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剣は消耗品じゃありません
――で、なにを言われるかと思いきや。
安堵と拍子抜けとで大きくため息をつく。
「なあに、心配すんなって!」
「あ?」
隣を歩くルークスの見当違いの言葉に眉間にシワが刻まれた。
「俺がいればそんな怖いもんじゃねえぜ、魔獣狩りもな」
「あ?」
何言ってんだお前、と返すのもめんどくさい。それくらいメルトはこの男に興味が無かった。
そんなことより先行きだ。
先程のエルの言葉を思い出す。
『とある魔獣から採取できる材料を大量に持ってくること』
つまりお使いをしろということだ。そしてその条件として。
「んで、これからどこにいけばいいんだ。ルークス」
「ようやく俺の名前を覚えてくれたな」
嬉しそうに笑う彼にすらうんざりする。早いところこのお使いとやらをこなして、約束のはした金を受け取り国を出たいのだ。
「それにしても安い報酬だ」
エルから提示された金額はどう考えても安価過ぎた。
「オレは詳しくないけど、少なくとも冒険者協会を通しての依頼ならこの数倍はとれるんじゃないのか」
「まあ、そうだろうな」
そう指摘してもルークスは軽く肩をすくめただけ。
ちなみに冒険者ギルドというのは、いわゆるこの世界における組合組織のこと。
同じ職業、技術者、志を同じくする者たちで運営される。
その目的は情報共有と仕事の斡旋だ。
冒険者ギルドでいえば、街や国ごとに登録を行うことで様々なランクの依頼を請け負うことが出来る。
「わざわざあの婆さんの依頼を、こんな小遣い程度の金で引き受けるのは慈善事業なのかい?」
「あはは、ハッキリ言うなあ」
嫌味を込めたつもりが小気味よく笑われた。
それだけで鼻白むのに、彼はふいに立ち止まり。
「エル婆さんも別にお前の事を悪く思ってるわけじゃねえからな。安心しろよ」
と頭を軽くポンポンと撫でた。
「っ、おい」
馴れ馴れしくするなと睨むが分かっているのかいないのか、大きくうなずく。
「奴隷商人っていうのも、お前はちゃんとプライド持ってやってたんだろ。俺はよく知らんが、人の職業を貶す趣味は俺にもエル婆さんにもないよ。少なくとも彼女はそういう人だ」
「……」
いやアレは普通に脅してただろ。そう言うのも面倒になって顔をしかめるだけにした。
「とはいえメルト、お前は魔獣狩りは初めてだよな。まずは俺の剣さばきを見せてやるよ」
「剣って、それか?」
腰にさしてあるそれを横目で見る。
「どう見ても剣には見えないんだが」
ゴツゴツとしたフォルム、剣というより。
「木の棒じゃないか」
そう、棍棒に近い。持ち手すらなく、ひたすら太くデカいだけのそれは子どもたちが振り回す木の棒より扱い辛そうなのだが。
「そんな事ないぞ。ちゃんとエル婆さんに見繕ってもらった最強武器だ」
「いや、めちゃくちゃ騙されてんじゃん」
この世界のどこにコレを剣だと言われて売りつけられるマヌケがいるというのだ、いやここにいたか。
「ルークスってやっぱりバカなんだな」
「ちょっ、いくらなんでもひどくねぇか!?」
冒険者が聞いて呆れる。どうしてこんなのに助けられたのか。そんな疑問が心底湧き上がるくらいだ。
「それにしたってさっきの剣はどうしたんだ」
「さっき?」
「あの魔獣を倒したやつだ。そんなゴミみたいな木の棒じゃなかっただろ」
「いや、ゴミじゃねえよ。最強武器だ」
まだ言うかというツッコミはあえてしなかった。
すると彼は気まずそうに頭をかきながら。小声で呟く。
「…………た」
「は?」
「……れた」
「なんだよ、ハッキリ言え」
「……こわれた」
「はぁ?」
壊れたとはこれいかに。剣なんてそうそう壊れるものではないだろう。よほど硬い鉱物でも切らなきゃ、この頃の技術では安物でもそれなりに耐久性は保証されているはずだ。
「壊したんだよ。つーか、いつも気付くと折っちまうんだ」
「まさか剣を?」
「ああ」
聞けば馬鹿力で叩くように斬りつけるクセがあるらしい。
数日に一本、むしろ一つ仕事をこなす事に剣も防具も使い物にならなくなってしまうと。
「だからいくら働いても金欠なんだよなぁ」
「……」
やはり馬鹿だ。
メルトはそう思った。
「脳筋バカ」
「それよくアンナにも言われる」
「だろうな」
つくづく男の趣味が悪い娘だと苦笑いしたくなる。
「言っとくけどオレは単なる足でまといだぞ」
実際、腕っ節が強いわけでも何か剣術などのスキルがある訳でもない。あくまで商人であって、なぜわざわざこの依頼に同行させられたのか分からないくらいだった。
「んー。まあ別に俺のモチベーションになるからいいんじゃね」
「ハァ? なんだそれ」
男一人、しかも戦力にならない者がいてなんの効果を発揮するというのだ。むしろリスクにしかならないだろうに。
「とにかく魔獣は俺に任せろよな」
「……あっそ」
よく分からないがそれで良いのだろう。良くなくても正直どうでもいい。
目的は一刻も早く逃げ出して、新しい人生をスタートさせること。そのためなら、別にこの男がどうなろうともかまわなかった。
仮にも命の恩人に、と思うだろう。しかしそんな恩義も余裕があればこそだ。
奴隷商人としての生活でそんなものは消し飛んでしまう。
騙し合い、食うか食われるか。搾取と悪行の連鎖をジッと顔色ひとつ変えず見つめてきたのだ。
それもこれも、生まれ育った屋敷や貴族の肩書きを捨てた時の覚悟によるものだった。
「この先の森だ」
いつの間にか街を出てすぐの森の入口にいた。
「その前にこれ持っといてくれ」
「?」
声をかけられ思わず足を止めたメルトの首に、何かが掛けられた。
「なんだよこれ」
ネックレスだろうか。シルバー素材のそれは、見た目の繊細さとは裏腹にほんの少し重い。
小さいが紅い石が埋め込まれ、さらによく見れば何やら細かい文字のようなモノが彫り込まれていた。
「お守りみたいなもんとさ。婆さんがお前にって」
「うわ胡散臭ぇな」
「そんなこと言ってやるなよ」
心底嫌そうな顔をすると、今度は彼が苦笑した。
「よし、まずは注意事項と作戦からだな」
森に一歩足を踏み入れた瞬間、サッとルークスの顔色と表情が変わる。
「……俺の傍から離れるな、メルト」
そこはすでに別世界のような光景であった。
安堵と拍子抜けとで大きくため息をつく。
「なあに、心配すんなって!」
「あ?」
隣を歩くルークスの見当違いの言葉に眉間にシワが刻まれた。
「俺がいればそんな怖いもんじゃねえぜ、魔獣狩りもな」
「あ?」
何言ってんだお前、と返すのもめんどくさい。それくらいメルトはこの男に興味が無かった。
そんなことより先行きだ。
先程のエルの言葉を思い出す。
『とある魔獣から採取できる材料を大量に持ってくること』
つまりお使いをしろということだ。そしてその条件として。
「んで、これからどこにいけばいいんだ。ルークス」
「ようやく俺の名前を覚えてくれたな」
嬉しそうに笑う彼にすらうんざりする。早いところこのお使いとやらをこなして、約束のはした金を受け取り国を出たいのだ。
「それにしても安い報酬だ」
エルから提示された金額はどう考えても安価過ぎた。
「オレは詳しくないけど、少なくとも冒険者協会を通しての依頼ならこの数倍はとれるんじゃないのか」
「まあ、そうだろうな」
そう指摘してもルークスは軽く肩をすくめただけ。
ちなみに冒険者ギルドというのは、いわゆるこの世界における組合組織のこと。
同じ職業、技術者、志を同じくする者たちで運営される。
その目的は情報共有と仕事の斡旋だ。
冒険者ギルドでいえば、街や国ごとに登録を行うことで様々なランクの依頼を請け負うことが出来る。
「わざわざあの婆さんの依頼を、こんな小遣い程度の金で引き受けるのは慈善事業なのかい?」
「あはは、ハッキリ言うなあ」
嫌味を込めたつもりが小気味よく笑われた。
それだけで鼻白むのに、彼はふいに立ち止まり。
「エル婆さんも別にお前の事を悪く思ってるわけじゃねえからな。安心しろよ」
と頭を軽くポンポンと撫でた。
「っ、おい」
馴れ馴れしくするなと睨むが分かっているのかいないのか、大きくうなずく。
「奴隷商人っていうのも、お前はちゃんとプライド持ってやってたんだろ。俺はよく知らんが、人の職業を貶す趣味は俺にもエル婆さんにもないよ。少なくとも彼女はそういう人だ」
「……」
いやアレは普通に脅してただろ。そう言うのも面倒になって顔をしかめるだけにした。
「とはいえメルト、お前は魔獣狩りは初めてだよな。まずは俺の剣さばきを見せてやるよ」
「剣って、それか?」
腰にさしてあるそれを横目で見る。
「どう見ても剣には見えないんだが」
ゴツゴツとしたフォルム、剣というより。
「木の棒じゃないか」
そう、棍棒に近い。持ち手すらなく、ひたすら太くデカいだけのそれは子どもたちが振り回す木の棒より扱い辛そうなのだが。
「そんな事ないぞ。ちゃんとエル婆さんに見繕ってもらった最強武器だ」
「いや、めちゃくちゃ騙されてんじゃん」
この世界のどこにコレを剣だと言われて売りつけられるマヌケがいるというのだ、いやここにいたか。
「ルークスってやっぱりバカなんだな」
「ちょっ、いくらなんでもひどくねぇか!?」
冒険者が聞いて呆れる。どうしてこんなのに助けられたのか。そんな疑問が心底湧き上がるくらいだ。
「それにしたってさっきの剣はどうしたんだ」
「さっき?」
「あの魔獣を倒したやつだ。そんなゴミみたいな木の棒じゃなかっただろ」
「いや、ゴミじゃねえよ。最強武器だ」
まだ言うかというツッコミはあえてしなかった。
すると彼は気まずそうに頭をかきながら。小声で呟く。
「…………た」
「は?」
「……れた」
「なんだよ、ハッキリ言え」
「……こわれた」
「はぁ?」
壊れたとはこれいかに。剣なんてそうそう壊れるものではないだろう。よほど硬い鉱物でも切らなきゃ、この頃の技術では安物でもそれなりに耐久性は保証されているはずだ。
「壊したんだよ。つーか、いつも気付くと折っちまうんだ」
「まさか剣を?」
「ああ」
聞けば馬鹿力で叩くように斬りつけるクセがあるらしい。
数日に一本、むしろ一つ仕事をこなす事に剣も防具も使い物にならなくなってしまうと。
「だからいくら働いても金欠なんだよなぁ」
「……」
やはり馬鹿だ。
メルトはそう思った。
「脳筋バカ」
「それよくアンナにも言われる」
「だろうな」
つくづく男の趣味が悪い娘だと苦笑いしたくなる。
「言っとくけどオレは単なる足でまといだぞ」
実際、腕っ節が強いわけでも何か剣術などのスキルがある訳でもない。あくまで商人であって、なぜわざわざこの依頼に同行させられたのか分からないくらいだった。
「んー。まあ別に俺のモチベーションになるからいいんじゃね」
「ハァ? なんだそれ」
男一人、しかも戦力にならない者がいてなんの効果を発揮するというのだ。むしろリスクにしかならないだろうに。
「とにかく魔獣は俺に任せろよな」
「……あっそ」
よく分からないがそれで良いのだろう。良くなくても正直どうでもいい。
目的は一刻も早く逃げ出して、新しい人生をスタートさせること。そのためなら、別にこの男がどうなろうともかまわなかった。
仮にも命の恩人に、と思うだろう。しかしそんな恩義も余裕があればこそだ。
奴隷商人としての生活でそんなものは消し飛んでしまう。
騙し合い、食うか食われるか。搾取と悪行の連鎖をジッと顔色ひとつ変えず見つめてきたのだ。
それもこれも、生まれ育った屋敷や貴族の肩書きを捨てた時の覚悟によるものだった。
「この先の森だ」
いつの間にか街を出てすぐの森の入口にいた。
「その前にこれ持っといてくれ」
「?」
声をかけられ思わず足を止めたメルトの首に、何かが掛けられた。
「なんだよこれ」
ネックレスだろうか。シルバー素材のそれは、見た目の繊細さとは裏腹にほんの少し重い。
小さいが紅い石が埋め込まれ、さらによく見れば何やら細かい文字のようなモノが彫り込まれていた。
「お守りみたいなもんとさ。婆さんがお前にって」
「うわ胡散臭ぇな」
「そんなこと言ってやるなよ」
心底嫌そうな顔をすると、今度は彼が苦笑した。
「よし、まずは注意事項と作戦からだな」
森に一歩足を踏み入れた瞬間、サッとルークスの顔色と表情が変わる。
「……俺の傍から離れるな、メルト」
そこはすでに別世界のような光景であった。
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