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微ホラー、田舎、川
しおりを挟むボクの家と学校の間には、大きな川が流れていて、その上を橋が通っている。
何級河川だか忘れたが、この川は広く、深く、そして恐ろしいほどに流れが早い。
こんなところで泳ごうものなら、どれほど泳ぎに自信があったとしても、すぐに溺れてしまうだろう。
だからボクら地元民は、小さい頃から『川へ不用意に近寄るな』と耳にタコができるほど言われてきた。
実際、この夏休みが始まる前、同級生のAくんはここで溺れて……。
ボクは部活動に入っていないので、この夏休み中、川には近寄らずにすんだ。
川のこっち側で、全てが事足りる。
だけど、近所の友達は何人かがここを通ったらしい。
――そして、そのたびにAくんの声を聞いたと言っていた。
だから……ボクは今、この橋を渡るのを躊躇している。
「……よっ、どうしたんだ?」
自転車に跨ったまま、眼を瞑って祈っていると、背後から声をかけられた。
「ひっ、ってなんだ……。脅かすなよ!」
「そんな驚く、……ことだよな。悪い悪い」
『Aくんの声を聞いた』と言っていた同級生のBが、顔の前で手刀を切り、申し訳なさそうに片目を瞑る。
「どうする?……遠回りするか?」
Bは川下に向けて指をさす。
「いや、そんなことしていたら始業式に間に合わないよ」
「……そうだよな」
Bは表情を曇らせたまま、橋の向こうを見て、ため息を吐いた。
Aくんは、Bになんて声をかけたのだろう。
それについて、何度か聞いたのだが、Bは頑なに教えてくれなかった。
「じゃあ、怖いけど行こうか」
「……ああ、憂鬱だぜ」
ボクはBよりもひと足先にペダルを踏み、橋の上を通過する。
『Bに殺された』
半分ほど進んだところで、橋の下から聞こえてきた声は、はっきりとそう言っていて――ボクは思わず笑ってしまう。
ああ、良かった。上手くいったんだ。
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