子連れ冒険者の受難クエスト

田中 乃那加

文字の大きさ
20 / 33

探索2

しおりを挟む
 それはもはや、馬ではなかった。
 いや、そもそも馬というより巨大なケンタウロス半人半獣の特徴が色濃くでている。
 しかしその上半身は、たいそう醜い姿であった。

「こ、こいつもキメラ獣!?」

 馬の下半身に人間の身体。しかし、首には奇妙にゆがんだヤギの頭がくっついている。
 まるで無理やりツギハギにした人形のように、ねじ曲がった首と不気味な引きれ。
 見開いた目には白目がなく、それは正しく常軌を逸していた。

「――やばいッ、来るぞ!」

 その声の数秒前。轟音とともに舞い上がる砂埃。
 そして間一髪、身をひるがえした二人の眼前には大きくえぐれた地面。

「大丈夫か!?」
「僕を誰だと思ってる」

 唯一の武器、複雑な装飾を施した柄の剣を手に叫ぶ。

「この僕をなめるなよッ!」

 そのまま、地を蹴りつけて大きく飛び上がった。

「お、おい……っ」
「トマス、君は防御魔法でも唱えてろ」

 そのまま宙を舞い、見上げるほどの巨体に斬りつける。

「こんなモンスター。三発で仕留めてやるさ」

 まずは威嚇とばかりに咆哮ほうこうするバケモノに向かって、一撃。
 そのまま力強い馬足の蹴りを回避し、筋肉と所々ぶよぶよとした腐肉で肥大した身体に切っ先をめり込ませる。

『ア゙ァ゙オ゙ォ゙ギァァァ゙ッ!!!!』

 金属音が混じったような、不快な叫びをあげて。それはめちゃくちゃに拳を振り立てた。
 聡明で、知的。美しいケンタウロスの面影などまるでないそれに、哀しさすら覚えるほど。

(なんなんだ、こいつ)

 何がしかの死体を八つ裂きにして。無理やり縫い付けでもしない限り、こんな悲壮なバケモノは誕生しないだろう。
 辺りに漂う臭気と、口から白濁したヨダレを垂らし真っ黒な目をグルグルとさせてなおも迫る。
 それまさに悪夢のような。

「なかなか手強いみたいだな」

 ぶ厚い身体は、斬りかかっても刃が跳ね返される。よしんば入っても、まるでダメージを負わせたような気がしないのだ。
 
「ぐっ!?」

 その刹那。
 不意打ちでのびてきた腕に、喉元を掴まれ呻く。
 ギリギリッ、と躊躇ちゅうちょの欠片もない締め上げち、顔に色を失いになってむせる。
 しかしそこで剣を握り直す根性はあるようで。

「ルイト!」
「ぐ……ぁっ……ご、ごのッ、バケモノがっ!!」

 首を締める腕に左手の爪を立てて、腹に思い切り力を力をいれる。
 そしてなんと、振り子の原理で足を振り上げその反動で右手の剣で叩き切ったのだ。

『グギャアァ゙ァ゙ァァァァッ!!!』

 腕を切り落とされた魔物は、おびただしい血を撒き散らしてのたうち回る。
 とっさの判断と、豪胆さでルイトは首にくい込んだ指を引き剥がすと地に叩きつけた。

「くそっ、やりやがったな。おい。トマス」
「お、おう……大丈夫か?」

 あまりのことに言葉を失う少年は、まだまだ経験の浅い冒険者なのだろう。その初々しい反応に新鮮さすら覚えながらも、表情をひきしめる。

「ほら。ボヤボヤすんな、まだ来るぞ」
「!」

 そう、敵は一体だけではなかったのだ。
 先ほどの雄叫びや絶叫。そして大量の血の匂いによって、他の魔物たちを呼び寄せたのだ。

「どうやらコイツ、体液に特殊ながあるらしい」

 単なる獣の本能を掻き立てるだけでない。それは異常な興奮状態で、ジリジリと迫ってくるモンスター達の様子を見れば明らかだ。
 それらはオークやゴブリン、トロールなどの亜人系のそれら。そして。

「半獣もいるな……そしてもれなくキメラだ」

 牛半獣ミノタウロスの片腕が無数の触手になっていたり、ハーピィと呼ばれる人面鳥の胴体に獅子のそれがくっついていたり。
 その構造や性質をまるで無視したような怪物たちが、まろび出てくるのだ。
 それはまさに異常な光景である。

「くそっ……酷いことしやがる」

 思わずそうつぶやくほど、人為的なものだというのがわかる。
 キメラ獣創造という禁忌を犯すだけにとどまらず、それは生命に対する冒涜ぼうとくだと思った。

「おい。これは――」
「油断するな、一斉にくるぞ!」

 つかみかかってくる鋭い爪をなぎ払い、怒鳴りつけた。
 慌てた様子で杖を振るうトマスを横目に、大きく跳躍する。

「まとめて、駆逐してやる」

 先ほどのケンタウロスの片腕の触手を避けながら、真っ二つに刃を滑らせる。
 激しい断末魔を待たず、更に喉元に真一文字。
 噴水のように吹き出した血はその場を凄惨に染め上げ、魔物たちを興奮させる。

「っ、あぶねぇ!!」
「!?」
 
 後ろから飛び出してきたのは、巨大なトマホーク。返り血でどす黒い光を帯びたそれが、真っ直ぐ振り下ろされる瞬間。

「【先駆電龍トルニス】!」

 叫ばれた呪文と閃光。まるで生きているかのような動きの電流が、不規則に群がる魔物達を攻撃した。
 あちらこちらで上がる悲鳴や咆哮。絶叫に、肉の焼き焦げる匂い。
 ルイトの背後でも、巨体の魔物が舌をだらしなくのばして倒れ込む音が地響きとともに。
 豚の頭をした、亜人系モンスターには大蛇の尾がビクビクと痙攣していた。

「アンタなぁ……あんまり無理すんなよ」
「やるじゃないか。トマス」

 杖を握りしめ、呆れた様子で肩をすくめる少年に向かってニヤリと笑ってみせる。
 やはり彼の実力もそうとうだ。
 これだけの敵を半数以上、同時攻撃できる威力はなかなか難しい。
 しかもこの歳だ。

(この場は突破出来そうだな)

 なおも迫り来る敵の腹を、掻っ切ってさばきながら武者震いに笑みを深めた――。




※※※

「っく……っはぁ……っ! だからアンタはムチャし過ぎだって」
「あははっ。でも僕たちの勝利だぜ」

 それからそう時間はかからなかった。
 ゼーゼーと息をきらせる魔法使いを支えながら、朗らかに笑う。
 これほどの危機的状況、久しぶりだ。多勢に無勢。生存本能に血が煮えたぎり、汗が吹き出す感覚。
 アドレナリンの過剰分泌で思考が冴え渡り、力に酔いしれる。
 これこそ戦いであり、狩猟だ。魔物という、本来ならば人間なんかでは太刀打ち不可能な存在を、この手で切り裂いていく。
 残酷とも思えるだろうが、それが生き物が本来持つ闘争心である。
 紅潮する頬を風がなでるのを感じながら、ルイトは大きく息を吐いた。

「しっかりしろよ、トマス」
「アンタはもっと加減を知れって。あんな無謀な戦い方、初めて見たぞ」
「ふふっ。いつになく、はしゃいでしまったんだ。とはいえ、君のアシストもなかなかだったよ」
「アンタになんかあったら、シモンに殺されちまうからな」
「ハァ? んな事ないだろ」

 皮肉やジョークにしては、やけに真顔な彼を不思議に思う。しかし、トマスはそれ以上なにもいわなかった。

「少し、休ませてくれ。オレはもう、クタクタだ」
  
 あんな数の魔物達を、たった二人で相手したのだ。
 トマスが、魔力も体力も消耗するのは仕方ない。
 それにルイトだって疲れは激しく、このまま森の奥まで進んでいくのは躊躇われた。

「じゃあ。あの影で休むか」

 ちょうど、小さな崖が屋根のようになっている岩場。
 そこに身体を滑り込ませ、二人は休息をとる事にした。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

出戻り王子が幸せになるまで

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。 一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。 ※他サイトにも掲載しております。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

虐げられた令息の第二の人生はスローライフ

りまり
BL
 僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。  僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。  だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。  救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。  お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。        

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

処理中です...