女吸血鬼ー異端のシルヴィア

たからかた

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共闘の盟約

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祈りの家に入ってきた人たちは、老若男女いる。

私はすぐに取り囲まれて、それぞれの武器を一斉に向けられることになった。

わわ!! 銃に、ナイフに、杭に、斧、剣や、ニンニクまである!! 

「おやめなさい!! 彼女は盟約に従ってきたのです!」

ダグラス神官様が駆け寄ってくると、私を背に庇ってくれる。まさか、この人たちはみんなハンター? 

「こんな朝から起きてる吸血鬼なんてなぁ」

「この地域では、数十年ぶりの仲間になる吸血鬼だって聞いてるわ。もっと、体格が良くて強そうなのが欲しかった」

「でも、顔は可愛いし、いい腰つきだなぁ。なんなら、俺と混血児『ダンピール』を作ろうぜ」

「おお、それなら俺も参加させろ。こんな若くてウブそうな女なら、大歓迎だ」

「は!! 彼女に選ばれてから言えば?」

「なんだと? お前こそイケメンの吸血鬼が来たら、食っちまう気だったろうが!?」

「えぇ、そうよ? ちゃあんと、私に惚れさせてからね?」

「面倒くせぇなぁ」

ハンターたちは、お互いにわあわあと言い合ってる。

好き勝手に言ってるわ……。
正直不愉快でたまらない。

「こらこら、馬鹿なことを言ってないで、まずは座りなさい。そして、そこの二人。彼女に謝罪しなさい。彼女は、あなたたちのオモチャになりにきたのではない」

「んな、カタイこと言うなよ、ダグラス神官様。本当はモテて喜んでるさ。 なぁ、ねーさん。ほら、そこの宿屋にいこうぜ」

「そうそう、吸血鬼の女は、そのエロさで獲物を寄せて襲ってくるじゃんか。男に抱かれるのが、本当は好きなんだよ」

「はぁ、まったく!!」

ダン!! とダグラス神官様は、床を踏み鳴らした。

「自分の娘がそんな言い方されて、『お前、喜んでるんだろ』と言えるのか? 上役の女性を相手に、同じセリフが言えるのか?」

そう言われて、二人は首を振る。

「娘が同じこと言われたら、そいつを殴り飛ばす」

「上役に言ったら、立場をなくしちまう」

ダグラス神官様はそれを聞いて、目を細めた。

「早い話、愛してもいない、自分より弱い立場だと思える女性を小馬鹿にした上に、体まで蹂躙したいわけか。なら、そうなる前に君たちを除名する。そして……」

と、言うと、彼は指をポキポキ鳴らし始めた。

「祈りの家に自ら入ったものは、我が子だ。つまり彼女は、私の娘同然。娘に乱暴しようとする悪漢は、神々の御前で成敗してくれる」

ダグラス神官様が怖い目で睨むと、ハンター二人が慌てて咳払いをして、私に謝ってきた。

「す、すまねぇ」
「すみません。あんたみたいに、可愛らしい娘には初めて会ったもので、悪ノリしちまった」

ダグラス神官様、迫力がある上にすごく力がある人なんだわ。
ハンターたちが平身低頭だもの。

ハンターたちはおとなしくなって、みんなそれぞれ椅子に腰掛けていく。

「これで、全員揃ったかな?」

ダグラス神官様が穏やかな口調に戻って、みんなを見回すと、ハンターたちは互いに顔を見合わせる。

「ウィンスロットがいないわ」

女性のハンターが、手を上げて教えてくれた。
ウィンスロット? 誰だろう。

首を傾げる私の前で、ハンターたちは顔を合わせて会話している。

「奴は吸血鬼とは組まねーよ。大事な姉貴を、吸血鬼に殺されてるからな」

「だな。ダグラス神官様、奴の狩り方はやばいぜ? 暴走した“しもべ”の、主人格の吸血鬼まで狙いやがる。純血の根絶やしはマズい」

「なんでよ? 純血がいなくなったら、“しもべ”も増えないじゃない。おまけに主人が死ねば、一緒に消滅するのよ?」

「純血どもは、人狼と並ぶ魔物たちの最上位種の一つ。よその国では、他の魔物を圧倒する力で、辺境の治安を守る奴もいる。役人どもも、ただのりしてんだぜ?」

「だが、純血どもは“しもべ”の管理がなってないから、被害も絶えない。何度言っても、直らねぇんだよな」

これが……吸血鬼の現実なんだわ……。

ダグラス神官様は重い空気の中、パンパンと手を打ち鳴らした。

「さぁさぁ。静かに。今は新種の吸血鬼、『日の下を恐れぬ者ども』がハンターたちの脅威になっている」

新種───私が見たのは、さっきの三人だけ。あんな吸血鬼が、たくさんいるのだわ……。でも、お養父とう様もお養母かあ様も、他の純血たちも、何も言ってなかった。

ダグラス神官様の話は続く。

「彼らは、“しもべ”の活動時間に動き回り、堂々と日の下に素肌を晒しても消滅しない上に、首を刎ねるまで死なないそうだ」

ざわざわと、ハンターたちが不安そうに騒ぎだした。

「“しもべ”の吸血鬼たちみたいな、日除けの帽子も被らないんだよな?」

「死ぬ時は、何故か牙を残して炭化する。そんな純血は見たことがない」

こうやって彼らは、情報を共有するのね。

そういえば、さっき出会った女性の吸血鬼たちも、銀の杭が心臓に刺さっても消滅しなかったし、牙を残して炭化していた。

日の光を恐れないこと、首を切られたら牙を残して炭化すること。分っているのは、これくらい。一体何者なんだろう。

「そして、最も恐ろしい奴が姿を現したそうだ。彼女が目撃者だ」

ダグラス神官様は、声を低くして私を見た。
私は、大きく深呼吸してみんなを見回す。

「ディミトリを見ました。十年前、あの凄惨な事件を引き起こした首謀者です」

声が少し震えてしまった。
ディミトリの名前に、ハンター全員が緊張して、空気まで変わる。

「ディミトリ!? あの『ブラッドバス』事件の!? 国中から集められた美男美女が、一晩で血の海化したという、あの?」

「ダグラス神官様、奴はなぜ生きている!? 法王府は、もう奴に薬は渡してないんだろ?」

え? 法王府? 薬? 
私はキョトンとしてダグラス神官様を見た。

ディミトリは、ただの吸血鬼じゃないの? 

ダグラス神官様が答えようとした時、祈りの家の扉がバーン!! と開け放された。

あ!! 宿屋にいたハンターの人だ!!

「……どこだ?」

彼は、片目を金色に光らせて、私の方に向かって、近づいてくる。

もう、顔は綺麗に口紅が拭き取られていて、髪も整えられていた。

「ウィンスロット!! やべぇ、おい、みんな抑えろ!!」

ハンターの一人が声を上げる。
え、この人がウィンスロット? 

周りの屈強なハンターたちが、一斉に彼を抑えこもうとするのを、彼は素早い動きでかわして私の目の前にやってくる。

ダグラス神官様が、間に入ってくれたけれど、彼の視線は逸れない。

「ディミトリをどこで見た? 仲間はいたか? どっちへ行ったんだ?」

彼の目は狂気を孕んで、とても怖い。

「ランヴァルト・ティグ・ウィンスロット! 落ち着きなさい!!」

ダグラス神官様が、彼の肩に手を置いて、必死に宥めている。

それでも、彼は私に迫ろうとした。よく見ると、両方の眼が金色になりかけている。

「教えろ、今すぐ奴をぶっ倒してやる!! 奴は俺の獲物なんだ!!」

「ランヴァルト! 奴はただの吸血鬼ではない!! 無闇に対決してお前まで亡くしたら、私はあの世でシルヴィアに会わせる顔がなくなる!!」

え? シルヴィア? 
私は思わずダグラス神官様を見た。

誰のこと? 私と同じ名前の人?

『シルヴィア』という名前に反応した彼は、ようやくダグラス神官様の方を見て、瞳の中の狂気が鎮まっていく。

金色に光っていた両目が、エメラルドグリーンの色に落ち着いていった。

あれ……この色が本来の色?

「……すみません」

ランヴァルトと呼ばれた男性は、謝罪してそばにあった椅子に腰掛けた。

この人も、ディミトリの被害者なのかしら。
あの事件の時、沢山の人が捕まっていた。
シルヴィア……まさか……。

ダグラス神官様は、祈りの家の祭壇の前に戻ると、みんなを見回した。

「ディミトリは、かつてハンターと、法王府のエクソシスト、そして純血の吸血鬼の総力をかけてようやく仕留めかけた強敵だ。新種の吸血鬼たちの発生とも、無関係ではないだろう」

彼の言葉に、その場の空気が重たくなる。
そんなに強いんだ、あの人。

十年前のあの日、私はディミトリに誘拐された。

その時の記憶は、今でも時々私を苦しめる。
吸血鬼化していなかったら、私は壊れていたかもしれない。

ハンターの一人が、手を上げて私を指さした。

「ねぇ、彼女は誰と組むの?」

ダグラス神官様は、ランヴァルトの後ろに座っている青年を指名する。

「フェレミス、彼がいいだろう。彼はダンピールだ。相手がディミトリなら、生身の人間のハンターは危険だ」

フェレミスと呼ばれた青年は、私を見てにっこり笑うと、立ち上がって私のそばにくる。

とても背が高くて、涼しげな瞳と、整った顔立ちが印象的な人。

少しチャラそうな感じがするのは、気のせいかしら。

「俺はフェレミス・ジョン・クルス。よろしく、レディ。お名前は?」

礼儀正しく挨拶をする彼に、私も思わず挨拶を返した。

「シルヴィア……シルヴィア・ゾーイ・バドンシュタインと言います」

ふと、ランヴァルトが私の方をチラリと見て、シルヴィア、と呟くのが聞こえる。

その噛み締めるような言い方が、少し気になった。

「二人とも、仲良くな」

ダグラス神官様は、私とフェレミスの手をしっかりと重ねさせる。

それから他のハンターを見回して、よく響く声で、語りかけた。

「さぁ、これから、忙しくなる。皆通常のハンティングに戻っていいが、招集した時は力を貸すように。くれぐれも短気を起こして、単身でディミトリに挑まないこと」

祈りの家の一同は、神官様の言葉に無言で頷いた。
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