18 / 38
#18 仲間たちの追憶、王都への道
しおりを挟む
ガタガタ、ゴトゴト……。
馬車が街道の小石を踏む、単調な音が続く。
窓から吹き込む風は、春の土の匂いを運んできた。
魔王城の騒動から解放された旅路は、なんだか穏やかだ。
王からの支度金で雇った馬車、見た目は地味だけど乗り心地は悪くない。
荷台にはペナミ厳選の換金用小物、旅道具、謁見用の晴れ着などが積まれていた。
グラングが「無駄な荷物!」とブツブツ言いながら積み込んでくれた。
「こんな旅も久しぶりね」
セリオンが窓枠に肘をつき、流れる景色に目を細める。
風が銀髪を揺らしていた。
「エルフ郷じゃ、馬車のために道なんて作らないわ。木々に頼んで道を空けてもらうだけ。人間の作る道って、本当に感心する」
「僕も馬車の旅は少し落ち着かないな」
レオナートが笑って応じた。
「やっぱり自分の足で地面を踏みしめて、汗と埃にまみれて進む方が、冒険って感じがして好きだよ」
「冒険、ね……」
デミールが、その言葉を鼻で笑った。
(今さら、冒険気分かよ)
脳裏に蘇るのは、血と硝煙の匂いが満ちた魔王城での光景。
「王都に着いたら、もっと面倒なことになるぞ。俺は過去をほじくり返されるだけでウンザリだ」
「『元魔王軍の天才魔法使い』だもの。どこに行っても言われるんだから、もう諦めたら?」
ペナミがニヤニヤしながらからかう。
「大丈夫よ。赦免状もあるし、王様直々のご召喚なんですから」
エレノアが優しくフォローする。
「まあ、好奇の視線には耐えなくっちゃね」
セリオンが楽しそうに付け加えた。
デミールはチッと舌打ちし、窓の外に視線を投げた。
「ふふ、デミールったら有名人ね。エルフ郷に帰ったら、この話でしばらく退屈しないわ。『人間の都で元魔王軍の魔法使いが英雄になった』なんて、最高の土産話よ」
セリオンが目を輝かせる。
「土産話、か……」
レオナートがふと、遠い目をして呟いた。
「そういえば、僕たちのパーティがどうやって始まったのか、ちゃんと話したことなかったな」
「あら?」
セリオンが興味深そうに身を乗り出す。
「勇者レオナートと聖女エレノアの出会い? これは面白そうね!」
「べ、別に大した話じゃないわよ…!」
エレノアが頬を赤らめる。
「私が若くして僧侶の呪文をマスターしたって噂が広まって、レオナートが訪ねてきたの。魔王討伐の仲間を探してるって聞いて…」
「噂以上の実力だった」
レオナートが、懐かしそうに目を細めた。
「エレノアの癒しの魔法は、ソリス神の奇跡そのものだった。僕は確信したよ。この人となら、どんな試練も乗り越えられるって」
「もう、レオナートったら…!」
エレノアが手を振って誤魔化す。
「でも、レオナートだってスゴかったわ。ゴブリン退治や盗賊討伐、いつも先頭で…。その姿見て、私もついていこうって!」
「ふーん、まるで恋物語みたいね」
セリオンがにこやかに茶々を入れる。
「で、私が加わったのはペナミの後よね? ドラゴン退治で困っていたから。魔法の使える弓兵が必要になった時だったかしら?」
「ああ。エルフ郷に協力を求めても、ほとんど無視されて。セリオンだけが『退屈だから』って協力してくれたんだ」
「だって、エルフ郷には変化なんてないもの。同じ木、同じ精霊、同じ儀式…。」
セリオンが肩をすくめる。
「旅なら毎日事件だらけ! 貧乏な飯だって、仲間と食べれば美味しいしね」
「腹が減ってりゃ、どんなパンでもご馳走だ!
仲間と食う飯なら、なおさらな!」
ペナミが胸を張る。
「てか、腹減った! 王都で美味いもん食いたい!」
「ペナミは食い意地が命だな!」
レオナートが笑う。
「あの時はペナミにも助けられたな!」
「僕たちがエルフ郷から追い出されそうになった時、ペナミが盗賊団からエルフの宝を取り返してくれたんだ。それでようやく長老たちも話を聞いてくれて」
「ハーフリングの盗賊らしいエピソードね」
「まあ、エルフは盗賊対策がザルだから、お宝は盗みやすいのよね」
「「あるある」」
ペナミとセリオンが悪びれもなく笑い合う。
「まあ、執念深く追うから誰も盗まないけど…。」
「それ、あるある!」
ペナミがニヤッと笑う。
「グラングもすごかったぞ」
レオナートの思い出話は続く。
「最初は『人間の戦争なんぞ知らん』って顔で斧を磨いてたのに、いざ戦いが始まると、一人で城門をぶっ壊しちまうんだから」
「グラングの斧さばき、嵐みたいだったわ。」
エレノアが懐かしそうに微笑む。
「でも、仲間想いよね。グラングの背中には何度も助けられたわ」
「ふん、あいつの背中は城壁より硬えからな。まあ、短気なのは手に負えねえが」
デミールが少しだけ口元を緩めた。
「そして、パーティが完成したのが、デミールが加わった時だ」
レオナートが、まっすぐにデミールを見る。
「君がいなければ、魔王の魔法障壁は破れなかった。エレノアが蘇らせてくれた君が、僕たちの切り札だったんだ」
「……チッ、改まって言うなよ」
デミールは顔を背け、窓の外に視線を逃す。だが、ガラスに映った彼の口元には、かすかな笑みが滲んでいた。
「俺はただ、恩を返したかっただけだ。エレノアが死体置き場から俺を引きずり出してくれなきゃ、今頃は腐ってた」
「だから、こうやって一緒に王都に行くのよね」
エレノアが優しく言った。
「あの時、みんなで誓ったじゃない。どんな試練も、六人で乗り越えるって」
温かな静寂が、馬車の中を包み込む。
やがて――。
馬車が丘を越えると、視界が一気に開けた。
遠くに見える、巨大な城壁。陽光に輝く白亜の塔。
「わぁ……!」
「世界って、広いんだな……」
魔王に蹂躙された地方とはまるで違う、平和で、華やかな王都の姿に誰もが息を呑んだ。
「すごいな。こんな場所で、僕たちの英雄譚がどう響くのか……楽しみだ」
レオナートが目を輝かせる。
「ふん。面倒な詮索が待ってるだけだと思うがな」
デミールが皮肉を言いつつも、その目はどこか期待に揺れていた。
エレノアが笑顔で皆を見回す。
「どんな試練が待っていても、大丈夫。だって、私たちは――」
「最強のパーティだからな!」
レオナートが力強く言葉を継ぎ、馬車の中に五人の笑い声が響き渡った。
新たな冒険の舞台となる王都の門が、すぐそこに迫っていた。
馬車が街道の小石を踏む、単調な音が続く。
窓から吹き込む風は、春の土の匂いを運んできた。
魔王城の騒動から解放された旅路は、なんだか穏やかだ。
王からの支度金で雇った馬車、見た目は地味だけど乗り心地は悪くない。
荷台にはペナミ厳選の換金用小物、旅道具、謁見用の晴れ着などが積まれていた。
グラングが「無駄な荷物!」とブツブツ言いながら積み込んでくれた。
「こんな旅も久しぶりね」
セリオンが窓枠に肘をつき、流れる景色に目を細める。
風が銀髪を揺らしていた。
「エルフ郷じゃ、馬車のために道なんて作らないわ。木々に頼んで道を空けてもらうだけ。人間の作る道って、本当に感心する」
「僕も馬車の旅は少し落ち着かないな」
レオナートが笑って応じた。
「やっぱり自分の足で地面を踏みしめて、汗と埃にまみれて進む方が、冒険って感じがして好きだよ」
「冒険、ね……」
デミールが、その言葉を鼻で笑った。
(今さら、冒険気分かよ)
脳裏に蘇るのは、血と硝煙の匂いが満ちた魔王城での光景。
「王都に着いたら、もっと面倒なことになるぞ。俺は過去をほじくり返されるだけでウンザリだ」
「『元魔王軍の天才魔法使い』だもの。どこに行っても言われるんだから、もう諦めたら?」
ペナミがニヤニヤしながらからかう。
「大丈夫よ。赦免状もあるし、王様直々のご召喚なんですから」
エレノアが優しくフォローする。
「まあ、好奇の視線には耐えなくっちゃね」
セリオンが楽しそうに付け加えた。
デミールはチッと舌打ちし、窓の外に視線を投げた。
「ふふ、デミールったら有名人ね。エルフ郷に帰ったら、この話でしばらく退屈しないわ。『人間の都で元魔王軍の魔法使いが英雄になった』なんて、最高の土産話よ」
セリオンが目を輝かせる。
「土産話、か……」
レオナートがふと、遠い目をして呟いた。
「そういえば、僕たちのパーティがどうやって始まったのか、ちゃんと話したことなかったな」
「あら?」
セリオンが興味深そうに身を乗り出す。
「勇者レオナートと聖女エレノアの出会い? これは面白そうね!」
「べ、別に大した話じゃないわよ…!」
エレノアが頬を赤らめる。
「私が若くして僧侶の呪文をマスターしたって噂が広まって、レオナートが訪ねてきたの。魔王討伐の仲間を探してるって聞いて…」
「噂以上の実力だった」
レオナートが、懐かしそうに目を細めた。
「エレノアの癒しの魔法は、ソリス神の奇跡そのものだった。僕は確信したよ。この人となら、どんな試練も乗り越えられるって」
「もう、レオナートったら…!」
エレノアが手を振って誤魔化す。
「でも、レオナートだってスゴかったわ。ゴブリン退治や盗賊討伐、いつも先頭で…。その姿見て、私もついていこうって!」
「ふーん、まるで恋物語みたいね」
セリオンがにこやかに茶々を入れる。
「で、私が加わったのはペナミの後よね? ドラゴン退治で困っていたから。魔法の使える弓兵が必要になった時だったかしら?」
「ああ。エルフ郷に協力を求めても、ほとんど無視されて。セリオンだけが『退屈だから』って協力してくれたんだ」
「だって、エルフ郷には変化なんてないもの。同じ木、同じ精霊、同じ儀式…。」
セリオンが肩をすくめる。
「旅なら毎日事件だらけ! 貧乏な飯だって、仲間と食べれば美味しいしね」
「腹が減ってりゃ、どんなパンでもご馳走だ!
仲間と食う飯なら、なおさらな!」
ペナミが胸を張る。
「てか、腹減った! 王都で美味いもん食いたい!」
「ペナミは食い意地が命だな!」
レオナートが笑う。
「あの時はペナミにも助けられたな!」
「僕たちがエルフ郷から追い出されそうになった時、ペナミが盗賊団からエルフの宝を取り返してくれたんだ。それでようやく長老たちも話を聞いてくれて」
「ハーフリングの盗賊らしいエピソードね」
「まあ、エルフは盗賊対策がザルだから、お宝は盗みやすいのよね」
「「あるある」」
ペナミとセリオンが悪びれもなく笑い合う。
「まあ、執念深く追うから誰も盗まないけど…。」
「それ、あるある!」
ペナミがニヤッと笑う。
「グラングもすごかったぞ」
レオナートの思い出話は続く。
「最初は『人間の戦争なんぞ知らん』って顔で斧を磨いてたのに、いざ戦いが始まると、一人で城門をぶっ壊しちまうんだから」
「グラングの斧さばき、嵐みたいだったわ。」
エレノアが懐かしそうに微笑む。
「でも、仲間想いよね。グラングの背中には何度も助けられたわ」
「ふん、あいつの背中は城壁より硬えからな。まあ、短気なのは手に負えねえが」
デミールが少しだけ口元を緩めた。
「そして、パーティが完成したのが、デミールが加わった時だ」
レオナートが、まっすぐにデミールを見る。
「君がいなければ、魔王の魔法障壁は破れなかった。エレノアが蘇らせてくれた君が、僕たちの切り札だったんだ」
「……チッ、改まって言うなよ」
デミールは顔を背け、窓の外に視線を逃す。だが、ガラスに映った彼の口元には、かすかな笑みが滲んでいた。
「俺はただ、恩を返したかっただけだ。エレノアが死体置き場から俺を引きずり出してくれなきゃ、今頃は腐ってた」
「だから、こうやって一緒に王都に行くのよね」
エレノアが優しく言った。
「あの時、みんなで誓ったじゃない。どんな試練も、六人で乗り越えるって」
温かな静寂が、馬車の中を包み込む。
やがて――。
馬車が丘を越えると、視界が一気に開けた。
遠くに見える、巨大な城壁。陽光に輝く白亜の塔。
「わぁ……!」
「世界って、広いんだな……」
魔王に蹂躙された地方とはまるで違う、平和で、華やかな王都の姿に誰もが息を呑んだ。
「すごいな。こんな場所で、僕たちの英雄譚がどう響くのか……楽しみだ」
レオナートが目を輝かせる。
「ふん。面倒な詮索が待ってるだけだと思うがな」
デミールが皮肉を言いつつも、その目はどこか期待に揺れていた。
エレノアが笑顔で皆を見回す。
「どんな試練が待っていても、大丈夫。だって、私たちは――」
「最強のパーティだからな!」
レオナートが力強く言葉を継ぎ、馬車の中に五人の笑い声が響き渡った。
新たな冒険の舞台となる王都の門が、すぐそこに迫っていた。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
本物の聖女なら本気出してみろと言われたので本気出したら国が滅びました(笑
リオール
恋愛
タイトルが完全なネタバレ(苦笑
勢いで書きました。
何でも許せるかた向け。
ギャグテイストで始まりシリアスに終わります。
恋愛の甘さは皆無です。
全7話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる