女吸血鬼ー異端のシルヴィア

たからかた

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対抗策

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それから目が回りそうなほど忙しかった。

混乱が落ち着いてから、空に放たれたフクロウのモーガンが帰ってきてくれたのは嬉しかったんだけど・・・。

法王府の屋根の修復、重症者の治癒、たくさん力を使って、流石にヘトヘトになった。

「シルヴィ・・・いや、シグルト、大丈夫か?」

ランヴァルトが、つきっきりで私のお世話をしてくれる。

「大丈夫・・・少し休ませて。休憩しないと・・・。」

すっと意識が遠のきかけて、ふらつく体を彼が支えてくれる。

温かい・・・優しい。ディミトリや、キャロン法王補佐官に触れられた不快感を、彼の手は忘れさせてくれるから・・・。

「ランヴァル・・・ごめん、スコット、あのね・・・。」

「ん?」

私もね、あなたが好きなの。そう言おうとした時、エクソシストの長官が私たちを呼びにきた。

法王府の代表者たち、それから、『賢者の会』の評議員まで召集されたそうなの。

私たちは会議室に出向いて、今後の方針を話し合うことになった。

「由々しき事態になりましたな。」

「法王様は、まだご存命か?」

「他の国々に依頼して、また、ハンターたちを呼び寄せますか?」

「それはいい。シグルト以外の各国の共闘の盟約に従った吸血鬼たちも、参戦させましょう。」

各国の共闘の盟約に従った吸血鬼たち?あ、私だけじゃないのね。

「静粛に。」

髭の長い、白髪の神官が一同を見回す。

「あの人は『オーディス大神官長』だ。法王様や法王補佐官が不在の時に、法王府を統括する。」

ランヴァルトが、小声で私に教えてくれる。
キャロン法王補佐官も、もう、戻れないよね。

「事態は急を要する。法王様がディミトリに連れ去られ、禁書『ベルアニ奇譚』まで、ほとんど敵の手に落ちた。」

オーディス大神官長の声が、会議室に響いた。
そこへ、書類の束を持った神官が走り込んでくる。

「た、大変です!これを!!」

オーディス大神官長の前に、山のような書類が積み上げられ、周りの人々も何事かと覗き込む。

「オーディス大神官長、どうしたのです?」

ダグラス神官様が尋ねると、書類に目を通したオーディス大神官長が、机をバーン!と叩いた。

「キャロン法王補佐官は、今日までの10年間で、現存する共闘の盟約に従った純血たちを法王府の名前で召喚し、密かにディミトリたちに引き渡していた!」

「ええ!?」

「僕の中に牙の適合者のいない純血は抹殺し、適合者がいた場合のみ封印して連れ去っている。」

「そ、そんなことが?」

「彼らの地元には、法王府の特命で世界各地を飛び回っていると説明し、一定期間が経つと、任務遂行中に亡くなったと、説明してあるようだ。」

「なんてこと・・・。つまり、今人間側についている吸血鬼は、このシグルトのみということですか?」

「そうなる。巧妙に世間に伝わらぬように、隠されていたようだ。」

ざわざわと会議室が騒がしくなった。
そういえば、私も地下で牙を抜くような話をされたもの。

下手したらあのまま、連れ去られていたんだ。

「オーディス大神官長。」

その時、小柄な1人の初老の男性が手を挙げる。
誰だろう。

「賢者の会の評議員長、『パテズ』ですン。」
賢者の会は、法王府の運営を第三者機関として監視しン、次代の法王を選定するのが本分。今回法王様がお戻りにならない事態に備えて、後任の選定に入りますン。」

え!そんな・・・。

オーディス大神官長は、それを聞いて眉を顰めた。

「早すぎませんか?パテズ評議員長。」

「オーディス大神官長、法王様は石化の術で身を守っておいでだがン、解けてしまえばディミトリに吸血される可能性が高いン。」

パテズ評議員長は譲らない。
そうだけど、でも・・・。

救出できれば、いいはずよ。

そう思っていると、オーディス大神官長が今度は私に目を向ける。

え?な、何か?

「ディミトリから、法王様を取り戻す可能性を持つ者がおります。」

オーディス大神官長はそう言って、私をみんなに紹介するように手招きした。

私が彼のそばへ行くと、周りの視線が一気に集まる。

ど、どうするの?

戸惑う私に構わず、オーディス大神官長は大きく声をあげた。

「この法王府の屋根を一撃で吹き飛ばし、また元通りに修繕、おまけに重傷者まで治癒する能力。まるで伝説のヴァレンティカのようなシグルトに、法王様の救出を託したい。」

私は驚いて、オーディス大神官長を見る。
わ、私!?

パテズ評議員長も、片眉を上げてオーディス大神官長と私を見比べた。

「伝説のヴァレンティカ?あの、人を一度も吸血することのなかったとかいう最強の純血のン?」

「えぇ、パテズ評議員長。ここに、地下室のディミトリ専用実験室が使われ、シグルトの血液サンプルの分析が行われた記録があります。これが、そう証明しているのです。」

ギク!ディミトリにサンプルを取られて、確かに機械にかけられたもの。

オーディス大神官長は、今度はダグラス神官様を手招きした。

「ダグラス神官、間違いないな?」

「はい、オーディス大神官長。シグルトは、確かに彼女と同じ血を持ち、その能力を持っています。」

ダグラス神官様がそう答えると、みんな一斉にざわめきだした。

パテズ評議員長は、まだ懐疑的な目で私を見ている。

「同じ血ですとン?まさか、世界樹と同じエネルギーを宿しているとでもン?何と比較したらそんな話にン?」

それを聞いてオーディス大神官長は、イシュポラが持っていたものと同じ霊薬を取り出してみせた。

「この霊薬は、世界樹の根を齧る妖虫『ニズベグ』から抽出して作るもの。ニズベグはこの法王府の地下に隧道を持ち、故にここでしか捕まえられません。」

「その成分と比較したとン?」

「はい、パテズ評議員長。」

「んん?つまり世界樹の力を、シグルトの血を使えば得られるのかン?」

「いえ、シグルトの血は、彼の力の発動のためにしか使えません。それは、かつて真祖が、ヴァレンティカで試していると記録があります。」

!!

霊薬にも、世界樹の力が宿っていたなんて。
それに、私の首から下の血は、他の人には使えないわけね。

多分、牙も必要だから、なのではないかしら。
彼女が世界樹に触れて、生え変わった牙だから。

考え込む私たちに向かって、オーディス大神官長は片手を上げる。

「お前たちは、すぐに『パイア砂漠』へ向かえ。」

「パイア砂漠?」

フェレミスがキョトンとした顔でオーディス大神官長に聞くと、彼は地図を広げて場所を指し示した。

「ルミカラ教の信者が追放された場所だ。中心部に彼らの神殿がある。」

私たちは顔を見合わせて、オーディス大神官長を見る。

どうしてそこに?法王様を助けに行かないの?

ダグラス神官様も、首を傾げて質問してくれた。

「オーディス大神官長様、何故そこなのです?あそこはもはや無人のはず。」

「ダグラス神官、ディミトリがベルアニを目指すのは、あの地には真祖が眠っているからだ。」

「奴は真祖を狙うとお考えですか?」

「その通りだ。真祖が眠る棺の場所を示す指輪を、ルミカラ教は持っていたと文献にある以上、必ず取りに来る。行くのだ。指輪をディミトリの手に渡してはならぬ。」

ディミトリが、真祖の棺を狙う?ま、まさか今度は真祖の牙を移植する気じゃ・・・!!

たしか、第二書庫で読んだ本の中に、ルミカラ教信者は真祖の王の棺の場所を示す指輪を持っていると書いてあった。

なら、その指輪を壊せば、いいのかしら。

オーディス大神官長は、考え込む私を見て、

「共闘の盟約に従い、人間側として奴等の企みをくじき、法王様を救出してくれ。
ハンターとしての認可の証を、この場で与える。」

と言って、法王府の紋章入りのブレスレットをくれる。

・・・他に道はない。

私はブレスレットを受け取って、腕に嵌めた。
ディミトリを止めなきゃ。

手がかりはパイア砂漠。
まずはそこから。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。

次話は、明日の20時投稿します。



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