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脳筋男と女装男子と暴走娘のミッション1

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 やはりアレックスは童貞だったのか。
 ぎこちなさのあるセックスではあった。

「あ゙っあぁ゙っ、っぐ、うぅ」

 押し込まれた彼のそれは大きく、受け入れる側もうめき声を堪えきれない。

「すまねぇ。大丈夫、か」

 そっちもキツいのだろう。眉を寄せた顔でも、心配の言葉をかけてくる。

「大丈夫、なワケっ……ないっ、だろ」
「そうか」
「っおい、途中でやめんな」

 散々キスを浴びせてきた唇を、指でなぞる。

「せいぜいっ……ん゙ぅっ……がんばれ、よ。どーてー、野郎」
「ああ、お前には適わねぇな」

 熱い息を吐いての悪態をつけば、目の前の男が苦笑いをするのを見た。
 それから再び降ってくる口付けを、無意識で受け入れる。
 ぴちゃり、という小さな水音が互いの舌を絡ませるたびに耳朶をも犯す。
 どの男と身体をつなげても、こんなキスをしながらなんてなかった。大抵、喘ぎ泣くのを無理矢理開かれるだけだったから。
 不器用な挿出も、きっと渾身の理性を総動員させているのだろう。本当は本能のまま、突き上げて抱き潰してしまいたいのを必死でこらえている。
 辛そうに流す汗が、アレンの胸に落ちた。

「アレックス……もっ、と」
「しかし」
「なに、遠慮してんだ。この、アホゴリラ」

 耳元でできるだけ余裕そうに囁く。
 そんな芸当、できているのかも分からない。しかしそうしなければいけない気がした。
 この男の快楽に惚けた顔を、見てやりたいと思ったのかもしれない。
 それとも。

「っ、足りない。退屈で、眠っちまい、そう――っうぁ」
「そうか」

 覆いかぶさっていた男が起き上がり、笑った。
 ゾッとするほどに、美しい笑みで。
 顔にはしる傷跡すら、魅力的に思えるほどに。

「お前は本当に、優しい奴だな。惚れ直したぜ」
「な、なにをっ……あうっ」

 腰を掴み、大きくグラインドさせる。
 貪るようなその動きに。大きく太いオスの象徴が、えぐる様が嫌でも目に入ってくる。
 圧倒的な征服を見せつけられ、身体だけでなく頭の芯まで蕩けてしまう。

「ん゙んっ、あぁっ、うぅ、はげしっ、ぉお゙っ」
「アレン、アレン」

 壊れたように喘ぎ声しかあげられない彼の名は、何度も呼ばれる。
 時折降ってくる口付けは、優しく甘い。
 その逞しい身体にすがりつきながら、小さく舌を出して応えてしまうのはメスの本能か。

「アレン愛してる」
「……ばか、やろ」

 苦々しくつぶやき、アレンは諦めたように瞳を閉じた。




※※※

「アンタ達ねェ」

 気だるげな一瞥と、吐き出された紫煙。
 、二人をジロリと睨めつけていた。

「良い根性してんじゃあないのさ」

 笑みは辛うじて浮かべていたがその瞳は鋭く、静かな怒りを宿している。

「ええっと、あの……これには事情が……」
「ふむ。根性はあるとよく言われるな」

 二人、アレンとアレックスはそれぞれの反応だ。
 萎縮いしゅくして大汗かくのに対し、この大男は何故かドヤ顔で胸を張っているのだから。

「お、おいっ。アレックス!」

 慌ててその脇腹を小突くが、何も分かっていないらしい。
 その頭の中には、脱童貞と好きな人との初セックスの余韻でいっぱいになっているのか。

「いっぺん死ねばいいネ。このホモ野郎」

 冷たく言い放つのがミナナ。完全にやさぐれた顔をしている。

「フンッ、そこのビッチとお似合いネ」
「そ、そんな……」
「おいテメェ」

 アレンにも中指立てた彼女に、唸りを効かせたのがアレックスである。

「俺の妻をビッチ呼ばわりとは。表出ろ、この小娘」
「受けて立つネ、変態ゴリラ」
「これ以上ないという、清純さなんだぜ」
「仕事放り出してラブホ行くヤツらに言われたくないヨ!」

 まったくその通りである。
 あれから数時間に及ぶ行為に、すっかり自らの立場と仕事を忘れてしまったわけだ。
 そして顔面蒼白で、上司であるヘラに呼び出し食らったのが一夜明けのこと。

「おいひがんでるのか、オレが脱童貞したからって」
「なんでソコひがむネ! このスットコドッコイ!!」
「ふふっ、今のオレは自信に満ち溢れている」
「話聞けヨ、このアホーッ!」

 この男が話を聞かないのは誰に対しても、変わらないらしい。
 そして隙あらばアレンの腰やら肩やら抱いてくるし、道を歩いていても警戒心満々。完全に束縛の激しい彼氏……いや旦那ツラだ。

「お盛んなのは結構だけど、ねェ」

 ダンッ――と煙草を床に投げ捨て、足で踏みにじる音。
 場に緊張がはしる。
 深紅の唇を歪め、ヘラが舌打ちした。

「幸せボケもたいがいにね?」
「っ、す、すいませんんっ!」

 即座に謝ったのはアレンだ。
 アレックスは相変わらず後ろから彼を抱きしめて髪の匂いを嗅いでいる。
 さながら『女上司にビビるオレの嫁、めっちゃカワイイ』ってなところだろう。
 
「おいっ、君は少し反省しろ! そして離れろっ」
「嫌だ」
「てか、ハァハァすんな。気持ち悪ぃな」
「オレはすごく気持ちいいが」
「ひっ……なんか当たってる!?」
「おっと。オレの短刀が」

 腰にゴリゴリ当たっているのは、短刀どころ巨根エクスカリバーである。
 ソレで昨日は散々泣かされた者としては、青くなるやら赤くなるやら。

「下ネタとしても最低だろ」
「おい、今日は教会行こうぜ。もう我慢出来ねぇ。マジで籍入れる」
「なにトチ狂って――あっ、ヘンなとこ触るな!」
「変なとこじゃなく、イイトコロだぜ」

 とんだ変態性欲魔人である。
 そんな蛮行を止めたのが、ヘラのため息まじりの言葉。

「イチャつくのは他所でやりなさい。あと、ミナナは銃を下ろして」
「……チッ」

 すっかり三白眼で銃を構えていた娘をたしなめ、ヘラは肩をすくめた。

「もう一回言っとくけどねェ。アンタは自分の立場を考えなさい」
「うっ」

 確かにこの変装 (女装)のおかげか、いよいよ露骨に町をうろついている兵士たちに捕えられずにいるのだ。
 アレン・カントールであるとバレてしまえば、また元の生活に逆戻り。
 花嫁修行だのという名目で、セックス漬けの日々だ。

「手っ取り早く、国にアンタを売ってしまう方が金になるならそうするけど」
「それは……」

 切実にやめて欲しい。あのドSで腹黒エルフのことだ。二度目は、どんな仕置をされるか分からない。
 思わず青ざめて、震えてしまう。

「そうはさせねぇ」

 不機嫌そうな声はアレックスだ。仮にも雇い主であり、女上司に対するものとは思えぬ形相であった。

「オレが守るぜ」
「姫君を守る騎士ナイトってワケね。でも、自惚れんじゃあないよ」

 唇のはしをつりあげ、皮肉げに笑った彼女の赤いネイルが突きつけられる。

「アンタの拳は、確かに強いかもしれない。でも、むこうにはあの偉大なる魔法使い様がいるんだからね。ただでさえ魔法耐性ゼロでしょ」
「ううむ」

 もっともな指摘だったらしい。低くうなった男は、悔しげに黙り込んでしまう。

「ったく、仕方ないわねェ。アンタ達、これが最後のチャンスよ」
「え?」
「この仕事が成功したら、アタシが責任を持ってこの二人を逃がしてあげる。もちろん、お代は頂かないわ」

 ヘラの言葉に、二人は目を見開く。
 
「そ、そしたら」
「ええ。晴れて自由の身よ」
「そうか」

 アレンは自身の自由の可能性に喜び、アレックスは彼と結ばれるとガッツポーズをする。
 まぁ二人の思惑はそれぞれであるが。

「なにを、すれば良いんです?」

 前のめり気味でたずねる。すると彼女は悠然と微笑んだ。

「簡単なことよ」

 そして次の言葉に、二人は再び絶句するこもになった。

「――ある人間を。子どもを、暗殺してきなさい」

 事も無げに言い放って、赤い髪をかきあげる。
 とんでもない物騒な話だった。

「あ、暗殺!?」
「おい待て。なぜそんな事をオレ達に……」

 確かに彼女は、裏社会の仕事を生業なりわいとしていたらしい。
 だが、せいぜい運び屋程度だったはずである。
 それが一足飛びに暗殺。しかも子どもを。
 彼らがたじろくのも無理はない。

「拒否権は、まぁ認めるわ。でも、そんな立場じゃない――って思うけどねェ」
「そんな。子どもを殺す、なんて」
「あら。ただのガキじゃないわよ」

 シガーケースを取り出し、一目で高級と分かる煙草を取り出す。
 すかさず、横から火を差し出したのはミナナだ。

「その少年の名はビルガ、我が国の次期国王であられるお方ね」

 うたうように応えるが、その瞳は猫のように細められている。

「そ、それはつまり……」

 こともあろうに童帝を暗殺せよ、というのだ。

「ふふふ、言ったはずよ」

 綺麗に整えられた爪の先が、アレンの頬をそっと撫でる。

「アンタは拒否できる立場にない、って」
「貴女は、何をたくらんでいるんだ」
「悪い話じゃないわよねェ。アレン・カントール……国王の花嫁」

 赤い瞳の奥には、戸惑い迷う己の姿を見たアレンであった――。
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