世界を救った勇者ですが童帝(童貞)の嫁になるようです

田中 乃那加

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助けに来たのはやぶ蛇でした2

 いつもと同じ街並みの中で、我に返った。
 
「ねぇ、何ボーッとしてんの。大丈夫?」
「え……」

 友人と一緒に通学の為、朝からバスを待っていたらしい。
 ハッと顔をあげた泰村 明帆やすむら あきほの頬を、吹いてきたぬるい風がなでた。
 もう夏だな、なんて思う。

「もうっ! しっかりしてよね」

 友人、正しくいえばクラスメイトであり。友達以上恋人未満の、女友達。
 さらに言えば幼なじみ。
 
「あー……ごめん」

 歯切れ悪く謝ると、今度は心配そうな目を向けられた。

「ちょっと本当に大丈夫なの?」
「少し寝不足だっただけさ」

 だからこんなに違和感を覚えるのだ。
 いつもの景色のはずなのに、妙に遠く懐かしくて。それに、とてつもなく長い夢を見たあとみたいな気分。
 出先でぼんやりしていただけにしては、おかしい。

「テスト、近いから」

 だから遅くまで勉強していて疲れているのだ、と口にした。
 半分以上、自分に言い聞かせているのだが。

「ふーん?」

 疑わしげで。それでいてまだ心配そうな顔の彼女に、曖昧な笑みを向ける。
 
「……で、なんだっけ」

 確か彼女は何か話しかけてきていたハズだ。だから話題をそっちに変えようと、うながすと。

「別に大したことじゃないの。明帆って、夏休み予定あるのかなって。ほら、あんた部活とかやってないでしょ」
「む、失礼な。人を帰宅部みたいに言うんじゃないぞ」
「ほとんどそんなもんじゃないのよ」

 確かに、彼が入っている部活は週三日しか活動しない生物研究部だ。
 全校生徒、部活動入部が絶対の高校であるため。どの部も億劫だった彼が、苦肉の策で入ったのがこれだった。
 活動日。学校の奥にある空き教室に集まって、雑談をして帰る。
 それだけの、ほぼ活動実績のない部だ。
 それでも貴重で、同じく帰宅部希望だった生徒達には人気の部活動だったりする。
 だから幽霊部員が異様に多い。

「あたしなんて、ほとんど休み無しよ」
「ハハ、そりゃあ大変だな。吹奏楽部」

 運動部レベルに練習が多いのは、見ていてもよく分かる。
 特に彼らの通う学校は吹奏楽部が強く、たびたびコンクールなどで金賞だか優勝だかしてくるのだ。
 実を言うと興味はないが、忙しそうにもひたむきに打ち込む彼女の姿は好きだった。

「そういえば、また家族旅行行くの?」
「ああ。今度はタイ、だったかな」

 毎年夏には家族旅行が定番になっている。
 両親が旅行好きなのだ。

「よく毎年毎年行くわね」
「まぁ習慣、恒例行事だからな」

 どうせヒマだし、とつぶやく。

「そっか。ヒマ、なんだ」

 と独り言のような言葉が返ってくる。

「ん? どうした」
「あのさ、明帆。もしヒマなら、あたしと――」

 彼女が顔をあげて口を開いた、その時だった。

「……明帆さん」

 後からかけられた声に、二人は振り向く。

泰親やすちか。今日は少し遅かったな」
「うん、ちょっと寝坊しちゃって」

 立っていたのは小学生。遠くの私立小学校の制服を着ている。
 毎朝、バスが同じになるのだ。

「さては夜更かしでもしてたな? ダメだぞ。ガキは早く寝ろよ」
「明帆さんだって、ガキじゃないか」
「ナマイキ言うなよな。僕はもうだぜ」
「そういうところ、だよ」

 くしゃくしゃと掻き回すように少年の頭をなでる。すると、ふくれっ面しながらもすぐに満面の笑みと憎まれ口。いつもの事だ。

「このガキめ!」
「あははっ」

 ……まるで兄弟みたいだと勝手に思っていた。
 一人っ子の彼にとって、何かと懐いてくる様が可愛い。
 軽くじゃれ合っていると、呆れたような彼女のため息が聞こえてきた。


※※※


「――レン、アレン。しっかりして」

 最初に聴覚がとらえたのは、一人の少年の声。

「ねぇ、ちょっと。ホントに、死んじゃってないよね!?」
「やかましい。そんなことで騒がないでください」
「シセロはなんでこんなに冷静でいられるの! アレンが、ずっと眠ったままなんだよ!?」

 今度は、ぺちぺちと頬を叩かれた。
 軽い痛みで、いよいよ意識が浮上する。

「……んぅ」
「あっ、起きた。シセロ! アレンが目を覚ましたよ!!」
「見れば分かります」
「なにカッコつけてるのさ。シセロだって嬉しいクセに。昨日からアレンのそばから離れなかったじゃん」
「ホントうるさい……チッ。魔法でカエルにした挙句、毒状態にして文字通り『毒ガエル』にしてやろうか。このクソガキめ (早口)」
「怖っ!ガチトーンやめて!?」

(人の耳元で、なにゴチャゴチャと)

 アレンは、眉を寄せて身じろいだ。
 すごくめんどくさいやり取りしてるし、なんだか現実を直視したくない。
 しかし仕方ない。いつまでも、狸寝入りは通用しないだろう。
 諦めて薄ら目を開ければ、今度は歓声に近い悲鳴をあげて抱きつかれた。

「良かったぁ! 全然起きないんだもん……ぐすっ」
「っ、な、なんだ――」

 仕方なく目を開けると、目の前に大写しになっているのは涙目の少年。ニアと目が合う。

「アレン。おはよ」
「……ゔ」

 あまり見たくない。いや、実を言うとかなり見たくない顔だった。
 しかも改めて見渡せば、ここは地下牢ではない。
 大きく寝心地の良いベッド。広く、豪華な装飾の部屋。
 懐かしい顔ぶれ――やはり、城に連れ戻されたらしい。

「ずっとずっと、ずぅぅぅぅっと! 会いたかったんだよ。大丈夫? ケガしてない? ヒドイことされたよね、可哀想に……これからはずっと一緒にいるからね?」
「ちょ、まっ、く、苦しい」

 満面の笑みは若干病み気味で怖い。
 子どもとは思えぬ力でギュウギュウと抱きしめられ、身体を平気でまさぐられる。

「こら、ニア。やめなさい」
「痛っ! なにすんだよ、シセロ!!」

 後からキツいゲンコツを食らったらしい。
 しぶしぶと少年は手を離す。

「ケガはないハズですが……具合はどうですか。アレン」

 代わりに覗き込んできたのは、これまた懐かしい顔。
 相変わらずの涼しげな表情で見下ろしてくる。

「し、シセロ。お前、死んだハズじゃ――」
「失礼な。まだ寝ぼけてるようですね。もともとユルい頭と股が、さらにユルくなったとは。さすが淫乱メス猫だ」
「普通に罵倒してくるなっつーの。ていうか、君はムカつくほど通常運転だな」

 心配して損したと、ため息をつく。
 何をどうしたのか知らないが、シセロがファシルに切りつけられたのが嘘のようにピンピンしている。
 それとも全てが夢で、自分は城から一歩も出ることが出来なかったのか。
 目が覚める前も懐かしい夢を見ていた気がするし、なんだか現実と夢とかごちゃごちゃになってしまいそう。
 すべてが曖昧で。特に、あの屋敷にいた時の記憶がぼんやりとしていた。
 やはり記憶錯乱の魔法の後遺症だろうか。
 
「言っときますが。貴方がここを逃げ出したのは現実で、それに対するお仕置は決定事項ですから」
「なっ!」

 冷たい笑みを含んだ、不穏極まりない言葉に飛び上がる。
 
「おやおや。そんなに怯えなくたっていいじゃないですか。ふふ、久しぶりに虐め抜いてあげますよ」
「そ、そういう変態な所も相変わらずだな……くそっ、このドS野郎!」

 ぶん殴ってやろうと手を振り上げる。しかしそれが振り下ろされ、不穏な表情を浮かべる男の頬を張ることはなかった。

「アレン、ずいぶん男遊びしてきたみたいだね? だめだよ。もっと、俺達が分からせてあげる」
「ニア!?」

 その腕ごと絡め取られベッドに引き倒された。

「やだっ、離せ!」
「はいはい。暴れないでね~」
「だいたい貴方に、服なんて必要ないでしょう。さっさと脱ぎなさい」

 双方からやすやすと押さえつけられる。すると身体の奥から、妙な疼きが起こった。
 そういえば記憶の他に掛けられた魔法があった。
 そのせいだろうか。
 意思に反して、ぶり返した熱が燻っていくのを感じた。
 唇を噛み締めたアレンの額と頬に、それぞれ柔らかなキスが降る。

「久しぶりだよね。まずは、俺が優しくしてあげるね。アレン」
「ニア、甘やかしてはいけませんよ。せいぜい、もう一度しつけ直ししなければ、ね」

 二人の笑みが、恐ろしい。
 アレンは青くなったり赤くなったりしながら、ショタとドS男に組み敷かれていく――。
 






 


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