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15.不運は訪れるべき者の頭の上に落ちてくる
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「昨日は大変でしたね」
「すみません……」
ギルドのフロントにていつもの受付嬢に昨日の醜態をぶり返された幸隆が苦い顔を浮かべて謝る。
幸隆のダムは決壊が近かったために一番近くにある、扉を開けてすぐに利用できる多目的トイレへと駆け込むこととなり、結局一時間以上に渡ってそこを占有することになった。
健常者が緊急とは言え、長時間使用するのはモラル違反だと反省していた幸隆はその件を受付嬢へと伝えた。
「意外にも良識というものを持ち合わせていたのですね」
「受付嬢さんは俺にどんなイメージをもっているんですか」
常識的な社会人の自覚を持つ幸隆はその辛辣な言葉に気を落とす。
「今日はお連れの女性はいらっしゃらないのですか?」
杏は用事があるらしく、ダンジョン探索はお休みだと言う旨のメッセージをもらったため今日は幸隆一人での登場だった。
それをさらっと説明すると受付嬢の目が少し険しいものに変わったように見えた。
「ソロでの探索は推奨しておりません。ダンジョンに不測の事態はつきものです。互いにフォローしあうために最低でも二名以上での探索をお願いしております。ギルドとしての推奨人数は4~6人となっております」
淡々とした事務的な口調で幸隆の行動を諫める受付嬢。
しかし、幸隆はそれを素直に聞くようなたまではない。
すこし面倒そうに頬を掻いて口を開く。
「そう深い所までは潜らないので大丈夫ですよ。一人で倒せる階層までしか行きませんので」
「そう、ですか」
初めて会った時から防具どころか武器さえ持っていない幸隆の恰好を見て、一階層でせこせこ自身の強化に努めるのだろうと考えた彼女はそれを阻む立場にない。
これ以上は彼女個人の思想と捉えかねられない。
「それにパーティーは義務ではないんでしょう?」
「はい。あくまで推奨の範囲でございます」
それを言われてしまえば彼女はこれ以上は何も言えなかった。
「それではお気をつけて」
入場記録をつけた彼女は幸隆の背中を見送る。
その背、彼の体の中にある魔力はあれ以降全くと言って良いほどに大きくなっていない。
二日連続でそこそこの数の魔物を倒したならもう少し成長していてもおかしくないはずだが、適性試験の時と比べ、いや、それ以前から比べても変わりはなかった。
身辺調査の結果、探索者としての履歴はなく、正真正銘の新人探索者であることに間違いはないはずだ。
変わった生まれでもなければ、特殊な人間との背景も見えない。
ただ少し荒れた青春時代を送った青年。
普通の人生を歩んできたはずの青年に既に宿っていた僅かな魔力の正体はこうして間近で見た彼女を以てしてもわからなかった。
そういう人物もまぁ過去に例がないわけではないため、彼女はこれ以上気に留めるのをやめた。
しかし魔力が生まれ以てあったとするのは良いが、それが全く成長していないというのが気になる。
(やはり魔物の相手を全部彼女に任せていたのでしょうか?)
それだと買い取りの際に彼女の言っていた事が気になるが、倒せたとしてもその数が極端に少なければ、一見して成長が見られないのも納得がいった。
(一階層でしっかり魔物を倒せばそれも変わるでしょう。二階層くらいならもしかしたらいけるかも知れませんね。危険なのでそれはないでしょうが)
彼女は一人で探索に出かけたバカの身を案じた。
「よし!ゴブリンども!その貴重な魔石を全部よこせ!あ、耳はいらんので」
受付嬢の憂いも虚しく、幸隆は昨日と同じ三階層へと足を踏み入れていた。
狙うは魔石。
最低保証金額の耳など目にもくれない。
ただいま絶賛金銭欲お化けの幸隆はゴブリン蔓延る三階層を速足で進んでいた。
用途の全くないらしい耳はあれだけあっても北里柴三郎一枚。
しかし魔石はたったの4つで1600円にもなった。
旨味が全く違うそれを幸隆は必死に求める。
暗闇の向こうが一閃。
「単調!」
既に前回で慣れたゴブリンの投げナイフを叩き落とす幸隆。
距離を詰めるのにそう時間は掛からない。
暗闇の中から視界に捉えた。
逃げ遅れたゴブリンが一体、幸隆の足の餌食なった
明らかに身体能力が上昇している事にご満悦な幸隆は体を切り返してもう一体のゴブリンの元へと駆ける。
ゴブリンもすぐに反応して迎撃にナイフを振るおうとするも幸隆の拳の方が早かった。
アッパーカットが顔面に突き刺さり、塵となって消えていく。
「そしてこっち!」
正面にいた二体を片付けた幸隆は間を置くこともなく薄暗い前方に突っ込んだ。
「ギギ!」
「いい加減飽きたわ!」
伏兵に徹していたゴブリンを蹴り飛ばして、止めに拳を振りかぶった。
「おっやっと一個目」
ルンルン気分でドロップした魔石を懐へとしまい込む。
ら
杏いわく、この魔石と呼ばれるドロップ品は全ての魔物から結構な確率でドロップする品らしいが、前回は巡りあわせが悪かったのか、異様なほど出ていなかったらしい。
耳の方が多いとか不幸ね。
と彼女に言われた幸隆はリベンジにここまで来たのだ。
あれの倍以上は普通は落ちると言われれば居ても立ってもいられないじゃないかと。
しかし今のところ耳が8に対して魔石がようやく1個。
「昨日より悪くね?」
徐々に大きくなる不安を誤魔化すように足を進め、敵を求める幸隆。
すると、何かに気づいた幸隆は足を止めた。
「なんだ?遠吠え?」
ゴブリンでは絶対にあり得ない獣の咆哮。
何かが近づいてくる。
ゴブリンよりも低い位置に灯る怪しい眼光が姿を現し、そこから毛を逆立て気性を激しくした狼が現れた。
「おいおい、ちょっと階間違えてますよ……」
冗談めかすもその実、幸隆にそこまでの余裕はなかった。
今までの敵とは明らかに違う威風に格の違いが伺えたからだ。
剥き出しにされるその立派な牙が何よりも鋭く見えた。
「すみません……」
ギルドのフロントにていつもの受付嬢に昨日の醜態をぶり返された幸隆が苦い顔を浮かべて謝る。
幸隆のダムは決壊が近かったために一番近くにある、扉を開けてすぐに利用できる多目的トイレへと駆け込むこととなり、結局一時間以上に渡ってそこを占有することになった。
健常者が緊急とは言え、長時間使用するのはモラル違反だと反省していた幸隆はその件を受付嬢へと伝えた。
「意外にも良識というものを持ち合わせていたのですね」
「受付嬢さんは俺にどんなイメージをもっているんですか」
常識的な社会人の自覚を持つ幸隆はその辛辣な言葉に気を落とす。
「今日はお連れの女性はいらっしゃらないのですか?」
杏は用事があるらしく、ダンジョン探索はお休みだと言う旨のメッセージをもらったため今日は幸隆一人での登場だった。
それをさらっと説明すると受付嬢の目が少し険しいものに変わったように見えた。
「ソロでの探索は推奨しておりません。ダンジョンに不測の事態はつきものです。互いにフォローしあうために最低でも二名以上での探索をお願いしております。ギルドとしての推奨人数は4~6人となっております」
淡々とした事務的な口調で幸隆の行動を諫める受付嬢。
しかし、幸隆はそれを素直に聞くようなたまではない。
すこし面倒そうに頬を掻いて口を開く。
「そう深い所までは潜らないので大丈夫ですよ。一人で倒せる階層までしか行きませんので」
「そう、ですか」
初めて会った時から防具どころか武器さえ持っていない幸隆の恰好を見て、一階層でせこせこ自身の強化に努めるのだろうと考えた彼女はそれを阻む立場にない。
これ以上は彼女個人の思想と捉えかねられない。
「それにパーティーは義務ではないんでしょう?」
「はい。あくまで推奨の範囲でございます」
それを言われてしまえば彼女はこれ以上は何も言えなかった。
「それではお気をつけて」
入場記録をつけた彼女は幸隆の背中を見送る。
その背、彼の体の中にある魔力はあれ以降全くと言って良いほどに大きくなっていない。
二日連続でそこそこの数の魔物を倒したならもう少し成長していてもおかしくないはずだが、適性試験の時と比べ、いや、それ以前から比べても変わりはなかった。
身辺調査の結果、探索者としての履歴はなく、正真正銘の新人探索者であることに間違いはないはずだ。
変わった生まれでもなければ、特殊な人間との背景も見えない。
ただ少し荒れた青春時代を送った青年。
普通の人生を歩んできたはずの青年に既に宿っていた僅かな魔力の正体はこうして間近で見た彼女を以てしてもわからなかった。
そういう人物もまぁ過去に例がないわけではないため、彼女はこれ以上気に留めるのをやめた。
しかし魔力が生まれ以てあったとするのは良いが、それが全く成長していないというのが気になる。
(やはり魔物の相手を全部彼女に任せていたのでしょうか?)
それだと買い取りの際に彼女の言っていた事が気になるが、倒せたとしてもその数が極端に少なければ、一見して成長が見られないのも納得がいった。
(一階層でしっかり魔物を倒せばそれも変わるでしょう。二階層くらいならもしかしたらいけるかも知れませんね。危険なのでそれはないでしょうが)
彼女は一人で探索に出かけたバカの身を案じた。
「よし!ゴブリンども!その貴重な魔石を全部よこせ!あ、耳はいらんので」
受付嬢の憂いも虚しく、幸隆は昨日と同じ三階層へと足を踏み入れていた。
狙うは魔石。
最低保証金額の耳など目にもくれない。
ただいま絶賛金銭欲お化けの幸隆はゴブリン蔓延る三階層を速足で進んでいた。
用途の全くないらしい耳はあれだけあっても北里柴三郎一枚。
しかし魔石はたったの4つで1600円にもなった。
旨味が全く違うそれを幸隆は必死に求める。
暗闇の向こうが一閃。
「単調!」
既に前回で慣れたゴブリンの投げナイフを叩き落とす幸隆。
距離を詰めるのにそう時間は掛からない。
暗闇の中から視界に捉えた。
逃げ遅れたゴブリンが一体、幸隆の足の餌食なった
明らかに身体能力が上昇している事にご満悦な幸隆は体を切り返してもう一体のゴブリンの元へと駆ける。
ゴブリンもすぐに反応して迎撃にナイフを振るおうとするも幸隆の拳の方が早かった。
アッパーカットが顔面に突き刺さり、塵となって消えていく。
「そしてこっち!」
正面にいた二体を片付けた幸隆は間を置くこともなく薄暗い前方に突っ込んだ。
「ギギ!」
「いい加減飽きたわ!」
伏兵に徹していたゴブリンを蹴り飛ばして、止めに拳を振りかぶった。
「おっやっと一個目」
ルンルン気分でドロップした魔石を懐へとしまい込む。
ら
杏いわく、この魔石と呼ばれるドロップ品は全ての魔物から結構な確率でドロップする品らしいが、前回は巡りあわせが悪かったのか、異様なほど出ていなかったらしい。
耳の方が多いとか不幸ね。
と彼女に言われた幸隆はリベンジにここまで来たのだ。
あれの倍以上は普通は落ちると言われれば居ても立ってもいられないじゃないかと。
しかし今のところ耳が8に対して魔石がようやく1個。
「昨日より悪くね?」
徐々に大きくなる不安を誤魔化すように足を進め、敵を求める幸隆。
すると、何かに気づいた幸隆は足を止めた。
「なんだ?遠吠え?」
ゴブリンでは絶対にあり得ない獣の咆哮。
何かが近づいてくる。
ゴブリンよりも低い位置に灯る怪しい眼光が姿を現し、そこから毛を逆立て気性を激しくした狼が現れた。
「おいおい、ちょっと階間違えてますよ……」
冗談めかすもその実、幸隆にそこまでの余裕はなかった。
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