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部活帰りの心理戦《恋愛》
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心理戦
「ねぇ、そっちはどんな感じ?」
「……まぁ、いい感じだよ」
部活帰り、急いで飛び乗った電車の車両には中学の同級生『古城ミサ』がいて、目が合ったのでなんとなく隣り合って話す感じになってしまった。
「あー、……そっちは?」
「んー、ボチボチかな。県大は一応予選通過したけど――」
「マジ?すげーじゃん」
「私は出れてないからなぁ」
「まあ、俺らはまだ一年だし、……これからでしょ」
自分に言い聞かせるように、俺はそう言って頷く。
古城は強豪校で出れていない。俺は弱将校で……同じじゃないことは分かっている。
俺と古城は、産まれる前からの付き合いだ。
家は3軒隣、幼稚園も小学校も中学も同じだった。
だというのに、……いつからこうも気まずくなったのだろう。
「……同じ学年に同じポジションの子がいてさ、下手したら3年間出れないかもなぁ」
「ああ、そうなんだ。……やべーな」
「うん。やべーやべー。……焦るよ」
古城はこちらを見ずに窓の外を見続け、俺はそれを横目で見つつ、吊り革を両手で掴みながら下を見ているフリをする。
――会話が続かない。
思い返せば、思春期ってやつだったのだろう。
小6かそこいらで、俺は彼女と話すことに違和感、いや……緊張感を覚えるようになっていた気がする。
いわゆる『女性として意識した』みたいな下世話な話でなく、……なんて言えばいいのだろうか?――残念ながら今の俺にはそれを言語化できるほどの知見がない。
「将吾ってさ、なんか大人っぽくなったよね」
「……は?俺が?……なんの話だよ」
「昔はもっと馬鹿みたいに元気で、テンション高くて、こんな風に落ち着いて話す感じじゃなかったのの」
「…………、部活で疲れてるだけだよ」
「あー、……わかる。私も疲れた、結局雨の日が一番キツいってわけよ。あーあ、子どもの頃は楽だったなぁ。ってノスタルジー」
「今もまだ俺たち子どもだろ」
そんな戯言をいくらか繰り返し、地元の駅に着いて同時に降りる。
降りて、気づいた。
そうか、このまま家まで一緒なのか。
「……?どうしたの?帰らないの?」
階段の手前で振り返る古城。
そのすこし高い位置で結んだ牛のしっぽみたいな髪が揺れて、爽やかな匂いが俺の鼻腔を刺激した。
――色気ついてんじゃねぇよ。
一瞬、そんなことを言いかける。
――我ながら嫌な性格だ。
『買い物して帰るよう親に言われてる』という言い訳を思いついたのは、自転車置き場を過ぎた後だった。
『話すことがないのに一緒に居続ける』ということのストレスを、俺は感じる方だ。
というかたぶん彼女も似たような気分だろう。
お互いこの時間を楽しんでいない。その自覚がある。
親たちは『表面上』仲良いが、俺たちからすればそんなことは関係ない。
ただ『近くに生まれただけ』の存在でしかないのだ。
「……将吾は――彼女とかいるの?」
信号待ちで隣あった瞬間、そんなキラーパスもとい、抉るような質問が投げかけられた。
情けないことをハッキリと言うが、こんな質問をされて『こいつもしかして俺のことが?!』と思わないでいられるほど俺は大人じゃない。
「……はぁ?なん、だよそれ……、部活が忙しくてそれどころじゃねーっつーの!」
2度と口にすることがないであろう恥ずかしい語尾が出た。……我ながらなんとも言い難い。
「はは、偉いね、将吾は……」
「んだよそれ。……そっちはどうなんだよ」
耳まで燃えるように熱くなる中、俺は勇気を振り絞って訊ねてみた。
俺の言葉と同時に信号が変わったので、恥ずかしい姿を見られないよう先に進む。
ああそうだ。この際だから2度目の『情けないことをハッキリ言う』が、俺は古城を前から女としてみている。
ダラダラとそんなことないフリしていたが、それは嘘だ。ばちばちに意識していた。
だから素直にお喋りできなかったのだ。
「私はいるよ――」
「――んだよそれ!?」
思わずブレーキを握ってしまった。
古城は不思議そうに乾いた笑いを浮かべながら振り返る。
「ウソだよ?」
「……は?………………はあ?」
言葉が出ない。
古城はなにか俺を馬鹿にするようなことを言いながらさっさと進んでいくので俺は必死に立ち漕ぎをして後を追う。
というか家路につく。
3軒分、駅に近い古城が自宅の前で自転車から降りると、『部活、頑張ろうね』と少し真剣に言った。
「言われるまでもねぇよ。……お互い頑張ろうな」
と、俺は少しカッコつけて返してしまう。
「たまにはさ、今日みたいに一緒に帰ろうね」
古城はそう言ったが、俺たちの下校時間が被ったのはこの日が最初で最後だった。
今となっては、それが悲しいわけでも悔しいわけでもない。
ただの思い出だ。
誰も住む人間のいなくなった古城の家が取り壊されるのを見て、ただ思い出しただけ。
人生において、人の出会いなんてのは大半が偶然の塊なのだろう。
それを大切にできるか、うまく利用できるかは、環境や人格の問題なのか、タイミングなのかは未だにわからない。
もし人生をやり直すような機会があったら、俺はどんな選択肢を選ぶのだろうか。
「将吾、――何見てんの?」
「……ん、いや、あの家で昔、遊んだなって」
「ノスタルジー。……しょうがないよ。もうボロボロだったし、ママたちは駅前に引っ越したし。それより、荷物運ぶの手伝ってよ」
「ああ悪い。――なぁミサ、この辺は捨てねーのか?」
「部活の思い出だからね、まだ捨てるつもりないかなあ。……子供でも出来て手狭になったら考えるよ」
おわり
「ねぇ、そっちはどんな感じ?」
「……まぁ、いい感じだよ」
部活帰り、急いで飛び乗った電車の車両には中学の同級生『古城ミサ』がいて、目が合ったのでなんとなく隣り合って話す感じになってしまった。
「あー、……そっちは?」
「んー、ボチボチかな。県大は一応予選通過したけど――」
「マジ?すげーじゃん」
「私は出れてないからなぁ」
「まあ、俺らはまだ一年だし、……これからでしょ」
自分に言い聞かせるように、俺はそう言って頷く。
古城は強豪校で出れていない。俺は弱将校で……同じじゃないことは分かっている。
俺と古城は、産まれる前からの付き合いだ。
家は3軒隣、幼稚園も小学校も中学も同じだった。
だというのに、……いつからこうも気まずくなったのだろう。
「……同じ学年に同じポジションの子がいてさ、下手したら3年間出れないかもなぁ」
「ああ、そうなんだ。……やべーな」
「うん。やべーやべー。……焦るよ」
古城はこちらを見ずに窓の外を見続け、俺はそれを横目で見つつ、吊り革を両手で掴みながら下を見ているフリをする。
――会話が続かない。
思い返せば、思春期ってやつだったのだろう。
小6かそこいらで、俺は彼女と話すことに違和感、いや……緊張感を覚えるようになっていた気がする。
いわゆる『女性として意識した』みたいな下世話な話でなく、……なんて言えばいいのだろうか?――残念ながら今の俺にはそれを言語化できるほどの知見がない。
「将吾ってさ、なんか大人っぽくなったよね」
「……は?俺が?……なんの話だよ」
「昔はもっと馬鹿みたいに元気で、テンション高くて、こんな風に落ち着いて話す感じじゃなかったのの」
「…………、部活で疲れてるだけだよ」
「あー、……わかる。私も疲れた、結局雨の日が一番キツいってわけよ。あーあ、子どもの頃は楽だったなぁ。ってノスタルジー」
「今もまだ俺たち子どもだろ」
そんな戯言をいくらか繰り返し、地元の駅に着いて同時に降りる。
降りて、気づいた。
そうか、このまま家まで一緒なのか。
「……?どうしたの?帰らないの?」
階段の手前で振り返る古城。
そのすこし高い位置で結んだ牛のしっぽみたいな髪が揺れて、爽やかな匂いが俺の鼻腔を刺激した。
――色気ついてんじゃねぇよ。
一瞬、そんなことを言いかける。
――我ながら嫌な性格だ。
『買い物して帰るよう親に言われてる』という言い訳を思いついたのは、自転車置き場を過ぎた後だった。
『話すことがないのに一緒に居続ける』ということのストレスを、俺は感じる方だ。
というかたぶん彼女も似たような気分だろう。
お互いこの時間を楽しんでいない。その自覚がある。
親たちは『表面上』仲良いが、俺たちからすればそんなことは関係ない。
ただ『近くに生まれただけ』の存在でしかないのだ。
「……将吾は――彼女とかいるの?」
信号待ちで隣あった瞬間、そんなキラーパスもとい、抉るような質問が投げかけられた。
情けないことをハッキリと言うが、こんな質問をされて『こいつもしかして俺のことが?!』と思わないでいられるほど俺は大人じゃない。
「……はぁ?なん、だよそれ……、部活が忙しくてそれどころじゃねーっつーの!」
2度と口にすることがないであろう恥ずかしい語尾が出た。……我ながらなんとも言い難い。
「はは、偉いね、将吾は……」
「んだよそれ。……そっちはどうなんだよ」
耳まで燃えるように熱くなる中、俺は勇気を振り絞って訊ねてみた。
俺の言葉と同時に信号が変わったので、恥ずかしい姿を見られないよう先に進む。
ああそうだ。この際だから2度目の『情けないことをハッキリ言う』が、俺は古城を前から女としてみている。
ダラダラとそんなことないフリしていたが、それは嘘だ。ばちばちに意識していた。
だから素直にお喋りできなかったのだ。
「私はいるよ――」
「――んだよそれ!?」
思わずブレーキを握ってしまった。
古城は不思議そうに乾いた笑いを浮かべながら振り返る。
「ウソだよ?」
「……は?………………はあ?」
言葉が出ない。
古城はなにか俺を馬鹿にするようなことを言いながらさっさと進んでいくので俺は必死に立ち漕ぎをして後を追う。
というか家路につく。
3軒分、駅に近い古城が自宅の前で自転車から降りると、『部活、頑張ろうね』と少し真剣に言った。
「言われるまでもねぇよ。……お互い頑張ろうな」
と、俺は少しカッコつけて返してしまう。
「たまにはさ、今日みたいに一緒に帰ろうね」
古城はそう言ったが、俺たちの下校時間が被ったのはこの日が最初で最後だった。
今となっては、それが悲しいわけでも悔しいわけでもない。
ただの思い出だ。
誰も住む人間のいなくなった古城の家が取り壊されるのを見て、ただ思い出しただけ。
人生において、人の出会いなんてのは大半が偶然の塊なのだろう。
それを大切にできるか、うまく利用できるかは、環境や人格の問題なのか、タイミングなのかは未だにわからない。
もし人生をやり直すような機会があったら、俺はどんな選択肢を選ぶのだろうか。
「将吾、――何見てんの?」
「……ん、いや、あの家で昔、遊んだなって」
「ノスタルジー。……しょうがないよ。もうボロボロだったし、ママたちは駅前に引っ越したし。それより、荷物運ぶの手伝ってよ」
「ああ悪い。――なぁミサ、この辺は捨てねーのか?」
「部活の思い出だからね、まだ捨てるつもりないかなあ。……子供でも出来て手狭になったら考えるよ」
おわり
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