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美少女()のおねえさんといっしょに

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 まぶたが重く、かすかな耳鳴りと頭痛でうめいた。
 身動ぎすればギシリと音を立てたそれは、見知ったどの部屋のベッドとも違う。

「ぅ……ん?」

 アレンは、必死でこじ開けるように目を開いた。
 最初に視界に入る、薄暗さとランプの灯り。

「ここ、は」
「目、覚めた?」
「!!!」

 声が降ってきた。
 その方向に顔を向けようとすると、すぐに違和感が襲う。

「なっ、なんだ、これ!?」

 手足を古びたベッドに縛り付けられている。
 手足それぞれ、四方に縛り付ける縄が小さくきしむ。
 痛みにだんだん視界が鮮明になるたびに、事態の異常さに気がついた。

「ふふ、ビックリしたって顔してる」
「君は……ルナ」

 メイドのひとり、ルナが悠然とたたずんでいる。
 その姿はなぜか黒いマントにおおわれていた。

「お薬の量、間違えちゃったかなって心配してたけど。大丈夫みたい」

 いつもなら人形めいた美しいが表情乏しい顔が、別人のように笑みを作っている。
 さらに言うなら口調もかなりくだけて、ステラの非礼をたしなめていた姿はない。
 そしてアレンが目をむいて驚くのを、楽しいそうに見つめてからルナはゆっくりと近づいて来た。

「アレン様って、前々から思ってたけれど。とても美味しそう」
「えっ? あ、ちょっ、なにを!」

 するり、と頬をなでて華奢で白い手が服に掛かる。

「服なんて、ジャマだね」
「!!!」

 するとまるで濡れた紙のように、呆気なく引き裂かれる布地。みるみるうちにただのボロきれになって、手足に絡まった。

「うふふ、いい格好」
 
 たちまち全裸になった彼を、見下ろす瞳。それは薄闇に、紅く爛々らんらんと輝いていた。

「なんなんだっ!? おい、やめろってば!」
「照れてる? 可愛い」

 指先をすべらせて身体をくすぐっていく彼女に、声を上げても返ってくるのはウットリとした言葉だけ。
 身をよじろうにも、縛り付けられた縄が手首や足首を痛めつける。悔しげに喉の奥でうなることしかできない。

「もう我慢できない――食べちゃお」

 熱に浮かされたような声のあとに、ルナがベッドに乗り上げてきた。
 ひときわ大きな軋みとともに、覆いかぶさってくる美少女。銀髪の長い髪が、裸の胸に触れる。

「る、ルナ……」
「あなたが欲しくて仕方ない」

 まさかここへきて女の子に迫られるとは思わなかった。
 戸惑うような嬉しいような。いや、普通に期待の眼差しを向けたアレン。
 そりゃそうだろう。このところ、男にばかり押し倒されていた事を考えれば。
 元々ノンケで女関係の絶えない彼としては、こういう状況でも悪くないワケで。

「まぁ、君がソノ気なら僕は全然かまわないけどさァ」
「あら、そうなんだ。じゃあいただきます――」
「い゙!?」

 嬉々として唇を寄せてきたものだから、最初はキスからかと目をつぶったのに。
 感じたのは首筋を襲った、鋭い痛み。
 恐る恐る目を開ける。

「ま、まさか」
「んくっんぐっ……やっぱりアレン様の血、美味しい♡」

 そう、この美少女。彼の血を飲んでいた。それはもう美味しそうに。幸せそうに。

「んんっ、このスッキリとしつつも濃厚な後味。クセは少なめで、それでいて淡白ではない。これは100人――いいえ、1000人に一人の至高の血液! 素晴らしいっ、こんな一級品」
「ほ、褒めてもらってありがたいんだが……っ、なに勝手に吸血してんだ!」
「あれ、驚かない? わたしが吸血鬼ヴァンパイアだって」
「驚いたら負けだろ、こういうの」

 今さら、いちいちビビってられない。

「しかしまさか。ステラ同様、君までアンデットとは……」
「ムッ、失礼な。確かに同じアンデット種だけど。ステラはゾンビ、わたしはヴァンパイア。一緒にされては困る」
「僕にとっては、どっちもどっちだぜ」

 足をぶった切られるか、血を吸われるかの違いである。
 
「僕の血は、そんなに美味かったのかよ」

 体液を吸われるくらいなら、と余裕かましたアレンが彼女を見上げた。
 ルナは唇のはしに付いた血を舐めとると、大きくうなずいて答える。

「もちろん、とても美味しかったよ。前々から、魔物たちの間では有名だったけど、これほどとは……」
「ハァ? どーゆーことだ」
「それはさておき」
「さておくなっ、気になるだろ!!!」
「良いじゃない。せっかく、二人きりになれたんだから♡」
「……」

 どうやら彼女。ステラとマリアが出ていった後、紅茶に薬を入れたらしい。
 それで眠り込んだアレンを、この場所――城から少し離れた廃教会へ連れ込んだ。

「ここ、わたしとステラの元隠れ家でね」

 懐かしそうに見渡す廃屋は確かに、打ち捨てられた教会であった。
 朽ち果てる寸前の十字架が、彼らを見下ろしている。

「でもアレン様の事を聞いて、お城にメイドとしてきたわけ。ステラはともかく、わたしはとても優秀だったでしょ?」

 仄かな灯りに輝く髪をかきあげる。
 その頬は上気し、彼女の吐息が乱れているのを感じた。

「ねぇアレン様、わたしとしたくない?」
「い、イイコト……」

 ごくり、と喉を鳴らすのは男として当然だ。
 縛られてなければ速攻押し倒してしまいたいくらいに、ルナは悩ましげな色気で彼を見下ろしている。

「気持ちよく、なりましょ?」
「は、はい」

 久しぶりに女が抱ける。
 この事だけでアレンの期待値は爆上げであり、首を縦に振るしか選択肢はなかったのである。

「ふふ……可愛がって、あ・げ・る♡」

 ルナの身体を包んだ黒いマントが、衣擦れをさせて滑り落ちた――。
 

 



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