世界を救った勇者ですが童帝(童貞)の嫁になるようです

田中 乃那加

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チート終了勇者様

「い、今、なんて……」

 アレンは耳を疑った。
 しかし目の前の男。王の側近であって大臣、さらに偉大な魔法使いのシセロがため息をつく。

「貴方の顔にくっついているソレは飾り物ですか?」

 実にイヤミっぽい物言いである。
 常に神経質そうな表情を浮かべ、人を馬鹿にした態度と普通に繰り出してくる罵倒。
 アレンは彼のことが、苦手だった。
 女と違って、この男には能力が通じない。
 しかもやたら突っかかってきて、うっとおしい他ないのだ。
 この国の実権は、この大臣が持っている。
 だから冒険中は何度も呼び出され、つまらない用事を命じられウンザリしたものだった。
 
「やれやれ、仕方ない。もう一回だけ言ってあげましょう。感謝して私の足にキスしていいですよ。このメスブタ」
「う、うるさい。さっさと言え、このイヤミ野郎!」

 ついつい口調が荒くなる。
 そんな動揺している様も楽しげに、シセロが口を開いた。

「――貴方には次期国王、ビルガ様と結婚していただきます」
「は、ハァァァ!?」

 次期国王、つまり現在王子のビルガはまだ10歳の少年。
 去年即位したばかりである。

「お前っ、自分が何言ってんのかわかってんのかよ!」
「貴方こそ、なぜ驚くのか理解に苦しみますね。むしろ光栄だと、泣いて嬉ションするべきでしょうに」
「しねぇよッ! 僕をなんだと思ってんだ」
「国の――いや、私の忠実なるメスブタですけど?」
「そこがそもそも間違ってるッ!! 誰がお前のだよ」

 掴みかからんばかりに、怒鳴りつける。
 それを周りはいつもの事だと、呆れて眺めた。
 この二人はいつもこんな感じなのだ。
 常に馬鹿にし、上から目線のシセロに剣士であり勇者でもあるアレンがブチ切れる。
 しかしなんだかんだで、有能なこの大臣が一枚も二枚も上手で丸め込まれる……それがいつものお約束であった。

「だいたい、国王って男だろ。なんで同じ男の僕が結婚するんだよ。ンなもん、そこらの貴族の女か隣国の王女をつかまえてくりゃいいだろ」
「ハァ、これだから庶民は……国王たるもの、結婚相手に男も女もないのですよ。結婚は異性とするべき、は生殖に必死こいてるネズミと同等の文化ですよ」
「おいおい。今、国民の大多数を敵に回しやがったな」
「気の所為じゃないですか?」

 シレッと言い放ち、シセロは跪くこともしないアレンの前に進み出た。

「とにかく国王陛下の命令です。貴方は今日から、童帝ビルガ様の婚約者として花嫁修業をしてもらいます」
「ど、童貞?」
「失礼なことをおっしゃい。童帝、です」

 錯乱のあまり、つまらないボケをしてしまう。
 彼の頭では理解不能だったのだ。
 国の英雄、伝説の勇者、最強の剣士。そんな自分が男と、しかも10歳のガキと結婚するなんて。

「これは決定事項です。逆らうなら、それ相応の処罰を受けて頂きますが?」
「処罰だと……この僕が? この国を魔王から救ったのは誰だと思ってんだッ!」
「やれやれ。それがなんですか」
「!?」

 何を些細な、と馬鹿にしたように鼻で笑う男に驚愕する。

「ここにいる限り、貴方は国王の命令に背くことは許されないのです」
「っ、横暴だ!」
「なんとでもおっしゃい」

 なぜこんな仕打ちを――アレンは夢であれば早く覚めてくれと願った。
 チート能力が効かない男相手に、いくら媚びを売ったとてムダだと反抗し過ぎたか。
 だからシセロはとんでもないイヤガラセを思いついたに違いない。
 だとすればコレは嘘かドッキリか。どちらにせよ、少年王と男剣士が結婚するなんて前代未聞でありえない。
 この魔法と剣の世界であっても人間は男と女しかないし、男が身ごもるなんてありえない。

(いいじゃないか。そのクソッタレなイヤガラセに乗ってやる。んでもって、今度はこのムカつく野郎を大臣から引きずり下ろしてやるッ!!!)

 そう決意してアレンは唇を噛む。
 異世界転生者の意地を見せてやる、と。

「おや? まさか怖いのですか。勇者とあろうお人が、国王と結婚するのが」
「ンなワケないだろっ。お前こそヘタな策略で僕をハメようったって、簡単にいかないぞ」

 早速、全力で煽りにかかるシセロに中指立てて言い返した。
 すると待ってました、とばかりに彼は大きく頷く。

「ハメられるのも、イかされるのも貴方ですけどね。アレン」
「!!!」

 すました顔して、とんだ下ネタをぶち込んでくる。
 思わず怒りと羞恥で赤面したアレンは、睨みつけた。
 サラサラとした長い銀髪から覗く耳は尖っている。
 この魔法使いであり大臣は、エルフなのだ。エルフの容姿はおしなべて美しい。
 涼し気な目元を細め、薄く形の良い唇を不敵に歪め。
 実に腹黒い笑みを浮かべる男。

「今日から、花嫁修業をしましょうね」
「チッ……このクソ外道が」

 ここからが、アレンの受難の始まりである。
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