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かぐや姫の看守
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『――あら、えらくちんちくりんな付き人ねぇ』
それがかぐや姫から僕に発せられた言葉だった。
「何度言いますが僕は付き人でも従者でもありませんからね」
「付き人も従者も似たような意味だわ」
「うるさい……僕は看守です!」
この仕事を初めてまだ二年目のある日、僕は上司に呼び出されてこの任務を仰せつかった。
「地球に流刑って面白いこと考えるわよね、お父様も」
彼女は確かにあの星の中でも上級国民にあたる人ではある。なにせ父親が国王なのだ。
そんなお姫様がなぜ地球に流刑かというと……分からない。なにせトップシークレット事項で、看守である僕やそのすぐ上の上司でさえ明かされていないのだから。
でもただの平民で、しかもまだまだペーペーな新米な僕は仕事しなくちゃいけない。
「かぐや姫様」
僕は光り輝く小型宇宙船の中で彼女を見据えた。
「くれぐれも刑期中は大人しくしていてくださいよ」
「はいはい」
「本当に分かってます?」
「分かってるわよ。召使いの貴方に言われなくても」
「看守です!!!!」
少しだが年下のせいか、どうもナメられていると思うのは気のせいだろうか。いや違うな、普通にナメられてる。
それも仕方ないが僕の対応は変わらない。
なんせこの仕事が終わったら特別手当がたんまり出ると聞く。これで母になにかプレゼントでもしてやれるかもしれない。
「あら、ヤハチのお母様って一人暮らしなさってるの」
「……人の思考盗聴しないでください」
まったくこの人は本当に掴めない。ただの気位高いお嬢様、というわけでもなく。飄々として、でも絶妙に失礼な人。
そして。
「せいぜい頑張りなさいね、看守ちゃん」
彼女の白い手で頭を撫でられて飛び上がりそうになる。
「なにするんですか!?」
「ん、童貞の反応ね」
「どどどどっ、童貞ちゃうわ!!!」
僕だって若くて年頃の男だ。こんな美しいお姫様 (犯罪者だけども)に頭ポンポンされたら顔の一つや二つ赤くなるのは仕方ないというか。
「いいから貴女は大人しくしてください!」
「あー、はいはい」
「本当に大丈夫かなぁ……」
清々しいほどの生返事しながら、自らの華麗に整えられた爪を眺め始めるこの流刑中のお姫様に不安を覚えずにはいられなかった。
僕の仕事はあくまで姫様の監視。きっとそれには警護も含まれているのだろう。
僕らの星と比べてここ地球の技術は恐ろしく遅れている、というか未開の土地に近いのだと思う。
だからって蛮族だとか見下すことは無いけれど (僕の周りにだっていくらでも異星人はいるし)でも姫様の身分や正体が知れる訳にはいかないわけで。
「あら、ヤハチばかりずるいわ」
「お言葉ですけどね、姫様」
光学迷彩機能で透明化した僕に姫様は唇をとがらせる。
ああこういう所は年相応で可愛いかも、なんて思ったのはほんの一瞬。
「頭はともかく顔だけはまともなんだから一緒にこの……ええっと、色だけ豊富な妙ちきりんな衣装着ましょうよ」
やっぱり口がよろしくないお姫様らしい。
僕は内心ため息をつきつつ、首を横に振る。
「僕は影ながら姫様を監視します。なにせ看守なので」
職務は職務だ。
そして僕は男であり、恐らくこの衣服は女性用なのだろう。
「それにしても非効率だわ」
ふん、と鼻を鳴らしながら彼女は言った。
「こんな子どもみたいな姿にされるなんて」
「これは我が星での画期的な制度なんですけどね」
地球流刑者はまず幼体、つまり子どもの姿に変えられる。そしてそれが流刑された時まで成長するまでが刑期というわけだ。
僕らとは違い、地球人というのはせいぜい百年までには寿命を終えるらしい。なんと短命で儚い生き物なのだろう。
しかも僕らにとっては取るに足らないウィルスや細菌によってすぐに病にかかり、最悪は死に至る。
「姫様はその中でちゃんと地球人に擬態して生き抜いてください」
「えー? 生活水準だけは落としたくないんだけど」
「……」
早速出ました、何言ってんだこいつレベルの発言。
仮にも流刑された犯罪者だろ、という言葉を飲み込んで(僕だって上級国民には弱いのだ) あえて恭しく頭をさげる。
「僕がきっちりサポートしますから、ね?」
だから頼むから面倒事は起こさず大人しく刑期を終えてくれ。
そもそもどこの世界に流刑されるやつに監視役をつけるんだよ。
それもこれも特別待遇。なにか思惑があるだろうが、一般市民で公務員の僕には関係ない話だろう。
「仕方ないわ。でもわたくしの邪魔だけはしないでね」
それはこっちのセリフだ性悪女!!!!
とヤハチは腹の中でこっそり叫ぶのだった。
それがかぐや姫から僕に発せられた言葉だった。
「何度言いますが僕は付き人でも従者でもありませんからね」
「付き人も従者も似たような意味だわ」
「うるさい……僕は看守です!」
この仕事を初めてまだ二年目のある日、僕は上司に呼び出されてこの任務を仰せつかった。
「地球に流刑って面白いこと考えるわよね、お父様も」
彼女は確かにあの星の中でも上級国民にあたる人ではある。なにせ父親が国王なのだ。
そんなお姫様がなぜ地球に流刑かというと……分からない。なにせトップシークレット事項で、看守である僕やそのすぐ上の上司でさえ明かされていないのだから。
でもただの平民で、しかもまだまだペーペーな新米な僕は仕事しなくちゃいけない。
「かぐや姫様」
僕は光り輝く小型宇宙船の中で彼女を見据えた。
「くれぐれも刑期中は大人しくしていてくださいよ」
「はいはい」
「本当に分かってます?」
「分かってるわよ。召使いの貴方に言われなくても」
「看守です!!!!」
少しだが年下のせいか、どうもナメられていると思うのは気のせいだろうか。いや違うな、普通にナメられてる。
それも仕方ないが僕の対応は変わらない。
なんせこの仕事が終わったら特別手当がたんまり出ると聞く。これで母になにかプレゼントでもしてやれるかもしれない。
「あら、ヤハチのお母様って一人暮らしなさってるの」
「……人の思考盗聴しないでください」
まったくこの人は本当に掴めない。ただの気位高いお嬢様、というわけでもなく。飄々として、でも絶妙に失礼な人。
そして。
「せいぜい頑張りなさいね、看守ちゃん」
彼女の白い手で頭を撫でられて飛び上がりそうになる。
「なにするんですか!?」
「ん、童貞の反応ね」
「どどどどっ、童貞ちゃうわ!!!」
僕だって若くて年頃の男だ。こんな美しいお姫様 (犯罪者だけども)に頭ポンポンされたら顔の一つや二つ赤くなるのは仕方ないというか。
「いいから貴女は大人しくしてください!」
「あー、はいはい」
「本当に大丈夫かなぁ……」
清々しいほどの生返事しながら、自らの華麗に整えられた爪を眺め始めるこの流刑中のお姫様に不安を覚えずにはいられなかった。
僕の仕事はあくまで姫様の監視。きっとそれには警護も含まれているのだろう。
僕らの星と比べてここ地球の技術は恐ろしく遅れている、というか未開の土地に近いのだと思う。
だからって蛮族だとか見下すことは無いけれど (僕の周りにだっていくらでも異星人はいるし)でも姫様の身分や正体が知れる訳にはいかないわけで。
「あら、ヤハチばかりずるいわ」
「お言葉ですけどね、姫様」
光学迷彩機能で透明化した僕に姫様は唇をとがらせる。
ああこういう所は年相応で可愛いかも、なんて思ったのはほんの一瞬。
「頭はともかく顔だけはまともなんだから一緒にこの……ええっと、色だけ豊富な妙ちきりんな衣装着ましょうよ」
やっぱり口がよろしくないお姫様らしい。
僕は内心ため息をつきつつ、首を横に振る。
「僕は影ながら姫様を監視します。なにせ看守なので」
職務は職務だ。
そして僕は男であり、恐らくこの衣服は女性用なのだろう。
「それにしても非効率だわ」
ふん、と鼻を鳴らしながら彼女は言った。
「こんな子どもみたいな姿にされるなんて」
「これは我が星での画期的な制度なんですけどね」
地球流刑者はまず幼体、つまり子どもの姿に変えられる。そしてそれが流刑された時まで成長するまでが刑期というわけだ。
僕らとは違い、地球人というのはせいぜい百年までには寿命を終えるらしい。なんと短命で儚い生き物なのだろう。
しかも僕らにとっては取るに足らないウィルスや細菌によってすぐに病にかかり、最悪は死に至る。
「姫様はその中でちゃんと地球人に擬態して生き抜いてください」
「えー? 生活水準だけは落としたくないんだけど」
「……」
早速出ました、何言ってんだこいつレベルの発言。
仮にも流刑された犯罪者だろ、という言葉を飲み込んで(僕だって上級国民には弱いのだ) あえて恭しく頭をさげる。
「僕がきっちりサポートしますから、ね?」
だから頼むから面倒事は起こさず大人しく刑期を終えてくれ。
そもそもどこの世界に流刑されるやつに監視役をつけるんだよ。
それもこれも特別待遇。なにか思惑があるだろうが、一般市民で公務員の僕には関係ない話だろう。
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