女吸血鬼ー異端のシルヴィア

たからかた

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地下研究室

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キャロン法王補佐官は、イシュポラの肩を抱き寄せて頬にブチュっとキスをした。

「ねぇ、どうしてそんなに、濡れてるの?まさか・・・誰かと水に濡れて楽しんだの?」

イシュポラは、揶揄うようにキャロン法王補佐官を見る。

彼は首を横に振って、イシュポラの胸に顔を埋めるように抱きついて、気持ち悪い声で笑った。

「グフフ、まさか。私にはお前がいる。」

「お上手ね。そういうことにしといてあげるわ。」

イシュポラは、彼の頭を優しく撫でている。

うぇっ・・・イシュポラは、よく耐えてるわ。
私が顔を顰めていると、二人は近づいてきた。

なに、何する気?

「グフフ、気をつけろ。こいつは普通の吸血鬼じゃない。この法王府中の屋根を破壊した奴だ。目に見えぬ使い魔でも、行使したのか?」

キャロン法王補佐官は、慎重に覗き込んできて、イシュポラは目を細めて私を見る。

「まだ知られていない、強力な力を持つ純血なのかも。だとしたら、その牙を彼のしもべが引き継げば、ディミトリのいい駒になるわ・・・適当な生贄を見つけないと。」

彼女はそう言いながら、私の顔に触れようとするので、私は顔を背けた。

「グフフ、不思議なものよな。何故、自分の主人でなければ牙を移植できんのか。まったく無関係の者でも可能なら、手間が省けるのに。」

「己を咬んだ主人が消滅すれば、しもべも死ぬというこの関係に何かあるのかもね。でも、だからこそ、主人格の純血を捕らえたものには逆らえない。」

イシュポラは、横に向けた私の顔をゆっくり撫でる。

無関係なものとの移植・・・か。
私のケースはまさにそれだけれど、話を聞いていると、私のケースは奇跡的なことみたいね。

キャロン法王補佐官は、イシュポラの腰に後ろから両腕を回して、しっかり抱きついていた。

ベタベタと体に触って!相変わらず、気持ち悪いことをする。よくイシュポラに襲われないわ。

「グフフ、私がディミトリの主人である純血の眠る棺を確保しているからな。奴もまた、私の駒だ。」

「・・・。」

イシュポラは、黙ってされるがままになっている。でも、その表情は冷たくて、少しも彼に情がないことがすぐにわかった。

キャロン法王補佐官はそれに気づかず、彼女は従順だと思ってるみたい。

「グフフ、もう10年前のような勝手は許さん。今度逆らえば、奴には二度と霊薬を渡さぬ。」

「はい、あなた。」

「グフフ、しかし、今日のことは感謝する。これで私が次の法王に選ばれるだろう。」

「おめでとう。」

「グフフ、可愛い奴。さあ、これは今月分の霊薬だ。」

キャロン法王補佐官が、大きな皮袋を彼女の胸元にねじ込んだ。なんて失礼な渡し方!

「悪い手ね。」

イシュポラが冷たい顔で笑いながら、キャロン法王補佐官の手をつねる。

「グフ!いて!私とお前の仲ではないか。なんてことなかろう。」

キャロン法王補佐官は、手をさすりながら気持ちの悪い顔で笑った。

イシュポラがこんなに従順な理由・・・霊薬の確保とディミトリの弱点である主人格の吸血鬼を、彼に握られているからだ。

それがなかったら、この場で滅茶苦茶にされているはずだもの。

「グフ、そろそろ、この実験室も引き払わねばな。ここは、ディミトリ専用の場所だった。」

「・・・そうね。私もよく手伝ったもの。」

2人は辺りを見回しながら、話し合っている。

やっぱり!ここはディミトリが使ってたのね。じゃ、手の下にあるこの文字は彼が書いたんだ。

イシュポラは手慣れた様子で、いろんな機材を動かし始める。

キャロン法王補佐官は、その後ろ姿を眺めながら、横目で私に話しかけてきた。

「グフフ、知っていたか?ディミトリという奴は、この法王府で清掃ボランティアの女性に、一目惚れしたんだぞ。毎回フラれていたのに、ご執心でな。」

イシュポラの動きが、ピタリと止まる。いけない!彼女の逆鱗なのに。

「グフフ、そのうち、魔物狩りの帰り道に見たという少女にまで、恋をしたそうだ。路上で歌を歌う孤児だったそうだが、彼女もまたシルヴィアという名前だった。」

・・・!!私のことだ!魔物狩りの帰り道・・・。誘拐される前から目をつけられていたんだ!

その時、イシュポラが一瞬背中を震わせて、ゆっくり深呼吸した。

「・・・知ってる。」

背中を向けたまま呟く、イシュポラの低い声。
あれ?彼女の雰囲気が、少し変わった?

キャロン法王補佐官はその様子に気づかずに、私を見た。

「グフグフフ、10年ぶりに湖で会ったその子は、吸血鬼になっていたな。誰に咬まれたのか、お前は知らないか?シグルト。」

別に誰にも咬まれてない。
私は牙を移植されただけ。

私がそう思っていると、注射器を持ったイシュポラが近づいてくる。

「血を採取する。ここと、ここ。」

2本の注射器で、喉元から上と下それぞれ血を抜き取られた。
シリンジに、色の違う二色の血が注がれる。

「グフ!?血の色が違う?」

キャロン法王補佐官が、驚きの声を上げてイシュポラを見る。

「やはり・・・。私の予想が正しければ・・・。」

彼女は胸元にねじ込まれた皮袋から、琥珀のような美しい丸薬を一つ取り出して、私の血を入れた試験管と一緒に、何かの機械にかける。

ウィーン、ゴォン、ゴォン、ゴドゴド・・・。

分析してるの?
機械を見つめるイシュポラの背中を、私は不安になって見つめる。

私ですら、詳しいことは知らないのに。
そこへ、キャロン法王補佐官が暇を持て余して、私に触ろうとした。

「グフフ、それにしても、お前は綺麗な男だなぁ、シグルト。牙を抜いて棺に封印するには勿体無い。まあ、牙はまた生えてくるがな。」

牙を抜いて、棺に封印?そうやって新種の吸血鬼を作り出してきたの?

と、とにかく触らないで!!気持ち悪い!

私は彼の手から逃れるように、拘束具を軋ませて、暴れた。

「気安く触るんじゃない。」

すぐにイシュポラが気づいて、キャロン法王補佐官の手を払う。

その手には、分析結果を印刷したらしき紙を持っていた。

なんだろう?気になる。

「グフッと、何かわかったのか?」

「貴様は知らんでいい。」

キャロン法王補佐官に、イシュポラはぶっきらぼうに答えた。
え・・・何、その言い方。

キャロン法王補佐官も、ムッとしたように彼女を見る。

イシュポラはまったく気にせずに、私を見つめて頭を撫でてきた。

その撫で方に、私は覚えがある。
え、えぇ!?なぜ?何故、彼女が?

「哀れな小さなシルヴィア・・・。」

ボソッと小声で呟くその言い方に、戦慄が走る。
ディミトリ!?・・・でも、容姿はイシュポラなのに。

それに、変装してる私が、なぜわかったんだろう?

そう思っていると、頭を撫でていた手が離れ、ゆっくりと体の側面を、指先だけでなぞるように触れてくる。

ゾクゾクッと背中が、寒気と嫌悪感で震えそうになった。
体に触れる指先は、最後は喉元でピタリと止まる。

「変装しようと、愛しいお前はわかる。あぁ・・・愛しすぎて早く食べてしまいたい。小さなシルヴィア。」

その言い方に、鳥肌がたってきた。早く・・・早くこの口に噛まされた布を取らなくては!!

「グフ!おい、イシュポラ。なんて口の聞き方だ!そんな態度なら、霊薬だけでなくディミトリの主人だったギュラドラ公の牙も渡さんぞ!?」

事態に気づいてないキャロン法王補佐官が、床をガン!と蹴り付けて恫喝してくる。

「・・・元主人である、ギュラドラ公か。」

イシュポラが、ゆっくりとキャロン法王補佐官を見上げた。

ギュラドラ公・・・それが、ディミトリの主人格の純血の名前。


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