元奴隷商人は逃げ出したい

田中 乃那加

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卑猥で卑劣な出来事

 布地を裂かれるように服を脱がされた。
 これは強情な女の心をへし折るためにするほんの初歩的なことだ、と聞いた事がある。

 特にやむにやまれぬ事情により身を売ることになった商家の奥方や娘などであれば、そこでさめざめと泣きだしてしまうだろう。

「やめろ! それはっ……」

 アンナがくれた服。それが目の前で破かれるなんて、心まで引き裂かれるようだった。

「ほらお似合いの格好だ」
「くっ」

 粗末な床に一糸まとわぬ姿で放り出される。
 反射的に身体を隠そうと縮こまるが、それがなおもこの卑劣な者たちを喜ばせるのを知らない。

「まずはどうしてやろうか。ん? 」
「やめろ、やめて……くれ」

 薄暗い倉庫を這い回りながら、なんとかだこの場から逃げ出したいと頭を巡らせる。
 しかし今の状況はどうにもならない。なにせ二人の男たちの前で自分は丸腰どころか丸裸。
 そうこうするうちに乱暴に両手首を掴まれた。

「大人しくしろよ、?」
「ひっ!?」

 一人に両手を拘束されたらもう定公らしい抵抗なんて出来るわけがない。
 足まで大きく開かされ、まるでひっくり返ったカエルのような無様な格好だ。当然、叫び暴れ抗おうとした。

「やめろっ、やだっ、この卑怯者!」
「なるほど。威勢だけはいいな、でもすぐに素直になれる」

 そう言って下衆な笑みを浮かべる男の手に握られていたのは、一見すれば水薬の入った瓶のようだった。
 しかしその中身。桃色のトロリとした液体にメルトは顔色を変える。

「そ、それは」
「んん? やはり知っているか。まあ今じゃ簡単に手に入るからな、は」

 ありたいていに言えば媚薬、催淫剤であった。
 これも性奴隷になるのを拒む気位の高い元淑女たちを快楽の淵に叩き込む小道具としてはお決まりで。

 メルトは幸い、これを使って女に言うことを聞かせたことはないが自分が使われるなんて露ほども想像していなかった。

「っ、こんなものオレには無駄だ。腰抜け共め」

 そう強がってみても視線は瓶に釘付けだし、その後の反応は過去に嫌というほど見てきたのでわかっている。

 だからこそ理性を保つ必要があった。

「ふん。薬に頼るなんざ、男として恥ずかしいとは思わないのか。ま、お前らみたいな見掛け倒しのクソどもはお薬ないとロクに女も悦ばせられないんだろうけどな」

 肩をすくめて嘲笑する。しかし。

「語尾が震えてるぞ、メルト」
「!」

 内腿をするりと撫でられながら囁かれ、一気に顔に熱が集まる気分になる。

「あ」
「必死で虚勢張るのも可愛いが、もっと素直になれ。初めてはちと辛いかもしれんがなぁ」
「……っ、や、やめ……ろ……さわ、るな」

 腹に垂らされたヒヤリとした感覚。わなわなと震え、身をよじる。
 しかし逃げられるはずもない。

「ひっ!?」
「怖がるな、いきなり突っ込んだりしない。なんせ大切な貴族様の愛玩奴隷ペットだもんなあ」
「……」

 そう、ここで辱められるだけにとどまらないのだ。
 それからあの男に引き渡されて、屋敷に監禁されるだろう。気が済むまでの凌辱生活に下手すれば飽きたら殺される可能性すらある。
 むしろすぐに飽きて殺される方がまだ良いのか。いや、今度は男娼として低下層に売り飛ばされることすらありうるのだ。

 ――最悪だ。

 絶望しかない未来に、目の前が真っ暗になる。
 そうなるともうパニックしかないないわけで。

「くそっ、この汚ぇ手を離しやがれ! やめろッ、やだ!! やめろってば!」

 無我夢中で振り払おうとするも、圧倒的な力の差で手に布を巻き付けられる。荒縄や手錠だと傷が深くなるということなのだろう。
 そんな配慮なんぞひとつも嬉しくないのだが。

「いい加減、腹くくるんだな。それともやはりもっとたくさんのヤツらに遊んで欲しいのか」
「や……っ」

 首をぶんぶん振って否定すると男たちがほくそ笑んだ。

「じゃあ大人しくしろ。ほれ、そろそろ効いてくる」
「えっ」

 言葉の意味を考えあぐねたのはほんの一瞬。すぐにゾクゾクとした感覚と込み上げる熱が皮膚から全身に回るのを理解した。

「あ、ぁ……あ……」

 先程の薬が全身に塗り広げられている。
 まるでオイルマッサージでもするかのように丁寧に、執拗に。

「この薬は皮膚からでも吸収率が良いんだ。だが直接粘膜に塗ると」
「くっ!?」

 また新たに垂らされた箇所は下腹部。しかも股間を濡らされて大きく目を見開く。

「ひぅっ、ぅ、あ、ぁ、ああ」

 ぬちゃぬちゃと粘着質な音とくぐもった声が、倉庫内に響いた。

 ――熱い。身体が、全部、熱い。

 じくじくと疼くような熱。もどかしいような焦れるような。
 特にしごかれ、親指で弄られている先端から広がる狂おしいほどの快感。

 必死に歯をくしばって耐えようとするが、同じ男ということで否応なしに弱い所を的確に追い詰めていく。

「んん゙ぅ、く……はぁ……っ、あ、ぁあ……」

 ――やめろ、やめてくれ。

「一度出しておけよ。まあ、出せばそれだけ後が辛いが」
「ああぁっ、ひ、ぃ、うぅ、くっ……!」

 痛いほどち上がったソコだけでなく張り詰めた睾丸、そして上半身にまで手を伸ばされた。

「そ、そんなとこっ」
「もしやまだ知らないのか。男でも女みたいにだけで下品に腰振ってイくことが出来ることを」
「ンなわけ……ひい゙、痛っ!? 」

 乱暴に乳首を摘まれ声を上げる。しかしジンジンとした感覚さ確かに痛みだけではなかったようで。

「ほらまずは一度イっちまえ」
「やだっ、イくもんか……おまえ、ら……なんか、に……んぁっ、あああぁぁっ、んぅぅぅぅっ!!!」

 媚薬の効果、そしてろくに抵抗出来ない状態での愛撫にいつまでも耐えることなんて無理だった。
 キツく目を閉じ、足に身体に痛いくらい力を入れての絶頂。感じたことのない放出に、頭の中は白くなる。

「はぁ……っ……あ……あー……っ」

 ――なんだこれ。これが薬の効果なのか。

 こんなの何度も使われたら気が狂ってしまう。
 そう思って怖々と目を開けた。

「ずいぶん気持ちよさそうにイき果てやがって」
「いつもツンとしてたお前が、こんな痴態をさらけ出せるなんて他の連中が知ったら垂涎ものだな」
「ち、ちがうっ、あれは薬のせいで……」

 ニヤニヤと下劣な笑みを浮かべる男たちの言葉に心まで汚された気持ちになる。

「まあいい。でも今に薬なんぞなくても自らケツを振って男に媚びるようになる」
「そんな……やだ。やめろっ、もうやだ、薬は……ひぁっ!!」
 
 また液体を身体にたらされて小さく悲鳴をあげたが、今度はとんでもない箇所に塗り込められたことで顔色を変えた。

「!?」
「カマトトぶってんじゃねえよ。そこにぶち込まれて悦ぶメスに仕込んでやるからな」
「ゔぅっ」

 ――き、気持ち悪い。

 他人に触れられることすらない場所。無駄だと分かりつつも身体をよじり首を振って拒絶してみる。

「こら暴れんなって」
「ひっ、ぅ」

 異物感こそあれど痛みを感じないのは媚薬のせいか。それどころか妙にむず痒いような疼くような刺激に気が狂いそうだ。

 ――こんな……ウソだろ。

 正気の沙汰とは思えない。
 しかしそうこうするうちに何度も何度も媚薬で慣らされた肛孔そこは男の指を難なく受け入れ、ぐちゅぐちゅと水音させるほどまでになっていた。

「う、くっ、ん゙ん」
「すっかり指がふやけちまったな。そろそろいいだろう」
「っあぅ……え?」

 勢いよく引き抜かれた感覚にまた喘いでしまって恥じ入るが、すぐピタリとあてられた怒張に身体を強ばらせる。

 ――まさか、コイツら本気で。

「力ぬけよ」
「やめろッ、やだっ、それだけは……! やめてくれ!!」

 死にもの狂いで暴れるが、その姿さえ嘲笑される始末。

「おいおい入らねぇだろ」
「もしかして嫌がるフリして、腰振って誘ってんのかぁ?」
「アハハハッ。ちがいないですぜ、ボス。まったくこの淫乱が」

 次々に投げかけられる罵倒に怒りとともに屈辱感で涙が込み上げてくる。

「クズ野郎どもがっ、殺してやる……!」

 むしろ殺してくれと懇願したいような状況なのだが、元来の勝気な性格が更に相手の加虐心を煽ることを彼は知らない。

「そろそろ躾てやるか。おさえとけ」
「へい」

 足を大きく開かされガッシリと固定される。
 これではもう逃げられない。喉の奥がヒュッと鳴った。

 ――もう……。

 目を固く閉じ顔を背けて全身に力を入れた時。
 
 爆音は轟く。

「!?」

 粉塵が舞い上がり、粗末な倉庫の壁に大穴が空いている。そこから差し込む眩い光と、映る黒く大きなシルエット

 見上げるほどに巨大な馬のような。

「メルト!!!」

 そこへさらに、ひらりと躍り出た一人の男。

「え……ぁ……あ……」

 聞き覚えのあるそれに言葉を失う。

「このド畜生共がァァァッ、成敗してやる!!!」

 怒鳴り散らしながら振り上げた棍棒、でなく剣。
 怒りに顔を歪ませた青年の赤い髪。
 メルトは息を呑んだ。

 深い激情と哀しみをたたえた瞳は、この卑劣な男たちでなくまっすぐに自分へ向けられていたからだ。

「メルト、すぐに……助けてやるからな」

 その言葉に彼は小さくうなずいた。

 



 





 
 

 


 
 
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