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番外編

リタは生きてるんじゃないだろーな?(ノアム視点)

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テルシャから連絡が来て、私は結界の外に出られーた。

すぐさま、目的地へと転送されーる。
他の場所へ逃げないようにだーな。

着いたのは、離れ小島の『ピュア島』。
名前はピュアでも、化け物が住み着きやすく恐ろしい島だが、良い魔石が採掘できる鉱山が多ーい。

私は、今か今かと入り口で待ってるーと、ハンターがやって来ーた。

おお!カミュン!
クロスノスまでいーる!!

私が目を輝かせていると、二人ともぎょっとした顔をしーた。

「まさか、依頼人てあんた?」

カミュンが、嫌そうな顔をして見ていーる。
私は、久しぶり会えたことの方が嬉しくて気にならなーい。

「そうーだ。
よく来てくれーた。
クロスノスまで来てくれるなんーて。
会いたかったーぞ。」

クロスノスは、カミュンほど露骨な態度は取らないが、距離を保ってにこやかにしていーる。

「はは、どうも。
ヒュコンのサンプルが欲しくて来たのです。
お元気そうで何より。」

この男も本当に綺麗な男なんだよーな。
女装でもしたら、絶対分からないくらい中性的な美貌があーる。

は!浮気はいかんーな。

「カミュン、リタを失って辛かろうーな。」

私は本題に入ーった。
カミュンの眉がピクリと動ーく。

「この依頼を終えたら、酒でも一緒に飲まぬーか?
リタと私は10年共にいーた。
昔のあいつのことを教えてやろーか。」

けけ、この話題で釣ってやーる。
そう思っていたら、

「いらねーよ。
リタを散々いたぶった話なんか、聞きたくねぇ。
俺は依頼を果たして、さっさと帰るだけだ。」

と、つれなーい。
顔を背けて、鉱山の中に入って行こうとすーる。

「リタによく似た女と、駆け落ちしたと聞いーた。
それは本当なのーか?」

と、カミュンの背中に話しかけーる。
カミュンは一瞬動きを止めて振り向くと、

「そうだ。
リタのことはもう聞くな。
終わったことだ。」

と、冷たい目で睨まれーた。
・・・。
うーむ。

本当のことにも思えるし、嘘のようにも思えーる。
新しい恋人がそんなにいいのーか?

私は、こっそり後ろからついていくことにしーた。

鉱山の中は、あちこち穴があってどこにヒュコンがいるのか、わからなーい。

クロスノスは、カミュンに小さな袋を渡していーる。

「ヒュコンは、鉱脈に巧みに潜んで獲物に近づきます。
おびきよせましょう。」

カミュンは、袋を受け取りながら、

「生き餌が理想的なんだが、やつは好みが激しい。
どんな生き餌を好むかは、個体ごとに違うから、前もって準備できないんだよな。」

と、言って袋から沢山の玉を取り出ーす。

『玉響の玉』・・・。
化け物の好む音を奏でるハンター御用達の玉ーか。

そんな時、私の後ろからシュー、と音がしーた。

うるさいなあー?

そう思って振り向くと、大きな四つの目がこちらを睨んでいるのが見えーた。

ヒュコンじゃないか!!

「きゃーーーー!!!」

人生が走馬灯のように思い出されーる。
慌てて物陰から這い出すと、死に物狂いでカミュンたちの方に逃げーた。

ヒュコンは、舌なめずりをして私に口を開いてくーる。

双頭の蛇だけに、頭が二つだから口も二つ。
お互いに頭が空中でぶつかって、事なきを得ーた。

それでも、諦めないからまた走るはめーに!

必死にカミュンの後ろに逃げ込むと、クロスノスが自分の髪を武器に変えて、ヒュコンの牙を弾き返しーた。

「はは、このヒュコンはあんたを食いたいみたいだな。」

カミュンが、大笑いしていーる。

「さて、このヒュコンは何属性を持つのか。
一般的な火と水か。
光と闇か。」

クロスノスは、かけている眼鏡の縁をなぞってヒュコンを調べていーる。

あの眼鏡、そんな機能が?
ヒュコンの首が、七色に輝き出す。

「厄介ですねー。
全ての属性が毎回変わる個体です。
弱点属性で攻めるのは時間がかかります。
無駄に体力が、多いので。」

と、クロスノスが言ってため息をつーく。
カミュンは両腕を振って、両手に剣を握ーった。

「毒を食らわせて、体力を削るか・・・。
地道に斬り刻むか・・・。
お、そういやこいつはあんたを食いたがってたな。」

カミュンがそう言った途端、ヒュコンの左の頭が真っ赤になると、口から大量の炎を吐き出してくーる。

クロスノスもカミュンも、私の首の後ろを掴んで、その場から跳ね飛んで避けーる。

避けた先に、今度は右の頭が突風を吐き出してきーた。
私は身を縮めて、悲鳴をあげてばかーり。

ようやく地上に降り立つと、

「おい、上着を脱いでよこせ。」

と、カミュンに言われーた。
大人しく脱いで渡すと、

「幻惑の精霊よ。
我が意のままに、幻を作り出せ。
ジュ・ロ・ラミ・シボマ!」

と彼は唱えて、私の上着を着たもう一人の私を
作りだーす。

クロスノスは、そのもう一人の私に、何かを持たせていーる。

そして、三人で再び後ろに飛び退いーた。

ヒュコンは、取り残されたもう一人の私をうまそうに食べ始め、もう一頭が体を半分食いちぎって飲み込んでいーる。

ひぃぃぃー。

怯えた私の目の前で、急にヒュコンが泡を吹き出しーた。

そしてみるみる弱って動かなくなーる。

カミュンは、ヒュコンが痙攣したのを見てトドメを刺しーた。

「よし、依頼完了。
クロスノス、サンプル取れよ。」

カミュンにそう言われたクロスノスが、嬉しそうに頷いて、ヒュコンに駆け寄ーる。

鮮やかな手並みだーな。
腰を抜かしながらもそう思えーた。

やはり胡散臭ーい。
最愛の恋人を失った男にしては、随分と変わらぬ様子。
リタは生きているのでは、なかろーな?

目を細める私に、カミュンは首を傾げていーる。

「おい、リタを失ったにしては、随分元気だーな?」

私はカマをかけてみることにしーた。

少なくとも神殿や妖精界で見かけた時は、二人はかなり親密だーった。

カミュンはしれっとして、

「終わったと言っただろ?
今の恋人が傷を癒したんだ。
毎晩一緒に過ごせば、誰でもこうなるさ。」

と、言ーった。

「つまり、リタよりいい女だったということーか?」

私の追求に、

「まあな。
なんだよ、あんた俺の恋人に興味でもあるのか?」

と、うるさそうに言い返してくーる。

「お前のその溌剌さが、気になるのーだ。
私の経験上、恋人を失ったお前みたいな男は、もっと引きずるはずなのーだ。
似ている女と恋仲になったところで、所詮代わりは代わり。
もし、リタが生存しているなら、神殿に奉納されたあの毛皮は偽造されたものということになーる。」

と、私が言うと、カミュンの目から一筋の涙が流れーた。

え・・・えぇー?

「必死に正気を保ってるんだ・・・。
ハンター稼業に打ち込まないと、彼女を思い出してしまう。
元の調子に戻るまで、時間がどれほど必要か、あんたにわかるのか!?」

と、カミュンに言われて、肩を落とーす。
そ、そんなつもりでーは。

クロスノスがすぐにカミュンの肩を抱いて、私の方を睨むと、

「依頼を果たしたのですから、もういいでしょう!?
親友を苦しめないでください!」

と、言って外に出て行ーった。

すまーん。
カミュン、すまん!!

私はトボトボ外に出ると、転移の魔法陣の上に乗ーった。

周りの景色が変わり始めた時、離れたところでカミュンが大きな帽子を被った女と、手を繋いで歩いていくのが見えーた。

あれは、リタ!?
背格好はそっくりーだ。

・・・なるほど。

それだけ似ているから、いいわけーか。
多分そういうことだろーう。

私は音無しの森に戻され、再び育成の呪符の力で森を再生させる作業に戻っていーった。







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