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脆弱なる転生者は魔王になった
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穐山 泰親、それがこの男の名前であった。
異世界における、魔王の前世。
平和と言われた東のある国に生まれ、核家族の極普通で平凡と言われる家庭に生まれ育つ。
しかし何故か物心着く頃にはすでに、彼の心の中には大きなコンプレックスが根付いていた。
五歳違いの学業やスポーツ、すべてにおきて優秀な兄に対しての平均以下な自分。
いや、それだけではないのだろう。
とにかく彼は自己評価が低く、内向的な少年に成長していた。
人付き合いも上手くいかない。
自分という存在を否定し、殻に閉じこもる。
友人をつくることすらなく、学校も休みがちに。
そして中学ですでに不登校になっていた。
「あー……」
見慣れた天井を見て、短い声をあげる。
それは言葉なんてものではなく、単なる呻きだ。
日がな一日。ほぼ一人でいれば、言葉も発するのも容易でなくなるらしい。
(消えたい)
死にたい、と思うほどの気力も無い。
ただ消えてしまいたい。
スーッと指の先から透明になって、この澱んだ空気の中に溶けてしまえたら。
そんな意味の無い妄想。
「死んだら……異世界にでも転生できるかな」
ますます荒唐無稽なおとぎ話だ。
もういい歳なのだから、分かっている。人間は透明にはなれないし、死んだらそこで終わりだ。
異世界転生の無双は、単なる現実逃避で即物的な想像に過ぎない。
知ってるからこそすがりたくなる。それくらい、人生に絶望していた。
「ハァ」
『自分が世界で一番不幸だ、なんて思ってるのか』
この前兄に投げつけられた言葉を思い出す。
他人からは、自己憐憫や被害妄想で閉じこもっているように見えるのだろう。
それは事実でもあり、また的外れでもあった。
「だいたい幸とか不幸なんて、比べるものじゃないだろ……」
そう言い返してやれば良かったのだ。
実際はオドオドと目を逸らし、逃げるように自室へ戻るだけ。
後からこうしてつぶやくのが関の山なのだ。
この卑屈でキモチワルイ性格が嫌だ、なんて頭を抱えた時だった。
「おい、泰親! いるんだろ。開けろよ」
「!!」
大きな音を立てて叩かれる部屋のドア。
先ほどの反応が気に入らなかったのか、兄の怒鳴り声が響く。
恐怖が全身を支配する。
「あ、兄貴……」
「いつまでそうやってるんだ。父さんと母さんに心配かけやがって!」
ドアを破る勢い。
一応自分でつけた鍵はかかっているが、それも不安なくらいの暴挙に気が気でない。
「いつまでそうやって甘えてんだよっ」
「あ……あ……」
兄にはいつもぶん殴られてきた。
本人としては愛のムチだったり親愛の証だろうが、受ける者にとっては暴力には違いない。
それが彼をより一層萎縮させ、何も知らない両親に失望の目を向けられる。
兄に出来て弟には出来ない。出来損ない、恥知らず。お前なんて産むんじゃ無かった――その心で負った傷は癒えることはないだろう。
「このドアをぶち破ってでも入るからな!」
(ああもうダメだ)
逃げらかされない。
恐怖でパニックになった頭を振り、爪を噛む。
捕まる。また嫌というほど殴られるのだ。どこぞの全寮制の学校にでもやられるのかもしれない。
それならいっそうのこと。
「泰親!」
大きく名を呼ぶ声。
押されるように窓枠に足をかける。
一戸建てでなく、マンションだ。
下に広がるのは遥か遠いアスファルト。落ちれば怪我だけでは済まないだろうか。
しかしそんなことを考えている余裕は無かった。
「――っ!!」
大きく踏み出せば、目に痛いほどの青空が目に入る。
目が潰れてしまいそうな程に、鮮やかなそれは訪れる最期を予期させた。
ああ落ちる、とつぶやくヒマもなく。
(あ)
大きく目を見開いたまま、アスファルトに叩き付けられる。
光を失いつつある瞳には青空を映し、背中には紅い鮮血の花が広がった。
――転落死。
薄れゆく意識の中。
ふと思い出したのは、ある人物の顔であった。
※※※
「……ここ、は」
気が付けば何も無い、背景の真っ白な部屋にいた。
まるで何も書かれていない白紙の紙のような。いくら遠くを見渡しても、どこまでも続く不透明な景色。
「はいはいーい。起きてくださ~い……って、もう起きてるじゃん!」
「!?」
突然にゅっと現れたのは女。
そう、ご存知。女神である。しかし彼は知らないもので、ペラペラと軽快に喋り出すノーテンキそうな口元を、呆然と眺めた。
「――んで! 超びゅーてふるですぺしゃるな、わたくしが直々に……って聞いてます?」
元々女性は苦手だ。特に、こうやってよく喋るタイプは。
だからドン引きしていたし、なんなら逃げ出したいと思っていた。
「あ、あのぉ。ぼく、忙しいんで」
「ノンノンノン! 死んで何が忙しいっていって言うんですかぁ? 」
「し、死んだ!? ぼく、死んだんですか!」
「もうっ、全然わたしの話聞いてくれてないじゃないですか」
「えっ。だって長いし、めんどくさい」
「うぐっ。この子、大人しい顔してなかなか辛辣だわ……」
なんだかんだ言って、まだ十代の子どもなのだ。
訳わかんないモノには、訳わかんないと素直に返すのは当たり前である。
するといきなり現れた女神 (と自称している)にビシィッ! と指を突きつけられた。
「もう一回言います。貴方はもう、死んでいるっ!」
「……はぁ」
「じぇ、ジェネレーションギャップぅ!? ノリが違うっ。思ってたんと違うぅぅぅっ!」
「……」
冷めた反応に、ゴロゴロと転げ回って嘆く女神。
『最近の若い子こわっ! 冷たい目してるぅぅぅっ、オヤジ狩りに合うぅぅぅっ!!! 』など喚き散らしている。
正直、彼としてはポカーンだ。
「あ、あの」
死んでるのは薄々知ってたし、なんなら受け入れていた。
あの時。窓から飛び出したのは死ぬためというより逃げるためだったけど、どちらも大して変わらない。
どうせそのまま意識が途切れて終わり、か。地獄にでも行くのかもと思っていたのに。
「ぷぷっ、地獄って。人間ってどーしてこうも他罰的なのかなぁ?」
「えっ」
女神は腕を組んで呆れた様子で肩をすくめた。
「生まれて死ぬのは確定なんですから。どう生まれてどう生きて死ぬなんて、神様がいちいちジャッジしてるワケないじゃないですか~。そーゆーのは、自意識過剰っていうんですよ」
「で、でも」
「チッチッチッ。少年よ、ふつーなら死んだらここで終わり。適当なトコロでまた繰り返しの転生輪廻なんですけどね。で・も、この美しくて可憐で豊満ボディな女神様が……」
「じゃあそれでお願いします」
「てか話を最後まで聞かんかぁぁぁいッ!!!」
視線を合わせず即答すれば、大声なツッコミが入る。
つくづく、めんどくさい女神だ。
「耳の穴かっぽじって、よぉぉぉっく聞いてくださいね! な、な、なんとーっ、貴方を魔王に転生させちゃいますッ!!!」
「……はぁ」
「反応うっす! なにその塩対応っ。女神様もビックリの超塩味!! ど、どーしたんですか!? 魔王ですよ? しかも今なら超強いチートな能力付き!」
「あー」
そんなコトを言われても、胡散臭いばかりである。
正直、ヤバい人には関わりたくないのが現代人。彼も例外ではないのだ。
なんだかよく分からないけど、この場を立ち去ろうと後ずさりする。
「ちょ、なに逃げようとしてんですか! こーなったら何がなんでも、異世界転生者として魔王やってもらいますからねっ」
「魔王って。普通、勇者とかじゃないんですか?」
「まぁ諸事情ありましてぇ……モゴモゴ」
急に歯切れが悪くなった。
ますます怪しいとつぶやけば。
「もう御託はいいからっ、ほらサッサとこれ引いちゃってください!」
「は、箱?」
そう。箱である。
えらく作り感満載なそれは、なぜか軽くひしゃげていた。
「これ壊れてませんか」
「壊れてないですよ。ちょっと酔っ払って部屋で金属バット使って素振りして、サヨナラ満塁ホームランしちゃっただけだから」
「思いっきり壊してるじゃないですか」
「は、箱が貧弱貧弱ゥなのがいけないんだもん……」
今度はイジイジと床にしゃがみこんでいじけだすから、落ち着きがない。
これはもう早く言う通りにしてしまって、転生でも何でもしてしまおうと箱に手を伸ばす。
「しょうがないなぁ」
「チートガチャなんですから、景気よく引いちゃってくださいね!」
「ガチャって……」
商店街のしょぼい福引きのほうが、まだちゃんと作ってある気がする。
一見すれば普通のダンボールにマジックでデカデカと『最強ちーと★がちゃ』なんて書いてある、恐ろしくアホっぽい箱。
妙なことになっちゃったなぁと、ため息つきながら手を突っ込んだ。
「ええっと。はい」
「早っ! もっと元気に引いてくださいよ。なんかすっごいやり投げ……じゃなくて投げやりなんですけど」
「ぶっちゃけ、すごく投げやりです。めんどくさいし」
「めんどくさいって二回も言った!! 親父にも言われたことないのにぃぃぃっ」
「女神さんって、お父さんいるんですか」
「むっ、失礼な! だいたい女神っていっても――ってこの話はさておき」
なにか不都合なことでもあったのか、コホンと誤魔化すように咳払い。
そして彼が取り出したカプセルを見る。
「これはっ……」
みるみるうちにカプセルが溶け、手の中には一本の小瓶。
「超当たり引いちゃってるじゃないですかァァァっ!!!」
「当たり?」
いまいちピンとこない。
虹色の液体が満たされた小瓶を指でつまんで観察する。
不思議な光を放ち、ちゃぷんと揺れた。
「で、これ飲めばいいんですか」
「なんでそんなにテンション低いんですかっ!」
「えー、だってなんか不味そうだし」
「令和っ子ってこんなもんなの!?」
「いや。ぼくは普通に平成生まれですし」
「そーゆーコトじゃないんです!! この能力はほんと凄いんですからねっ。世界征服間違いなしで、魔王は魔王でも主役張れるレベルの――」
「なんだかよくわかんないなぁ」
(元の世界では主役どころか、そこらのモブにだってなれなかったのに)
勉強もスポーツもダメ。
趣味もないし、楽しいことも少なかった。
恋も一度だけしたけど、それも叶うはずのない片思いだけだった。
無理通わされた名門私立小学校に通学する時、バス停でいつも見かけた年上の綺麗な人。
結局。公立の中学校に入って会うことも無くなったし、自分から会いに行く勇気もなく諦めた。
(ああ、あの人元気かな)
死ぬ前に一回くらい会いたかった、と深いため息が漏れる。
「ちょ、聞いてます!?」
「いえ。全然」
「だーかーらっ、女神の話ききなさいぃぃぃっ!!!」
(ほんとめんどくさいな)
少年は無言で、瓶の蓋をあけた。
「あっ、いきなり」
「魔王に転生でしたっけ? ……いいですよ」
泰親は顔をあげ、うっとおしい前髪をかきあげる。
「せいぜい、その来世ってやつでは好きにさせてもらいますから」
そう宣言すると、瓶の中身を勢いよくあおった。
異世界における、魔王の前世。
平和と言われた東のある国に生まれ、核家族の極普通で平凡と言われる家庭に生まれ育つ。
しかし何故か物心着く頃にはすでに、彼の心の中には大きなコンプレックスが根付いていた。
五歳違いの学業やスポーツ、すべてにおきて優秀な兄に対しての平均以下な自分。
いや、それだけではないのだろう。
とにかく彼は自己評価が低く、内向的な少年に成長していた。
人付き合いも上手くいかない。
自分という存在を否定し、殻に閉じこもる。
友人をつくることすらなく、学校も休みがちに。
そして中学ですでに不登校になっていた。
「あー……」
見慣れた天井を見て、短い声をあげる。
それは言葉なんてものではなく、単なる呻きだ。
日がな一日。ほぼ一人でいれば、言葉も発するのも容易でなくなるらしい。
(消えたい)
死にたい、と思うほどの気力も無い。
ただ消えてしまいたい。
スーッと指の先から透明になって、この澱んだ空気の中に溶けてしまえたら。
そんな意味の無い妄想。
「死んだら……異世界にでも転生できるかな」
ますます荒唐無稽なおとぎ話だ。
もういい歳なのだから、分かっている。人間は透明にはなれないし、死んだらそこで終わりだ。
異世界転生の無双は、単なる現実逃避で即物的な想像に過ぎない。
知ってるからこそすがりたくなる。それくらい、人生に絶望していた。
「ハァ」
『自分が世界で一番不幸だ、なんて思ってるのか』
この前兄に投げつけられた言葉を思い出す。
他人からは、自己憐憫や被害妄想で閉じこもっているように見えるのだろう。
それは事実でもあり、また的外れでもあった。
「だいたい幸とか不幸なんて、比べるものじゃないだろ……」
そう言い返してやれば良かったのだ。
実際はオドオドと目を逸らし、逃げるように自室へ戻るだけ。
後からこうしてつぶやくのが関の山なのだ。
この卑屈でキモチワルイ性格が嫌だ、なんて頭を抱えた時だった。
「おい、泰親! いるんだろ。開けろよ」
「!!」
大きな音を立てて叩かれる部屋のドア。
先ほどの反応が気に入らなかったのか、兄の怒鳴り声が響く。
恐怖が全身を支配する。
「あ、兄貴……」
「いつまでそうやってるんだ。父さんと母さんに心配かけやがって!」
ドアを破る勢い。
一応自分でつけた鍵はかかっているが、それも不安なくらいの暴挙に気が気でない。
「いつまでそうやって甘えてんだよっ」
「あ……あ……」
兄にはいつもぶん殴られてきた。
本人としては愛のムチだったり親愛の証だろうが、受ける者にとっては暴力には違いない。
それが彼をより一層萎縮させ、何も知らない両親に失望の目を向けられる。
兄に出来て弟には出来ない。出来損ない、恥知らず。お前なんて産むんじゃ無かった――その心で負った傷は癒えることはないだろう。
「このドアをぶち破ってでも入るからな!」
(ああもうダメだ)
逃げらかされない。
恐怖でパニックになった頭を振り、爪を噛む。
捕まる。また嫌というほど殴られるのだ。どこぞの全寮制の学校にでもやられるのかもしれない。
それならいっそうのこと。
「泰親!」
大きく名を呼ぶ声。
押されるように窓枠に足をかける。
一戸建てでなく、マンションだ。
下に広がるのは遥か遠いアスファルト。落ちれば怪我だけでは済まないだろうか。
しかしそんなことを考えている余裕は無かった。
「――っ!!」
大きく踏み出せば、目に痛いほどの青空が目に入る。
目が潰れてしまいそうな程に、鮮やかなそれは訪れる最期を予期させた。
ああ落ちる、とつぶやくヒマもなく。
(あ)
大きく目を見開いたまま、アスファルトに叩き付けられる。
光を失いつつある瞳には青空を映し、背中には紅い鮮血の花が広がった。
――転落死。
薄れゆく意識の中。
ふと思い出したのは、ある人物の顔であった。
※※※
「……ここ、は」
気が付けば何も無い、背景の真っ白な部屋にいた。
まるで何も書かれていない白紙の紙のような。いくら遠くを見渡しても、どこまでも続く不透明な景色。
「はいはいーい。起きてくださ~い……って、もう起きてるじゃん!」
「!?」
突然にゅっと現れたのは女。
そう、ご存知。女神である。しかし彼は知らないもので、ペラペラと軽快に喋り出すノーテンキそうな口元を、呆然と眺めた。
「――んで! 超びゅーてふるですぺしゃるな、わたくしが直々に……って聞いてます?」
元々女性は苦手だ。特に、こうやってよく喋るタイプは。
だからドン引きしていたし、なんなら逃げ出したいと思っていた。
「あ、あのぉ。ぼく、忙しいんで」
「ノンノンノン! 死んで何が忙しいっていって言うんですかぁ? 」
「し、死んだ!? ぼく、死んだんですか!」
「もうっ、全然わたしの話聞いてくれてないじゃないですか」
「えっ。だって長いし、めんどくさい」
「うぐっ。この子、大人しい顔してなかなか辛辣だわ……」
なんだかんだ言って、まだ十代の子どもなのだ。
訳わかんないモノには、訳わかんないと素直に返すのは当たり前である。
するといきなり現れた女神 (と自称している)にビシィッ! と指を突きつけられた。
「もう一回言います。貴方はもう、死んでいるっ!」
「……はぁ」
「じぇ、ジェネレーションギャップぅ!? ノリが違うっ。思ってたんと違うぅぅぅっ!」
「……」
冷めた反応に、ゴロゴロと転げ回って嘆く女神。
『最近の若い子こわっ! 冷たい目してるぅぅぅっ、オヤジ狩りに合うぅぅぅっ!!! 』など喚き散らしている。
正直、彼としてはポカーンだ。
「あ、あの」
死んでるのは薄々知ってたし、なんなら受け入れていた。
あの時。窓から飛び出したのは死ぬためというより逃げるためだったけど、どちらも大して変わらない。
どうせそのまま意識が途切れて終わり、か。地獄にでも行くのかもと思っていたのに。
「ぷぷっ、地獄って。人間ってどーしてこうも他罰的なのかなぁ?」
「えっ」
女神は腕を組んで呆れた様子で肩をすくめた。
「生まれて死ぬのは確定なんですから。どう生まれてどう生きて死ぬなんて、神様がいちいちジャッジしてるワケないじゃないですか~。そーゆーのは、自意識過剰っていうんですよ」
「で、でも」
「チッチッチッ。少年よ、ふつーなら死んだらここで終わり。適当なトコロでまた繰り返しの転生輪廻なんですけどね。で・も、この美しくて可憐で豊満ボディな女神様が……」
「じゃあそれでお願いします」
「てか話を最後まで聞かんかぁぁぁいッ!!!」
視線を合わせず即答すれば、大声なツッコミが入る。
つくづく、めんどくさい女神だ。
「耳の穴かっぽじって、よぉぉぉっく聞いてくださいね! な、な、なんとーっ、貴方を魔王に転生させちゃいますッ!!!」
「……はぁ」
「反応うっす! なにその塩対応っ。女神様もビックリの超塩味!! ど、どーしたんですか!? 魔王ですよ? しかも今なら超強いチートな能力付き!」
「あー」
そんなコトを言われても、胡散臭いばかりである。
正直、ヤバい人には関わりたくないのが現代人。彼も例外ではないのだ。
なんだかよく分からないけど、この場を立ち去ろうと後ずさりする。
「ちょ、なに逃げようとしてんですか! こーなったら何がなんでも、異世界転生者として魔王やってもらいますからねっ」
「魔王って。普通、勇者とかじゃないんですか?」
「まぁ諸事情ありましてぇ……モゴモゴ」
急に歯切れが悪くなった。
ますます怪しいとつぶやけば。
「もう御託はいいからっ、ほらサッサとこれ引いちゃってください!」
「は、箱?」
そう。箱である。
えらく作り感満載なそれは、なぜか軽くひしゃげていた。
「これ壊れてませんか」
「壊れてないですよ。ちょっと酔っ払って部屋で金属バット使って素振りして、サヨナラ満塁ホームランしちゃっただけだから」
「思いっきり壊してるじゃないですか」
「は、箱が貧弱貧弱ゥなのがいけないんだもん……」
今度はイジイジと床にしゃがみこんでいじけだすから、落ち着きがない。
これはもう早く言う通りにしてしまって、転生でも何でもしてしまおうと箱に手を伸ばす。
「しょうがないなぁ」
「チートガチャなんですから、景気よく引いちゃってくださいね!」
「ガチャって……」
商店街のしょぼい福引きのほうが、まだちゃんと作ってある気がする。
一見すれば普通のダンボールにマジックでデカデカと『最強ちーと★がちゃ』なんて書いてある、恐ろしくアホっぽい箱。
妙なことになっちゃったなぁと、ため息つきながら手を突っ込んだ。
「ええっと。はい」
「早っ! もっと元気に引いてくださいよ。なんかすっごいやり投げ……じゃなくて投げやりなんですけど」
「ぶっちゃけ、すごく投げやりです。めんどくさいし」
「めんどくさいって二回も言った!! 親父にも言われたことないのにぃぃぃっ」
「女神さんって、お父さんいるんですか」
「むっ、失礼な! だいたい女神っていっても――ってこの話はさておき」
なにか不都合なことでもあったのか、コホンと誤魔化すように咳払い。
そして彼が取り出したカプセルを見る。
「これはっ……」
みるみるうちにカプセルが溶け、手の中には一本の小瓶。
「超当たり引いちゃってるじゃないですかァァァっ!!!」
「当たり?」
いまいちピンとこない。
虹色の液体が満たされた小瓶を指でつまんで観察する。
不思議な光を放ち、ちゃぷんと揺れた。
「で、これ飲めばいいんですか」
「なんでそんなにテンション低いんですかっ!」
「えー、だってなんか不味そうだし」
「令和っ子ってこんなもんなの!?」
「いや。ぼくは普通に平成生まれですし」
「そーゆーコトじゃないんです!! この能力はほんと凄いんですからねっ。世界征服間違いなしで、魔王は魔王でも主役張れるレベルの――」
「なんだかよくわかんないなぁ」
(元の世界では主役どころか、そこらのモブにだってなれなかったのに)
勉強もスポーツもダメ。
趣味もないし、楽しいことも少なかった。
恋も一度だけしたけど、それも叶うはずのない片思いだけだった。
無理通わされた名門私立小学校に通学する時、バス停でいつも見かけた年上の綺麗な人。
結局。公立の中学校に入って会うことも無くなったし、自分から会いに行く勇気もなく諦めた。
(ああ、あの人元気かな)
死ぬ前に一回くらい会いたかった、と深いため息が漏れる。
「ちょ、聞いてます!?」
「いえ。全然」
「だーかーらっ、女神の話ききなさいぃぃぃっ!!!」
(ほんとめんどくさいな)
少年は無言で、瓶の蓋をあけた。
「あっ、いきなり」
「魔王に転生でしたっけ? ……いいですよ」
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