アルファが僕を選ばない10の理由

田中 乃那加

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やっぱり恩を仇で返す??

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 その日から学校生活が一変した――ワケでもなく。

「あ゙ぁぁ゙……夏がァ……青春がぁ゙ぁぁ」
「おいおいまた言ってるぞ」

 オタクな友人たちのボヤきに苦笑いしつつ、それでも別ジャンルであれど情報交換は欠かさない (雑談配信で使える)平和な時間。

 もちろんまだ一年であれどテストは近いので憂鬱ではあるのだが。

「高校生活っつーのは三年しかないんだからな!」
「なにを今さら……」
「逆にどーしてお前らはそんなに呑気にしてられるんだッ!?」
「てかアニメオタクなら二次元の方が好きなんじゃないの」
「なんだその偏見。アニメオタだって生身の女が好きだっての。あー、カノジョ欲しいなぁぁぁ」

 アニオタの貴田はここのところいつもこれだ。
 中学生の妹に彼氏が出来たことがそんなに悔しかったのか、なにかとカノジョを欲しがっている。
 最近はギャルがヒロインのアニメもお気に入りらしく、巨乳清楚系よりオタクに優しいギャルが理想らしいのだが。

「オレは別にいらんがなぁ。だって女なんて面倒だろう」

 いつもならこの話題で空気の声優オタクの山口が珍しく口を開いた。
 
 こちらは実のところもっと拗らせていて、若干の女不審気味らしい。

「どうせどんな女もイケメンを見たら股を開くんだ……」
「こっちはだいぶ病んでるなぁ」

 ついには項垂れてしまった彼に伊織は心配そうに言ったが、他の友人たちは案外ドライなもので。

「あー? どうせ推しに、イケメン声優だか俳優との熱愛報道が出たんだろ」
「いつものやつ」

 なんて心配の欠片もしないのだ。でもそれくらい慣れっこなのは伊織以外この三人が中学からの付き合いだからだったりする。

「くそ……女なんて……3次元なんて……ブツブツ……」

  だからこんな様子にも知らん顔だ。

「どうせ一週間くらいで戻る」
「そうならいいけど」

 伊織はドン引き半分、心配半分で眺める。
 
 そんな平和な日常――。

「伊織ちゃぁぁんっ、教科書貸して!」
「!?」

 教室のドアを音を立てて開け放したのとこの大声はほぼ同時だった。

「ま、稀美さん!?」

 色白な手をヒラヒラさせて大股で近づいてくる少女に、伊織はいまだに度肝を抜かれる。

「歴史の教科書忘れちゃった。ね? 貸して!」
「それはいいけど……」

 あれからほぼ不登校だった彼女がこうして授業に出るようになったらしい。それは結構なことなのだが。

「あっ、貴田! この前言うてたアニメ、さっそくネ〇フリでみたよー。めっちゃ鬱展開で大爆笑だったんだけどぉ」
「おう見たか。てか笑うな、どっちかというと泣く方で勧めたんだぞ」

 なんとオタク趣味とも相性が良かったらしい。
 最初こそ女に免疫のないキョドり方をしていた彼らも、気取るどころかガンガン距離を詰めていく明るい稀美に自らの趣味を通じて仲良くなっていったのだ。

「教科書ならオレが貸してやろうか」
「あ、いいの? でも篠原のは落書きだらけだからなー」
「うるせぇ、いいから持ってけよ」
「はーい」
 
 なんだかんだでこうやって上手く馴染んでいたりする、が。

「あれれ? 山口が死んでるぅ」
「言ってやるな、推し声優に熱愛報道が出たんだ」
「ふーん」

 こちらは心配することなくあっけらかんに納得して、そんなことよりと伊織の方に向き直る。

「伊織ちゃん♡」
「え……って、ちょっと稀美さん!?」

 いきなり彼女が頬に唇寄せて囁く。



 あっちとは? と振り返ると。

「!?!?」

 これまた鬼の形相で睨みつけてくる目に、伊織は飛び上がって怯えた。

「ひぇっ」
「キャハッ☆ おもしろーい」

 笑っている場合じゃないだろうとツッコミ入れる余裕すらない。

「やややっ、やばいよ! 恭弥くんが怒ってる!!!」
「めっちゃキレてて草」
「草生やしてる場合じゃないってば!!」

 やはり俺の可愛い幼なじみに手を出すなっていう牽制だと思うと恐怖と共に、微かに胸が痛んだ気がした。

 ――あれ?

 しかしこの気持ちの意味を考えるヒマさえなく。

「……おい」
「ひぇぇっ!? きょ、恭弥くん」

 気付けば長身を縮めるように距離を詰められ見つめられていた。

  ――心臓むねが痛い。

 さっきのとはまた違う痛み。早鐘のように鳴る鼓動が、目の前の彼に聞かれてやしないかだけが気にかかる。

 ――やっぱり顔いいな……じゃなくて!

 ぶっちゃければ好みのタイプだった。少し苛立ったように上がる眉によくよく見れば少し灰色がかった瞳はカラコンだったりするのだろうか、とか。

 形のよい鼻筋から薄い唇まで、すべてが伊織の頬を染めるのは充分なほどの威力で。

「ごっ、ごめんなさい! ま、稀美さんとはその……そういうんじゃなくて!」
「ノート貸せ」
「友達っていうか――って、え?」

 ノート貸せ、という言葉が時間差で耳に飛び込んできてようやく脳内でくるくると周り始める。

「ノート……?」
「そうだ。さっきの数学の授業、寝てたから見せろ」
「え……あ……ぇ??」

 たしかにさっきは数学だったが、自分のようなお世辞にも優等生とは言い難い自分のモノなんて必要だろうか。
 というか取り巻きにでも借りたらいいのにと伊織は思ったが、口にすることは出来なかった。

「いいから貸せ。稀美こいつには良くて俺にはイヤなのか」
「そ、そんなこと!」

 すると後ろで。

『つーか稀美ちゃんに貸すのはオレだぞ!!!!』

 と篠原の声がするが完全スルーらしい。ジッとこちらに降り注ぐ視線。

「伊織」
「…………僕ので良ければ」

 負けた。
 まるでカツアゲにでもあったような敗北感でノートを差し出す。

「ん、ありがとな」

 強引なわりに礼はちゃんというのかと驚きつつ、小さく上がった彼の口角に一瞬だけ見蕩れる。

 ――やっぱりなに考えてるかわかんないや。

 さっさと離れていく後ろ姿に内心つぶやいた。

 




 ちなみにノートが返ってきたのが放課後であった。

「なにこれ」
「なんだろうな」

 伊織を含む彼らが首を傾げる。

「犬? 猫?」
「イタチかタヌキにも見えるけどなぁ」
「いやハムスターだろ」

 教科書には数ページにわたって下手くそなイラストと『らびゅぅ(?)』というこれまた下手くそ過ぎて判別さえ危うい文字が書き入れられていた。

「伊織、これって……」
「僕じゃないからね」
「だよな」

 するとやはり貸した相手、つまり恭弥の落書きであるのだが。

「借りたノートに落書きするとかエグいってレベルじゃねぇぞ」

 とさすがにドン引き顔のオタクたちであった。


 
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