ののために?
「……もし、助けてくれなかったら?」
「その時はまた一緒に考えよう。いつでもここに来れば良い。君のために店はいつでも開けておくよ」
0
あなたにおすすめの小説
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる