世界を救った勇者ですが童帝(童貞)の嫁になるようです

田中 乃那加

文字の大きさ
59 / 94

喪失と帰結の回廊2


※※※

「まぁ! すっごくいい男だわ」

 黄色い声をあげたのは、仲間の一人であった。
 色気たっぷりの元踊り子。実は黒魔法使いの女。
 たわわな乳を、これ見よがしにアピールしたファッション。そんな彼女が流し目した先には、アレンの一番嫌いな男が。

「ゲッ……シセロじゃん。やめとけよ。あんな奴」

 王国からの命令での魔王討伐なのに、しょっちゅう呼び出されることにウンザリしていた。

「あっれぇ~? フジコは知らなかったっけ。あ、こう見えて新人さんだもんね! カリーナは知ってるよ。シセロ大臣でしょ。無理無理ぃ~、フジコみたいな脳ミソがオッパイに付いてる女なんて相手にされないっつーの」

 せせら笑いとともに口を挟むのは、カリーナ。
 彼女は盗賊の娘である。褐色の肌に幼顔の、元気な娘だ。
 しかしながら、フジコとは完全に相性が悪い。
 しょっちゅう、いがみ合いのケンカをしていた。

「ハァァ? 色気のい、の字もないペチャパイ娘に言われたくないわね。だいたい、未だに自分の名前呼びって。これだからは」
「カリーナ、お子ちゃまじゃないもん! てかフジコは逆に、オバサンだもんねっ」
「お、オバサン!? このナマイキな小娘がッ!!!」
「オバサンオバサンオバサン~っ!」
「……おいおい。やめろよ」

 仲間たちの言い争いに、ためいきをつきながら間に入る。
 ここは城の中。
 突然の呼び出しの上、国王陛下が来るまで待たされている立場なのだ。

「ねぇねぇアレン、今夜どっちとエッチするの?」
「ちょっ、イキナリ何言ってんだよ!」

 とんでもない発言をするカリーナの口をふさごうと、アレンは飛びかかった。
 旅の道中での森の中ならいざ知らず、ここは王城の――しかもシセロ大臣の目の前だ。
 他にも面白そうに、彼らを眺めている兵士たちの目線が痛い。
 しかしそんな気持ちも知らずか、ヒラリと彼を避けたカリーナは肩をすくめて笑った。
 
「えへへ、アレンってば顔真っ赤。カワイイ~」
「と、時と場所を考えろよな!」
「だってぇ~。カリーナの方が可愛くてエッチも上手で愛してるって、ここで言って欲しいんだもん。この年増の乳デカ女よりも!」
「おいおいおい、勘弁してくれ……」

 あんまりな言い草に、頭を抱える。
 彼女は一途で愛らしいのだが、いかんせん少しばかりきらいがある。
 これは狙ってやっているのか天然なのか。アレンにもよく分からない。

「ふん、あんたみたいな小便臭いガキに、アレンを満足させられるのかしらぁ? ね、アレン。今夜はこのフジコと、しましょ♥」
「あのなぁっ、君まで何を……」

 妖艶ようえんに微笑み、腕をからませてくる女を押しのける。
 本当に緊張感がない。
 しかしこうも何度も呼び出されては、そんな状態にもなるのかもしれないが。
 なにせ、つい三日前に転生魔法まで使って強制的に城に連れてこられたばかりだ。
 
(また雑用押し付けられるのかよ)

 アレンはため息をつきながら、壇上の玉座を一瞥する。
 やれ、国民を困らせている山賊達を討伐してこいだの。西の森で過激派デモ起こしてるゴブリン達を鎮圧してこいだの。
 本来なら、国が兵士達を派遣して行う業務を彼らに依頼してくるのだ。
 もちろん報酬はあるのだが、雀の涙。そこらのギルドに寄って、適当な依頼を見繕って来る方がマシなレベルだった。
 しかし国王至上主義のこの世界。
 呼び出されて『イヤです』なんてのは、通用しないのだ。

「ねーねーアレン」
「っ、おい!」

 突然腕を引かれ、カリーナの胸の中へ飛び込む形に。
 そのまま、いささか小ぶりだが確実に柔らかいそれに顔を押し付けられる。

「あん♡ アレンってば、顔真っ赤だぁ。カワイイ」
「っ、カリーナ!」
「ちょっとあんた。なに無い胸でやってんよの。アレンが可哀想でしょうが! ね、アレン。コッチの方が好きよねぇ?」
「ふ、フジコまで」

 二人の女が彼を取り合い、胸やらを押し付けられてもみくちゃだ。
 普段なら喜んで両方美味しく頂くだろう。しかし、状況が状況である。
 なんとか押しのけようとするが、女たちはますます面白がって抱きついてきた。

「貴方達、いい加減にしなさい」

 剣呑な声が響く。
 表情の無い、しかしかすか眉間にシワをよせるシセロが彼らのすぐ後ろに立っていた。

「ここをなんだと思っているのですか。、町の酒場にでも行けばいい。最近は、のものがあるらしいですから。お分かりですか? 
「!」

(こ、コイツ)

 女子会、や女性向け、などをあえて強調する言い方に悪意がある。
 アレンとしては、売られたケンカは買わないわけにはいかない。とくに、この男に関しては。

「……おいおいおい、君の目は節穴か。それとも、ついに老眼が始まったのかい?」

 からみつく女たちをそっと離すと、思い切り怒りを込めた目で睨みつけた。

「老眼とは。失礼な人ですな」
「失礼なのはどっちだ。僕のどこが、女に見えるんだよ。イヤミ野郎め!」

 唾を飛ばさんばかりの罵倒で返すが、彼の綺麗な顔は動揺ひとつ無い。
 むしろ口元に小さく笑みを浮かべて、挑発するように吐き捨てた。

「そんな華奢な身体で、魔王退治とは。いっそ、素敵なドレスでもあつらえてあげましょうか」
「ふざけんなっ!」

 アレンは、ついにキレた。
 自分より幾分か高い位置の胸ぐらを掴み、怒鳴りつける。

「散々呼び出しといて、その態度か。君こそ、いい加減にしろよな」
「ふっ、冒険者ふぜいが」

 まゆひとつ動かさず、バカにしたように鼻で笑う。

「ご自分の立場をわきまえたらいかがですか」

 その言葉に、殺しそうな表情で唇を噛む。
 しかし、おもむろに手を離した。

「賢明な判断です。しかし今度からは、行動する前に頭を使いましょうね」
「……」

 ――冒険者風情。これは悔しいが、納得せざる得ない言葉である。
 この世界、冒険者という名の職業は正式には存在しない。
 そして自由業の中でも『ならず者』や『ごろつき』の同意語として使われることが多々ある。
 本来、冒険者とは。
 人々の生活を脅かす魔獣の討伐などが主だった。しかしその職業人口が増えるにつれ、絶滅危惧種の密猟や山賊などの悪質行為を手を染める者達が増えた。
 つまり冒険者そのものの、質が低下したのだ。
 そこへ昨今、『便利屋』という職業が生まれた。
 言ってみれば、それぞれフリーランスでやってきた冒険者の仕事を組織化したものであるが。
 その時代の流れから、ますます冒険者という存在は人々から胡散臭いと眉をひそめられるようになったのだ。
 
「国王陛下が、貴方達のような冒険者風情に魔王討伐の命令を下すなんて光栄な事なのですよ」
「……」
「代わりはいくらでもいる。その事を、しっかりその小さい頭に叩き込んでおきなさい」

 シセロはそう言うと、アレンの頭を軽く小突いた。

「くっ」

 屈辱と怒りに、顔が熱くなる。
 そのまま啖呵切って帰ってしまいたい。しかし彼には、それが出来なかった。

(いまさら、投げ出す訳にはいかない)
 
 魔王によって滅ぼされた村に、足を踏み入れたことがある。
 そこは一夜にして村人達が惨殺され、火が放たれたという。
 生き残ったのは幼い姉妹だけ。目の前で両親が殺され、村から上がる炎を呆然と眺めていた所を近くの森の猟師が保護したのだ。
 
『魔王が……』

 そう口にして泣き崩れる彼女達を、アレン達は無言で抱きしめることしか出来なかった。
 
(彼女達と約束したんだ。魔王を倒す、と)

 多くの村を、いたずらに壊滅させた邪悪の存在。
 決して、純粋なる正義感ではない。
 アレンはそこまで善人でも、向こう見ずでもなかった。
 ただ、大切な家族やコミュニティを失った者達を慰めるのはこれしか無い。
 彼らはこぞって、復讐を求めたのだ。
 勇者を名乗る自分たちがすべきことは、これしかないとアレンは思う。
 
(これ以上、あの姉妹のような被害者を出さないように)

「……王は、まだか」

 屈辱による怒りは視線に込めてシセロに投げつける。
 しかしその瞳には、確かな覚悟と決意が宿っていた。
 
 
 
 
 
 



 





 
 

感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…