56 / 56
五十六話「誕生日プレゼント」
しおりを挟む鬼村宛に妙なものが届くのは年がら年中ある事なのだが、バレンタインやクリスマス等の季節イベント時には、人気作家らしくプレゼントやファンレターが送られてくる、ごく普通の光景が編集部で展開される。殊、鬼村悟の誕生日ともなれば、段ボール五箱ほどの山にもなるのだからファンへの感謝はひとしおだ。
しかし、普通なら他者が行う中身のチェックは、どんな時でもやはり鬼村本人がやるのである。
誕生日だからと言って油断は出来ない。ほとんどが無害なものなのだが、鬼村宛の贈り物に因縁ゼロなんて事は天と地がひっくり返っても起きないのだ。
……私の何人か前の担当は、鬼村宛のプレゼントを開封したせいで会社を辞めたらしいとは、風の噂である。
「これだけお菓子があったら今年はもう買わなくて良いですね」
小太りな上に甘党を宣言している鬼村に送られてくる60%はお菓子だ。消えものは助かる。
「無理だよ、アタシもりもり食べちゃうから」
「節制してください」
「出来たら太ってないのよ。デブなめんな」
何故か自慢げに言いながら、鬼村は明らかに手作りのお菓子を容赦なくごみ袋に放り込んでいく。仕方ないとは言え心が痛む光景だ。
既製品のお菓子は机の上に置かれ、自分で持って帰る分と編集部のみんなでつまむ分に分けられた。今年は変な物が少ないんじゃないだろうか。確認済のプレゼントが積み上がるのを見ながら私は嬉しくなる。鬼村には誕生日くらい奇妙奇天烈を抜きにして、平穏無事に過ごしてもらいたいのだ。なんて、本人に言ったら、笑われるだろうけど。
鬼村は随分少なくなった残りのプレゼントから小ぶりの箱を選んで開封し、そして、ふと動きを止めた。
私は身を乗り出し彼女の手元を覗き込む。
小さなパケの中に、剥いだ爪が一枚入っていた。
……いや、気持ち悪い。気持ちは悪いのだが、過去に同じく剥いだ生爪が贈られてきたのを見た事があったので、そこまでの衝撃は受けない。しかも今回は一枚だ。前は十枚入っていたので、最早ちょっと大きな虫を見たくらいの気持ちである。
しかし、このプレゼントの真に恐ろしいのは爪ではなかった。
箱の底に付箋のような紙が一枚同封されていたのだ。
紙にはただ一言、
1/136
「あは」
鬼村は小さな目を細め、大きな歯をむき出しにして心底楽しそうに笑った。
「小洒落たことすンじゃん」
「え、これ、後136枚爪が送られてくるんですか?」ぞっとして鬼村に問うと、鬼村はニヤついたまま紙と爪入りのパケをズボンのポケットにしまいこう言った。
「ほら、毎月買って組み立ててくやつあるじゃん」
うちでお焚き上げするからほっといて良いよと涼しい顔で言う鬼村に、私は今年もやばいものが送られてきてしまった事実にがっくりと肩を落とした。
私が先んじて贈ったバス用品のラベンダーの香りが鬼村から薄く漂ってくれるのが、せめてもの慰めであった。
3
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ホラー作家の鬼村さんと担当編集である一口さんの愉快な掛け合いと、なめらかに日常から非日常へとシフトする恐怖にゾワゾワしました!!
気づいた時には怪異に取り込まれている一口さんにゾッとしますが、エキセントリックでありつつもいつも助けてくれる鬼村さんの頼もしさが読み進めるごとに強まります!!
かと言って、鬼村さんが単に強いだけではなく、多くの因縁やしがらみを抱えて生きている姿が垣間見えると一口さんのように切なくなってしまいました。
これからも、鬼村さんと一口さんの怖いけど楽しいやりとりが続いていくのを読めたら嬉しいです!!
第1話についての考察ですが、サイン会の時のやつ全員亡霊じゃないですか?
まさかの新作供給にうれしくて踊っております!早速読みました!!
恐ろしい状況なのに二人のあまりの温度差に、読んでるカフェで思わず吹き出してしまいました。
幽霊よりも締め切りが怖い。
作家の性ですかね……。
鬼村と一口嬢に幸あれ