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業務記録から2
すざましい爆音と共に、土煙があがる。
同時にあちらこちらから悲鳴と怒号、パニックにおちいった馬の嘶や大量の物が崩れる音など。
その場が混乱と騒然さに包まれたのは一瞬のことで。
「っ……!?」
「な、なんだアレは!!!」
「魔獣だァァァッ!」
「逃げろ! 退避しろっ!!」
抱えられ運ばれていたメルトには事態が飲み込めなかった。というより、そんなことより先に宙に放り出されたこの身。
「ちょ、痛ぇ!?」
何とかとっさに受身をとったが、したたかに地面に打たれた。
それもこれも馬鹿みたいに動きづらいドレスのせい。
「なんだよ。クソッタレめ」
悪態をつきながらととりあえず周りを見渡そうと顔を上げた時、目に映ったのは。
「…………へ?」
視界いっぱいに広がった光景。いやそのモノに唖然とした。
うねうねと縦横無尽に動く赤黒い肉色の触手。
一見すれば巨大かつ大輪の花のようだが、放つのは顔をしかめるほどの腐臭。中央に細かく無数の棘が見え隠れする裂け目にからそれは発せられているようだ。
ヌメヌメと糸を引く粘液を垂れ流しながら、その『巨大なる異形』はこちらににじり寄ってくるのである。
「な、なん……えぇっ!?」
一体なにが起こったというのだ。突然の爆音と阿鼻叫喚の後、いきなり目の前に迫ってくる脅威。
しかもこんな生き物、魔物であっても見たことがない。
――いやいやいやいや。なんなの、なんの状況!?
しかもその魔物、あきらかにこちらをロックオンしている。
そして自分を放り出した兵士たちや街の人々は、今もアワアワと逃げ惑っている。
食われそうな青年を完全シカトして。
「い、いや、ちょっ、な、なに! 」
そこでようやく逃げようと地面を這いつくばるがもう遅い。
両手首も縛られて前に進むことすらままならず。
「うわッ!?」
触手が数本、素早く絡み付いてメルトの下半身を捕らえた。
「!」
じわりと熱い液体が服にしみる。むき出しになった腿に、膝裏にグロテスクな触手が絡みついていく。
「くそっ、離しやがれ! 気色悪ぃ」
ぬるりぬるりと脚の付け根から尻たぶまで、満遍なく粘液をぬりつけるかのような動きに身震いが止まらない。
「ひぁっ!?」
引き剥がそうと躍起になるメルトが高い悲鳴をあげる。
「な、なんつーとこを……」
なんと触手はついに彼の下腹部、つまり性器にまで触れてきたのだ。服越しとはいえ、ぬめり濡れた中でまるで愛撫するかのような動き。
驚愕や恐怖から、徐々に別の意味で息が上がってくる。
「やめっ、ちく、しょ……ぅ……っ、やめろっ、はなせ……ぇ」
腰がひけて力が抜けて。
なのに誰にも助けられない。苛立ちと絶望感、そして羞恥心をないまぜにしながら爪で地面を傷つけた時だった。
「――いたいけな乙女にイタズラとは。実にけしらかん」
ふいに耳に入った低い声。
と、共に突然身体が軽くなる。
「!」
そしてざらついた悲鳴というか雄叫びが辺りに響く。
「ふん、魔獣といえども身をぶった切られるのは激痛か」
ニヒルな笑みを含んだその声の主は、そう呟くと颯爽と駆け出し飛び上がる。
「食らえッ、黄金の一太刀ッ――!!!」
光のような速さをもって放たれた一撃。それは瞬きをするヒマさえ与えなかった。
「!?」
のたうち凶暴凶悪な触手のバケモノはその直後、幾重にも引き裂かれ汚泥のようにグズグズに溶けたのだ。
やはり強烈な果実の腐臭を放つ残骸。
それを踏まぬよう歩み寄る者。
「大丈夫か」
目の前に差し出された手にようやくハッと我に返るメルト。
「!」
「ハッハッハ、礼にはおよばない」
さわやかに笑っているのは、一人の男。年頃は彼と変わらないくらいか。
赤みの強い髪に、程よく褐色にやけた肌。琥珀色の瞳は光をうけてキラキラと輝いている。
「ええっと」
助けてもらった、らしい。らしいというのは彼自身、なにもかもが混乱していたからだ。
しかしさっきまで自分を戒め辱めていたグロテスクな触手は干からびた残骸になっており、本体と思しき魔獣もあの状態だ。
つまり颯爽と現れたこの青年が倒したというわけだ。
「あ、ありが――」
とりあえず大人として礼は言わねばと口を開きかけた時だった。
「貴女は俺の運命の人だ、俺には分かる」
「え゙っ?」
やおらにひざまずいた青年は、うやうやしくメルトの手をとった。そして。
「結婚してくれ、お嬢さん」
そしてこともあろうに手の甲に軽く口付けたのだ。
「!?!?!?!?」
――なにやってんだコイツぅぅぅっ!!!
絶句しドン引き。
人間は本当に驚くとなかなか言葉を発する事が出来ぬらしい。
ワナワナ震える彼にお構いなく、青年は嬉々として話し続ける。
「一目見た時からビビっときたんだ。アンタ、いや貴女は俺の女神であり天使。そして運命のスイートハニー…………」
「バカ抜かせッ、このアホンダラ!!!」
「?」
ようやく発した言葉は罵声で。
青年のキョトン顔と目が合った。
「どうした。錯乱の魔法でもかけられたのか」
「ちゃうわい、オレは男だ!」
「え?」
『ヤレヤレ、何言っちゃってんだこの子猫ちゃんは (メルト視点)』みたいな表情を浮かべているこの察しの悪い男に苛立ちが止まらない。
だからいまだ己の手をとっている相手の手首を強引に掴んで。
「だ・か・らッ! オレは男だっつーの!!!」
と平たい胸に押し付け叫んだ。
「いぃっ!?」
大きく見開かれた目。
鳩が豆鉄砲食らうとはこういうことかとどこか冷静になる。
「まさか……おまっ、君……えぇ……?」
半ば信じられなかったのか、なんと直接衣服をかき分けて触ってこようとしてきたのだ。
「お、おい!」
「いやまさか。ううむ、貧乳? いやいやいや……うーん」
「ちょっ、なに触って、やめっ、つまむなっ、バカ!! ひ、ぃ、痛っ……」
爪の先で乳首を引っかかれたりつままれたり。思わず妙な声が漏れる。
しかし男の方は何やら考え込んだような顔で、相変わらずはじめて出会った男の胸を揉み続けている。そんな異様な光景。
「いっ、いい加減に!」
「なるほど」
男の手が止まった。
やっと分かったか、と睨みつければ。
「貧乳は感度が良いって言うのは本当なんだな」
「…………は?」
――ナニイッテンダ、コイツ。
頭の中が???で埋め尽くされた次の瞬間。
「!」
唇に柔らかな感触で我に返る。
大写しになった顔。それも瞬きする前に離れていった。
「キス、しちまった」
アンタがあんまりにも可愛いから、とモゴモゴ言いながら薄く赤面する男を見てようやく自分が口付けされたのだと知る。
「な、な、な、な……」
――この野郎!
反射的だった。
「ふざけんなッ、このド変態!」
手には縄が掛けられている。だから渾身の力を脚に込めた。
「げふぅっ!?!?」
男の腹にメルトの足がめり込み、くぐもった呻き声が上がる。
なんとも見事な蹴りが入ったのだ。
するとなぜか、オォーッと周囲から歓声があがった。
同時にあちらこちらから悲鳴と怒号、パニックにおちいった馬の嘶や大量の物が崩れる音など。
その場が混乱と騒然さに包まれたのは一瞬のことで。
「っ……!?」
「な、なんだアレは!!!」
「魔獣だァァァッ!」
「逃げろ! 退避しろっ!!」
抱えられ運ばれていたメルトには事態が飲み込めなかった。というより、そんなことより先に宙に放り出されたこの身。
「ちょ、痛ぇ!?」
何とかとっさに受身をとったが、したたかに地面に打たれた。
それもこれも馬鹿みたいに動きづらいドレスのせい。
「なんだよ。クソッタレめ」
悪態をつきながらととりあえず周りを見渡そうと顔を上げた時、目に映ったのは。
「…………へ?」
視界いっぱいに広がった光景。いやそのモノに唖然とした。
うねうねと縦横無尽に動く赤黒い肉色の触手。
一見すれば巨大かつ大輪の花のようだが、放つのは顔をしかめるほどの腐臭。中央に細かく無数の棘が見え隠れする裂け目にからそれは発せられているようだ。
ヌメヌメと糸を引く粘液を垂れ流しながら、その『巨大なる異形』はこちらににじり寄ってくるのである。
「な、なん……えぇっ!?」
一体なにが起こったというのだ。突然の爆音と阿鼻叫喚の後、いきなり目の前に迫ってくる脅威。
しかもこんな生き物、魔物であっても見たことがない。
――いやいやいやいや。なんなの、なんの状況!?
しかもその魔物、あきらかにこちらをロックオンしている。
そして自分を放り出した兵士たちや街の人々は、今もアワアワと逃げ惑っている。
食われそうな青年を完全シカトして。
「い、いや、ちょっ、な、なに! 」
そこでようやく逃げようと地面を這いつくばるがもう遅い。
両手首も縛られて前に進むことすらままならず。
「うわッ!?」
触手が数本、素早く絡み付いてメルトの下半身を捕らえた。
「!」
じわりと熱い液体が服にしみる。むき出しになった腿に、膝裏にグロテスクな触手が絡みついていく。
「くそっ、離しやがれ! 気色悪ぃ」
ぬるりぬるりと脚の付け根から尻たぶまで、満遍なく粘液をぬりつけるかのような動きに身震いが止まらない。
「ひぁっ!?」
引き剥がそうと躍起になるメルトが高い悲鳴をあげる。
「な、なんつーとこを……」
なんと触手はついに彼の下腹部、つまり性器にまで触れてきたのだ。服越しとはいえ、ぬめり濡れた中でまるで愛撫するかのような動き。
驚愕や恐怖から、徐々に別の意味で息が上がってくる。
「やめっ、ちく、しょ……ぅ……っ、やめろっ、はなせ……ぇ」
腰がひけて力が抜けて。
なのに誰にも助けられない。苛立ちと絶望感、そして羞恥心をないまぜにしながら爪で地面を傷つけた時だった。
「――いたいけな乙女にイタズラとは。実にけしらかん」
ふいに耳に入った低い声。
と、共に突然身体が軽くなる。
「!」
そしてざらついた悲鳴というか雄叫びが辺りに響く。
「ふん、魔獣といえども身をぶった切られるのは激痛か」
ニヒルな笑みを含んだその声の主は、そう呟くと颯爽と駆け出し飛び上がる。
「食らえッ、黄金の一太刀ッ――!!!」
光のような速さをもって放たれた一撃。それは瞬きをするヒマさえ与えなかった。
「!?」
のたうち凶暴凶悪な触手のバケモノはその直後、幾重にも引き裂かれ汚泥のようにグズグズに溶けたのだ。
やはり強烈な果実の腐臭を放つ残骸。
それを踏まぬよう歩み寄る者。
「大丈夫か」
目の前に差し出された手にようやくハッと我に返るメルト。
「!」
「ハッハッハ、礼にはおよばない」
さわやかに笑っているのは、一人の男。年頃は彼と変わらないくらいか。
赤みの強い髪に、程よく褐色にやけた肌。琥珀色の瞳は光をうけてキラキラと輝いている。
「ええっと」
助けてもらった、らしい。らしいというのは彼自身、なにもかもが混乱していたからだ。
しかしさっきまで自分を戒め辱めていたグロテスクな触手は干からびた残骸になっており、本体と思しき魔獣もあの状態だ。
つまり颯爽と現れたこの青年が倒したというわけだ。
「あ、ありが――」
とりあえず大人として礼は言わねばと口を開きかけた時だった。
「貴女は俺の運命の人だ、俺には分かる」
「え゙っ?」
やおらにひざまずいた青年は、うやうやしくメルトの手をとった。そして。
「結婚してくれ、お嬢さん」
そしてこともあろうに手の甲に軽く口付けたのだ。
「!?!?!?!?」
――なにやってんだコイツぅぅぅっ!!!
絶句しドン引き。
人間は本当に驚くとなかなか言葉を発する事が出来ぬらしい。
ワナワナ震える彼にお構いなく、青年は嬉々として話し続ける。
「一目見た時からビビっときたんだ。アンタ、いや貴女は俺の女神であり天使。そして運命のスイートハニー…………」
「バカ抜かせッ、このアホンダラ!!!」
「?」
ようやく発した言葉は罵声で。
青年のキョトン顔と目が合った。
「どうした。錯乱の魔法でもかけられたのか」
「ちゃうわい、オレは男だ!」
「え?」
『ヤレヤレ、何言っちゃってんだこの子猫ちゃんは (メルト視点)』みたいな表情を浮かべているこの察しの悪い男に苛立ちが止まらない。
だからいまだ己の手をとっている相手の手首を強引に掴んで。
「だ・か・らッ! オレは男だっつーの!!!」
と平たい胸に押し付け叫んだ。
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鳩が豆鉄砲食らうとはこういうことかとどこか冷静になる。
「まさか……おまっ、君……えぇ……?」
半ば信じられなかったのか、なんと直接衣服をかき分けて触ってこようとしてきたのだ。
「お、おい!」
「いやまさか。ううむ、貧乳? いやいやいや……うーん」
「ちょっ、なに触って、やめっ、つまむなっ、バカ!! ひ、ぃ、痛っ……」
爪の先で乳首を引っかかれたりつままれたり。思わず妙な声が漏れる。
しかし男の方は何やら考え込んだような顔で、相変わらずはじめて出会った男の胸を揉み続けている。そんな異様な光景。
「いっ、いい加減に!」
「なるほど」
男の手が止まった。
やっと分かったか、と睨みつければ。
「貧乳は感度が良いって言うのは本当なんだな」
「…………は?」
――ナニイッテンダ、コイツ。
頭の中が???で埋め尽くされた次の瞬間。
「!」
唇に柔らかな感触で我に返る。
大写しになった顔。それも瞬きする前に離れていった。
「キス、しちまった」
アンタがあんまりにも可愛いから、とモゴモゴ言いながら薄く赤面する男を見てようやく自分が口付けされたのだと知る。
「な、な、な、な……」
――この野郎!
反射的だった。
「ふざけんなッ、このド変態!」
手には縄が掛けられている。だから渾身の力を脚に込めた。
「げふぅっ!?!?」
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