アルファが僕を選ばない10の理由

田中 乃那加

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放課後に……3

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 教室を出た辺りでようやく我に返った伊織は、慌てて恭弥におろしてと叫んだ。

「嫌だ」
「いやいやいやっ、重いから! 絶対に重いから!!!」
「重くない。むしろいつでも持ち帰れるサイズ」
「人を水筒かなんかみたいに言わないで!?」

 伊織はどこかうっとりいうか頬を染め嬉しそうな恭弥を少し不気味がる。
 一応曲がりなりにも同性だし、なによりお姫様抱っこなんてして歩きたい対象ではないだろうにと。

「でもおろしたら逃げる」
「逃げないよ! 保護中の野良猫じゃないんだから」
「……このまま保護しなければ」
「恭弥くん大丈夫!?」

 恭弥はいつもクールでそうそう口数の多い方ではない。しかしそこもまたミステリアスだと夢中になる女性は多い。
 しかし今はそんな様子微塵もなかった。

「逃げられたら俺は死ぬかもしれない」
「ええっと……」
「いや普通に死ぬ」

 ――え、もしかして錯乱してるのかな?

 当たり前かもと伊織は独りごちる。
 好意のない相手からずっと好意を寄せられて、しかも理不尽に人前で責められて。
 彼女たちはアルファで容姿端麗、頭脳明晰なモテ男であるという存在でしか見ておらず渦中にいる本人の気持ちなんて考え及ばないのだ。

「あ、あのさ」

 伊織はおずおずと手を伸ばす。
 
 ――恭弥くんが不安な時、悲しい時にして欲しいことってなんだろう。

 自分は始終行動を共にしているわけでも、幼なじみなわけでもない。だったら自分がされて心慰められた事をするしかなかった。

 ――姉ちゃんだったら。

 イジメを受けて心身ともにボロボロになって姉の綾萌に泣いて打ち明けた時、彼女は何も言わず抱きしめてくれた事を思い出す。

 しかし身長の高い彼にお姫様抱っこされてる状態なので、首にしがみつくような形になってしまう。

「!!!」

 驚いたのか固まった恭弥の髪をゆっくり撫でる。
 鼻先をくすぐる香りの甘さに思わず頬がゆるむ。

 ――イケメンっていい匂いするんだなあ。

 すん、と鼻をならして擦り寄ってしまうのは無意識だった。

「おい」

 さすがに動揺したような声でハッとして顔をあげる。

「ごごごっ、ごめん! あの……落ち着いて欲しくて……その……」

 ここまで言ってから気づいた。
 可憐な美少女にならいざ知らず、男にこんな事されたら落ち着くどころの話じゃないだろうに。

 今度はアワアワしながら身体を離そうとしたら、さらにガッチリホールドされた。

「ちょ、まって、力強っ!?」
「落ちるだろうが。大人しくしとけ」
「いやだからおろしてって!」
「嫌だね」

 絶対にだ、と妙な念押しまでして大股で歩き始めた男に身をゆだねるしかないらしい。

「もう」

 ――仕方ないなあ。

 伊織は、なぜだかムキになる恭弥のことが可愛らしく思えてきていた。
 いまだに彼の髪を梳くように撫でてしまうのも、これまた無意識である。

「バブみ…………?」

 ちなみに。
 恭弥のごくりと唾を飲む音とブツブツとつぶやく声には耳には入っていなかった。



 

 
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