シルク航路〜ホール・アウェイ〜

ままかりなんばん

文字の大きさ
1 / 8

第一話 ジョージ・セイル号

しおりを挟む
 西暦一七〇一年。
 かの有名な大海賊キャプテン・キィルが処刑された年。奴の亡き海には平和がもたらされたと、誰もが思っていた。

 イカロス海軍のフリゲート船、ジョージ・セイル号は南海を航行していた。ピンと張る横帆おうはんは航路を順調に進ませ、インテガに向けて一日でも早く着きたいといった感情を見せているようだった。
 船員たちは皆、港を待ち望んでいる。何故なら、食糧しょくりょうが尽きかけ、連日の強い日差しにより倒れる船員が現れていたからだ。そして何より、反乱はんらんだ。このジョージ・セイル号では反乱が起きていたのである。

 反乱による混乱で、見張りが誰もついていなかった!船員たちは皆船長室へ集まっている。その時だ、大きな横波が船を押しやったのは。

「海賊だ、海賊船だ!」

 最初に飛び出した船員が声を張り上げる。釣られて飛び出した船員たちは息を呑んだ。

「これはこれは……海老で鯛が釣れちまったな」

 既に甲板かんぱんへ乗り移っていた海賊たちに取り囲まれている。戦いは、一瞬で決着がついた。
 三角帽を被り、目を覆い隠すほど長い白髪を持つ若い海賊が後からやって来た船長に歩み寄る。

「船長、まあ紳士的にいきましょう。つまりですがね、分かっておりますでしょうな?」

 左手の金の義手が胸の前で光る。ジャングルに潜む肉食獣の牙のように鋭い光だ。船長は反乱者の船員に命令した。

「財宝を渡せ!早く取り掛かれ、グズども!」

 悪魔のような形相の船長を見て、船員たちは慌てて船倉まで降りて行った。もちろん後ろには海賊が銃を突きつけている。反乱を起こしても、そこに自由など無かった。これが現実だった。
 船員たちはありったけの金装飾や宝石、そして巻かれた絹の数々と一つの衣装箱を海賊船に積んだ。

「紳士的な対応感謝いたします。それでは皆さま、お元気で」

 肌の白い金髪の海賊が微笑んだ。

「もっとも、食糧が尽きなければの話ですがね」

 彼はどうやら食糧危機を感じていたらしい。翡翠ひすいと白と赤色が特徴的な海賊船はいかりを引き揚げ、素早く風に乗り何処かへと姿をくらませた。

 先程まで気を張っていたジョージ・セイル号の船員たちは、ついに狂ってしまった。冷静な話し合いはできない。
 そして、船長は海へ投げ出され……。
 ただ、その後のことは分からない。二つだけ確かなことがある。

 一つ目は、船員のうち数人が「アレを載せたか?」「ああ、載せたさ」と話し合っていたこと。
 二つ目は、このジョージ・セイル号は目的地であるインテガへ辿り着くことは無かったということだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

夏空、到来

楠木夢路
児童書・童話
大人も読める童話です。 なっちゃんは公園からの帰り道で、小さなビンを拾います。白い液体の入った小ビン。落とし主は何と雷様だったのです。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

傷ついている君へ

辻堂安古市
絵本
今、傷ついている君へ 僕は何ができるだろうか

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

処理中です...