贖罪のデミール

umetika

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#06 書の解読、破壊と構築

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大講堂に、デミールは仲間たちを集めた。
床に響く足音。高い天井の梁には、ガーゴイルたちが身を潜めている。
中央に置かれた水晶球の台座が、揺れる蝋燭の光を鈍く反射していた。

デミールは分厚いまな板を床に置くと、祭壇のように、その上に『蘇生の書』を載せた。
しばしの黙考。
そして、静かに呟いた。

「……仕方ない」

彼はリレイを見つめ、低く告げる。
「リレイ。大事な本だろうが……許せ」

「え?」
リレイが目を丸くした、その瞬間。

デミールは短く呪文を囁くと、二本の指を振り下ろした。
ヒュンッ!
空気を切り裂く音。
不可視の真空の刃が、まな板ごと革表紙の書を――両断した。

  ザンッ!

ゴトッ、と重い音を立て、書は真っ二つに割れた。
無数のページが、冷たい床に乱れ散る。

「本がぁぁぁ!」
リレイの悲鳴が、広い講堂に響き渡った。
彼は青ざめた顔で散らばるページを見つめ、涙声で訴える。
「デミール様、ご正気ですか!?」

「正気だ。壊したわけじゃない」
デミールは散らばったページの一枚を拾い上げる。
「一枚一枚の紙片になっただけだ」
「ページ番号がバラバラで時間を食う。なら、これが一番早い」
「物理的に、番号順に並べ替えちまうんだよ」

「なるほどな!」
グラングが感心したように、ポンと手を打った。
「エレノアを蘇らせるためなら、こんな紙切れ、何枚だって並べてやるぜ!」

デミールが紙束をグラングに渡した途端、
グラングはそれを、近くのオークたちに押し付けた。
「おい、貴様ら! デミール様の命令だ!」
「この紙を、番号の小さい順に並べろ!」

デミールは呆れたように付け加える。
「……汝ら、この数を小さきより並べよ」
古語での正式な命令に、オークたちは目を皿のようにして数字を追い始めた。

「そおれ、そおれ、もたもたするな! 急がんか!」
グラングは仁王立ちで、無責任にオークたちを煽り立てる。
だが、その威圧感が功を奏したのか、オークたちは驚くほど真剣に作業に集中していた。

「リレイ」
デミールは別の紙を司書に渡す。
「これはページの裏表対応表だ。お前はこれを見て、ガーゴイルに指示を出せ」

「! はい、承知いたしました!」
リレイはすぐに意図を理解し、天井を見上げた。
彼の声が、大講堂に響き渡る。

「まず98ページ!」
「98は13の裏だ!」

シュッ! と一体のガーゴイルが滑空し、嘴で器用に紙片を拾い上げる。
デミールはそれを受け取ると、羽ペンを走らせた。

「次だ。99ページ!」
「99は62の裏!」

次のガーゴイルが舞い降り、旋回する。
風圧で、床の紙が数枚舞い上がった。

「おい、こら! 散らかすな!」
グラングの怒号に、オークたちが慌てて紙を押さえる。

破壊と、構築。
バラバラになった禁書が、デミールの前で、新たな秩序を持って組み上げられていく。
蝋燭の灯りが何度も取り替えられる。

夜明けは、まだ遠い。
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