世界を救った勇者ですが童帝(童貞)の嫁になるようです

田中 乃那加

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少年の○○を抱け

 少年の首は、鈍い音を立てて転げ落ちた――。

「ッ!!!」

 アレンは、悲鳴すらあげられない。
 ただただ震えながら、しぼり出されたのは掠れた音。
 
(そんな、バカな、そんな、どうして)

 メンヘラがやらかしてしまったのだ。
 易々と自らの首をねた魔王は、今も狂ったように笑っている。
 けたたましく笑い転げる生首……なんたる惨劇。
 もはや一周回って悪趣味なギャグのような状況である。

「に、ニア」
「『アハハハッ、これで一人減った! アハハハ、アハハハ!!!』」

 こうやって一人ずつ殺していくというのか。
 思わず背筋が寒くなる。

「ま、マリア! どうすれば……」
「あらあら」

 救いを求め彼女を見上げた。
 するとなんと、うっすらと微笑んでいるではないか。
 
「これは――には少しばかり時間がかかりますわね」
「え?」

(しゅう、ふく?)

 回復や蘇生でなくて? と聞き返すヒマはなかった。

「少し図に乗りすぎたようですね、魔王」

 厳しい声で言うと、マリアは右手に持った長い杖を頭上にかかげる。

「【魂の浄化アルヴェート】」

 聞きなれぬ呪文。
 その魔法は、黄金に輝く鱗粉りんぷんのような光を散らし始めた。

「神の名において命じる。その魂、浄化せよ」

 厳かにつぶやき、左手で十字を切る。
 ――次の瞬間。

「悪霊退散ッ!!!」
「『ぶべしっ!?』」

 なんと杖を生首に向けて、全力で振り下ろしたのだ。
 ベチンッッ! 小気味の良い音と共に地面に軽くのめり込む頭。

「『なっ……い゙だだだっ、やめ……』」
「悪霊退散悪霊退散悪霊退散んんんッ!!!」

 身体にも首にも、容赦なく降り注ぐストローク。剣道部の素振りもかくや、とばかりにバンバン打ち据えていく。

「鎮めたまえ払いたまえ~!!!」
「『ぐはぁっ!?』」

 さすがの魔王も痛いのか。ゴロゴロ転がりながら逃げるが、この聖女も容赦がない。

「ゴラァッ! 逃げるなぁぁっ!!」
「『ギャ゙ァ゙ァァァ!!!』」
「マリア……?」

 声をかけるのも躊躇われた。
 先ほどの慈愛に満ちた表情はどこにいったのか、鬼の形相で死体 (のように見えるモノ)をどつき回す聖女と阿鼻叫喚の叫びを上げる魔王。
 どちらかというと彼女の方が悪役なんじゃないか? なんて考えながらも、しどろもどろに止めにはいる。

「な、なにしてんだよっ!」
「え? 魂の浄化ですけど」
「思ってた魔法と違う……」

 かなりの物理攻撃。
 床を転げ回って逃げる生首を、ゴキブリに対するみたくぶっ叩くなんて。

「『い゙でッ、やめっ、しぬぅぅぅっ』」
「オラッ、大人しく食らえッ。聖女アターック!!!」

(ぅえぇぇぇ!?)

 先ほどの魔法陣はなんだったのだろう。
 荘厳な雰囲気は? 
 ……一気に暴力沙汰になった現場に、アレンはドン引きする。

「『も゙ゔい゙や゙だァァァッ』」

 泣きの入った叫び声。
 魔王がついに白旗をあげたらしい。黒いオーラはあっけなく霧散し、生首は力なくゴロンと転がった。

「よォっしゃァァァ、聖女しか勝たんんんんっ!!!」

 マリアのガッツポーズ。
 最初の登場より、いくぶんも男らしい表情でドヤ顔決めている。

「あら。どうしたのですか、アレン」
「いや……別に」

(聖女って)

 旅の頃でも見たことない彼女に、新鮮さより恐ろしさを感じるアレンであった。

「ふふっ、久しぶりに血が騒いじゃいましたわ」
「実際に血が流れたよな」

 現に、そこらじゅう血まみれ。しかも首のない少年の身体と、無機質のように落ちている頭部。

「死んじまったのか」

 赤く染まった床にひざまずく。
 ボコボコに叩かれたにも関わらず、あまり傷のない綺麗な顔を胸に抱える

「ニア……ごめん」

 死なせてしまった。年端もいかない少年を。
 生意気でませてて、こまっしゃくれたガキ。
 妙に悟った所もあったけど、時に子犬みたいに人懐こい子どもだった。
 
「バカみたいにガッついたセックスしてやがったなぁ」

 何度も何度も甘えてきて。
 そのくせ余裕ぶった顔もする。

「本当に変なヤツで――」
「……そのセックスが好きだったくせに~♡」
「$#→%$\&ッッッ!?!?!?!!!」

 腕の中の生首が、ニヤリと笑う。
 声にならない悲鳴をあげて、アレンはそれを放り出した。

「いてっ! もう~、もっと優しく扱ってよ」
「な、な、な、な……っ」

 床に叩きつけられた形の少年の頭は、ふくれっ面をしている。
 そして。

「アーレーンっ」
「ぁ゙ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 首なしの身体が、後ろから思い切り抱きついてきたのだ。
 腰を抜かして絶叫するのは、仕方あるまい。

「俺のこと、すっごい好きでしょ? うわぁぁっ、すっごく嬉しい! このままゴールインしちゃお? いやぁ、相思相愛サイコーだね♡」
「どどどっ、どうしてッ!?」

 まさかニアもアンデットというオチなのか。
 おののくアレンの前に、彼は器用な動きで転がってくる。
 そしていつもの、明るく無邪気な笑みを浮かべてみせた。

「だって俺。『ゴーレム』だもん」
「ご……!?」

 ゴーレム。言わずと知れた土人形である。
 本来なら創造主であり、術者である主人の命令を忠実に遂行するあやつり人形だ。
 しかしこの少年がそうとは、アレンは信じられなかった。

「ええっとねぇ。俺はいわゆる色々とでさ……」

 彼の身体だけが肩をすくめ、首だけが微笑み話し始める。

 ――つまりこういうことだ。
 
 本来なら感情を持たない、自立式泥人形に過ぎない存在。
 しかしその中でも、ニアは特別だった。
 彼を作った術士は二人。ある優秀な魔法使い達である。
 彼らは愛し合っていたが、子が成せなかった。
 それでと良いと思っていたはずが、人間とは時に欲深くなるものだ。
 二人の愛の結晶を求めて、彼らは前人未到の研究を始めたのである。
 それこそが、人間に極めて近いゴーレムの生成

「さすがに人間までは作らなかったんだね。結局のところ、人間の代用品さ」

 おどけたように笑う彼の、その言葉は自嘲と愛情に満ちていた。
 
「本当は自分たちが死ぬ時に術を解いて、消滅させるつもりだったんだろうけどね。ま、そうは上手くいかなかったんだろうねぇ。ははっ、まったくヤレヤレって感じだよ」
「でも、それじゃあ君は……」

 特別性の人工物。
 普通のゴーレムとは解除の方法も違うのだろう。
 しかもそれを行わない限り、彼は不老不死で生き続けるのだ。
 部位が粉々にならなければ首と胴体が離れても、こうやって話ができる。

「俺の身の上話はおしまい! そんなことよりさ……」

 ニアが困ったように眉を下げた。

生首状態この恰好、どーにかならない?」
「えっ」
「ほら。これじゃあ、アレンとキス出来ないでしょ」
「ハァァァッ!?」

 散々心配させやがって……とムカつくやら、脱力するやら。
 言葉を失う彼に、目の前の少年はペロリと舌を出してみせる。

「俺。ほかのヤツと違って、子どもは作れないけど愛情だけは負けないから」
「!」
「絶対、アレンを置いて死んだりしないし」

 見上げてくる愛しげな眼差し。
 魔王のそれとは、色が違う。深く、すべてを包み込むそれだった。

「俺と一緒に生きよう。きっと楽しいよ。俺の両親みたいに、さ」
「……」

 胸が一瞬だけ高鳴る。
 
(一緒に生きよう、か)

 死んだとばかり思っていた彼から、聞いた言葉。
 死ぬことすら許されない永遠の少年。
 愛した者と共にいても、いずれは来る別れを知っているのだ。
 
(それでも)

 背中に感じた確かな体温。
 とても土人形とは思えない。鼻の奥から、ツンと込み上げるものを感じて目を閉じた。

「アレン」

 何かを案ずるような声は、マリアだ。
 彼は小さく鼻をすすって口を開いた。

「ガキが。余計な気を回してんじゃないぞ」
「いや、こう見えても俺ほうが……」
「うるさい。君は誰がなんと言っても、ガキだ。ナマイキでバカでお調子者でバカで――」
「バカって二回も言わないでよ」
「とにかく。まずはその首と胴体、くっけてから言えよなっ!」

 憮然と放った言葉に、ニアの表情が変わる。
 一瞬ポカンとしてからすぐに、吹き出したのだ。

「あははっ、アレンらしいなぁ」
「笑うな!」
「すごくカワイイ。ほんと、アレンってば可愛すぎて困るよ」
「か、可愛くなんて……っ」

 思わず頬を膨らませたら、かえって喜ばせたらしい。
 満面の笑みのニアが甘えるよう、胸元に擦り寄る。

「大好きだよ。俺のお姫様」
「ダレがお姫様だ――って、ちょっと待て!!!」

 突然訪れる、妙な違和感。

(な、なんか腰に、当たって???!!!)

「勃っちゃった♡」
「このマセガキ!!!」

 アレンの怒鳴り声が、部屋に響いた。


 

 




 
 



  

 
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