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まだ神殿にあのスコーンがあるとすれば全てを回収しなければならないが、エレアは王都の何処に神殿があるのかわからない。
「神殿までは案内出来るけれど、あのスコーンを回収するのは難しいよ。神官達があのスコーン1個に対してかなりの金額での寄付を求めてるんだよ」
神官達は聖女が作ったありがたいスコーンだと思い売っているのだろう。
事前に神官達がスコーンを食べればスコーンの中の禍々しいモノに気付くことが出来たのではないか?
ベンジャミンのように口にしてもナッツの風味を強く感じ、スパイスが少し入っていると勘違いしたのだろうか?
神官達は聖職者として神に仕えている者達なのでそんな馬鹿な勘違いはないだろうが、現にスコーンが出回っているという事は気付いていなかったわけだ。
「私達は神殿の中には入ることは出来ないと思うわ」
そう告げたのはマダム・リリーの使用人達だった。
エレアが神殿に行きたいと告げた時、神殿までは送ることが出来るが、神殿の中までは入ることが出来ないのだ。
いくらシオンの作った魔道具があり、魔族の気配をうまく隠していたとしてもだ。
聖なる空間は魔族にとってはとても息苦しい場所で、人が魔素の強い場所に行くと気分が悪くなるのに近い感覚だ。
「寄付すればスコーンが貰えるんですね!だったら寄付して全部貰ってきます。ベンジャミンさん案内とそれとお金を貸してもらってもいいでしょうか?」
エレアは普段からお金を持ってはいないが、マダム・リリーが給金だと貯めてくれていくものがあると聞いている。
それならばそれを後でベンジャミンに支払えばいいだろう。
「お金は貸す事が出来るけれど、その姿だと神殿から出してもらえないんじゃないかな。ピンクブロンドの髪色に青い瞳の女性は有名だからね」
いまはユリアの姿に似せているエレアだったが、王都でこの姿は目立ち過ぎる。
「じゃあ元の姿に戻ります、どうせここでは私の姿を知っている者は殆どいませんし」
サムル王国の親善団の中には当然エレアの事を知っている者もいるだろうが、ライラさえいなければやり過ごす事が出来るだろう。
「僕がそのスコーンを全て買ってここに持って帰って来るよ。神殿にとっては一番興味のない人間が僕だから。いや、お金を沢山持っているって点では神殿は僕に興味があるかもね」
ベンジャミンが何かを察して自ら動いてくれると告げた。
その申し出はありがたいが、スコーン自体がどう作動するかがわからない。
人の体に入り生気を吸収し始めて魔物が動き始めるのか、すでにスコーンの中で目覚めているのか。
突然スコーンの中から魔物が飛び出して来るなんて恐ろしい。
「出来る限り購入してもらえますか?」
「わかったよ。神殿までは今は通行止めで馬車が使えないから少し時間がかかるかもしれないけれどユリアちゃん達はここで待っていてくれるかな?」
ベンジャミンは急いで店から飛び出して行ったが人がごった返しているため上手く前に進めていない。
一番戦闘能力の高いイムはマダム・リリーのお供をしてスーラと一緒に娼館のほうに行っている。
聖女ライラの行列は見る価値がないと話していたが、本当に興味がなかったのだ。
「ここのお店は大丈夫ですヨ。手練れ揃いなので干からびてた魔物なんて大したことないですヨ。ただし私達が人ではないとバレてしまう恐れがあるのでその事の方が心配です」
レシーはたいしたことないと笑っている。
「魔素が入っててスコーン自体は美味しいですヨ。ライラはこんな美味しいスコーンを作ることが出来るんですね」
皮肉にもライラが作ったスコーンは魔族向きの味になっていた。
魔素は魔族にとっては美味しいモノなので人が食べると体調が悪くなるスコーンが喜ばれている。
「今度魔王城に戻ったら魔素入りスコーンをレシーに作ってあげるわね」
「ホントですか!エレア様の作る魔素入りスコーンなんて美味しいに決まってるじゃないですか!」
レシーの大きな声に他の店員達もエレアのほうを向いて魔素入りスコーンを要求し始めた。
人間の食べ物は見た目や味が様々だが、やはり魔族は食べ慣れている魔素が入ると何かが違うのだろう。
「ユリアとマーカスにも今の状態を伝えなきゃいけないわね」
「私が行ってきます!」
レシーが手を挙げた。
「私が一番戦闘能力が低いので、この場を離れるのは私が適してると思います」
「まぁレシーが適任よね、ユリアと聖騎士マーカスもこの店に来るように伝えてもらえるかしら?私達はユリアちゃんが危なくないようここで待ってるから」
「マダム・リリーにはもう伝達しましたが、ユリアやユリアの周囲に居るマダム・リリーの使用人には伝達出来ないんですヨ」
「じゃあ危なくないよう気を付けて向かってね」
レシーも緊急事態になりそうだとユリアに伝えに走った。
レシーを見送ったエレアはベンジャミンが走っていった方角を見つめた。
なるべくスコーンを回収して欲しいがベンジャミンの身の危険がなければいいが。
「ベンジャミンにも護衛を付けましたので安心してください」
マダム・リリーの使用人がエレアの心配する様子を気にかけて声をかけてきた。
神殿のある方向と反対の方向から歓声が聞こえ始めた。
スコーン店のすぐ側までライラの行列が来たのだろう。
エレアが行列の先頭のほうに目を向けた。
騎乗した騎士達が隊列を乱すことなくこちらに向かってきているのをみて少しホッとした。
もし魔物が出現することになったとしても、騎士達がいれば市民を守るために対峙してくれるだろう。
ふと先頭の人物をエレアは見た。
一際目立つ銀髪に紫の瞳はアリス姫の纏う色とよく似ていて、纏う色は恐らく父親である国王に似たのだろう。
顔つきはアリス姫とは似てはいなかった。
(アーサー王太子・・・何処かで見た気がするけれど、ゲームのスチルで瞼に焼き付けてしまったからかしら?前世の弊害ね)
近づいてくるアーサー王太子とずっと目が合っている気がするのは気のせいなのかと思っていると、騎士達の遥か後方から騒ぎが起こった。
人の悲鳴が幾つも聞こえてくる。
何か嫌な予感がし、同時に嫌な気配がする。
息を潜めてその気配を探ろうとしたが
「魔物だ!!」
誰かの叫び声と助けを求める悲鳴が続いた。
レシーが向かった方角だった。
「神殿までは案内出来るけれど、あのスコーンを回収するのは難しいよ。神官達があのスコーン1個に対してかなりの金額での寄付を求めてるんだよ」
神官達は聖女が作ったありがたいスコーンだと思い売っているのだろう。
事前に神官達がスコーンを食べればスコーンの中の禍々しいモノに気付くことが出来たのではないか?
ベンジャミンのように口にしてもナッツの風味を強く感じ、スパイスが少し入っていると勘違いしたのだろうか?
神官達は聖職者として神に仕えている者達なのでそんな馬鹿な勘違いはないだろうが、現にスコーンが出回っているという事は気付いていなかったわけだ。
「私達は神殿の中には入ることは出来ないと思うわ」
そう告げたのはマダム・リリーの使用人達だった。
エレアが神殿に行きたいと告げた時、神殿までは送ることが出来るが、神殿の中までは入ることが出来ないのだ。
いくらシオンの作った魔道具があり、魔族の気配をうまく隠していたとしてもだ。
聖なる空間は魔族にとってはとても息苦しい場所で、人が魔素の強い場所に行くと気分が悪くなるのに近い感覚だ。
「寄付すればスコーンが貰えるんですね!だったら寄付して全部貰ってきます。ベンジャミンさん案内とそれとお金を貸してもらってもいいでしょうか?」
エレアは普段からお金を持ってはいないが、マダム・リリーが給金だと貯めてくれていくものがあると聞いている。
それならばそれを後でベンジャミンに支払えばいいだろう。
「お金は貸す事が出来るけれど、その姿だと神殿から出してもらえないんじゃないかな。ピンクブロンドの髪色に青い瞳の女性は有名だからね」
いまはユリアの姿に似せているエレアだったが、王都でこの姿は目立ち過ぎる。
「じゃあ元の姿に戻ります、どうせここでは私の姿を知っている者は殆どいませんし」
サムル王国の親善団の中には当然エレアの事を知っている者もいるだろうが、ライラさえいなければやり過ごす事が出来るだろう。
「僕がそのスコーンを全て買ってここに持って帰って来るよ。神殿にとっては一番興味のない人間が僕だから。いや、お金を沢山持っているって点では神殿は僕に興味があるかもね」
ベンジャミンが何かを察して自ら動いてくれると告げた。
その申し出はありがたいが、スコーン自体がどう作動するかがわからない。
人の体に入り生気を吸収し始めて魔物が動き始めるのか、すでにスコーンの中で目覚めているのか。
突然スコーンの中から魔物が飛び出して来るなんて恐ろしい。
「出来る限り購入してもらえますか?」
「わかったよ。神殿までは今は通行止めで馬車が使えないから少し時間がかかるかもしれないけれどユリアちゃん達はここで待っていてくれるかな?」
ベンジャミンは急いで店から飛び出して行ったが人がごった返しているため上手く前に進めていない。
一番戦闘能力の高いイムはマダム・リリーのお供をしてスーラと一緒に娼館のほうに行っている。
聖女ライラの行列は見る価値がないと話していたが、本当に興味がなかったのだ。
「ここのお店は大丈夫ですヨ。手練れ揃いなので干からびてた魔物なんて大したことないですヨ。ただし私達が人ではないとバレてしまう恐れがあるのでその事の方が心配です」
レシーはたいしたことないと笑っている。
「魔素が入っててスコーン自体は美味しいですヨ。ライラはこんな美味しいスコーンを作ることが出来るんですね」
皮肉にもライラが作ったスコーンは魔族向きの味になっていた。
魔素は魔族にとっては美味しいモノなので人が食べると体調が悪くなるスコーンが喜ばれている。
「今度魔王城に戻ったら魔素入りスコーンをレシーに作ってあげるわね」
「ホントですか!エレア様の作る魔素入りスコーンなんて美味しいに決まってるじゃないですか!」
レシーの大きな声に他の店員達もエレアのほうを向いて魔素入りスコーンを要求し始めた。
人間の食べ物は見た目や味が様々だが、やはり魔族は食べ慣れている魔素が入ると何かが違うのだろう。
「ユリアとマーカスにも今の状態を伝えなきゃいけないわね」
「私が行ってきます!」
レシーが手を挙げた。
「私が一番戦闘能力が低いので、この場を離れるのは私が適してると思います」
「まぁレシーが適任よね、ユリアと聖騎士マーカスもこの店に来るように伝えてもらえるかしら?私達はユリアちゃんが危なくないようここで待ってるから」
「マダム・リリーにはもう伝達しましたが、ユリアやユリアの周囲に居るマダム・リリーの使用人には伝達出来ないんですヨ」
「じゃあ危なくないよう気を付けて向かってね」
レシーも緊急事態になりそうだとユリアに伝えに走った。
レシーを見送ったエレアはベンジャミンが走っていった方角を見つめた。
なるべくスコーンを回収して欲しいがベンジャミンの身の危険がなければいいが。
「ベンジャミンにも護衛を付けましたので安心してください」
マダム・リリーの使用人がエレアの心配する様子を気にかけて声をかけてきた。
神殿のある方向と反対の方向から歓声が聞こえ始めた。
スコーン店のすぐ側までライラの行列が来たのだろう。
エレアが行列の先頭のほうに目を向けた。
騎乗した騎士達が隊列を乱すことなくこちらに向かってきているのをみて少しホッとした。
もし魔物が出現することになったとしても、騎士達がいれば市民を守るために対峙してくれるだろう。
ふと先頭の人物をエレアは見た。
一際目立つ銀髪に紫の瞳はアリス姫の纏う色とよく似ていて、纏う色は恐らく父親である国王に似たのだろう。
顔つきはアリス姫とは似てはいなかった。
(アーサー王太子・・・何処かで見た気がするけれど、ゲームのスチルで瞼に焼き付けてしまったからかしら?前世の弊害ね)
近づいてくるアーサー王太子とずっと目が合っている気がするのは気のせいなのかと思っていると、騎士達の遥か後方から騒ぎが起こった。
人の悲鳴が幾つも聞こえてくる。
何か嫌な予感がし、同時に嫌な気配がする。
息を潜めてその気配を探ろうとしたが
「魔物だ!!」
誰かの叫び声と助けを求める悲鳴が続いた。
レシーが向かった方角だった。
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