アルファが僕を選ばない10の理由

田中 乃那加

文字の大きさ
6 / 52

みんななかよく???

しおりを挟む
「お前……ほんとに大丈夫かよ」

 その日の昼休み。
 幾分かきまり悪い思いをしながら教室のドアを開ければ、心配そうな友人たちの声に出迎えられた。

「あ、うん。少し休んだから」

 本当はこのまま帰ってしまおうと思っていた。しかしあれからすぐ養護教諭が戻ってきて早退するか聞かれた時、思わず戻ると口にしてしまったのだ。

 元来のマジメな性格が災いしてしまったらしい。

「まぁさっきよりはマシな顔色みたいだけど」
「でしょ? なんか軽い熱中症っぽくなっちゃったかなぁって」
「じゃあいいけど。あんま無理すんな」

 ぽん、と頭を優しく叩いたのは誰だっただろう。
 顔をあげそれを確認する前に、ガタンと椅子をひっくり返す音が辺りに響いた。

 その時賑わっていた教室内の空気が一気に凍る。静寂に後に音の方に集まる視線。
 そこはやはりあの陽キャグループたちのいる席であった。

「きょ、恭弥?」

 一人の女子生徒が恐る恐るといった様子で声をあげる。

「……」

 名を呼ばれた対象者、一ノ瀬 恭弥本人も衝動的な行動だったらしい。途方に暮れたような表情を浮かべると舌打ちをして視線を逸らした。

「なんだあれ」
「きっとワザとじゃないよ」

 憤懣やるかたなしといった口調で吐き捨てる友を伊織はなだめる。

 ――あんまりことを荒立てたくないんだけど。

 情けない話だが嫌われる理由がまったく分からない以上、なるべく気にしないように嵐が過ぎ去るのを待つしかないのだ。

 いつ過ぎ去るか分からないけど、と内心呟いた時だった。

「恭弥!?」

 向こうがまた少し騒がしくなり慌てて顔をあげる。
 なんとまっすぐこちらに歩いてくる男が。

 ――い、一ノ瀬 恭弥!?!?

 相変わらず表情険しく足早に。そして伊織の前に高身長が立ち塞がった。

「おい」
「なななっ、なん、ですか……っ」

 まさに蛇に睨まれた蛙。口をパクパクさせながら蚊の鳴くような声で返すしかできない。

「い、いきなりなんだこの野郎!」

 代わりに大声で威嚇したのはドルオタの篠原だったが、彼はそっちは一瞥さえせずまっすぐこちらを見下ろしてきた。

 ――本当になんなんだこの人。

 さっきから気迫のある置物のように微動だにせず立っているイケメンに恐れおののく。

 そしてゆうに一分ほど経っていただろうか。
 この気まずくどうにもならない時間が思いがけない形で終わる。

「あ、伊織ちゃーん!」

 遠慮のない音とともに教室に元気に入ってきた人物に、彼のみならずクラスメイトは騒然とした。

「稀美さん!?」
「やっほ、来ちゃった♡」

 手をヒラヒラさせる美少女の出現。周りの動揺は最高潮に達したのだろう。

『待って、あれ永平時さんじゃない!?』
『嘘でしょ……学校来てるんだ』
『ほらあの一ノ瀬くんの幼なじみでオメガの』
『うわぁオメガってはじめて見たけど綺麗……』

 ここではじめて知ったが稀美のこの評判はなにも不登校だからだけでも、恭弥の幼なじみだからだけではない。

 彼女はオメガだった。

 オメガの希少性はアルファとは比べ物にならない。
 昔であれば孕む性として差別の対象となっていただろうが、さらのその数が激減したことにより神聖視されるようになった。

 しかも去年まで海外にあるオメガ専用の名門学校に通っていたはずなのに、幼なじみの恭弥を追うように公立の高校に入学したという異色の経歴の持ち主。

 当然、家もそれなりに金持ちなのはお約束で。
 極めつけはこの美少女が現れたらもはやクラスメイトはこうやってモブ同然の反応しかできないというわけだ。

「稀美、なんの用だ」
「アンタなんかに用はありませーん。アタシは伊織ちゃんに会いに来たの」
「……は?」

 ――ひぃぃぃっ!!

 ギロリと彼に睨みつけられて内心悲鳴をあげる。

 またとんだ誤解をされた気がした。いやされてない方がおかしいだろう。
 その証拠にさっきから怖かった顔がさらに凶悪になっているのだから。

「ちちちっ、ちがっ、ちがうんですっ!」
「え~? 伊織ちゃんとアタシの仲を否定するの?」
「な、仲って。そんな誤解するような……」
「ひどい……! アタシのこと騙したのね!?」
「いやいやいやいや、僕はそんなつもりじゃなくて」

 今度は稀美に詰め寄られて (実際は彼女の目が笑っていたのでからかわれているのは分かるが)タジタジするものの、さらに恭弥の怒りオーラが増大するもので。

 ――幼なじみに手を出すな、的な制裁される!!!

 いくらヤリチンとはいってもやはり幼なじみに手を出されるのはNGだったりするのかもしれない。
 だとすればもう絶体絶命だとギュッと目をつぶった時だった。

「…………るい」
「へ?」
「ずるい、ズルすぎる」
「???」
「俺を差し置いてお前が先に仲良くなるなんて!!!!」
「!?!?!?!?」

 恭弥が大きな声で発した言葉をポカン顔で聞いたのは伊織だけではないようで。

「な、なに言ってんだ? こいつ」
「さぁ……?」

 友人たちも困惑顔だ。
 ただし稀美だけはニヤニヤと勝ち誇ったような笑顔で腕を組んでいる。

「ごめんね、伊織ちゃん。コイツってば本当は伊織ちゃんと仲良くなりたかったみたい」
「はぇ???」

 ――仲良くなりたかった、とは?

 もう頭の中のクエスチョンマークが止まらない。
 散々人の事睨みつけてきて。しかも体操着だって盗まれた (これは恭弥の仕業とは限らないが)のにも関わらず、今も凶悪犯みたいな顔で凄んでいるのに。

「う……」

 ウソだろ、と言いたかったがそれを口にする前に恭弥がやおらに手を差し出してきた。

 ――ひぇっ、殴られる!?!?!?

「これ!」

 思い切り仰け反った伊織の目の前。

「へ?」

 きちんと折り畳まれた衣服、それは体操着であった。

「えっ、こ、これ僕の……なん、で……?」

 やっぱり盗られて隠されてたのだろうか。するとイジメは勘違いではなく。

 なんて一気に考え及び涙目になる彼に、横から。

「あー、ちょっと良いか」

 と割り込んできた男子生徒がいた。

「今の恭弥こいつに話させたらとんでもない誤解生むからオレから説明させてくれんかな」
 
 それは陽キャグループの一人で多賀たが  めぐる(通称タガメ)である。
 彼はグループ内で一番、恭弥とは親しくしているらしい。少し肩をすくめてみせてから。

「体操着を盗んだのはこいつじゃないんだ」

 事情はこうらしい。
 彼らが誰もいない教室に足を踏み入れると不審な影。
 とっさに捕まえると伊織の体操着を盗み出そうとした生徒だったという。

「当然、オレたちはそいつにキツーいお説教をしたわけだけども」 

 だからあの時、彼らはいなかったと言うが。

「……俺のせいだ」

 恭弥は重々しく言った。

「あのメンヘラ女の仲間が逆恨みしたんだ。本当にごめん」

 そうして頭を下げた彼を伊織は息をつめて見つめていた。

 ――僕の勘違いだったのか。

 イジメられていると思ったのも、彼の不器用な優しさだったのかもしれないと思うと途端に安心と罪悪感が襲ってくる。

 だから小さくうなずいて差し出された体操着を受け取った。

「僕こそごめんね。君のこと誤解してたみたい」
「!」
 
 サッと恭弥の頬に朱が走る。
 そんな反応に、彼は意外と不器用で優しい人なのかもと伊織はのんびり考えた。

「ありがとう。ええっと……一ノ瀬君?」
「恭弥だ」
「え?」
「恭弥でいい」
「え!?」

 なんだかこのやり取りデジャブだと思いつつ、妙に必死な顔の彼に免じて躊躇いつつも。

「恭弥……くん?」

 と呼んでみた。すると。

「お、おう」

 ゴクリ唾を飲み込む音とともに返事がかえってきてなぜだか少し可笑しくなる。

 ――なんだ、案外良い人かもしれない。

 内心胸を撫で下ろしたところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...