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執着と愛情の違いを50文字以内で述べよ(正答率10%)
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またしても監禁されてしまったクラウスは、とりあえず目の前の者を観察することにした。
「ん、どうした」
「……別に」
――褐色の肌や瞳の色といい、ここらの人間ではないな。
日本のように単一民族国家でないものの、それでも白い肌に鳶色やグレイがかった色の瞳がここでは多数であった。
もちろん異国からの旅人も多いのが港町なので、きっとジャックもそうなのだろうと彼は結論付ける。
――あとは……。
彼はたいそう美形であった。
――昔、あんな石膏像見た気がするな。
前世の記憶であるが、学生の頃に美術準備室に置いてあった胸像があのように目鼻立ちのはっきり整っていたローマかどこかの英雄か軍神であったような。
「あんまり見るなよ」
穴空いちまう、と冗談めかして小さく笑う表情からして決して愛想が悪いわけでもない。
だからつい口から言葉が出てしまった。
「なんで俺なんか誘拐したんだ……金か?」
その瞬間、彼の顔から笑みが消える。しまったと思った時にはもう遅かった。
「っ、ぐ!?」
突然、胸ぐらを掴まれて腰掛けていたベッドに押し倒される。きっちり止めていたボタンは弾け飛び、先程まで彼が座っていた近くの椅子は派手な音を立ててひっくり返った。
「そうだ、と言えば納得すんのかアンタは」
「なっ……なにを、怒って……」
無表情で覗き込んでくる紅い瞳。ギリギリと喉元を絞めあげられて思考も呼吸もおぼつかなくなってくる。
クラウスには一体ジャックが何を考えているの分からないが、それでもひどく怒らせてしまったのは確かで。
「お、おい……おちつけ、ってば」
「オレがアンタを身代金目当てで誘拐したって思うんだな」
「う……ぐ」
――そこまで言ってないだろ!
そう言い返したいがなにせ酸欠で視界さえ危うくなってきている。パクパクと口を動かすだけとなったクラウスに彼はなにやらまくし立てているが、あいにくその言葉はほとんど聞こえていなかった。
――あ、やばい。
お花畑が見えてきたかもしれない、と内心つぶやく。
――あぁ。息子には殺されずにすんだけど、やっぱり男には殺されるんだなぁ。
次はどんな人生に転生できるだろうか。もういっそのこと人間はやめて、虫とか植物でもあの女神にお願いできないだろうか……なんてつらつら考えていたときだった。
「ちょっ、アニキなにしてんですかぁぁぁ!!!」
ほとんど悲鳴のような叫び声とともに、バキィッという大きな音と首を絞めていた手がいきなり離されたことによって酸素が急激に喉に流れ込んでくる。
「ごほっ! ごほっ……ッ、ぐ、ぅ……」
「大丈夫ですかクラウス様!?」
飛び込んできたのはアルバで、彼女が手にしていたのは真っ二つに折れた木の板。
どうやらそれを思い切りジャックの頭に叩きつけたらしい。そして当の本人はというと。
「うわぁ」
ベッドの上でのびている彼を見てクラウスは小さく声をあげる。
どうやら脳天にタンコブ作って失神しているだけで命に別状は無さそうだ。
「いや、ほんとに助かったよ」
文字通り命の恩人である彼女に深々と頭をさげる。
「危うくもう一度あの世行きするところだった」
「もう一度?」
「いや、なんでもないんだ。それよりアルバ」
クラウスは無惨にも折れた木の板を見ながら言った。
「その板はどうしたんだ?」
「あー、これですか」
彼女はニッと笑う。
「そこんとこに棚を作ろうと思って」
「棚?」
白い指でさされたところは部屋の壁、DIYでもするつもりだったとのこと。
「だってここ殺風景でしょ? アタシ実は結構器用なんです。市場でちょうどいい木の板見つけてきたからちょいちょいっとね」
でも、と眉と肩をさげて折れた木の板を見る。
「また買ってこなきゃなぁ……」
「じゃあオレも一緒に連れて行ってくれよ」
「ぅえぇぇッ!?」
クラウスの申し出に彼女は目を剥いて声をあげた。
「そんなアニキが許しませんよ! クラウス様を探し回ってる奴らがいるんだってブチ切れてましたもん」
「俺を?」
「なんかえらくガラの悪い男達でしたよ」
「……」
――ったくヨハンのやつ。
またならず者たちを雇っているのだろう。
こういうのは家のためにも、ひいては息子自身のためにも良くないというのに。
「……屈するもんか」
「クラウス様?」
怪訝そうに首をかしげている彼女を見据える。
「俺はもう軟禁監禁されるのをやめるぞ、アルバ」
「ちょっとクラウス様、それって――」
慌てだす彼女を制して彼は宣言する。
「今から市場いくから案内してくれ」
「いやいやいやいやッ、それはまずいですってぇぇ!」
アルバもまた即答で止めたがここで引く訳にはいかない。
「ジャックが何考えてるか知らんが俺はもう大人しく監禁されるのは真っ平御免だ」
「で、でも」
「俺が一人で出かけたとでも言ってくれ。つーか、今のままだと息子の次にあの男に殺されちまう」
「そんな! アニキはクラウス様のことはガチで愛してますよ!!!」
「愛、なぁ」
――それは執着とも言い代えられるんじゃないか。
息子であるヨハンはまだしも、なぜ出会って間もないあの男が自分にここまで執着するのか理解に苦しむのだが。
「とにかく今が絶好のチャンスだ」
ここは畳み掛けるしかないとばかりに言いつのる。
「君に迷惑は絶対にかけないと誓うよ。あと別に逃げ出そうって訳じゃない。ただほんの少しだけ息抜きがしたいだけだ」
「うーん……」
元上司の頼みとあっては、というところだろうか。
悩みはじめた彼女の様子にしめたと思った。
「なぁ頼むよ、アルバ」
「ああもう~ッ!」
彼女が頭をガシガシと掻きむしる。
「分かりましたよっ、アタシが責任とってアンタをお守りします! そうじゃなきゃ女がすたるってもんですからね!!」
なんとも肝の座った娘だろう。メイドの時には面白い子だとは思ったがここまでとは。
クラウスは彼女の手を握った。
「恩に着るよ、アルバ」
「…………クラウス様って、人たらしとか魔性の男とか清楚系ビッチとか言われたことないですか」
なんとも失礼な物言いだがとりあえず話は決まったようだ。
「でも一つだけ条件があります」
彼女がそう言うまでは。
「ん、どうした」
「……別に」
――褐色の肌や瞳の色といい、ここらの人間ではないな。
日本のように単一民族国家でないものの、それでも白い肌に鳶色やグレイがかった色の瞳がここでは多数であった。
もちろん異国からの旅人も多いのが港町なので、きっとジャックもそうなのだろうと彼は結論付ける。
――あとは……。
彼はたいそう美形であった。
――昔、あんな石膏像見た気がするな。
前世の記憶であるが、学生の頃に美術準備室に置いてあった胸像があのように目鼻立ちのはっきり整っていたローマかどこかの英雄か軍神であったような。
「あんまり見るなよ」
穴空いちまう、と冗談めかして小さく笑う表情からして決して愛想が悪いわけでもない。
だからつい口から言葉が出てしまった。
「なんで俺なんか誘拐したんだ……金か?」
その瞬間、彼の顔から笑みが消える。しまったと思った時にはもう遅かった。
「っ、ぐ!?」
突然、胸ぐらを掴まれて腰掛けていたベッドに押し倒される。きっちり止めていたボタンは弾け飛び、先程まで彼が座っていた近くの椅子は派手な音を立ててひっくり返った。
「そうだ、と言えば納得すんのかアンタは」
「なっ……なにを、怒って……」
無表情で覗き込んでくる紅い瞳。ギリギリと喉元を絞めあげられて思考も呼吸もおぼつかなくなってくる。
クラウスには一体ジャックが何を考えているの分からないが、それでもひどく怒らせてしまったのは確かで。
「お、おい……おちつけ、ってば」
「オレがアンタを身代金目当てで誘拐したって思うんだな」
「う……ぐ」
――そこまで言ってないだろ!
そう言い返したいがなにせ酸欠で視界さえ危うくなってきている。パクパクと口を動かすだけとなったクラウスに彼はなにやらまくし立てているが、あいにくその言葉はほとんど聞こえていなかった。
――あ、やばい。
お花畑が見えてきたかもしれない、と内心つぶやく。
――あぁ。息子には殺されずにすんだけど、やっぱり男には殺されるんだなぁ。
次はどんな人生に転生できるだろうか。もういっそのこと人間はやめて、虫とか植物でもあの女神にお願いできないだろうか……なんてつらつら考えていたときだった。
「ちょっ、アニキなにしてんですかぁぁぁ!!!」
ほとんど悲鳴のような叫び声とともに、バキィッという大きな音と首を絞めていた手がいきなり離されたことによって酸素が急激に喉に流れ込んでくる。
「ごほっ! ごほっ……ッ、ぐ、ぅ……」
「大丈夫ですかクラウス様!?」
飛び込んできたのはアルバで、彼女が手にしていたのは真っ二つに折れた木の板。
どうやらそれを思い切りジャックの頭に叩きつけたらしい。そして当の本人はというと。
「うわぁ」
ベッドの上でのびている彼を見てクラウスは小さく声をあげる。
どうやら脳天にタンコブ作って失神しているだけで命に別状は無さそうだ。
「いや、ほんとに助かったよ」
文字通り命の恩人である彼女に深々と頭をさげる。
「危うくもう一度あの世行きするところだった」
「もう一度?」
「いや、なんでもないんだ。それよりアルバ」
クラウスは無惨にも折れた木の板を見ながら言った。
「その板はどうしたんだ?」
「あー、これですか」
彼女はニッと笑う。
「そこんとこに棚を作ろうと思って」
「棚?」
白い指でさされたところは部屋の壁、DIYでもするつもりだったとのこと。
「だってここ殺風景でしょ? アタシ実は結構器用なんです。市場でちょうどいい木の板見つけてきたからちょいちょいっとね」
でも、と眉と肩をさげて折れた木の板を見る。
「また買ってこなきゃなぁ……」
「じゃあオレも一緒に連れて行ってくれよ」
「ぅえぇぇッ!?」
クラウスの申し出に彼女は目を剥いて声をあげた。
「そんなアニキが許しませんよ! クラウス様を探し回ってる奴らがいるんだってブチ切れてましたもん」
「俺を?」
「なんかえらくガラの悪い男達でしたよ」
「……」
――ったくヨハンのやつ。
またならず者たちを雇っているのだろう。
こういうのは家のためにも、ひいては息子自身のためにも良くないというのに。
「……屈するもんか」
「クラウス様?」
怪訝そうに首をかしげている彼女を見据える。
「俺はもう軟禁監禁されるのをやめるぞ、アルバ」
「ちょっとクラウス様、それって――」
慌てだす彼女を制して彼は宣言する。
「今から市場いくから案内してくれ」
「いやいやいやいやッ、それはまずいですってぇぇ!」
アルバもまた即答で止めたがここで引く訳にはいかない。
「ジャックが何考えてるか知らんが俺はもう大人しく監禁されるのは真っ平御免だ」
「で、でも」
「俺が一人で出かけたとでも言ってくれ。つーか、今のままだと息子の次にあの男に殺されちまう」
「そんな! アニキはクラウス様のことはガチで愛してますよ!!!」
「愛、なぁ」
――それは執着とも言い代えられるんじゃないか。
息子であるヨハンはまだしも、なぜ出会って間もないあの男が自分にここまで執着するのか理解に苦しむのだが。
「とにかく今が絶好のチャンスだ」
ここは畳み掛けるしかないとばかりに言いつのる。
「君に迷惑は絶対にかけないと誓うよ。あと別に逃げ出そうって訳じゃない。ただほんの少しだけ息抜きがしたいだけだ」
「うーん……」
元上司の頼みとあっては、というところだろうか。
悩みはじめた彼女の様子にしめたと思った。
「なぁ頼むよ、アルバ」
「ああもう~ッ!」
彼女が頭をガシガシと掻きむしる。
「分かりましたよっ、アタシが責任とってアンタをお守りします! そうじゃなきゃ女がすたるってもんですからね!!」
なんとも肝の座った娘だろう。メイドの時には面白い子だとは思ったがここまでとは。
クラウスは彼女の手を握った。
「恩に着るよ、アルバ」
「…………クラウス様って、人たらしとか魔性の男とか清楚系ビッチとか言われたことないですか」
なんとも失礼な物言いだがとりあえず話は決まったようだ。
「でも一つだけ条件があります」
彼女がそう言うまでは。
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