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4.振るえよ拳!受けよ白眼!
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「よっしゃぁああ!!!ダンジョンだぁぁあああ!!!」
男の歓声がレンガ造りの迷宮に響き渡った。
周りがなんだかびっくりしているが、探索者たるものこんなことで腰が引けていてはやっていけないぞとデビュー戦を飾る男が内で宣う。
「金だ!金になるものを探す!金になりそうな敵を倒す!金があれば拾う!金だ!!」
幸隆の歓喜の声は憧れやら、戦いへの渇望とかそんな高尚なものからくるものではない。
世俗的な金銭欲だ。
それだって名誉や地位欲しさの金銭欲なんかではなく、ただ単に今日明日を食いつなぐ為の生存欲であった。
すぐに金が尽きるわけではないが、カードの支払いで口座の残高は底をつく。
カード払いで今月を凌ぐことはできれど、来月は死ぬ。
幸隆に悠長にしている時間はなかった。
危険な域にいつの間にか足を突っ込んでいた、そんな時に身辺調査とかいう後ろ暗い所がある人間にとったら死刑宣告に近い言葉を告げられ、数日間ぽけーっと過ごしていた。
もちろんハローワークにはいっていた。
失業手当の手前、いかなければならないからではあったが。
そしてついにその重圧から開放された幸隆は探索者が好きではないのは変わらずとも探索者に無事なれたことに大喜びしていた。
「人が多いな。視線もうざいし旨味もない。奥に行くか」
ジロジロと見られる事を嫌った幸隆はその視線から逃れるように走ってダンジョンの奥へと進んだ。
「───っとあんたそん──っこうで────ちょ、はやっ」
何人かに呼び止められたような気がするが、高揚している幸隆の耳には届かない。
「金にならない一層目に用はない!二層目までノンストップだ!」
将来の安定した稼ぎの為に知識と経験に投資をしていたいと安定路線の考え方をしていた幸隆は金銭欲を前にそれが吹き飛んでしまっていた。
運良く階段を見つける幸隆。
一層目入口付近は人が多かったが、ここまで来れば人の数もまばらになっていた。
階段を駆け下りていく。
いくつかのパーティーとすれ違う度に何か言っているような気がしたが、自分に向けてではないだろうと幸隆は意に返さない。
駆け下りた先は一層目と変わらないレンガ造りの迷宮風景。
しかし出てくる敵が上とは違う。
上に出てくるネズミタイプの魔物は倒しても種の成長が見込めるだけでこれと言ったドロップ品はどれも供給過多で捨て値同然だ。
そんなもの極貧状態の幸隆が喜ぶはずもなく、それよりもマシなスライムが出てくる二層まで急いで駆けて来たのだ。
「できることなら次の三層目で出てくるゴブリンってのを狩りたいが、俺も馬鹿じゃない。流石に経験も積まずに人型には挑まないさ」
そういって眼の前でうねうねと動く粘液に口角を釣り上げ牙を剥く。
「俺の記念すべき探索者初収入はお前で決まりだぁ!!」
勢い良く振り上げた拳を思いっきりスライムへと叩き込む。
渾身の一撃だ。
これで上司の顔面の形も変わったのだ。
相手はただの水の塊。
「爆散じゃあ!!」
ぽよんっ。
可愛らしいオノマトペに幸隆の目も点になった。
「おっほん」
誤魔化すように咳払いを一つ。
テンションそのままに振りかぶったせいでフォームが悪かったのだろう。
スライムの背丈もかなり低い。
腰の捻りが足りなかったかと腰の動きを意識してフォームを確かめるようにして数度拳を素振りした。
うん、これなら行ける。
そう判断した幸隆は2テイク目に入った。
ダンっとさっきよりも深い踏み込みとしっかりと効かせた腰の捻り。
そしてより強い言葉を。
「轟爆散じゃあ!!!」
明らかに威力の上がった会心の一撃。
これなら上司の顔ももう元には戻らない。
ぽよよんっ。
さっきよりも気の抜けた擬音に歯を食いしばる幸隆。
しかし幸隆はあきらめない。
「こいつの顔の高さが俺の肩当たりなら完璧に倒していた。正確に言うと元上司ならこれで一発KOだった。こいつの背丈が余りに低すぎる」
それならと幸隆はサッカーボールを蹴るように足を振り上げる練習をする。
「恥ずかしいな。選択ミスだ。この相手なら拳ではなく脚が正解だった。だがこれにすぐに気付ける俺は戦いの才があるのかもしれない」
幸隆は満足のいくフォームを見つけたのかスライムへと脚を振り上げる。
サッカーボールキックではなく、かかと落とし。
さっきの練習は何だったのだろう。
しかし思いの外、柔軟性も体幹も優れる幸隆の脚は高く上がり、可動域と位置エネルギーを伴った踵がスライムを四散させんと襲いかかる。
「剛轟大爆散!!!」
言葉に意味はない。
本人も理解していない。
しかしそれは言葉に恥じる威力を持っていた。
これなら元上司を致命傷に追いやれる。本気でやれば殺人未遂だ。
ぽっよよんっ。
やはり強い言葉に伴わない蹴りは虚しく弾かれ、態勢を崩した幸隆はすってんころりとその場にずっこけた。
「ねぇ!あんたバカなの!?」
それを見ていた女性探索者がすっごい顔で驚いていた。
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
四つん這いで尻をなぞる幸隆が女性を睨む。
涙目で。
男の歓声がレンガ造りの迷宮に響き渡った。
周りがなんだかびっくりしているが、探索者たるものこんなことで腰が引けていてはやっていけないぞとデビュー戦を飾る男が内で宣う。
「金だ!金になるものを探す!金になりそうな敵を倒す!金があれば拾う!金だ!!」
幸隆の歓喜の声は憧れやら、戦いへの渇望とかそんな高尚なものからくるものではない。
世俗的な金銭欲だ。
それだって名誉や地位欲しさの金銭欲なんかではなく、ただ単に今日明日を食いつなぐ為の生存欲であった。
すぐに金が尽きるわけではないが、カードの支払いで口座の残高は底をつく。
カード払いで今月を凌ぐことはできれど、来月は死ぬ。
幸隆に悠長にしている時間はなかった。
危険な域にいつの間にか足を突っ込んでいた、そんな時に身辺調査とかいう後ろ暗い所がある人間にとったら死刑宣告に近い言葉を告げられ、数日間ぽけーっと過ごしていた。
もちろんハローワークにはいっていた。
失業手当の手前、いかなければならないからではあったが。
そしてついにその重圧から開放された幸隆は探索者が好きではないのは変わらずとも探索者に無事なれたことに大喜びしていた。
「人が多いな。視線もうざいし旨味もない。奥に行くか」
ジロジロと見られる事を嫌った幸隆はその視線から逃れるように走ってダンジョンの奥へと進んだ。
「───っとあんたそん──っこうで────ちょ、はやっ」
何人かに呼び止められたような気がするが、高揚している幸隆の耳には届かない。
「金にならない一層目に用はない!二層目までノンストップだ!」
将来の安定した稼ぎの為に知識と経験に投資をしていたいと安定路線の考え方をしていた幸隆は金銭欲を前にそれが吹き飛んでしまっていた。
運良く階段を見つける幸隆。
一層目入口付近は人が多かったが、ここまで来れば人の数もまばらになっていた。
階段を駆け下りていく。
いくつかのパーティーとすれ違う度に何か言っているような気がしたが、自分に向けてではないだろうと幸隆は意に返さない。
駆け下りた先は一層目と変わらないレンガ造りの迷宮風景。
しかし出てくる敵が上とは違う。
上に出てくるネズミタイプの魔物は倒しても種の成長が見込めるだけでこれと言ったドロップ品はどれも供給過多で捨て値同然だ。
そんなもの極貧状態の幸隆が喜ぶはずもなく、それよりもマシなスライムが出てくる二層まで急いで駆けて来たのだ。
「できることなら次の三層目で出てくるゴブリンってのを狩りたいが、俺も馬鹿じゃない。流石に経験も積まずに人型には挑まないさ」
そういって眼の前でうねうねと動く粘液に口角を釣り上げ牙を剥く。
「俺の記念すべき探索者初収入はお前で決まりだぁ!!」
勢い良く振り上げた拳を思いっきりスライムへと叩き込む。
渾身の一撃だ。
これで上司の顔面の形も変わったのだ。
相手はただの水の塊。
「爆散じゃあ!!」
ぽよんっ。
可愛らしいオノマトペに幸隆の目も点になった。
「おっほん」
誤魔化すように咳払いを一つ。
テンションそのままに振りかぶったせいでフォームが悪かったのだろう。
スライムの背丈もかなり低い。
腰の捻りが足りなかったかと腰の動きを意識してフォームを確かめるようにして数度拳を素振りした。
うん、これなら行ける。
そう判断した幸隆は2テイク目に入った。
ダンっとさっきよりも深い踏み込みとしっかりと効かせた腰の捻り。
そしてより強い言葉を。
「轟爆散じゃあ!!!」
明らかに威力の上がった会心の一撃。
これなら上司の顔ももう元には戻らない。
ぽよよんっ。
さっきよりも気の抜けた擬音に歯を食いしばる幸隆。
しかし幸隆はあきらめない。
「こいつの顔の高さが俺の肩当たりなら完璧に倒していた。正確に言うと元上司ならこれで一発KOだった。こいつの背丈が余りに低すぎる」
それならと幸隆はサッカーボールを蹴るように足を振り上げる練習をする。
「恥ずかしいな。選択ミスだ。この相手なら拳ではなく脚が正解だった。だがこれにすぐに気付ける俺は戦いの才があるのかもしれない」
幸隆は満足のいくフォームを見つけたのかスライムへと脚を振り上げる。
サッカーボールキックではなく、かかと落とし。
さっきの練習は何だったのだろう。
しかし思いの外、柔軟性も体幹も優れる幸隆の脚は高く上がり、可動域と位置エネルギーを伴った踵がスライムを四散させんと襲いかかる。
「剛轟大爆散!!!」
言葉に意味はない。
本人も理解していない。
しかしそれは言葉に恥じる威力を持っていた。
これなら元上司を致命傷に追いやれる。本気でやれば殺人未遂だ。
ぽっよよんっ。
やはり強い言葉に伴わない蹴りは虚しく弾かれ、態勢を崩した幸隆はすってんころりとその場にずっこけた。
「ねぇ!あんたバカなの!?」
それを見ていた女性探索者がすっごい顔で驚いていた。
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは」
四つん這いで尻をなぞる幸隆が女性を睨む。
涙目で。
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