世界を救った勇者ですが童帝(童貞)の嫁になるようです

田中 乃那加

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魔法使いVS魔王VS異世界転生者の異種格闘技戦3

 透き通った翠色。
 陽の光を映し、さしずめエメラルドのよう。
 海を泳ぐ魚たちだって、彼らのような美しい鱗は持たないだろう。
 それがこの種族の誇りであり、危惧きぐの元であった。
 この宝石めいた魚鱗は、町である美術品の原材料として高値で取引されている。
 さらに言えば、半魚人や人魚の肉は不老不死の妙薬として語り継がれているフシがあった。
 もちろん単なる伝説であるが、人の歴史とは時として愚かである。
 バカげた迷信の為に、彼らは幾度となく種の絶滅の危機にさらされた。
 余所者に対する、もっと言えば人間に対する警戒心も当たり前の話なのだ。
 なのでアレックスは、片眉をわずかにあげただけで、ほとんど動揺の色は見せなかった。

「貴様、何者だ! ここで何してる」

 中年の男らしき一人が叫ぶ。
 それが合図のように、口々に怒号や罵声を浴びせかける群衆。
 怒りと警戒心、攻撃的な空気が一気に彼に向かう。
 それでも表情ひとつ変えなかった。

「み、みんな待ってよ。この人は、悪い人じゃ……」
「アクー! そいつから離れろッ」
「なにやってんだ! 国に厄災を呼ぶつもりか」
「人間っ、その子を離せ!!!」

(やれやれ)

 別に少年を捕らえているわけでも、何かを要求していわけでもない。
 ただそこにたたずんでいるだけだ。
 彼らの忌々しげに歪む顔を眺めながら、面倒なことになったと独りごちる。

(仕方ねぇな)

 アレックスは黙って隣に立ってオロオロとするアクーの首根っこを掴んだ。

「あっ!」
「俺の要求はひとつ、その先を通せってことだ。お前たちに危害は加えたくない。しかし、邪魔するというならば――」

 彼の細い首に無骨な指がくい込む。

「うぅっ」
「このガキがどうなっても知らんぞ」

 完全なる悪者だが、アレックスにはこの方法しか思い浮かばない。
 実際こんな状況で、興奮状態の烏合の衆には何を説得しても無駄になる。
 元々が短気で攻撃心の強い種族のようだということもあって、この単純な手を使わざる得なかったのだ。

「アレックス、なんで!?」
「黙ってろ、アクー。お前に危害は加えない」

 ただ西の森に向かいたいだけ。
 しかし半魚人の国を抜けていかないと、そこへはたどりつけない。
 アレックスは彼にそう短く囁いた。

「そっか」

 アクーは、何かを察したかのようにコクンとうなずく。

「俺に考えがあるよ、アレックス」
「なに?」
「……みんなぁぁっ、助けてぇぇぇっ、この人間のオッサンに殺されるぅぅぅっ!!!」
「お、おい!?」

 突然大きな声を張り上げる彼に、度肝を抜かれた。
 
「おいっ、この卑怯者!」
「子どもを人質にとるなんてっ」
「貴様にもッ!!」

 怒号に耳を塞ぐように、アクーは懐から出した小型のナイフを自らの首に突きつける。
 彼の右手を握りこんでいるもので、逆に人質にとられているように見えるだろう。
 ヒッ、と息をのむ音。広がるどよめきに、アレックスはむしろ何かガテンがいった気分になる。

「お、俺が殺されれば、この国は厄災にまみれるんだぞ!」
「……」

(なるほどな)

 ナイフの切っ先が少年の華奢な首筋を傷つけないよう細心の注意を払いつつ、そっとため息をつく。
 他の半魚人達と違う銀色の鱗。
 彼らの反応。
 そして『厄災』という言葉――。

「チッ、仕方ねぇな」

 アレックスはその小柄な身体を担ぎあげた。
 
「!?」
「ガキを人質にするぜ。じゃあな」
「……アグーッ!」

 悲痛な叫びが響く。
 見れば、駆け寄ってくる一人の少女。彼よりほんの少し年上に見られる彼女は、砂浜に露出した石につまずき転んでしまう。

「待ってくださいっ、彼を、アグーを離して!」
「ら、ラエラ……」

 背中ほどの豊かな髪は栗色。大きく黒目がちな瞳は濡れていた。
 わずかに膨らんだ胸と、翠色の鱗に覆われた下半身には布を巻いている。

「わたしが代わりに人質になります。だから、だから彼を助けてください!」
「お前がか?」
「はいっ」

 アレックスは目の前で、ひれ伏すようにうずくまる少女を眺めた。
 母親にしては若過ぎる。おそらく姉か、それとも――。

「……アレックス。いいよ、いこう」

 押し殺したような声で彼はつぶやいた。
 
「良いのか」
「いいってば。彼女には、俺の代わりになんてなれないから」
「そうか」

 何も訊ねない。訊ねる理由も義理もないからだ。
 アレックスは少女から視線を逸らすと、猛然と走り出した。

「!」

 遠くなる悲鳴。
 泣き叫びながら何度も何度も、彼の名を呼ぶ声がする。
 真っ直ぐに前を見つめながらも、ふと彼をみれば。

(何があったか知らねぇが)

 キツく閉じた目尻に、キラキラと涙の粒が散っていた。

「おい、アクー」

 追ってくる者はいないらしい。
 波の音は遠くなり、足場も湿地特有のものに変わっていた。

「抜け道、あるんだろう。案内してくれないか」

 立ち止まり、ゆっくりと少年を地に下ろす。
 おぼつかない足取りで数歩、彼は小さく息を吐いた。

「うん。分かったよ」

 懐にしまったのは、先程のナイフ。貝殻で作られた、とても簡易的なものだ。これでは、そこらの草を切る位しか出来ないであろう。
 その心細さが、今の彼を象徴しているとアレックスはふと思った。

「アレックス、こっちだよ」
「うむ」

 少しだけ前を歩く頼りない背中。
 痩せたそれもまた、差してくる陽の光で銀色にきらめいている。

(ま。オレには関係ねぇがな)

 アレックスは黙って歩を進めた。








 

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