贖罪のデミール

umetika

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#17 王都からの使者、支度金と召喚と

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魔王城から焚書の危機が去り、しばしの平穏が訪れた。
だが――。

「ねえ! 王都からの報奨金、いつになったら届くわけ!?」
朝食の席で、パンを片手にペナミが不満の声を上げる。
魔王討伐の報告から、すでに一か月。
教会建立の計画は、完全に止まっていた。

「ははは……もうすぐだよ、きっと……」
苦笑いを浮かべる勇者レオナート。

「ソリス様、どうか……」
エレノアはそっと胸の前で祈りを捧げる。

「(村の人たちの善意が……かえって心苦しいな……)」
レオナートは、期待に満ちた村人たちの顔を思い出し、深くため息をついた。


その時だった。
「ん……? あれ、王都からの使者じゃない?」
テラスで微睡んでいたセリオンが、遠くの丘を指さした。
その先には、豆粒のような三つの騎馬の影。

「略式の服だけど、王家の旗印がはっきり見えるわ」
エルフの鋭い視力が、旗印を正確に捉えていた。

「本当か!?」
デミールが弾かれたように立ち上がる。

「よし、みんなを集めてくる! セリオン、悪いが温かい飲み物を用意してくれ!」
「ええ、任せて」

(ようやく来たか……! だが、吉報だといいんだが……)
デミールの足音が、期待と不安をない交ぜにして廊下に響いた。


カッカッカッ!
けたたましい馬蹄の音が、城の中庭に響き渡る。
三人の騎士は馬から降りる素振りも見せず、デミールたちの目の前で乱暴に手綱を引いた。

先頭の騎士が、兜の奥から値踏みするような視線を投げる。
「貴殿が、勇者レオナートか?」
「はい、私がレオナートです」

「(うわ、感じわるっ!)」
レオナートの後ろで、ペナミが顔をしかめた。

騎士は従者から書状と革袋を受け取ると、それを無造作に突き出した。
「王都からのご沙汰だ。王命により急を要する。簡略に済ませた、受け取れ」
「は、はい……!」
レオナートが恭しく受け取ると、騎士は一瞥もくれずに踵を返す。
まるで汚いものにでも触れたかのように、一刻も早く立ち去りたいという空気が全身から出ていた。

あっという間に三騎は駆け去っていく。
「ちょっと! 少しお酒でも渡せば、もうちょっとマシな態度だったかもじゃない!?」
ペナミが悔しそうに叫んだが、その声は誰にも届かなかった。


「……召喚状だ」
レオナートが、緊張した面持ちで書状を読み上げる。
「名前があるのは……僕と、エレノアと、デミールだけだ」

「はあ!? あたしとセリオン、グラングは無視ってこと!?」
「まあ、王都なんてそんなものでしょ。エルフやハーフリングは物珍しいだけ。興味ないのよ」
セリオンは肩をすくめ、革袋を覗き込んだ。

「で? これが報奨金? ……少なっ!」
ペナミの叫び声が響く。

「いや、違う。書状によると、これは『支度金』だ」
デミールが冷静に訂正する。
「王都までの旅費と、身なりを整えるための金らしい」

「へえ。服を買って、キレイにして登城しろってことね」
セリオンが興味深そうに身を乗り出した。
「招待は三人でも、随行は自由よね? 私も一緒に行っていいかしら?」
「もちろんだよ、セリオン! ぜひ来てほしい!」
レオナートの顔がパッと明るくなる。

「おい。お前、エルフ郷に帰るんじゃなかったのか?」
デミールが意外そうに尋ねる。

「エルフ郷は何百年経っても変わらないわ」
セリオンは銀髪をかきあげ、いたずらっぽく笑う。
「でも、人間の都はほんの数十年で景色が一変する。その目まぐるしい営みは、滑稽で、どこか愛おしいの。それに……」
彼女は楽しそうに続けた。
「あの騎士の旗、刺繍が凝ってたわ。王様の服は絶対もっと派手よ。悪趣味の極みね。とても見てみたい。」

「じゃあ、あたしも行く!」
ペナミが会話に割って入った。
「王都は宝の山よ! 金銀財宝に美味いもの! 全部見逃せないじゃない!」

「お前まで来たら、城の警備が手薄になるぞ」
「平気よ! もう魔王はいないんだから! グラングとオークたちがいるし!」
ペナミはぷうっと頬を膨らませる。
「それに、王都で良い宿を探すのは大変なのよ? あたしの鼻なら、最高の宿を見つけられるわ!」

「ふふ、ペナミには敵わないわね」
エレノアが苦笑し、大柄なドワーフに視線を移す。
「グラング、お城のことはお願いできるかしら?」

「おう! わしはあの騒がしい都には興味ないわい。ここでゆっくり留守番させてもらうさ」
グラングは豪快に笑った。

「決まりね!」
ペナミの目がキラリと光る。
「準備しなきゃ! 城の骨董品はダメでも、銀のフォークくらいならいいでしょ? 路銀稼ぎに何本か持ってくから!」

タタタッ! と駆け出そうとしたペナミが、何かを思いついてピタリと止まった。
「そうだ! 書庫のノーム爺さんのコレクション! あそこにお宝があるかも! 村じゃ価値がなくても、王都なら高く売れるはずよ!」
そう言うが早いか、ペナミは書庫へと駆けていく。

その小さな背中を見送りながら、デミールがやれやれと呟いた。
「……これは、リレイと書庫で一悶着だな。」

こうして、一行の王都への旅は、早くも騒がしい予感と共に幕を開けたのだった。
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