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星と月と聖女様
「そろそろ観念なさいませ。可愛い子ネズミさん☆」
ステラの表情は、その言葉とは裏腹である。
おおよそ。
『ちょこまかと逃げやがって――ぶち殺すぞ♡』
と言ったところだろうか。
壁も床も一帯、穴だらけである。
「ぐっ……」
床にしたたる血は、紛れなくアレンのものだ。
痺れるような鈍痛。
その傷口はほとんど足に集中しており、このメイドが言う『足を潰す』の意味の通りであった。
どうやら本気で歩行不可能にしたいらしい。
「可愛い外見で、えらくジャジャ馬だな。嫌いじゃないぜ」
「ふふっ、またまた~☆」
それでもまだ、膝はついていない。
魔法は一度だけ。だから慎重にならなければ。
アレンは元々魔法使いではないから、魔力はほとんど持ってないのだ。
そんな彼だが、辛うじてこの魔法が使えるのは冒険中に得た偶然でしかない。
「これで最後ですよ☆」
肩で息をしているのはアレンだけのようで、相変わらず軽々と持ち上げられた刺股はこちらをまっますぐ狙っていた。
「死ね☆」
完全に本音むき出しの殺意ダダ漏れの攻撃に、冷や汗が止まらない。
こんな生活よか死刑にでもされた方がマシとか思ってたのに、やはり目の前になると青ざめるのは仕方ないのだ。
だからこそ、彼は機会を待った。
――そしてその時は来る。
「フン゙ッ!!!」
もう可愛さを取り繕うことも忘れた、野太い声をあげて飛びかかる少女。
避けるには不利な、袋小路。
彼はこの絶体絶命だからこそ、呪文を唱えた。
「!!!」
大きく鳴る、空を切る音。
しかし彼の魔法は、風でも武器を振るうものでもない。
「どうだ効いただろう。数分前の君の一撃さ」
「何を、したの?」
アレンがドヤ顔をきめ、ステラが口を開いた時だった。
ブシュゥッ――と、鮮血が吹き出す。
途端、彼女の足が大きく裂けた。
「あ、やべ。やりすぎたか」
大量の血を床にぶちまけながら、彼女は床に崩れる。
右足がほぼ皮一枚残して、切られたからだ。
……アレンが使える唯一の魔法。
『レディーレ』
簡単に言えば、限定された時を戻すもの。
ステラが放った攻撃のひとつの、その衝撃と攻撃力だけを戻したのだ。
その足を削いだのも、数分前の彼女自身のもので。
条件と言えば、その場所だった。
一番強い攻撃が放たれた場所でないと、発動しない。
だから先程からあえて、追い込まれる形を取ったのだ。
しかし威力が強すぎたか、当たり所が悪かったか。ほんの切り傷のつもりが辺り一面、血の海だ。
「おい……大丈夫か」
「キャハッ☆ いった~い――なんて言うと思ってました?」
「なっ!?」
血溜まり中から、彼女がフラリ立ち上がる。
そして言葉を失うアレンに、微笑みかけた。
「アタシ、実はアンデッドなんです~☆ こんなケガくらい、どうってことないっていうか――あ、これじゃあまたルナに怒られちゃう! もう~っ、あとで一緒に謝って下さいねっ」
「っ、くそっ……」
切り札が効かなかった。
今度こそ、絶体絶命に震えるしかない。
そんな彼に追い討ちをかけたのが、楽しげな彼女の言葉。
「そ・の・ま・え・に! アレン様にも、同じことしちゃおっかな~☆ 大丈夫大丈夫。花嫁の足くらいなくても国王もシセロ様も気にしないですよ☆」
「普通に気にするだろ!」
このままでは両足切断の末、また弄ばれる日々のバッドエンドだ。
というかメイドが人間じゃないとか、聞いたこと無かった。エルフまでは分かる。だがアンデッドとは。
そこらじゅうが血まみれの、どこのスプラッタ系ホラーだという状態。
それでも他に人が来ないというのは、どういうことか。
「さてさて。このアタシを手こずらせた子猫ちゃんには、お仕置しましょうね~。大丈夫、ちょっとイタイだけだから☆」
「ゔっ」
このピンチと足の痛みも相まって、凹みの入った床にへたり込む。
死を覚悟しようにも、それすら絶望的な状態だ。
「くそっ、このキ●ガイ女……」
そう呟いて、眼前に迫る攻撃に目を閉じた瞬間――。
「キャァァァァッ!!!」
けたたましい悲鳴。
激しくあがる煙。
あっという間に、紫煙に包まれた周囲にのたうち回る影。
「――はやくっ、こっちへ!」
小さな手がアレンの腕んだ。
「に、ニア!?」
「ほら。行こう」
いつの間に現れたのだろう。
目の前には少年。
変わらずの、優しい笑みで見下ろしていた。
「なんで……君は……」
「話はあとでね。大丈夫、足は治してあげたから」
「えっ」
確かに気がつけば痛みは消え、立ち上がる事ができる。
その間も断続的に響く絶叫と共に、ズルズルと奇妙な仕草で近づいていく影がひとつ。
「アンデッドにだけ効く、薬草爆弾さ。でもすぐに効果なくなっちゃうよ。だから早く――」
「っ、仕方ないな」
アレンとニアは走り出した。
血の気のひいていた手を、少年特有の高い体温が包み込む。
「アレン、俺が君を守ってあげるからね!」
「……だまって走れ、マセガキ」
一瞬だけ、あのエメラルドグリーンの瞳に心臓が跳ね上がったのがたまらなく悔しい。
舌打ち混じりで吐き捨てたアレンは気が付かなかった。
自分が知らず知らずのうちに、先程より強く彼の手を握りしめていたことに。
「ほんと、バカじゃないの」
小さく不貞腐れた声は、二人の足音に消えた。
ステラの表情は、その言葉とは裏腹である。
おおよそ。
『ちょこまかと逃げやがって――ぶち殺すぞ♡』
と言ったところだろうか。
壁も床も一帯、穴だらけである。
「ぐっ……」
床にしたたる血は、紛れなくアレンのものだ。
痺れるような鈍痛。
その傷口はほとんど足に集中しており、このメイドが言う『足を潰す』の意味の通りであった。
どうやら本気で歩行不可能にしたいらしい。
「可愛い外見で、えらくジャジャ馬だな。嫌いじゃないぜ」
「ふふっ、またまた~☆」
それでもまだ、膝はついていない。
魔法は一度だけ。だから慎重にならなければ。
アレンは元々魔法使いではないから、魔力はほとんど持ってないのだ。
そんな彼だが、辛うじてこの魔法が使えるのは冒険中に得た偶然でしかない。
「これで最後ですよ☆」
肩で息をしているのはアレンだけのようで、相変わらず軽々と持ち上げられた刺股はこちらをまっますぐ狙っていた。
「死ね☆」
完全に本音むき出しの殺意ダダ漏れの攻撃に、冷や汗が止まらない。
こんな生活よか死刑にでもされた方がマシとか思ってたのに、やはり目の前になると青ざめるのは仕方ないのだ。
だからこそ、彼は機会を待った。
――そしてその時は来る。
「フン゙ッ!!!」
もう可愛さを取り繕うことも忘れた、野太い声をあげて飛びかかる少女。
避けるには不利な、袋小路。
彼はこの絶体絶命だからこそ、呪文を唱えた。
「!!!」
大きく鳴る、空を切る音。
しかし彼の魔法は、風でも武器を振るうものでもない。
「どうだ効いただろう。数分前の君の一撃さ」
「何を、したの?」
アレンがドヤ顔をきめ、ステラが口を開いた時だった。
ブシュゥッ――と、鮮血が吹き出す。
途端、彼女の足が大きく裂けた。
「あ、やべ。やりすぎたか」
大量の血を床にぶちまけながら、彼女は床に崩れる。
右足がほぼ皮一枚残して、切られたからだ。
……アレンが使える唯一の魔法。
『レディーレ』
簡単に言えば、限定された時を戻すもの。
ステラが放った攻撃のひとつの、その衝撃と攻撃力だけを戻したのだ。
その足を削いだのも、数分前の彼女自身のもので。
条件と言えば、その場所だった。
一番強い攻撃が放たれた場所でないと、発動しない。
だから先程からあえて、追い込まれる形を取ったのだ。
しかし威力が強すぎたか、当たり所が悪かったか。ほんの切り傷のつもりが辺り一面、血の海だ。
「おい……大丈夫か」
「キャハッ☆ いった~い――なんて言うと思ってました?」
「なっ!?」
血溜まり中から、彼女がフラリ立ち上がる。
そして言葉を失うアレンに、微笑みかけた。
「アタシ、実はアンデッドなんです~☆ こんなケガくらい、どうってことないっていうか――あ、これじゃあまたルナに怒られちゃう! もう~っ、あとで一緒に謝って下さいねっ」
「っ、くそっ……」
切り札が効かなかった。
今度こそ、絶体絶命に震えるしかない。
そんな彼に追い討ちをかけたのが、楽しげな彼女の言葉。
「そ・の・ま・え・に! アレン様にも、同じことしちゃおっかな~☆ 大丈夫大丈夫。花嫁の足くらいなくても国王もシセロ様も気にしないですよ☆」
「普通に気にするだろ!」
このままでは両足切断の末、また弄ばれる日々のバッドエンドだ。
というかメイドが人間じゃないとか、聞いたこと無かった。エルフまでは分かる。だがアンデッドとは。
そこらじゅうが血まみれの、どこのスプラッタ系ホラーだという状態。
それでも他に人が来ないというのは、どういうことか。
「さてさて。このアタシを手こずらせた子猫ちゃんには、お仕置しましょうね~。大丈夫、ちょっとイタイだけだから☆」
「ゔっ」
このピンチと足の痛みも相まって、凹みの入った床にへたり込む。
死を覚悟しようにも、それすら絶望的な状態だ。
「くそっ、このキ●ガイ女……」
そう呟いて、眼前に迫る攻撃に目を閉じた瞬間――。
「キャァァァァッ!!!」
けたたましい悲鳴。
激しくあがる煙。
あっという間に、紫煙に包まれた周囲にのたうち回る影。
「――はやくっ、こっちへ!」
小さな手がアレンの腕んだ。
「に、ニア!?」
「ほら。行こう」
いつの間に現れたのだろう。
目の前には少年。
変わらずの、優しい笑みで見下ろしていた。
「なんで……君は……」
「話はあとでね。大丈夫、足は治してあげたから」
「えっ」
確かに気がつけば痛みは消え、立ち上がる事ができる。
その間も断続的に響く絶叫と共に、ズルズルと奇妙な仕草で近づいていく影がひとつ。
「アンデッドにだけ効く、薬草爆弾さ。でもすぐに効果なくなっちゃうよ。だから早く――」
「っ、仕方ないな」
アレンとニアは走り出した。
血の気のひいていた手を、少年特有の高い体温が包み込む。
「アレン、俺が君を守ってあげるからね!」
「……だまって走れ、マセガキ」
一瞬だけ、あのエメラルドグリーンの瞳に心臓が跳ね上がったのがたまらなく悔しい。
舌打ち混じりで吐き捨てたアレンは気が付かなかった。
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