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#05 蘇生の書、残されたのは二日
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(昼間だというのに、薄暗いな……)
書庫に窓はなく、揺れる蝋燭の炎だけが光源だった。
壁という壁を埋め尽くす、ぎっしりと詰まった写本の数々。
その中央。
鎖で固く閉じられた革表紙の書を挟み、デミールとリレイが向かい合っていた。
「くそっ、なんだこの文字は!」
デミールは苛立ちを隠さず、ページを睨みつける。
「霜降り鏡像反転文字……アヴァロニア古語……」
「おまけにページ番号までバラバラじゃないか!」
「こんな本、悪夢そのものだぞ!」
「おお……!」
対照的に、リレイは目を輝かせていた。
「アヴァロニア語にお詳しいのですね! さすがはデミール様!」
ノームの純粋な熱意に、デミールは思わず苦笑する。
「ふふっ。この秘伝書は、まだ読みやすい方ですよ」
リレイは楽しげに眼鏡を押し上げた。
「これは、一読で内容を理解させないための工夫なのです。禁書指定を逃れるための、ね」
「……リレイ。お前、これを読んだのか?」
デミールが呆れたようにため息をつく。
リレイは、こくりと誇らしげに頷いた。
「はい。すべての本は一度通読し、前城主クロムガルム様に報告済みです」
リレイが指さした先には、百冊はあろうかという不揃いの書物が山積みになっていた。
「翻訳ノームは他にもいたのですが……戦況の悪化で、魔力持ちは皆、前線に」
「私のような無能力者だけが、こうして残りました」
(……俺たちが、追い詰めた結果か)
デミールは、黙って唇を噛んだ。
「魔法開闢の歴史部分はいい。時間の無駄だ。目次はどこにある?」
「中ほどに。ですが、用語解説から逆引きする方が早いかと」
リレイの助言を受け、デミールが再びページをめくる。
その時だった。
「おーい、デミール! どこにいるんじゃ!」
中庭から、グラングの怒鳴り声が響き渡る。
乱暴に扉が開き、小柄なドワーフが飛び込んできた。
「こんな所で何しておるんじゃ! オークどもが待ちくたびれておるわ!」
「落ち着け、グラング。いい知らせだ
リレイが、蘇生の秘法を教えてくれる」
「なにっ!?」
グラングの目がカッと見開かれる。
「おお! こいつが僧侶か! 助かったぞ!」
テーブルに乗り出すようにして、リレイを覗き込んだ。
「い、いえっ、私は僧侶でも魔術師でもなく、ただの司書で……」
リレイはグラングの圧に縮み上がる。
「この書に記された、死者蘇生の呪文を知っているだけで……」
「呪文を知ってるだけじゃと?」
グラングの眉が、みるみる吊り上がっていく。
「役立たずが!」
「待て!」
テーブルを乗り越えようとするグラングの肩を、デミールが素早く押さえた。
「呪文がわかるなら、俺が唱える。それで済む話だ」
「なら今すぐやれ!」
「魔力は無限じゃない。詠唱を間違えれば、俺の魔力が尽きる」
「そこに本があるだろうが! 読みながらやれ!」
グラングが本を指さして叫ぶ。
(……こいつには、古代語など読めんか)
デミールは、もう一度ため息をついた。
「詠唱はリズムと準備がすべてだ。一字一句、違えずに頭に叩き込む必要がある」
「ぐっ……ならば急げ! 遺体が腐ってしまうぞ!」
その言葉に、リレイがびくりと震えた。
震える手で眼鏡を直し、二人の間に割って入る。
「……その通りです。急がねばなりません」
「魂が、この世とあの世の狭間に留まるのは、僅か三日」
「それまでに、呪文を届けなければ……」
「何!?」
「なんだと!?」
デミールとグラングの声が、同時に響いた。
リレイは緊張に強張った声で続ける。
「三日です。死の時から、三日」
「それを過ぎれば魂は冥界へ渡り、もう呪文は届きませ一ん」
ドクン、とデミールの心臓が跳ねた。
エレノアたちが刃に倒れ、すでに一日が過ぎていた。
残り二日でこの悪夢のような本を解読し、詠唱を覚え、儀式を行う。
ふと、中庭に横たわるエレノアの棺に視線をやった。
棺に置かれたソリスの守護符が、微かに輝いた気がした。
(……見間違い、か?)
その瞬間。
フッ、と書庫の蝋燭の炎が大きく揺れた。
ガタンッ!
棚の一冊が、まるで誰かに突き落とされたかのように床に落ちる。
リレイの顔が一瞬こわばった。
「クロムガルム様の意思が……まだ、この書庫に……」
デミールはリレイのメモを、強く握りしめた。
渦巻く魔力を感じながら、静かに呟く。
「あと二日……」
「必ず、エレノアを蘇らせてみせる」
書庫に窓はなく、揺れる蝋燭の炎だけが光源だった。
壁という壁を埋め尽くす、ぎっしりと詰まった写本の数々。
その中央。
鎖で固く閉じられた革表紙の書を挟み、デミールとリレイが向かい合っていた。
「くそっ、なんだこの文字は!」
デミールは苛立ちを隠さず、ページを睨みつける。
「霜降り鏡像反転文字……アヴァロニア古語……」
「おまけにページ番号までバラバラじゃないか!」
「こんな本、悪夢そのものだぞ!」
「おお……!」
対照的に、リレイは目を輝かせていた。
「アヴァロニア語にお詳しいのですね! さすがはデミール様!」
ノームの純粋な熱意に、デミールは思わず苦笑する。
「ふふっ。この秘伝書は、まだ読みやすい方ですよ」
リレイは楽しげに眼鏡を押し上げた。
「これは、一読で内容を理解させないための工夫なのです。禁書指定を逃れるための、ね」
「……リレイ。お前、これを読んだのか?」
デミールが呆れたようにため息をつく。
リレイは、こくりと誇らしげに頷いた。
「はい。すべての本は一度通読し、前城主クロムガルム様に報告済みです」
リレイが指さした先には、百冊はあろうかという不揃いの書物が山積みになっていた。
「翻訳ノームは他にもいたのですが……戦況の悪化で、魔力持ちは皆、前線に」
「私のような無能力者だけが、こうして残りました」
(……俺たちが、追い詰めた結果か)
デミールは、黙って唇を噛んだ。
「魔法開闢の歴史部分はいい。時間の無駄だ。目次はどこにある?」
「中ほどに。ですが、用語解説から逆引きする方が早いかと」
リレイの助言を受け、デミールが再びページをめくる。
その時だった。
「おーい、デミール! どこにいるんじゃ!」
中庭から、グラングの怒鳴り声が響き渡る。
乱暴に扉が開き、小柄なドワーフが飛び込んできた。
「こんな所で何しておるんじゃ! オークどもが待ちくたびれておるわ!」
「落ち着け、グラング。いい知らせだ
リレイが、蘇生の秘法を教えてくれる」
「なにっ!?」
グラングの目がカッと見開かれる。
「おお! こいつが僧侶か! 助かったぞ!」
テーブルに乗り出すようにして、リレイを覗き込んだ。
「い、いえっ、私は僧侶でも魔術師でもなく、ただの司書で……」
リレイはグラングの圧に縮み上がる。
「この書に記された、死者蘇生の呪文を知っているだけで……」
「呪文を知ってるだけじゃと?」
グラングの眉が、みるみる吊り上がっていく。
「役立たずが!」
「待て!」
テーブルを乗り越えようとするグラングの肩を、デミールが素早く押さえた。
「呪文がわかるなら、俺が唱える。それで済む話だ」
「なら今すぐやれ!」
「魔力は無限じゃない。詠唱を間違えれば、俺の魔力が尽きる」
「そこに本があるだろうが! 読みながらやれ!」
グラングが本を指さして叫ぶ。
(……こいつには、古代語など読めんか)
デミールは、もう一度ため息をついた。
「詠唱はリズムと準備がすべてだ。一字一句、違えずに頭に叩き込む必要がある」
「ぐっ……ならば急げ! 遺体が腐ってしまうぞ!」
その言葉に、リレイがびくりと震えた。
震える手で眼鏡を直し、二人の間に割って入る。
「……その通りです。急がねばなりません」
「魂が、この世とあの世の狭間に留まるのは、僅か三日」
「それまでに、呪文を届けなければ……」
「何!?」
「なんだと!?」
デミールとグラングの声が、同時に響いた。
リレイは緊張に強張った声で続ける。
「三日です。死の時から、三日」
「それを過ぎれば魂は冥界へ渡り、もう呪文は届きませ一ん」
ドクン、とデミールの心臓が跳ねた。
エレノアたちが刃に倒れ、すでに一日が過ぎていた。
残り二日でこの悪夢のような本を解読し、詠唱を覚え、儀式を行う。
ふと、中庭に横たわるエレノアの棺に視線をやった。
棺に置かれたソリスの守護符が、微かに輝いた気がした。
(……見間違い、か?)
その瞬間。
フッ、と書庫の蝋燭の炎が大きく揺れた。
ガタンッ!
棚の一冊が、まるで誰かに突き落とされたかのように床に落ちる。
リレイの顔が一瞬こわばった。
「クロムガルム様の意思が……まだ、この書庫に……」
デミールはリレイのメモを、強く握りしめた。
渦巻く魔力を感じながら、静かに呟く。
「あと二日……」
「必ず、エレノアを蘇らせてみせる」
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