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奴隷商人と針子乙女1
「そんなに怒るなよ」
「……」
拝むように手こそ合わせてはいるがヘラヘラした顔の男を、メルトはじろりと睨めつける。
「っつーか、助けてやったじゃん」
「それについて礼は言ったが?」
恩着せがましいと吐き捨てれば、男は困ったように頭をかいた。
「そりゃそうだけどさぁ」
「お前、自分が何したかもう記憶にないのかよ。鳥頭のバカめ、しね」
「うっわ、めっちゃ怒ってら」
不機嫌極まりないメルトに対し、男は飄々としたものである。
「だって仕方ねえだろ。アンタがそんな格好してんだから。そりゃあ女だと思うってそれに――」
「うるさいっ、好きでしてたんじゃないからな!」
白いドレス姿。ベールこそしてなかったが、元々肩まで伸ばした黒髪に加えて色白な肌に整った女顔。
たしかにうら若き乙女と間違っても不思議じゃないのかもしれない。
「ふうん? ま、似合ってたから別にいいと思うぜ」
「……とことんバカにしやがって」
「だからバカにしてないって」
悪意などは微塵も感じられない言葉だからこそ尚更腹が立つ。
「あ、そういえば腹減ったな」
「は?」
脈絡のない言葉に一瞬足を止める。
……あの巨大魔獣を倒した後、その混乱に乗じて二人は路地裏に逃げた。
というよりこれ幸いと身を隠そうとしたメルトの後を、この男がついてきたのだ。
「ちょっと付き合ってくれよ」
食事にでも誘おうとでもいうのか。
しかし彼にそんな事をしているヒマなどない。なんせ追われる身なのだから。
「金ならないぞ」
今や無一文。これからどうやって逃げればいいのだろう。
――いっその事。
諦めてしまえば楽になるのかもしれない。
貴族の愛玩、というか性奴隷ともいうべきか。少なくとも飽きられるまで食うには困らないのかもしれない。
もちろん己のプライドを捨て去ることが出来れば、の話だが。
「金? ああ、俺も無いぜ」
これからの事を考えて表情を暗くするメルトとは対照的に、男はあっけらかんと笑う。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はルークス」
「……」
「アンタの名前は?」
「……」
「まあいいや、俺は冒険者やっててさ」
たしかに見ればそれなりの装備をつけているように見える。
ちなみに冒険者というのは、この世界においては自由業のひとつ。
「俺の専門は主に魔害獣退治でさ」
そこで男、もといルークスは腰に下げた剣を指さして。
「こいつ一本で生きてるんだ」
とはにかむ、が。
「へぇ」
正直、メルトはどうでもよかった。
頭の中は考え事でいっぱいだったのだ。
もしこのまま逃亡するなら、早いところ街を出なければ。その前に、この格好をどうにかする方法を思案せねばならない。
「ハァ……」
「心配すんなって」
思わずため息を漏らすとすかさず明るい声が返ってきた。
「まずは腹ごしらえだな」
「あ? どういう――って、おい!」
突然腕を引かれる。慌てて声をあげるも。
「大丈夫だ。俺の行きつけだからな」
「ちょっ……!?」
「大丈夫大丈夫」
「なにがだよ!」
大丈夫としか言わず、どんどん足早に歩き出す彼にメルトは大人しくついていくことしか出来なかった。
いざとなったらぶん殴って金目のものを強奪してでも逃げ出そう、と心に誓いながら。
※※※
「いらっしゃい。って、なんだルークスか」
連れてこられたのはお世辞にも小綺麗とは言い難い場所。
狭い店内にはごちゃごちゃとなにやら物が溢れ、奥にはカウンター。そこに一人の痩せた少女が座っていた。
褐色の肌に銀髪からのぞいた尖った耳、ダークエルフのようだ。
「お、今日はアンナが店番なんだな」
ルークスが元気に挨拶しつつ入ると、少女が鼻を鳴らす。
「婆ちゃんならいないけど」
そしてようやくメルトの存在に気づいたのか。
「ふん、珍しく女連れ? まあブスじゃないけど、男を見る目はないね」
「えっ」
視線で指されて彼は眉をひそめた。商売人としては愛想は最悪だ。
それに自分は男で、と口を開く前に。
「ひでぇなあ、俺にだって男としての魅力の一つや二つあるっての」
とヘラヘラ返すルークスに一番腹が立った。
「あのさぁ」
だから彼につかまれた手を払い除けながら反論する。
「言わせてもらうけどオレは男だし、たとえ女だとしてもこんな奴は趣味じゃない」
「ふーん」
少女は口の端を小さくつり上げる。
「女装趣味、はあるみたいだけどね」
「っ!」
その言い草にカッと頭に血がのぼりそうになる。
しかし持ち前の理性を総動員させて、なんとか耐えた。
「誤解させたなら申し訳ないけど。オレの名はメルト・セルウス。今は……まあ、色んなトラブルでこんな状態だが。この通りれっきとした男で、コイツとはほとんど初対面なんだ。もちろんこれも不幸な成り行きで、好き好んでこんなモノ着てるワケじゃないさ」
女性には、特にいつも扱う商品でないならなおさら。できる限り紳士的に振る舞うのが彼のポリシーである。
するとアンナと呼ばれた少女はジッ、とこちらを見つめてきた。そして上から下まで眺めてから。
「あ、そう」
立ち上がる。
「じゃあこっち来て」
ぶっきらぼうに視線で店の奥をさす。
「え?」
「ルークスはそこで座ってて。覗くんじゃないよ」
こちらの返事も聞かずスタスタと歩いていく。
どういうことか理解出来ず彼の方を見るが、軽く肩をすくめて。
「俺はまず腹ごしらえしたいんだけどなぁ」
とぼやくだけである。
「ええっと……」
薄暗い奥へと行ってしまった小さな背中に戸惑うも、とりあえずついていくことにした。
この愛想の無さ、この手の部類の者に問いかけてもロクな返答が得られないだろう。
ルークスはというと腹をさすりながら空腹をぼやいている。
――仕方ない。
とりあえず成り行きにまかせることにして、目の端にとらえた何やら部品 (?) のような棒状の金属を手の中にしのばせて足を踏み出した。
何も無いよりは多少マシだろうと思いながら。
「……」
拝むように手こそ合わせてはいるがヘラヘラした顔の男を、メルトはじろりと睨めつける。
「っつーか、助けてやったじゃん」
「それについて礼は言ったが?」
恩着せがましいと吐き捨てれば、男は困ったように頭をかいた。
「そりゃそうだけどさぁ」
「お前、自分が何したかもう記憶にないのかよ。鳥頭のバカめ、しね」
「うっわ、めっちゃ怒ってら」
不機嫌極まりないメルトに対し、男は飄々としたものである。
「だって仕方ねえだろ。アンタがそんな格好してんだから。そりゃあ女だと思うってそれに――」
「うるさいっ、好きでしてたんじゃないからな!」
白いドレス姿。ベールこそしてなかったが、元々肩まで伸ばした黒髪に加えて色白な肌に整った女顔。
たしかにうら若き乙女と間違っても不思議じゃないのかもしれない。
「ふうん? ま、似合ってたから別にいいと思うぜ」
「……とことんバカにしやがって」
「だからバカにしてないって」
悪意などは微塵も感じられない言葉だからこそ尚更腹が立つ。
「あ、そういえば腹減ったな」
「は?」
脈絡のない言葉に一瞬足を止める。
……あの巨大魔獣を倒した後、その混乱に乗じて二人は路地裏に逃げた。
というよりこれ幸いと身を隠そうとしたメルトの後を、この男がついてきたのだ。
「ちょっと付き合ってくれよ」
食事にでも誘おうとでもいうのか。
しかし彼にそんな事をしているヒマなどない。なんせ追われる身なのだから。
「金ならないぞ」
今や無一文。これからどうやって逃げればいいのだろう。
――いっその事。
諦めてしまえば楽になるのかもしれない。
貴族の愛玩、というか性奴隷ともいうべきか。少なくとも飽きられるまで食うには困らないのかもしれない。
もちろん己のプライドを捨て去ることが出来れば、の話だが。
「金? ああ、俺も無いぜ」
これからの事を考えて表情を暗くするメルトとは対照的に、男はあっけらかんと笑う。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はルークス」
「……」
「アンタの名前は?」
「……」
「まあいいや、俺は冒険者やっててさ」
たしかに見ればそれなりの装備をつけているように見える。
ちなみに冒険者というのは、この世界においては自由業のひとつ。
「俺の専門は主に魔害獣退治でさ」
そこで男、もといルークスは腰に下げた剣を指さして。
「こいつ一本で生きてるんだ」
とはにかむ、が。
「へぇ」
正直、メルトはどうでもよかった。
頭の中は考え事でいっぱいだったのだ。
もしこのまま逃亡するなら、早いところ街を出なければ。その前に、この格好をどうにかする方法を思案せねばならない。
「ハァ……」
「心配すんなって」
思わずため息を漏らすとすかさず明るい声が返ってきた。
「まずは腹ごしらえだな」
「あ? どういう――って、おい!」
突然腕を引かれる。慌てて声をあげるも。
「大丈夫だ。俺の行きつけだからな」
「ちょっ……!?」
「大丈夫大丈夫」
「なにがだよ!」
大丈夫としか言わず、どんどん足早に歩き出す彼にメルトは大人しくついていくことしか出来なかった。
いざとなったらぶん殴って金目のものを強奪してでも逃げ出そう、と心に誓いながら。
※※※
「いらっしゃい。って、なんだルークスか」
連れてこられたのはお世辞にも小綺麗とは言い難い場所。
狭い店内にはごちゃごちゃとなにやら物が溢れ、奥にはカウンター。そこに一人の痩せた少女が座っていた。
褐色の肌に銀髪からのぞいた尖った耳、ダークエルフのようだ。
「お、今日はアンナが店番なんだな」
ルークスが元気に挨拶しつつ入ると、少女が鼻を鳴らす。
「婆ちゃんならいないけど」
そしてようやくメルトの存在に気づいたのか。
「ふん、珍しく女連れ? まあブスじゃないけど、男を見る目はないね」
「えっ」
視線で指されて彼は眉をひそめた。商売人としては愛想は最悪だ。
それに自分は男で、と口を開く前に。
「ひでぇなあ、俺にだって男としての魅力の一つや二つあるっての」
とヘラヘラ返すルークスに一番腹が立った。
「あのさぁ」
だから彼につかまれた手を払い除けながら反論する。
「言わせてもらうけどオレは男だし、たとえ女だとしてもこんな奴は趣味じゃない」
「ふーん」
少女は口の端を小さくつり上げる。
「女装趣味、はあるみたいだけどね」
「っ!」
その言い草にカッと頭に血がのぼりそうになる。
しかし持ち前の理性を総動員させて、なんとか耐えた。
「誤解させたなら申し訳ないけど。オレの名はメルト・セルウス。今は……まあ、色んなトラブルでこんな状態だが。この通りれっきとした男で、コイツとはほとんど初対面なんだ。もちろんこれも不幸な成り行きで、好き好んでこんなモノ着てるワケじゃないさ」
女性には、特にいつも扱う商品でないならなおさら。できる限り紳士的に振る舞うのが彼のポリシーである。
するとアンナと呼ばれた少女はジッ、とこちらを見つめてきた。そして上から下まで眺めてから。
「あ、そう」
立ち上がる。
「じゃあこっち来て」
ぶっきらぼうに視線で店の奥をさす。
「え?」
「ルークスはそこで座ってて。覗くんじゃないよ」
こちらの返事も聞かずスタスタと歩いていく。
どういうことか理解出来ず彼の方を見るが、軽く肩をすくめて。
「俺はまず腹ごしらえしたいんだけどなぁ」
とぼやくだけである。
「ええっと……」
薄暗い奥へと行ってしまった小さな背中に戸惑うも、とりあえずついていくことにした。
この愛想の無さ、この手の部類の者に問いかけてもロクな返答が得られないだろう。
ルークスはというと腹をさすりながら空腹をぼやいている。
――仕方ない。
とりあえず成り行きにまかせることにして、目の端にとらえた何やら部品 (?) のような棒状の金属を手の中にしのばせて足を踏み出した。
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