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3、帰りたい

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「なにやってんだ、俺。」
シンのいなくなった部屋で、独り言はやけに大きく響いた。
シンと3度目のキスをしているうちに、身体から力がぬけた。腰ぬけるという感覚をキスで、それも、初対面の男とのキスで味わうとは思わなかった。
真っ赤な顔をして座りこんでいる俺を、シンは抱え上げて(それもお姫様だっこで、だ)ソファーに座らせた。
落ち着かせるように俺の頭をなでたあと、「頭を冷やしてくる。」とシンは部屋をでていった。
部屋からでていく背中を茫然とみつめたあと、突然起こったすさまじい展開に俺は思いを馳せた。

すぐさま、シンは戻ってきた。心なしか、顔色が青い気がする。
「すまなかった。」
キスのことなのか、腰を抜かしてしまったことなのか、謝られた。
「ううん。シンは悪くない。」
あまりにもすまなさそうにしているので、そういう他なかった。
「あのさ……ここってどこなわけ?俺、いきなりここにいたんだけど。」
ようやく知りたくてたまらなかった問いをした。
「……ここは、」
とシンが説明をしてくれようとした矢先。
「早く帰りたい。」
心の中の声が漏れだした。
「なあ、ここはどこなんだよ。授業中に居眠りしてたらここにきてたんだ。住居不法侵入で捕まるのか。ってか、ここは日本かよ。……とにかく、早く帰りたい。」
見知らぬ部屋にいる不安と、キスで気持ちよくなってしまったことの焦りがまざりあった。
そもそも、シンはなぜ怪しまないんだろう。まるで俺がいるのが当然のような顔をしている。いまさら気付いたその事実に少しだけ背筋が寒くなった。なんだか嫌な予感がする。
「帰さない。絶対に帰さない。徹は俺のものだ。だれにも渡さない。どこにも行かせない。」
仄暗い瞳をしたシンと目があった。ぞわりと首筋に恐怖が走り、「ひっ」と声にならない声がもれた。
怖い。
さきほどまでの柔らかくて優しい雰囲気がシンから消し飛んでしまっている。
怖い。
並んで座っていたはずなのに、距離を詰められた。
怖い。
逃げないといけないとわかっているはずなのに、身体が動かない。
怖い。
怖い。
怖い。
気がつくと身体が震えていた。自分で自分の身体をきつく抱きしめても震えはとまらない。

「すまない。……徹が混乱しているのも当たり前だ。説明をさせてくれないだろうか。」
また、少し距離をあけて、シンが心配そうにこちらをみている。
よかった、いつものシンだ。シンとは初対面で出逢ったばかりなのに。”いつも”はしらないはずなのに。
それでも、いつものシンだと思ってしまった。
「俺も、話を遮ってごめん。……頼む、教えてくれ。」
「ああ。徹の世界はどうかは知らないが……」
シンは分かりやすく話してくれた。
「ここは、徹の住む世界ではないと思う。メーヴェフィールトという世界だ。聞き覚えはあるか?」
首を横にふると、
「そう、だよな。」と哀しげに目をふせた。そこから話してくれたことによると、俺が呼び出されたのはシンの番だから。
番は、魂の結びつきによって決められたつながりである。成人をすると番がわかるようになる。どんなに遠く離れていてもお互いに場所がわかるので会うことができる。
だがたまに、異世界に番がいる者もいるその場合、成人してから番を恋うようになると、こちらの世界に番を呼びよせてしまう。呼ばれた番は、もう二度ともとの世界には戻れない。
「元の世界に戻れない?」
「すまない。」
「戻る方法はないのかよ。」
「ない。番を呼びよせた例がもともと少ない。番はほとんどの場合、この世界にいるからな。それに、番を呼びよせるための力は番が恋しいとおもう気持ちが原動力になっている。だから。呼びよせることはあっても戻すことはできない。」
シンから説明を受けて茫然としていたから、シンの顔が険しくなっていることに気付かなかった。
「なあ、でも俺は……」
「帰れないし、帰さない。」
どこかで、何かが崩れる音がかすかに聞こえた。

「シ……ン?」
「ようやく徹をみつけたんだ。放すわけがないだろう。」
さきほど消えたはずの恐怖が戻ってきた。
とっさに逃げようと腰を浮かそうとするも腕を引かれて阻まれた。
その勢いのままソファーに押し倒された。
「シンっ……」
「帰さないに決まっているだろう。俺の徹なんだから。」
森の緑のような目に射すくめられて動けない。がちがちに固まっている俺の耳に、シンの唇が落とされた。そのまま、唇と唇で耳を食まれる。
「んぅっ……」
せめて頭だけでも振って唇から逃れようとしても、さらにきつく抱きしめられてしまいまずます身動きがとれなくなってしまった。
舌が耳を這っていく温かく湿った感触など気持ちが悪いはずなのに、耳だけがまるで別の生き物にでもなってしまったかのようにそこだけが熱い。心臓がうるさいほどに鼓動する。怖いはずなのに、嬉しくて愛おしい。相反する感情をもてあまし、目から涙が一筋こぼれた。
泣こうと思って泣いたわけではないのに。
シンには気付かれたくないと思っていてもこの距離で気付かれないわけもなく。
「そうか、泣くほど俺が嫌か。」
涙をぬぐう指先は優しいのに、声は冷え冷えと響いた。それは違うと言いたくても声はでずにただぱくぱくと口を動かしただけになってしまった。
涙でぼやけた視界で懇願するも、返事はなかった。それどころか、服の裾をまくりあげられた。
身体をびくりとうずめかせても、止められるわけもなく。表れた2つの乳首をためらうことなくシンは口に含んだ。
「っっっ」
耳を食まれたときよりも、はるかに強い刺激がそこから全身に広がった。乳首など普段はまったく意識していない場所。まさかそんなところから快感を得てしまうなんて信じたくなかった。けれど、欲望に忠実な身体は思いとは反して熱を帯びていく。
「やっ、やだぁっ……シンっ、シンっ……やめろっ……やめてくれっ」
これ以上感じるとまずいことになる。性交の経験などなかったが、本能でわかる。このまま任せてしまうとどんな痴態をみせてしまうのか。考えたくもなかった。
「徹はうそつきだな……」
シンは乳首に甘く噛み付いた。舌でなぶるように乳首を弄ぶ。くちゅくちゅと唾液をからませる音と感触を全身で感じ、隠しようのない嬌声が漏れた。
「あっ、あ……ん……ああっ」
「こんなに感じているのに嫌なのか?」
唇を放し、両方の乳首をこねるようにつままれると、ぴりりとした快楽が身体をかけめぐった。痛いはずなのに、痛みだとは思えない。
それどころか、この感覚は認めたくないけれど。
「気持ちいいっ……いいっからっっ」
羞恥心などはるかかなたに吹き飛んだ。もっと気持ち良くなりたい。気持ちよくしてほしい。
もっと、もっと。熱に浮かされたかのように、とろんとした瞳でシンの碧眼に見入った。
「もっと……して。」

シンの指が、唇が全身に降ってきた。シンから与えられるすべての感触が快感に変わった。どこを触られても舐められても食まれても甘く切ない声が落ちる。
どれだけ淫らな状態なのか考える余裕もないまま、ただただ翻弄され続けた。
シンの身体にすがりつき、キスをねだった。それだけでは足りないと身体をこすりつけた
唇が重ねられるや否や、自分から舌をからめた。飲み下しきれない唾液が口の端からこぼれおちたが気にしている暇などなかった。ただただ、ほしかった。
すべての快楽は身体の中にのみこまれていく。
後ろの菊門に手を伸ばされても違和感などおぼえなかった。それどころか、排泄以外の目的で使うのは初めてなのに、シンの指を当たり前のもののように咥えて食んでいる。
「あああ……っ……んっ く、あ、あっ…ああああっ」
奥まで伸ばされた指がある一点をかすめた。その瞬間に今までの比ではないほどの刺激が身体中をかけめぐった。
「ここが、いいんだな。」
シンは徹の達したばかりの身体を容赦なく攻め立てた。
気持ちよすぎて苦しいなど知りたくもなかった。息付く間もなく与えられる快楽はさながら苦痛のようで。
「も、もうっだめっ……あああっ……」
制止の声もうまく発することができず翻弄されるがままになっていた。
散々、悪戯をした指が引き抜かれ、代わりに硬く太いものが押し当てられた。
指とは違い段違いに太いが散々馴らされた淫穴はすんなりと受け入れた。それどころか、きゅうきゅうと嬉しそうに締め付ける始末。
「シンっ……あっ……あああんっ……や……う、うごくなっ」
すべてはいったと思うと、すぐさま突き上げられ、揺さぶられた。自分の身体のはずなのに何一つ思い通りにならない。甘い嬌声がのどからこぼれおちていくのをどこか人ごとのように聞いていた。
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