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喪失と帰結の回廊2
※※※
「まぁ! すっごくいい男だわ」
黄色い声をあげたのは、仲間の一人であった。
色気たっぷりの元踊り子。実は黒魔法使いの女。
たわわな乳を、これ見よがしにアピールしたファッション。そんな彼女が流し目した先には、アレンの一番嫌いな男が。
「ゲッ……シセロじゃん。やめとけよ。あんな奴」
王国からの命令での魔王討伐なのに、しょっちゅう呼び出されることにウンザリしていた。
「あっれぇ~? フジコは知らなかったっけ。あ、こう見えて新人さんだもんね! カリーナは知ってるよ。シセロ大臣でしょ。無理無理ぃ~、フジコみたいな脳ミソがオッパイに付いてる女なんて相手にされないっつーの」
せせら笑いとともに口を挟むのは、カリーナ。
彼女は盗賊の娘である。褐色の肌に幼顔の、元気な娘だ。
しかしながら、フジコとは完全に相性が悪い。
しょっちゅう、いがみ合いのケンカをしていた。
「ハァァ? 色気のい、の字もないペチャパイ娘に言われたくないわね。だいたい、未だに自分の名前呼びって。これだからお子ちゃまは」
「カリーナ、お子ちゃまじゃないもん! てかフジコは逆に、オバサンだもんねっ」
「お、オバサン!? このナマイキな小娘がッ!!!」
「オバサンオバサンオバサン~っ!」
「……おいおい。やめろよ」
仲間たちの言い争いに、ためいきをつきながら間に入る。
ここは城の中。
突然の呼び出しの上、国王陛下が来るまで待たされている立場なのだ。
「ねぇねぇアレン、今夜どっちとエッチするの?」
「ちょっ、イキナリ何言ってんだよ!」
とんでもない発言をするカリーナの口をふさごうと、アレンは飛びかかった。
旅の道中での森の中ならいざ知らず、ここは王城の――しかもシセロ大臣の目の前だ。
他にも面白そうに、彼らを眺めている兵士たちの目線が痛い。
しかしそんな気持ちも知らずか、ヒラリと彼を避けたカリーナは肩をすくめて笑った。
「えへへ、アレンってば顔真っ赤。カワイイ~」
「と、時と場所を考えろよな!」
「だってぇ~。カリーナの方が可愛くてエッチも上手で愛してるって、ここで言って欲しいんだもん。この年増の乳デカ女よりも!」
「おいおいおい、勘弁してくれ……」
あんまりな言い草に、頭を抱える。
彼女は一途で愛らしいのだが、いかんせん少しばかり頭が弱いきらいがある。
これは狙ってやっているのか天然なのか。アレンにもよく分からない。
「ふん、あんたみたいな小便臭いガキに、アレンを満足させられるのかしらぁ? ね、アレン。今夜はこのフジコと、おたのしみしましょ♥」
「あのなぁっ、君まで何を……」
妖艶に微笑み、腕をからませてくる女を押しのける。
本当に緊張感がない。
しかしこうも何度も呼び出されては、そんな状態にもなるのかもしれないが。
なにせ、つい三日前に転生魔法まで使って強制的に城に連れてこられたばかりだ。
(また雑用押し付けられるのかよ)
アレンはため息をつきながら、壇上の玉座を一瞥する。
やれ、国民を困らせている山賊達を討伐してこいだの。西の森で過激派デモ起こしてるゴブリン達を鎮圧してこいだの。
本来なら、国が兵士達を派遣して行う業務を彼らに依頼してくるのだ。
もちろん報酬はあるのだが、雀の涙。そこらのギルドに寄って、適当な依頼を見繕って来る方がマシなレベルだった。
しかし国王至上主義のこの世界。
呼び出されて『イヤです』なんてのは、通用しないのだ。
「ねーねーアレン」
「っ、おい!」
突然腕を引かれ、カリーナの胸の中へ飛び込む形に。
そのまま、些小ぶりだが確実に柔らかいそれに顔を押し付けられる。
「あん♡ アレンってば、顔真っ赤だぁ。カワイイ」
「っ、カリーナ!」
「ちょっとあんた。なに無い胸でやってんよの。アレンが可哀想でしょうが! ね、アレン。コッチの方が好きよねぇ?」
「ふ、フジコまで」
二人の女が彼を取り合い、胸やらを押し付けられてもみくちゃだ。
普段なら喜んで両方美味しく頂くだろう。しかし、状況が状況である。
なんとか押しのけようとするが、女たちはますます面白がって抱きついてきた。
「貴方達、いい加減にしなさい」
剣呑な声が響く。
表情の無い、しかし微か眉間にシワをよせるシセロが彼らのすぐ後ろに立っていた。
「ここをなんだと思っているのですか。女子会なら、町の酒場にでも行けばいい。最近は、女性向けのものがあるらしいですから。お分かりですか? お嬢さん達」
「!」
(こ、コイツ)
女子会、や女性向け、などをあえて強調する言い方に悪意がある。
アレンとしては、売られたケンカは買わないわけにはいかない。とくに、この男に関しては。
「……おいおいおい、君の目は節穴か。それとも、ついに老眼が始まったのかい?」
からみつく女たちをそっと離すと、思い切り怒りを込めた目で睨みつけた。
「老眼とは。失礼な人ですな」
「失礼なのはどっちだ。僕のどこが、女に見えるんだよ。イヤミ野郎め!」
唾を飛ばさんばかりの罵倒で返すが、彼の綺麗な顔は動揺ひとつ無い。
むしろ口元に小さく笑みを浮かべて、挑発するように吐き捨てた。
「そんな華奢な身体で、魔王退治とは。いっそ、素敵なドレスでも誂えてあげましょうか」
「ふざけんなっ!」
アレンは、ついにキレた。
自分より幾分か高い位置の胸ぐらを掴み、怒鳴りつける。
「散々呼び出しといて、その態度か。君こそ、いい加減にしろよな」
「ふっ、冒険者ふぜいが」
まゆひとつ動かさず、バカにしたように鼻で笑う。
「ご自分の立場をわきまえたらいかがですか」
その言葉に、殺しそうな表情で唇を噛む。
しかし、おもむろに手を離した。
「賢明な判断です。しかし今度からは、行動する前に頭を使いましょうね」
「……」
――冒険者風情。これは悔しいが、納得せざる得ない言葉である。
この世界、冒険者という名の職業は正式には存在しない。
そして自由業の中でも『ならず者』や『ごろつき』の同意語として使われることが多々ある。
本来、冒険者とは。
人々の生活を脅かす魔獣の討伐などが主だった。しかしその職業人口が増えるにつれ、絶滅危惧種の密猟や山賊などの悪質行為を手を染める者達が増えた。
つまり冒険者そのものの、質が低下したのだ。
そこへ昨今、『便利屋』という職業が生まれた。
言ってみれば、それぞれフリーランスでやってきた冒険者の仕事を組織化したものであるが。
その時代の流れから、ますます冒険者という存在は人々から胡散臭いと眉をひそめられるようになったのだ。
「国王陛下が、貴方達のような冒険者風情に魔王討伐の命令を下すなんて光栄な事なのですよ」
「……」
「代わりはいくらでもいる。その事を、しっかりその小さい頭に叩き込んでおきなさい」
シセロはそう言うと、アレンの頭を軽く小突いた。
「くっ」
屈辱と怒りに、顔が熱くなる。
そのまま啖呵切って帰ってしまいたい。しかし彼には、それが出来なかった。
(いまさら、投げ出す訳にはいかない)
魔王によって滅ぼされた村に、足を踏み入れたことがある。
そこは一夜にして村人達が惨殺され、火が放たれたという。
生き残ったのは幼い姉妹だけ。目の前で両親が殺され、村から上がる炎を呆然と眺めていた所を近くの森の猟師が保護したのだ。
『魔王が……』
そう口にして泣き崩れる彼女達を、アレン達は無言で抱きしめることしか出来なかった。
(彼女達と約束したんだ。魔王を倒す、と)
多くの村を、いたずらに壊滅させた邪悪の存在。
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アレンはそこまで善人でも、向こう見ずでもなかった。
ただ、大切な家族やコミュニティを失った者達を慰めるのはこれしか無い。
彼らはこぞって、復讐を求めたのだ。
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(これ以上、あの姉妹のような被害者を出さないように)
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