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第一話 ジョージ・セイル号
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西暦一七〇一年。
かの有名な大海賊キャプテン・キィルが処刑された年。奴の亡き海には平和がもたらされたと、誰もが思っていた。
イカロス海軍のフリゲート船、ジョージ・セイル号は南海を航行していた。ピンと張る横帆は航路を順調に進ませ、インテガに向けて一日でも早く着きたいといった感情を見せているようだった。
船員たちは皆、港を待ち望んでいる。何故なら、食糧が尽きかけ、連日の強い日差しにより倒れる船員が現れていたからだ。そして何より、反乱だ。このジョージ・セイル号では反乱が起きていたのである。
反乱による混乱で、見張りが誰もついていなかった!船員たちは皆船長室へ集まっている。その時だ、大きな横波が船を押しやったのは。
「海賊だ、海賊船だ!」
最初に飛び出した船員が声を張り上げる。釣られて飛び出した船員たちは息を呑んだ。
「これはこれは……海老で鯛が釣れちまったな」
既に甲板へ乗り移っていた海賊たちに取り囲まれている。戦いは、一瞬で決着がついた。
三角帽を被り、目を覆い隠すほど長い白髪を持つ若い海賊が後からやって来た船長に歩み寄る。
「船長、まあ紳士的にいきましょう。つまりですがね、分かっておりますでしょうな?」
左手の金の義手が胸の前で光る。ジャングルに潜む肉食獣の牙のように鋭い光だ。船長は反乱者の船員に命令した。
「財宝を渡せ!早く取り掛かれ、グズども!」
悪魔のような形相の船長を見て、船員たちは慌てて船倉まで降りて行った。もちろん後ろには海賊が銃を突きつけている。反乱を起こしても、そこに自由など無かった。これが現実だった。
船員たちはありったけの金装飾や宝石、そして巻かれた絹の数々と一つの衣装箱を海賊船に積んだ。
「紳士的な対応感謝いたします。それでは皆さま、お元気で」
肌の白い金髪の海賊が微笑んだ。
「もっとも、食糧が尽きなければの話ですがね」
彼はどうやら食糧危機を感じていたらしい。翡翠と白と赤色が特徴的な海賊船は錨を引き揚げ、素早く風に乗り何処かへと姿をくらませた。
先程まで気を張っていたジョージ・セイル号の船員たちは、ついに狂ってしまった。冷静な話し合いはできない。
そして、船長は海へ投げ出され……。
ただ、その後のことは分からない。二つだけ確かなことがある。
一つ目は、船員のうち数人が「アレを載せたか?」「ああ、載せたさ」と話し合っていたこと。
二つ目は、このジョージ・セイル号は目的地であるインテガへ辿り着くことは無かったということだ。
かの有名な大海賊キャプテン・キィルが処刑された年。奴の亡き海には平和がもたらされたと、誰もが思っていた。
イカロス海軍のフリゲート船、ジョージ・セイル号は南海を航行していた。ピンと張る横帆は航路を順調に進ませ、インテガに向けて一日でも早く着きたいといった感情を見せているようだった。
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反乱による混乱で、見張りが誰もついていなかった!船員たちは皆船長室へ集まっている。その時だ、大きな横波が船を押しやったのは。
「海賊だ、海賊船だ!」
最初に飛び出した船員が声を張り上げる。釣られて飛び出した船員たちは息を呑んだ。
「これはこれは……海老で鯛が釣れちまったな」
既に甲板へ乗り移っていた海賊たちに取り囲まれている。戦いは、一瞬で決着がついた。
三角帽を被り、目を覆い隠すほど長い白髪を持つ若い海賊が後からやって来た船長に歩み寄る。
「船長、まあ紳士的にいきましょう。つまりですがね、分かっておりますでしょうな?」
左手の金の義手が胸の前で光る。ジャングルに潜む肉食獣の牙のように鋭い光だ。船長は反乱者の船員に命令した。
「財宝を渡せ!早く取り掛かれ、グズども!」
悪魔のような形相の船長を見て、船員たちは慌てて船倉まで降りて行った。もちろん後ろには海賊が銃を突きつけている。反乱を起こしても、そこに自由など無かった。これが現実だった。
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肌の白い金髪の海賊が微笑んだ。
「もっとも、食糧が尽きなければの話ですがね」
彼はどうやら食糧危機を感じていたらしい。翡翠と白と赤色が特徴的な海賊船は錨を引き揚げ、素早く風に乗り何処かへと姿をくらませた。
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そして、船長は海へ投げ出され……。
ただ、その後のことは分からない。二つだけ確かなことがある。
一つ目は、船員のうち数人が「アレを載せたか?」「ああ、載せたさ」と話し合っていたこと。
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