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第二話 略奪品の絹
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海賊船チャルチウィトリクエ号は、紳士的な略奪により金銀財宝と多くの絹、そして鍵のかかった衣装箱を手に入れた。甲板には船員たちが揃い、宝の数々を目を輝かせて見ている。
「イミシュ船長、やりましたね」
イミシュの青い瞳と、水夫チュエンの青い瞳が見つめ合い、互いに微笑んだ。
「ああ、エブの占い通りだったな。皆、ご苦労だった。これも我々の理想郷のためだ、これからもよろしく頼む」
「アイアイサー!」
船員たちは腕を掲げ、船長であるイミシュを讃えた。「イミシュ船長万歳!」と。
皆の士気が改めて高まった後、略奪品を仕舞おうと番を任された水夫たちが宝を持ち上げた。日に焼けた褐色の肌と翠髪の水夫アクバルが巻かれた絹を持ち上げたときのことだ。
「モガ!」
という不思議な鳴き声が絹の中から聞こえたのだ!
「なあ、キブ。変な鳴き声みたいなのが聞こえたんだけど」
キブと呼ばれた赤い瞳の水夫は、衣装箱を片手で持ち上げながら言った。
「どうせオウムか何かが包まれているんだろう。放してやりな」
「それもそうだな。そんじゃ、広げちまうか」
巻かれた絹を広げる。中から転がり出てきたのは……。
「人間だ!しかも、イカロス人の子供らしいぞ!」
水夫アクバルの驚く声は船内に響き渡った。その声を聞いて一番に駆けつけたのは、右足の膝より上から義足の掌砲長、イシュであった。褐色の肌に端正な顔立ちの、黒髪を後ろで束ねた彼は、義足であることを活かし誰よりも速く歩いてきたのだ。
「なんだ、この小僧は?……ははぁ、なんとなく分かったぜ」
「モガモガ……!」
ブロンドの結ばれた髪に、紫がかった垂れ目の少年は猿ぐつわをつけられ、手足を拘束されている。水夫アクバルは哀れに思い、猿ぐつわと縄を外してやった。
「はあ、はあ……ご親切にどうも」
まだ十歳にも満たないであろう少年は、水夫アクバルや掌砲長イシュに頭を下げる。礼儀正しき小さな紳士に、思わず辺りの野次馬も頭を下げた。
「ここは……」
「この船はチャルチウィトリクエ号だ。今はインテガから南下した場所を航行している……よな?カワク、チクチャン」
イシュにカワクと呼ばれた背の低い眼鏡をかけた航海士と、チクチャンと呼ばれた常に瞳を閉じた海尉は声を揃えて言った。
「そうだ。せめて現在地ぐらいは理解しておけ」
少年は落ち着いた様子で座って話を聞いていた。水夫アクバルはそんな少年に声をかける。
「なあ、少年。お前元の船に戻りたくないのか?」
「僕は絶対戻りませんよ。あんな船、海賊のあなたたちが潰してくれたら良かったんです」
掌砲長イシュが前髪をいじりながら口角を上げた。
「見上げた根性だ。だがな、お前、見捨てられたんだぜ」
少年は平然とした態度で背筋を伸ばして「そうですよ」と応えた。野次馬もイシュもアクバルも目を丸くした。この少年には、黄金にも勝る強い意志があるのだと理解したのだ。
「よしよし、少年……君に良い話がある。俺たちの仲間にならないか?もちろん最初は俺と同じ水夫か見習いだと思うが、その歳からなら頑張れば船長だって目指せるぞ」
水夫アクバルは少年の肩を抱き、身振り手振りを交え語った。その様子を見た少年はクスクスと笑顔を見せて答えた。
「船長さんに会わせてください。僕を仲間にするか、それとも海へ突き落とすか決めるのは船長さんでしょう?」
黙って様子を見ていた水夫キブが「物分かりが良い子供だ」と、小さく笑った。
こうして少年は、十九人の海賊に優しく見つめられながら船長室へと向かったのだった。
「イミシュ船長、やりましたね」
イミシュの青い瞳と、水夫チュエンの青い瞳が見つめ合い、互いに微笑んだ。
「ああ、エブの占い通りだったな。皆、ご苦労だった。これも我々の理想郷のためだ、これからもよろしく頼む」
「アイアイサー!」
船員たちは腕を掲げ、船長であるイミシュを讃えた。「イミシュ船長万歳!」と。
皆の士気が改めて高まった後、略奪品を仕舞おうと番を任された水夫たちが宝を持ち上げた。日に焼けた褐色の肌と翠髪の水夫アクバルが巻かれた絹を持ち上げたときのことだ。
「モガ!」
という不思議な鳴き声が絹の中から聞こえたのだ!
「なあ、キブ。変な鳴き声みたいなのが聞こえたんだけど」
キブと呼ばれた赤い瞳の水夫は、衣装箱を片手で持ち上げながら言った。
「どうせオウムか何かが包まれているんだろう。放してやりな」
「それもそうだな。そんじゃ、広げちまうか」
巻かれた絹を広げる。中から転がり出てきたのは……。
「人間だ!しかも、イカロス人の子供らしいぞ!」
水夫アクバルの驚く声は船内に響き渡った。その声を聞いて一番に駆けつけたのは、右足の膝より上から義足の掌砲長、イシュであった。褐色の肌に端正な顔立ちの、黒髪を後ろで束ねた彼は、義足であることを活かし誰よりも速く歩いてきたのだ。
「なんだ、この小僧は?……ははぁ、なんとなく分かったぜ」
「モガモガ……!」
ブロンドの結ばれた髪に、紫がかった垂れ目の少年は猿ぐつわをつけられ、手足を拘束されている。水夫アクバルは哀れに思い、猿ぐつわと縄を外してやった。
「はあ、はあ……ご親切にどうも」
まだ十歳にも満たないであろう少年は、水夫アクバルや掌砲長イシュに頭を下げる。礼儀正しき小さな紳士に、思わず辺りの野次馬も頭を下げた。
「ここは……」
「この船はチャルチウィトリクエ号だ。今はインテガから南下した場所を航行している……よな?カワク、チクチャン」
イシュにカワクと呼ばれた背の低い眼鏡をかけた航海士と、チクチャンと呼ばれた常に瞳を閉じた海尉は声を揃えて言った。
「そうだ。せめて現在地ぐらいは理解しておけ」
少年は落ち着いた様子で座って話を聞いていた。水夫アクバルはそんな少年に声をかける。
「なあ、少年。お前元の船に戻りたくないのか?」
「僕は絶対戻りませんよ。あんな船、海賊のあなたたちが潰してくれたら良かったんです」
掌砲長イシュが前髪をいじりながら口角を上げた。
「見上げた根性だ。だがな、お前、見捨てられたんだぜ」
少年は平然とした態度で背筋を伸ばして「そうですよ」と応えた。野次馬もイシュもアクバルも目を丸くした。この少年には、黄金にも勝る強い意志があるのだと理解したのだ。
「よしよし、少年……君に良い話がある。俺たちの仲間にならないか?もちろん最初は俺と同じ水夫か見習いだと思うが、その歳からなら頑張れば船長だって目指せるぞ」
水夫アクバルは少年の肩を抱き、身振り手振りを交え語った。その様子を見た少年はクスクスと笑顔を見せて答えた。
「船長さんに会わせてください。僕を仲間にするか、それとも海へ突き落とすか決めるのは船長さんでしょう?」
黙って様子を見ていた水夫キブが「物分かりが良い子供だ」と、小さく笑った。
こうして少年は、十九人の海賊に優しく見つめられながら船長室へと向かったのだった。
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