ここは血塗れ乙女亭!

景丸義一

文字の大きさ
92 / 108
主菜 ただいま営業中!

第65話 そして伝説へ……

しおりを挟む
 それは、いつもの何気ない雑談のはずだった。
 いつものように仕事を終えたジョー、ゼルーグ、グスタフがつるんで武芸なんかの話で盛り上がり、そこへおれが酒やつまみをもっていって少しだけ会話に交じる……
 そんな日常の光景に、またまた局地的暴風雨のようなクレアがとんでもない発言をぶち込んだ。
「オリハルコンの武具? あるわよ?」
「なにいっ!?」
「ほしいの?」
「いや、そもそもおれの剣の話でだな……」
「ああ、リインフォースの話ね。確かにアダマンタイトはちょっと無理っぽいけど、オリハルコンならなんとかなると思うわよ?」
「本当か!?」
「ええ。それに確か……あそこには原石ごといくつか保管してあったはずだし……」
「待てクレア、それはこんなところでおいそれと口にしていい内容か?」
 グスタフはクレアの正体を知らないし、従業員たちもいる。
 察したクレアは「そうね」といっておれとゼルーグだけを隅に呼んで声を落とした。
「ようするに、昔の戦利品。今話に出てたヴラディウスってやつ、確か魔族と人間のハーフだったと思うけど、わりと強かったから少しは記憶に残ってるわ。もちろんあなたのほうがずっと強いけどねっ」
「あ、ある……のか……?」
 ゼルーグはすっかり息が荒くなっている。
「ヴラディウスのデュランダルが……あるのか……!?」
「名前までは知らないけど、確かにあいつオリハルコンの武具を使ってたわよ」
「マジかああァ――ッ!?」
 ついに沸騰しやがった……
 まあ、気持ちはわかるさ。こいつは昔からこういったおとぎ話や冒険譚が大好きで、そういう生き方に憧れてたからおれが国を出たときにも冒険をするよう勧めたぐらいだしな。
 まさか、その伝説が伝説じゃなかったとは……
「あのころはキラキラした物を集めるのにハマってたから、いい装備は全部剥いで宝物庫に保管してたのよね。ミスリルとか、宝石とか」
「よし、行こう。すぐ行こう!」
「落ち着け。それで、場所はどこなんだ?」
「ワリヤーギの私のお城よ」
 ワリヤーギ……
 というと、今でいう……
「どこでもいい、すぐに行かせてくれ! 伝説がおれを待っている!」
「とにかく落ち着け。おまえ、ワリヤーギが今でいうどこか思い出してみろ」
「え? ええっと……」
 ふう、とりあえず大人しくはなってくれたようだ。
「あ……」
 そして思い出してくれたようだ。そこがどういう土地か。
「オランヴェルバか……」
「今はそういう名前なの?」
「ああ、昔から民族紛争やら人種問題やらで絶えず争ってる国でな……」
「ふうん」
「いまだにアンデッドもうようよいるって話だったよな……」
「そんなところに乗り込むのは危険というより面倒だし、そもそも城も多分残ってないぞ。四〇〇年くらい前の話だろ」
「ああ、それなら大丈夫よ、ちゃんと門番置いてるから」
 ま、まさか……
「それは……」
「もちろん眷属ロウアーよ。下等スレイブ軍団のオマケつきで」
 おれたちは天を仰いだ。
 やっぱりオランヴェルバのアンデッドはコイツが原因だったか……
「その眷属は強いのか?」
 ゼルーグの顔がいつの間にか戦士のものになりつつあった。
「う~ん……当時はあなたより少し弱いくらいだったと思うけど、順調に育ってるなら一対一じゃ勝てないでしょうね」
「眷属の倒し方は、心臓を潰す、でいいんだよな?」
「ええ、頭じゃ足止め程度にしかならないから、確実に殺すなら全身に血を送る心臓を潰さいないとダメよ」
 こいつなんか、頭を半分吹っ飛ばしたのに足止めにもならなかったな……
「でも気をつけなさいね。中途半端に傷つけちゃうと生存本能が暴走してとんでもない力を発揮することがあるから」
 煽るなよ!
「決まりだ」
 決めてしまった……!
「ジョー、オランヴェルバへ行くぞ! グスタフもくるか!?」
「おうよ!」
「これを断っちゃ男が廃るってもんだぜ!」
「おや、なにやら盛り上がっていますね」
 こんなタイミングでリエルまできやがった……!
「リエル、おまえもこい!」
「はい?」
 ヒューレだけはなんとしても確保しなければ……


 決まると、あっという間だった。
 その日のうちに計画を立て、翌日一日でさしあたり必要になりそうな物を各自で揃え、その翌朝には出発ということになってしまった。
 なんとかリエルを残せないかと説得したんだが、ゼルーグとグスタフに挟まれてロマンやら男心やらを散々にくすぐられては、やはり分が悪い。今でこそ落ち着いてるが、あいつはもともと熱くなりやすい性分だしなあ。
 そして案の定ヒューレも行きたがったが、こいつにまで抜けられるとこっちでなにかあったときに困るということで、全力の引き留めが功を奏した。
「男ばかりずるい……」
 なんてボヤいていたが、そういう問題じゃないぞ。
「ほんじゃま、行ってくらあ!」
 と、かる~い調子で四人は旅立っていった。
 ちなみに足は馬だ。
 クレアは地下で氷漬けにしてあるヴァンパイアホースを使えばいいといったが、使えるわけがない。ヴァンパイアやらアンデッドやらを目の敵にしているオランヴェルバで正体が露見したらあいつらが危険だ。
 だから乗合馬車の営業範囲内では町の馬を借りて、その先は貸し馬を乗り継ぐか適当なところで馬を買うかして進むらしい。
 順調に進んだとしても、ここから遥か北東のオランヴェルバまでは三週間ほどかかるだろう。
 帰り道で倍、さらに現地での滞在期間を考えると、どんなに短くても二ヶ月近くは帰ってこれない。
 戦力ダウンが甚だしい……
 サマルーンの内戦も控えていて人口もトラブルも増加する見込みなのに、戦力の上位者が四人も抜けたことになるからな……
 衛兵の訓練は翁が引き受けてくれたようだが、おれはしばらく休む暇がなさそうだぞ……
「さっ、ダーリン、今日も頑張りましょうっ!」
 おれの悩みなどつゆ知らず、いつもどおりのんきな面でクレアが抱きついてきた。
「……しばらくイクティノーラに手伝ってもらうか」
「イヤよ! あんな女の手なんか借りなくても大丈夫よ! それになんでかヒューちゃんが懐いてるし、イヤよイヤよーっ!」
 おれは駄々をこねるクレアを引きずりながら厨房へ向かう。

 少しの間寂しくなるが、今日もしっかり働きますか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

氷の公爵家に嫁いだ私、実は超絶有能な元男爵令嬢でした~女々しい公爵様と粘着義母のざまぁルートを内助の功で逆転します!~

紅葉山参
恋愛
名門公爵家であるヴィンテージ家に嫁いだロキシー。誰もが羨む結婚だと思われていますが、実情は違いました。 夫であるバンテス公爵様は、その美貌と地位に反して、なんとも女々しく頼りない方。さらに、彼の母親である義母セリーヌ様は、ロキシーが低い男爵家の出であることを理由に、連日ねちっこい嫌がらせをしてくる粘着質の意地悪な人。 結婚生活は、まるで地獄。公爵様は義母の言いなりで、私を庇うこともしません。 「どうして私がこんな仕打ちを受けなければならないの?」 そう嘆きながらも、ロキシーには秘密がありました。それは、男爵令嬢として育つ中で身につけた、貴族として規格外の「超絶有能な実務能力」と、いかなる困難も冷静に対処する「鋼の意志」。 このまま公爵家が傾けば、愛する故郷の男爵家にも影響が及びます。 「もういいわ。この際、公爵様をたてつつ、私が公爵家を立て直して差し上げます」 ロキシーは決意します。女々しい夫を立派な公爵へ。傾きかけた公爵領を豊かな土地へ。そして、ねちっこい義母には最高のざまぁを。 すべては、彼の幸せのため。彼の公爵としての誇りのため。そして、私自身の幸せのため。 これは、虐げられた男爵令嬢が、内助の功という名の愛と有能さで、公爵家と女々しい夫の人生を根底から逆転させる、痛快でロマンチックな逆転ざまぁストーリーです!

悪役令嬢ではありません。肩書きは村人です。

小田
ファンタジー
 6才までの記憶を失った村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。    私はポッチ村に住んでいる。  昔、この村にも人が沢山いたらしいけど、今はだいぶ廃れてしまった。  14才を迎えた私はいつも通り山に薬草採取に行くと、倒れている騎士を発見する。  介抱しただけなのに、気付いたら牢屋に連れて行かれていた!?  どうしてだろう…。  悪いことはしていないのに!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、魔力を持たないという理由で、夫である侯爵エドガーから無能な妻と蔑まれる日々を送っていた。 魔力至上主義の貴族社会で価値を見いだされないことに絶望したアリアンナは、ついに離婚を決断。 多額の慰謝料と引き換えに、無能な妻という足枷を捨て、自由な平民として辺境へと旅立つ。

処理中です...