5 / 5
忘れて 微ホラー
しおりを挟む「西葛西の廃工場」
「覚えてる――《裂ける女》だろ。綾瀬のコンビニ」
「……うわっ、なんだっけ。えっと……たしか、……女だよな?」
「――はい。時間切れ。綾瀬のコンビニは《信号待ちする首なしライダー》だよ」
「なっつ!エモっ。懐かしすぎて泣けてくるわ!うわー、まじで懐かしい。……あれってもう何年前になるんだ?」
「6年だろ。中2の時だから――14で……」
俺は、年を明けると成人式を迎える。中学を卒業してからこっちの方へは来ていなかったけど、成人式で昔懐かしい奴らに会うんだと思ったら、なんとなく足が伸びて――ここに来た。
そして、久しぶりの再会を果たしたわけだ。
会いたいと思っていたけど……、果たしたくなかった再会を。
「なぁなぁ、誰が言い出しっぺだっけ。覚えてる?」
「誰だろ。……ケンスケとかじゃないかな。こういうの考えるの、好きなやつだったし」
「あー!そうだよ!ケンスケだ、懐かしい。会いてぇなぁ」
「やめとけ。――お前はもう死んでるんだから」
俺の言葉で、完璧なまでの静寂が訪れた。
遠くに聞こえた空ぶかしのエンジン音も聴こえなくなったことに、俺は恐怖を覚えて冷や汗が垂れる。
「誰が、なんだって?」
「……お前だよ。……お前は中2ん時、みんなで家抜け出して夜中に心霊スポット行こうって――」
「――覚えてるよ。たぶん、ケンスケが言い出したんだろ?アイツがオカルトブームを流行らしてさ」
「盛り上がったよな。オリジナルの怪談とか作って」
「あああああああ。そうか、《忘れる亡霊》ってやつだ。懐かしい」
《忘れる亡霊》は俺の考えた怪談だ。
自分が死んだことを忘れて、徘徊する亡霊。
普段は誰にも見えないけど、そいつを知ってる奴だけは見えるっていうもので――。
「つまり、俺は死んでんのか」
「…………ああ、だから墓参りに来たんだよ」
「そっか。……あれ?たしか《忘れる亡霊》って……」
「出会ったら死ぬ。俺が考えた話だから覚えてるよ」
「……そっか。ごめん」
「いいよ。どうせ死ぬつもりだったから」
空ぶかしのエンジン音が、静かな夜を割いて届いた。いつもの夜だ。
死ぬにはちょうどいい。
でも、できることなら俺はなにも忘れたくはないな――と思った。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる