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求婚は無理難題で切り抜けろ
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「ねぇ、ヤハチ」
白い肌に引き立てられる、ぽってりとし
深紅の唇が僕の名を呼ぶ。
「また求婚されちった☆」
「ちくしょぉぉぉぉっ、地球人めぇぇぇっ!!!!」
あっけらかんな姫様とは対照的に僕は頭を抱えていた。
「今度は都の大臣息子だって~」
「野蛮な地球人の身分なんて僕は興味ないですから!!」
ほんっとに次から次へと。
「だいたいあの爺さんも調子乗ってホイホイ縁談受けるなってんだ!」
「翁っていいなさい、一応世話になってるんだから」
まず地球に降り立った姫様に地球人としての生活をさせる場が必要だった。
そこで白羽の矢が立ったのは宇宙船が着陸した付近に住む老夫婦。
ここはもちろん我が星最高峰にして極秘の、催眠洗脳技術で彼らに姫様を大切に育てるように命じた。
そして三ヶ月 (これは地球人としては異例の成長スピードらしいが仕方ない。洗脳で解決だ)
もちろん無償という訳じゃなく、ちゃんとこちらも養育費という名の予算計上して現地の貨幣を支給したので姫様はそれなりに豊かに育てられたみたいだ。
そしてあっという間にそりゃもう美しい美少女に成長した姫様だったけど。
「姫様はまだこの星の肉体年齢でいうところの十代じゃないですか」
「それが結婚適齢期なんでしょ、この星だと」
「まったく正気じゃない!」
ロリコン甚だしいじゃないかと憤る僕とは対照的に、当の姫様は飄々としたものだ。
とはいえ。
「結婚なんてしちゃったらさすがにまずいですって」
現地人の記憶改竄や洗脳だって限界があるし、なにより刑期はもうすぐ終わるんだ。
この仕事を終えて星に帰ることが出来れば僕には昇進と手当、この後のエリート人生が待っているかもしれない。
そんな薔薇色の未来をぶち壊すようなトラブルはできるだけ避けたいのは当たり前じゃないか。
「でもなかなかの高スペック男子たちだったわよ」
「高スペックって。貴女は我が星のお姫様でしょ。こんな野蛮で未開発な人間どもが釣り合うわけが無いじゃないですか」
いくら彼女が性格悪い変人お姫様だとしても、だ。
僕の必死な訴えに彼女は肩をすくめた。
「そうねぇ。さすがにわたくしも地球くんだりまで来た目的を忘れて遊べないしね」
「目的? なんですかそれ」
おいおい僕はそんな話聞いてないぞ。
また姫様の奔放さが良くない方に出ちゃってる。
とにかく天真爛漫で聡明 (確かに賢いのはそうだろう。だって地球の文化もあっという間に身につけてるんだもの)そしてこの絶世の美貌。
認めますよ。姫様はたいそうおモテになるって!
だからってそこらの男にもニコニコ愛想良くしたり話しかけたりして、軒並み恋に堕として楽しむ悪女しないでもいいじゃないか。
さすがに肉体関係までは結ばずともまさに恋心と男心を手玉に取って弄ぶ姿は同じ男として彼らに同情してしまう。
しかもこの三ヶ月だけで僕はこの恋愛におけるトラブル、いわゆる痴情のもつれってやつを秘密裏に処理してきたんだ。
「そんな影の功労者である僕に何を隠してるんですか、姫様」
「あら、トゲのある言い方ねぇ。ふふ、ちゃんと教えてあげるわ」
姫様は秘密を打ち明けるようにそっと僕の耳元に唇を寄せる。
……あ、いい匂いするな。と一瞬だけドキッとしてしまったのは内緒だ。
「探していた人がいるのよ」
「探していた、人?」
こんな星に? 地球人の知り合いでもいたかしらと頭をひねる察しの悪い僕を、彼女は小さく笑った。
「ということであとはよろしく~」
「へ?」
突然、わけのわからないことを言われて反応が遅れた僕は決して悪くない。
そして呆気にとられていた隙に、彼女はさっさとそのやたらかさばる衣服を脱ぎ捨て始めたのだ。
「ちょちょっ!? なにしてんですか!」
「なにって脱いでるのよ。あ~、ほんっとこの服可愛いけど肩こる~」
「待って! 待ってください!! そんなっ、ダメです……見えちゃ……見え――ない?」
てっきり悩ましい一糸まとわぬ姿にでもなるかと思いきや、姫様は流刑前に着ていた星屑色のスーツ姿。つまり異星人ルックなわけで。
「なにぼうっとしてるの。まさか、このわたくしが貴方みたいな坊やの前で全裸になるとでも?」
「坊や……って。また何をしでかすつもりですか!?」
慌てて叫んで手を伸ばすも、ひらりと身軽にかわされた。
そして蕩けるような表情で頬を染め、薄く微笑み一言。
「秘密♡」
とつぶやいてそのまま陽だまりの外へ。
「姫様ぁっ!?」
逃げた、と認識した時にはすべて遅かった。
「う、ウソだろ……」
こうして僕はただ一人、畳張りの敷物の上で呆ける。
そこへなぜか最悪のタイミングでとある人物からの声がかかった。
「かぐや姫や、少し良いかい」
「!?!?」
やばい! 地球人の老婦人で嫗、つまり姫様の (地球での)育ての母親が御須の向こうから声をかけてきたのだ。
「……かぐや姫?」
「は、はいぃぃ!!」
すぐ返事が出来ず慌てふためいていると怪訝そうな追撃が来て、思わず甲高い声で返してしまう。
すると以前から少しばかり耳が遠い彼女は安心したように。
「少しいいかねぇ」
なんて御須をあげて入ってこようとしたもんだから。
「ちょちょちょっ!? ま、待ってくださいまし!!!! い、今……ええっと……書き物してて……ええっとぉ……ちょい待ち!」
咄嗟に僕は月の科学力を使い姫様に成りすます事を選択する。
「――は、はい。どうぞぉ~」
勤めて口調を真似て (声はちゃんと変換されてるはずだ)言うと、すぐに滑り込むように入ってくる痩せ型だが妙にツヤツヤとしたどこか派手な身なりの老婦人。
出会った頃よりずいぶん羽振りの良い (もちろん我が星の惜しみない養育費のため)様子に、内心半目になりながらも一応愛想笑いはしておく。
「かぐや姫。なにかいつもより元気がなさそうな……」
「へ? い、いやいやいやいやっ! そんなことはないですよ!? わ、わたくしっ、これ以上ないほど上機嫌ですのよ!!」
あれ? 姫様ってこんなキャラじゃないよな。ええっと、もっとおしとやかで……。
「と、とにかくっ! 一体どうしましたか」
「そうよ。大変なのよかぐや姫」
嫗は僕の挙動不審に対して特に不審がる素振りさえなく、相変わらずニコニコと。
「貴女と是非一目会いたいという殿方が五人もいてねぇ」
「ごごごっ、五人!?」
なんでよりにもよって今なんだよ! 絶対に無理だと頭を抱えたくなる。
だって僕は姫様じゃない。姿形こそ何とか誤魔化してるけど、僕だって俳優とかじゃないから絶対に仕草や口調とかでバレるだろ。
バレたらなんて言われるか……それより姫様を危険に晒したとかで僕の首が危ない。いや、色んな意味でさ。
「そ、それは多すぎやしませんか」
「でも押しかけて来ちゃったからねぇ」
ぬぁにが『押しかけて来ちゃったから』だよ!!!!
きっとこの老夫婦、あらかじめ高スペックを選びぬいてこの家に集めたんだろ。これだから地球人ってやつは!
でもこんな本音をダダ漏れさせるわけにはいかないので、僕はぎこちなくても必死で笑顔を浮かべた。
「どんな野郎……じゃなくて。殿方でしょうか」
ぶっちゃけ刑期さえなけりゃ全員ぶっ倒してついでに地球もろとも焼け野原にしたいけど、そういうわけにもいかないよな。
あくまで僕は看守。付き人だの従者だのと姫様には揶揄われるのも悔しいけどそういう立場でもあると思う。
だからこそ何がなんでもこの局面を乗り切らなくちゃいけないんだ。
「そうさねぇ」
白々しい表情でクソば……ゲフンゲフン、嫗は言うことには。
ええっと。
石作皇子や車持皇子にどこぞの右大臣とやらの息子、大納言と中納言のそれぞれ偉いオッサンたちとか。
なんかよく分からないけど、この星における権力者やその坊ちゃんだということ。
んでもってそいつらは揃いも揃って絶世の美女である姫様と結婚したいと鼻息荒くしてる、と。
「かぐや姫や。お前はずっとのらりくらりと結婚を拒んでいるがね、わたしたちは心配なんだよ」
「そうだぞ、かぐや姫よ」
うわっ、突然湧いて出てきたぞこの爺さん。
気付けば嫗の隣に座っているジジイ……じゃなくて翁はさぞ心配ですという様子で僕の顔を覗き込んでくる。
「お前が光る竹の中から産まれた時からそりゃもうワシらは、たいそう大切に育ててきた。だからお前が人の子ではない、きっと神仏かまたは化生の類であると思ってはいたよ。でもなぁ、ワシらとてもうこの歳じゃ。明日をも知れぬ身の上でたった一人、愛し子を残すのは忍びない」
あー、これ長い長いお説教だ。
この爺さん。本心はともかく、姫様を結婚させたくて仕方ないらしい。
地球人の結婚適齢期というのはこんなに早いのかと最初は驚いたさ。だって僕らの星ではそもそも婚姻というのは一部の上級国民、つまり王族のものなんだよな。
僕らみたいな一般市民には正式に結婚するっていうことさえピンとこない。
文化の違い、なんて言われたらそこまでなんだけど。
そんな具合にハイハイワロスと聞き流していたら。
「ほら早く来なさい」
とうながされてハッとする。
「えっ?」
「なにをグズグズしているのだ、かぐや姫」
「そうですよ。殿方をお待たせしてはいけませぬ」
ぐいぐいとジジイとババアに手を引かれはじめて焦り始めた。
「ちょっ、待ってください! ぼっ……いや、わたくし……」
いやいや聞いてないぞ!? 今から求婚者面談するとか!
だいたい結婚自体するって言ってないのに。
っつーか、力強ッ!? 年寄りのクセに二人ともすごい力強く引っ張ってくる。
もはや引きずられる勢いの僕は必死で叫ぶ。
「わかった! 分かりましたからぁっ、痛っ、ちょっと待ってってばぁ!!!」
「逃げようっていってもそうはいきませんよ、かぐや姫」
「そうじゃそうじゃ、観念せぇ」
なんなんだこのジジイとババアのチームワーク。
そんなわけで痛い痛いと喚きながら、部屋を引きずりだされた。
「っ、条件! わかりました、結婚します!!」
そしてついに白旗をあげた僕に二人は笑顔を見せた。
「おうついにわかってくれたか」
「嫗は安心しましたよ。これもかぐや姫の幸せを考えてこそ……」
「だけど!」
彼らの話を遮るように声をあげる。
「条件を出させてください!!」
「条件……?」
そこで僕は必死に説得を試みたのだ。
世の中には色んな男がいると聞く、うっかりクズ男と結婚して浮気三昧からのDVなんてされたら幸せどころか不幸になってしまう。それじゃあ育ててくださったお二人に対しても忍びないではないか、と。
そりゃもう一生懸命、脳みそフル回転だ。
「なるほど……それはそうじゃ」
翁がうなずく。
「その条件とは」
「わたくしの望む物を持ってきて下さることこそ愛の証として、一生その方に仕えたいと思います」
せいぜい無理難題ふっかけてやろう。そうすりゃあ『こんなワガママ女はごめんだ』と男たちは逃げ出すだろう。
我ながらナイスなアイディアだとほくそ笑みながら服の乱れを整え、姫様を気取って微笑む。
「じゃあ行きましょうか」
待ってろよ地球人よ男ども。僕が格の違いを見せてやる。
白い肌に引き立てられる、ぽってりとし
深紅の唇が僕の名を呼ぶ。
「また求婚されちった☆」
「ちくしょぉぉぉぉっ、地球人めぇぇぇっ!!!!」
あっけらかんな姫様とは対照的に僕は頭を抱えていた。
「今度は都の大臣息子だって~」
「野蛮な地球人の身分なんて僕は興味ないですから!!」
ほんっとに次から次へと。
「だいたいあの爺さんも調子乗ってホイホイ縁談受けるなってんだ!」
「翁っていいなさい、一応世話になってるんだから」
まず地球に降り立った姫様に地球人としての生活をさせる場が必要だった。
そこで白羽の矢が立ったのは宇宙船が着陸した付近に住む老夫婦。
ここはもちろん我が星最高峰にして極秘の、催眠洗脳技術で彼らに姫様を大切に育てるように命じた。
そして三ヶ月 (これは地球人としては異例の成長スピードらしいが仕方ない。洗脳で解決だ)
もちろん無償という訳じゃなく、ちゃんとこちらも養育費という名の予算計上して現地の貨幣を支給したので姫様はそれなりに豊かに育てられたみたいだ。
そしてあっという間にそりゃもう美しい美少女に成長した姫様だったけど。
「姫様はまだこの星の肉体年齢でいうところの十代じゃないですか」
「それが結婚適齢期なんでしょ、この星だと」
「まったく正気じゃない!」
ロリコン甚だしいじゃないかと憤る僕とは対照的に、当の姫様は飄々としたものだ。
とはいえ。
「結婚なんてしちゃったらさすがにまずいですって」
現地人の記憶改竄や洗脳だって限界があるし、なにより刑期はもうすぐ終わるんだ。
この仕事を終えて星に帰ることが出来れば僕には昇進と手当、この後のエリート人生が待っているかもしれない。
そんな薔薇色の未来をぶち壊すようなトラブルはできるだけ避けたいのは当たり前じゃないか。
「でもなかなかの高スペック男子たちだったわよ」
「高スペックって。貴女は我が星のお姫様でしょ。こんな野蛮で未開発な人間どもが釣り合うわけが無いじゃないですか」
いくら彼女が性格悪い変人お姫様だとしても、だ。
僕の必死な訴えに彼女は肩をすくめた。
「そうねぇ。さすがにわたくしも地球くんだりまで来た目的を忘れて遊べないしね」
「目的? なんですかそれ」
おいおい僕はそんな話聞いてないぞ。
また姫様の奔放さが良くない方に出ちゃってる。
とにかく天真爛漫で聡明 (確かに賢いのはそうだろう。だって地球の文化もあっという間に身につけてるんだもの)そしてこの絶世の美貌。
認めますよ。姫様はたいそうおモテになるって!
だからってそこらの男にもニコニコ愛想良くしたり話しかけたりして、軒並み恋に堕として楽しむ悪女しないでもいいじゃないか。
さすがに肉体関係までは結ばずともまさに恋心と男心を手玉に取って弄ぶ姿は同じ男として彼らに同情してしまう。
しかもこの三ヶ月だけで僕はこの恋愛におけるトラブル、いわゆる痴情のもつれってやつを秘密裏に処理してきたんだ。
「そんな影の功労者である僕に何を隠してるんですか、姫様」
「あら、トゲのある言い方ねぇ。ふふ、ちゃんと教えてあげるわ」
姫様は秘密を打ち明けるようにそっと僕の耳元に唇を寄せる。
……あ、いい匂いするな。と一瞬だけドキッとしてしまったのは内緒だ。
「探していた人がいるのよ」
「探していた、人?」
こんな星に? 地球人の知り合いでもいたかしらと頭をひねる察しの悪い僕を、彼女は小さく笑った。
「ということであとはよろしく~」
「へ?」
突然、わけのわからないことを言われて反応が遅れた僕は決して悪くない。
そして呆気にとられていた隙に、彼女はさっさとそのやたらかさばる衣服を脱ぎ捨て始めたのだ。
「ちょちょっ!? なにしてんですか!」
「なにって脱いでるのよ。あ~、ほんっとこの服可愛いけど肩こる~」
「待って! 待ってください!! そんなっ、ダメです……見えちゃ……見え――ない?」
てっきり悩ましい一糸まとわぬ姿にでもなるかと思いきや、姫様は流刑前に着ていた星屑色のスーツ姿。つまり異星人ルックなわけで。
「なにぼうっとしてるの。まさか、このわたくしが貴方みたいな坊やの前で全裸になるとでも?」
「坊や……って。また何をしでかすつもりですか!?」
慌てて叫んで手を伸ばすも、ひらりと身軽にかわされた。
そして蕩けるような表情で頬を染め、薄く微笑み一言。
「秘密♡」
とつぶやいてそのまま陽だまりの外へ。
「姫様ぁっ!?」
逃げた、と認識した時にはすべて遅かった。
「う、ウソだろ……」
こうして僕はただ一人、畳張りの敷物の上で呆ける。
そこへなぜか最悪のタイミングでとある人物からの声がかかった。
「かぐや姫や、少し良いかい」
「!?!?」
やばい! 地球人の老婦人で嫗、つまり姫様の (地球での)育ての母親が御須の向こうから声をかけてきたのだ。
「……かぐや姫?」
「は、はいぃぃ!!」
すぐ返事が出来ず慌てふためいていると怪訝そうな追撃が来て、思わず甲高い声で返してしまう。
すると以前から少しばかり耳が遠い彼女は安心したように。
「少しいいかねぇ」
なんて御須をあげて入ってこようとしたもんだから。
「ちょちょちょっ!? ま、待ってくださいまし!!!! い、今……ええっと……書き物してて……ええっとぉ……ちょい待ち!」
咄嗟に僕は月の科学力を使い姫様に成りすます事を選択する。
「――は、はい。どうぞぉ~」
勤めて口調を真似て (声はちゃんと変換されてるはずだ)言うと、すぐに滑り込むように入ってくる痩せ型だが妙にツヤツヤとしたどこか派手な身なりの老婦人。
出会った頃よりずいぶん羽振りの良い (もちろん我が星の惜しみない養育費のため)様子に、内心半目になりながらも一応愛想笑いはしておく。
「かぐや姫。なにかいつもより元気がなさそうな……」
「へ? い、いやいやいやいやっ! そんなことはないですよ!? わ、わたくしっ、これ以上ないほど上機嫌ですのよ!!」
あれ? 姫様ってこんなキャラじゃないよな。ええっと、もっとおしとやかで……。
「と、とにかくっ! 一体どうしましたか」
「そうよ。大変なのよかぐや姫」
嫗は僕の挙動不審に対して特に不審がる素振りさえなく、相変わらずニコニコと。
「貴女と是非一目会いたいという殿方が五人もいてねぇ」
「ごごごっ、五人!?」
なんでよりにもよって今なんだよ! 絶対に無理だと頭を抱えたくなる。
だって僕は姫様じゃない。姿形こそ何とか誤魔化してるけど、僕だって俳優とかじゃないから絶対に仕草や口調とかでバレるだろ。
バレたらなんて言われるか……それより姫様を危険に晒したとかで僕の首が危ない。いや、色んな意味でさ。
「そ、それは多すぎやしませんか」
「でも押しかけて来ちゃったからねぇ」
ぬぁにが『押しかけて来ちゃったから』だよ!!!!
きっとこの老夫婦、あらかじめ高スペックを選びぬいてこの家に集めたんだろ。これだから地球人ってやつは!
でもこんな本音をダダ漏れさせるわけにはいかないので、僕はぎこちなくても必死で笑顔を浮かべた。
「どんな野郎……じゃなくて。殿方でしょうか」
ぶっちゃけ刑期さえなけりゃ全員ぶっ倒してついでに地球もろとも焼け野原にしたいけど、そういうわけにもいかないよな。
あくまで僕は看守。付き人だの従者だのと姫様には揶揄われるのも悔しいけどそういう立場でもあると思う。
だからこそ何がなんでもこの局面を乗り切らなくちゃいけないんだ。
「そうさねぇ」
白々しい表情でクソば……ゲフンゲフン、嫗は言うことには。
ええっと。
石作皇子や車持皇子にどこぞの右大臣とやらの息子、大納言と中納言のそれぞれ偉いオッサンたちとか。
なんかよく分からないけど、この星における権力者やその坊ちゃんだということ。
んでもってそいつらは揃いも揃って絶世の美女である姫様と結婚したいと鼻息荒くしてる、と。
「かぐや姫や。お前はずっとのらりくらりと結婚を拒んでいるがね、わたしたちは心配なんだよ」
「そうだぞ、かぐや姫よ」
うわっ、突然湧いて出てきたぞこの爺さん。
気付けば嫗の隣に座っているジジイ……じゃなくて翁はさぞ心配ですという様子で僕の顔を覗き込んでくる。
「お前が光る竹の中から産まれた時からそりゃもうワシらは、たいそう大切に育ててきた。だからお前が人の子ではない、きっと神仏かまたは化生の類であると思ってはいたよ。でもなぁ、ワシらとてもうこの歳じゃ。明日をも知れぬ身の上でたった一人、愛し子を残すのは忍びない」
あー、これ長い長いお説教だ。
この爺さん。本心はともかく、姫様を結婚させたくて仕方ないらしい。
地球人の結婚適齢期というのはこんなに早いのかと最初は驚いたさ。だって僕らの星ではそもそも婚姻というのは一部の上級国民、つまり王族のものなんだよな。
僕らみたいな一般市民には正式に結婚するっていうことさえピンとこない。
文化の違い、なんて言われたらそこまでなんだけど。
そんな具合にハイハイワロスと聞き流していたら。
「ほら早く来なさい」
とうながされてハッとする。
「えっ?」
「なにをグズグズしているのだ、かぐや姫」
「そうですよ。殿方をお待たせしてはいけませぬ」
ぐいぐいとジジイとババアに手を引かれはじめて焦り始めた。
「ちょっ、待ってください! ぼっ……いや、わたくし……」
いやいや聞いてないぞ!? 今から求婚者面談するとか!
だいたい結婚自体するって言ってないのに。
っつーか、力強ッ!? 年寄りのクセに二人ともすごい力強く引っ張ってくる。
もはや引きずられる勢いの僕は必死で叫ぶ。
「わかった! 分かりましたからぁっ、痛っ、ちょっと待ってってばぁ!!!」
「逃げようっていってもそうはいきませんよ、かぐや姫」
「そうじゃそうじゃ、観念せぇ」
なんなんだこのジジイとババアのチームワーク。
そんなわけで痛い痛いと喚きながら、部屋を引きずりだされた。
「っ、条件! わかりました、結婚します!!」
そしてついに白旗をあげた僕に二人は笑顔を見せた。
「おうついにわかってくれたか」
「嫗は安心しましたよ。これもかぐや姫の幸せを考えてこそ……」
「だけど!」
彼らの話を遮るように声をあげる。
「条件を出させてください!!」
「条件……?」
そこで僕は必死に説得を試みたのだ。
世の中には色んな男がいると聞く、うっかりクズ男と結婚して浮気三昧からのDVなんてされたら幸せどころか不幸になってしまう。それじゃあ育ててくださったお二人に対しても忍びないではないか、と。
そりゃもう一生懸命、脳みそフル回転だ。
「なるほど……それはそうじゃ」
翁がうなずく。
「その条件とは」
「わたくしの望む物を持ってきて下さることこそ愛の証として、一生その方に仕えたいと思います」
せいぜい無理難題ふっかけてやろう。そうすりゃあ『こんなワガママ女はごめんだ』と男たちは逃げ出すだろう。
我ながらナイスなアイディアだとほくそ笑みながら服の乱れを整え、姫様を気取って微笑む。
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