世界を救った勇者ですが童帝(童貞)の嫁になるようです

田中 乃那加

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やぶ蛇共に睨まれたカエル奪還作戦5

 美少女の瞳には、星がまたたいていた。
 ギラギラと狂気にも似た光を帯びている。

「うふふっ、ウワサ通りですね☆」

 おびただしい数、転がるアンデッド共のむくろを踏みつける足。
 そして長く華奢な首に、ぐるりと縫い合わせたように歪んだキズが生々しい。
 
「アレン様ってば、こんなイイ男と浮気するなんて。あーあ、いっけないんだぁ☆」
「なんだテメェ」

 アレンの名前が出た途端、眉間に深いシワを刻み込んで睨んだ。
 そんなアレックスを挑発するように、巨大な刺股を回してみせる。

「キャハッ、顔が超こわーい☆ でもぉ。王の花嫁を寝取るってのは、重罪なんですからねっ!」
「寝取るもなにも。彼の気持ちは、無視なのか」
「へぇ? なに甘っちょろくて、胸焼けしそうなコト言ってんですかぁ☆ 政略結婚ってのは、そーゆーもんでしょ?」
「……そういうのが気に食わねぇな」

 ギリッ、と奥歯を噛む。
 大切な人間をこの手の中から奪っただけでは無い。
 その意思に関わらず、監禁し凌辱したことだ。
 城での日々を彼から聞いたことはない。聞きたいとも思わない。
 しかしアレックスは見てしまった。
 初めて彼を抱いた日。ラブホテルにて、虚ろな声と表情で懇願する姿を。

『も……っ、ゆるし、て……シセ、ロ』

 ――弱々しく呼んだ男の名。

 彼のような、世の中にうとい男でも知っている。
 この国の大臣だ。
 エルフで大魔法使い。一時期は、常に黒い噂の中心人物だった。
 そんな奴がその身体を貪り、刻みつけてきたモノが 我慢ならない。
 感情に任せてしまえば、きっとその右拳で砕くだろう。
 嫉妬、などという極めて短絡的な理由でなく。
 アレックスが初めて覚えた、限りなく深淵に近い感情であった。

「これだから脳筋ってのはァ。いーかげん、現実みましょ☆」
「うるせぇ、このクソアマが。アレンはどこだ。城か、それともどこか他に隠してんのか」
「ハァ~? 言うワケないじゃないですかぁ☆ 」

 わざとらしいため息をついたステラが、よろよろと這い出してきたアンデッドの頭を踏みつける。
 グチャァ……と粘着質な音を立てて、その場に大きなシミを作る。  
 
「ほんっと、アンデッド達コイツらと同じくらいバカなんですかぁ? 人間って☆」

 口角を片方だけつり上げた笑みで、嘲笑った。
 その手のひらには、青く光る紋様。
 彼女こそ、このアンデッドの大群を使役していた死霊魔術師ネクロマンサーである。
 その身体もまた不死の呪いを受けて形作られた不死者アンデッド
 その存在にも多数の種族がいる。
 簡単に分類訳すると、魂のある者と無い者だ。
 まずは欠片でも魂が宿っていて、それが何らかの原因によってとどまっている場合。
 意思や思考を持ち、魔法が使える者もいる。
 もうひとつは、単なる動く死体。
 これは術者が魔力を持って使役してやらなければ、立ち上がることすら出来ない。

「もっとカシコク生きましょ☆ ま、死人わたしが言うことじゃないけど。うふふっ、やっだー☆ アンデッドジョークですよぉ。だから怖い顔しないで、ね♡」
「……なにヨ、あの女。くそウザイんだけど」
「同感だ」

 ドン引き顔のミナナに、うんざりとうなずく。先程からこのテンションは、疲れるものだ。
 城のメイドに、アンデッドがいると聞いたことはある。
 イカれた女ですぐに人の四肢をちょん切ろうとしたり、毒物を盛ったり。
 それでいて懐いているらしいから、頭がオカシイの一言だと。
 人間とアンデッドという種族の隔たりを置いといても、この少女はどこか奇妙だった。

「オレの事を殺す、と言ってたな。するとやはり、アレンは王国に囚われたのか」
「だ~か~ら~、コッチから答えをあげるほど、バカじゃないですってば☆ で・も……オニイサン、すっごく男前だからぁ。イイコト教えてあげちゃう☆」

 くねくねとしながら言うと、ステラは小さく呪文を唱える。
 そして手を空中にかざした。

「!!!」 

 何もない空間に、ある映像が映し出される。
 言ってみればプロジェクションマッピングだ。
 数秒は不明瞭なそれは、音声とともにハッキリと投影された。

『んぁ゙っ、ひぃ……ゆ、ゆるじ……てぇ゙』

 肉と肉がぶつかる湿った音。
 泣きの混じった嬌声きょうせい
 一人の青年の色の白い肌が、紅く色付く様が記録されていた。

「こ、これって――」

『やらっ、きもち、いぃの、やぁぁ』
『そこぉ……ごりごりっ、てぇッ、も、らめぇぇぇっ』
『ひぃっ……そ、そこ……っ、だ、めっ……だめな――あ゙ァァッ!?』
『やらぁぁぁ~っ、おじりっ、おかじぐ、なっちゃぅぅぅっ、あぁぁ、はぁぁんっ』
『お゙っお゙っ♥ んひぃ゙っ、ぎきもちぃぃ♥ こ、こんなのっ、だめっ、むりっ、メスなっちゃうっ、お、男の子っ、なのに♥ シセロ様のっ、メスにっ♥ ……孕んじゃうぅぅ♥ ここ、いっぱいせーしっ、ちょうだい♥』

「なんなんだコレは」

 そこにはアレン・カントールの痴態。男に犯されヒィヒィ泣かされながらも、快楽に身悶え喘ぎまくってる映像だった。

「なにって、ナニに決まってんじゃないですか~☆」
「……」

 動画の中の彼は、舌を出して感じ入りながら淫らに絶頂している。
 抱いている男の姿はよく見えない。
 しかし時折映り込む銀髪や耳の形から、シセロであることは間違いないようだ。
 正常位から四つん這いに体位を変えられたアレンが、後ろからガツガツと穿たれて腰を振ってむせび泣いていた。
 
「あれあれぇ~? もしかして怒ってますぅ? 好きな人が、実は淫売ビッチで他のチンポに媚びまくってるって知って☆」
「……」
「うわぁ☆ ず・ぼ・し! NTR寝盗られ属性ってワケでもないですもんね~。ふっつーにムカつきますよねぇ?」
「……」
「あっ。ほらほら☆ またイってる~! キャハハッ、もうシセロ様の巨根に敗北確定ですよ☆ 白目むいちゃってぇ~、かわいそ~ (棒読み)」

 これ以上ないってほど煽ってくる。白々しい言葉も、悪意の塊だ。
 しかしアレックスは空を見上げ、微動だにしない。
 まるで銅像のように立ち尽くしていた。

「あ、アレックス……」

 恐る恐る声をかけたミナナも、応えない。ただただ、真っ直ぐ眺める。、焼きつけるかのように。

「超ショックって感じですね☆ そんなっ、カワイソーなアレックス氏にっ、朗報!」
「……あ゙?」
「いゃん☆ コワイ顔しないでくださいよ~。貴方に可愛い恋人をプレゼントしてあげまぁす☆」
「……あ゙ァ゙!?」
「こ、こわ――じゃなくて☆」

 鬼も裸足で逃げ出す形相を向ければ、一瞬怯えたように声上げる。しかしすぐにまた、ヘラヘラと笑いながら肩をすくめた。

「じゃじゃーん☆」

 一旦が映写していた動画を消し、ステラは指を鳴らす。
 パチン、と小さな音が響くと同時にその場が一瞬だけ光った。

「あっ!」
「なに!?」

 瞬間、アレックスとミナナは驚きの声をあげる。
 なぜなら彼らの目の前に、現れるハズのない者が立っていたのだから。

「アレン!」

 ミナナが叫び、目を見開く。
 そう。それはアレン・カントール、その人たった。

「アレックス……ミナナ……」

 キチンと服を着た彼は、弱々しく足を踏み出すとたちまち崩れ落ちてしまう。
 
「アレンっ、大丈夫ネ!? ケガは? 無事だったノカ!」
「ミナナ……すまなかった」
 
 うなだれる彼を、彼女は抱きすくめた。

「なに謝ってるネ。ワタシも洗脳魔法掛けられてて、助けて上げられなかったヨ。謝るのはワタシ。アレン、ごめんネ」
「僕――」
「何も言わないでヨ。アレンは悪くないヨ! ……ほら、アレックスっ。なんでそんなトコ、突っ立ってんの? アレックス!」

 愛しいはずの相手の元に駆け寄ることすらしない男に、彼女は声を荒らげる。
 しかしアレックスは、静かに口をひらいた。

「おい、ミナナ。
「……は?」

 彼女の腕の中で震える青年を、瞬きせず睨みつける。
 
「な、なに言ってるヨ! 頭どーかしちゃったんじゃないの」
「いや。オレは正気だぜ。その上で言ってんだ」

 ビシィッ――、指を突き付けた。

「こいつは、ニセモノだぜ」

 静寂が数秒。
 ミナナはショックと驚愕に固まり、アレックスはやはり銅像のようにたたずんでいる。
 まるで時が止まったかのような状態に水を刺したのは、ステラだった。

「キャハハハハッ☆ すっごーい! よくぞ見破りましたねっ」
「え……」
「そうですっ。はアレン様じゃありません」
「な、なん、てこった」

 弾かれたようにミナナが飛び退く。

「なんて女っ、ダマしてたネ!」
「きゃあ☆ こっわ~ぃ」

 銃を構える彼女に、おどけたように両手をを上げてみせる。明らかにまだ煽る気マンマンだ。

「た・し・か・に、ニセモノです――でも、逆に考えてくださいね☆ ?」
「……ハァ?」

 意味がわからない。
 開き直りとも言うべき言葉を吐いて、ステラはニッコリ笑った。

「この子はアレン様の姿形をしていますけど、実は『処女』です☆」
「しょ……っ、い、意味わかんないヨ!?」
「あ~、女にはわかんないでしょうケド」

 今度は鼻で笑いつつ、こちらに一歩歩み寄ってくる。

「男って『最初の男』になりたがるんですよねぇ☆ 初モノ好きっていうか」
「そ、そうなの?」
「そぉですよ☆ だからこそ。よっぽどのド変態じゃなきゃ。好きな子が非処女、つまり中古の他の男のチ〇カスまみれだと萎え萎え~なんですよっ☆ やっぱりキレイで清楚な処女、それが男の理想でありロマンなんです!」
「ぅえぇぇ」
「だ・か・ら。この可愛くって、ちゃあんと処女のアレン様を差し上げます! 本物より、ずっと初々しいですよ? 今から、貴方色に染めちゃってくださいっ☆」
「めちゃくちゃヨ……」

 ドン引きのミナナが振り返った。
 確かにめちゃくちゃな話だ。愛する人を、と要求したらニセモノを押し付けられ。さらにもっともらしい口調で、丸め込もうとしているのだから。
 しかし。

「アレックス――」
「そいつは本当に処女なのか」
「はっ、ハァァァッ!? ちょっ、なに言ってるネ!」

 真面目くさった顔。
 そしてミナナの呆れたような声も聞こえない。

「本当に処女か、と聞いている」
「アレックスぅぅぅっ」
「キャハッ☆ 心配なら、触れてみたらイイですよぉ」
「うむ」

 ステラの言葉に大きくうなずく。
 そしてなんの躊躇もなく、座り込んだアレン (ニセモノ)まで歩き出した。

「おいアレン」
「……アレックス♡」

 確かにニセモノだ。
 本物なら、こんな反応はしない。せいぜい顔をしかめて。

『うるさい。馴れ馴れしく呼ぶなっ、アホゴリラ!』

 なんて怒鳴りつけるだろう。
 そんなことを考えながら、そっと彼と目線を合わせる。

「なぁアレン」
「うん」
「オレと結婚、してくんねぇか」

 するとアレン (ニセモノ)は、顔から首筋まで真っ赤に染めてうつむいた。

「ダメか?」
「……結婚、する♡」
「そうか」

 アレックスは、その華奢な身体に触れる。

「ちょ、アレックス、こんなのダメだヨ!」

 ミナナがまた叫ぶ。
 想い人と同じ姿の、別人。彼を選ぶというのは、本物に対する愛情を失った証拠だ。
 分かっていたはずだった。
 自分は童貞初めてだったが、彼はそうでないことは。
 しかし全てが望まない行為、つまりレイプだったから許せたのかもしれない。
 無理やり組み伏せられてきた彼を、処女じゃないと責めることがどうして出来よう。それを超えて愛してきたのだ。
 最後に自分の元に来てくれれば、と。
 なのに。

(ああ、オレは間違っているだろうな)

 まるで和姦のように、惚けて感じまくってる声を聞いてしまった。
 もっともっと♥ とおねだりする姿は、もはや彼の知るアレンではない。

(じゃあいっそ――)

「アレン、愛してる」

 甘い言葉とともに、不器用に微笑んでみせた。
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