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瘴気の森の半魔獣

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「くっ……はな゙ぜぇ゙ぇぇっ!」
「おいおい。暴れるとよけいに辛くなるぜ」

 すでに限界のルイトに対して、残酷な笑みを浮かべるこの男の声は幸せに満ちている。

「素直になれってば。気持ちいいこと、してやるから」

 あやすような口ぶりだが、やっていることは残酷で。

「あ゙ぁ゙ぁァァァッ」

 ルイトは、頭を抱えて狂ってしまいそうなほどの快楽に吠えた。
 全身をくまなく愛撫するのは、男の胴体から無数の触手。
 ランス・ロンドは、触手魔物に寄生された状況だった。
 というより、これはもはや融合とうべきなのか。キメラ獣を生成する技術は、こういったバケモノめいた人間を作り出せるのだ。

「ゔっ、んんっ……ふぁ」

 勢いよく、乱暴に合わせられた唇。
 その間も回された触手達に、背中を撫でられ尻の窪みを探られる。

(やめろ)

 拒絶しようにも、濃厚な口付けと頭をガッシリと押さえつける彼の手。
 すべてを塞がれたまま、脳を焼き切るような快感に涙をこぼす。

「かわいい。泣いてんの?」

 痩せた男が目を細める。甘く蕩けるような表情に、困惑する。
 
「なぁ愛してる。ずっとこうしたかった」

(どうしてそんな)

 顔をするのか――そうつぶやこうとする唇を。

「んぅっ、うぅ……ぁ」

 また貪るようなキスに阻まれた。
 舌を吸い上げ、歯列をなぞる。溺れてしまいそうな執着をみせるこの男に抗おうと、ルイトは懸命に身じろぐ。しかし。

「うゔーっ……う、ぁ……んんッ」

 ぐちゅぐちゅと細い触手が粘液を垂らしながら、胎内に潜り込んでくる。
 暴かれる不快感と恐怖。そして暴力的な快感。
 このまま理性を手放し、陥落かんらくしてしまいそうな心を叱咤する。

(屈してはダメだ。娘を、彼らを助けなければ)

 他者のために戦ったことなどなかった。
 報酬を得るために危険をおかすことはあったが。
 しかし今、精神を削りながらも頭の中では娘やあの若き冒険者たちの姿がある。

「っふ、ぁ……ぅ……ぃッ!?」
「あははっ! もう少し頑張れよ。オレのは、けっこうデカいから」
「なっ……あ゙ァァァッ! やめ゙っ、あ゙がっ」

 突然。解していたはずの細い触手が引き抜かれ、その代わりに比べ物にならない太さのそれが押し入ってきた。

「ひっ、ぎ……ぁ゙っ、む゙、むり゙ぃっ」

 ぶつりと切れた感覚。
 きっと血が流れているだろうが、そんな痛みよりも身体を真っ二つに引き裂かれるような圧迫感と異物感とに支配される。

「っ、お前の、ここ、キツいなぁ。でも見てみろよ、オレたち繋がってんだぜ」

 それはとてもグロテスクな光景で、彼は思わず言葉を失う。
 おおよそ人間のとは思えぬ凹凸と大きさ、長さの生殖器が突き立てられているのだ。
 しかもそれは触手のように自ら、フルフルと震えてみせる。
 
「触手と融合させられるなんざ、真っ平御免だったんだけどよぉ」

 滴る汗を拭うこともせず、陰鬱に自嘲げに微笑む男。
 
「こうやってお前を満足させられるっていうなら、それも悪くねぇよなぁ?」
「あ゙……っぐ、ぬ、ぬ゙きやがれっ、この、バケモノがッ……!」

 恥辱と苦痛に歪みながらも、吐き捨ててにらみつけた。

「なぁそろそろ素直になれよぉ」

 間延びした声がさとす。

「オレの子を産んで」
「だ、だれがっ」

 この触手が自分を孕まそうとするのはもう知っている。
 この男も、それを狙っているのだろう。

、そうだろう?」
「!?」

(何を言っているんだ)

 通常、男同士では子を成せない。
 
「なぁ。あんなガキ、捨てちまえよぉ。今なら、オレとも子どもができるだろう? なぁなぁなぁなぁ??」

 ランスの言わんとすることが分かり、ルイトはさらに青ざめた。

「そうすりゃあ、家族になれる。愛する奴と、その子どもと、オレは、オレは、オレ、ああ、家族に、オレのものだ、お前は――」

 壊れた自動人形オートマタのように繰り言をつぶやく、その瞳は黒目が小さく萎縮して震えている。
 明らかに異常な状態だ。
 
「ずっといっしょだ、オレたち、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと」

 ぐるんっ、と黒目が裏がえり血走った白目があらわになった。

「ずっト、いッしょ……あいシてル……オ前ヲ……ルイト……ォ゙……」

 狂気に支配された人間。いや、人間というより――。
 
「ア゙グッ、ギィ゙ィィッ、ァ゙ァ……」

 奇妙な呻きとともに、痙攣けいれんする身体。舌をだらりとさせながら、獣とも人間とも魔物とも違う異質な存在。
 
「ら、ランス……っ、うあ゙ぁぁ゙ッ!?」

 驚愕するヒマも与えられなかった。
 いきなり始まった乱暴な抽挿に、耐えることもできない。
 凹凸のある太い触手――おそらく生殖器なのだろう。それが、なんの遠慮もな力まかせに胎内を突いていく衝撃たるや。
 チカチカと目の前に光が舞う中、快楽だか激痛だか。それすら分からぬままに泣き叫び濁った悲鳴をあげる。

「や゙ぁ゙ッ、やめ゙っ、ぎゃぁッ、じ、じぬ゙ぅぅっ!!!」
「イッショ……イ゙っ……ショッ……ズッと……」

 繰り言をこぼしながら、キメラ獣となった男は愛する者を犯し続ける。
 そのはらに魔物の子を孕まそうと。
 
(もう、限界だ)

 ルイトは、いっそ死んでしまいたかった。
 愛しい娘も取り上げられ、ただ狂った魔物の母胎となって生きていくくらいならば。

「あ゙……っ……ぐ……お゙っ、ぉ゙、ん゙」

 嬌声ですらない、苦痛の呻きの中。血と生臭い獣の匂いが立ち込める。
 それでも手放すことの出来ない意識が、さらに絶望へと駆り立てた。

(だれか、たすけて)
 
 浮かんだのは一人の男の姿。
 なぜかそれは、今の今まで一度も思い出すことの出来なかった者の名前。
 少しくせのある赤い髪。たくましい四肢。
 そしてあの美しい顔を彩る、神秘的なエメラルドグリーンの瞳。

「リュ……ウガ」

 言葉に出して初めて、自らの目から流れる涙に気がついた。

「たすけ、て」
「――ああ。まかせておけ」

 低い声バリトンボイスが響く。

「ッ!」

 男の顔に、一瞬で赤い線が描かれた。そして。

「ガ……っ、ゥ゙ッ……!? オ゙ッ……?」

 何が起こったのか分からない、といった風情でランスが首を傾げる。
 次の瞬間。

「ガ……ッ……ギャ゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ!!!!」

 大きくのたうつ身体と、その顔がずるりと
 まるでの肉の仮面のように、ランスの痩けた顔が落ちたのだ。

「ヒギャァァァァッ! ア゙ァァ゙ッ!! オれ゙の゙ッ、オレ゙の、がお゙がァァァッ!!!」

 絶叫。
 そして、おびただしい血が組み伏せられているルイトに降り注ぐ。
 かと思われたが。

「勝手にぶちまけんじゃねぇ」

 冷たい言葉と共に、なんとランスの身体が瞬く間に凍りついたのだ。
 顔の剥がれた醜い氷像となり、その場に仰向けに転がった。

「……っ……な、なにが……」

(なにがあったんだ)

 ルイトは呆然とつぶやく。
 先程まで自分を犯していた男は、冷たく凍って横たわっている。
 血のひとつも、辺りに散らすこともなく。

「ルイト」
「!」

 あの声だ。
 急いで身体を起こす。

「大丈夫か」

(君、は……)

 頭の中の凍てつきが溶けて、豊かな水が流れ込んでくるように。彼の中で大きな記憶が呼び起こされた。

「リュウガ?」

 その名を恐る恐る口にすれば、彼は微笑んだ。翠色の瞳を、ほんのり涙で煌めかせて。

「ああ、そうだ」
「リュウガ……リュウガ……僕……あの……僕……」

 言葉が出てこない。
 ただ言いようのない感情が、胸の中に押し寄せてくる。
 喜怒哀楽のすべてをごちゃまぜにしたようなそれに、彼は恐れおののき混乱した。
 しかしそんなルイトに、リュウガはゆっくりと近づく。

「何も言うな。大丈夫だから」

 相変わらず優しくそそがれる眼差しから、逃げるようにうつむいた。
 助け出されたというのに、ひどい気分だ。

(見られたくなかった)

 一度ならず二度までも。
 しかも今回は魔物と融合はしていたが、ほかの男に凌辱されていた姿を。
 情けなさに涙が零れそうになる。

(なんでこいつなんだ)

 お門違いの苛立ちは、誰に向けてのものか。黙っているルイトのそばに、リュウガは膝をついた。

「ちょっと、我慢しろよ」
「え……うわ゙ぁっ! なにすんだ!?」

 いきなり彼の両足を掴みあげる。
 そして。

「あ゙ぁっ!! や、やめっ」
「『これ』抜かねぇとダメだろ」

 顔を剥がれ、氷魔法をかけられているランス。唯一、凍っていない身体の部位。

「んああっ! も、もっと優しくっ」
「なかなか抜けねぇな」
「ひ……っ……そこっ、やらぁ」

 太い触手なようなペニスだけが、未だ生々しい色でルイトの尻穴にぶっささっていたのだ。
 本人がこんな状況で多少みたいだが、それでも凶悪なサイズには違いない。

「感じてんじゃねぇよ」
「か、感じてるわけ……っ、んあっ」
「やれやれ。なんか妬けるぜ」

 凹凸部分に泣かされ、彼の腕にすがりつきながら。
 どこか安心している自分がいた。

 






 

 
 

 

 
 
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