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ニャンダリーナ国のダイヤ・サンディ 第七話
しおりを挟む「ジェニーは、今日が初仕事だったわね。ジャムプリン夫人はいつジャクリーヌに取って代わられたのかしら。」
考えてみると、外出していた時が怪しい。
私は願いの泉の水を汲み出すスプーンを取り出すと、息を吹きかける。
スプーンに、みるみる泉の水がたまっていく。
いっぱいに溜まった水に、他の猫にみつからないようにしてと願いをかける。
すると、私は透明になり、ホームを歩いてきた猫が、私の体をすり抜けて歩き去るのを見て、成功したことを確認した。
次に再びスプーンに息を吹きかけて、願いの泉の水を汲み出すと、砂時計に水をかけて、ジャムプリン夫人が消えた時に連れて行ってと願う。
一瞬目を閉じて開けると、ジャムプリン夫人がホテルの一室で、ジェニーと話し込んでいるのがみえた。
外出に初出勤の新人メイドを連れて出るなんて、おかしい。
私は急いで二匹のそばに立つと、聞き耳をたててみることにする。
どうせ姿はすけて見えないのだ。
このジャムプリン夫人はすでにジャクリーヌなのか・・・?
私は願いの泉の水を汲み出すスプーンに、そっと息を吹きかけ、泉の水を溜める。
そして小声で
「正体を見破る鏡を」
と、願った。
水の中から鏡がでてきたので、素早くジャムプリン夫人をうつす。
鏡に映ったのは紛れもなくジャムプリン夫人だった。
私は意外だった。
既に入れ替わっているとばかり思っていた。
役目を終えた鏡は溶けるように消えていく。
それでは、今から?
そう思っていると、ジャムプリン夫人が、ジェニーに話しかけた。
「手紙を読んだわよ。
私を二人に分ける秘密の魔法があるんですって?」
ジャムプリン夫人はさっそくジェニーに話しかけていた。
「ええ。それができれば夫人はいつでも好きな時に外出できますわ。」
「助かるわ。
お忍びでマッシュに会いにいけるわね。」
ジャムプリン夫人が嬉しそうに話している。
「リチャード王子はもういいんですか?
・・・アダム伯爵は?」
ジェニーの声が低く響く。
「今はいいわ。
私が今恋してるのはマッシュなの。
マッシュからも返事がきてるのよ?
相思相愛なのよ。」
ジャムプリン夫人は生き生きとした目で惚気ている。
マッシュといえば、この国の第一王子と同じ名前・・・。
嫌な予感がする。
「殿方たちを次々と魅了されるんですね。」
ジェニーの言葉にジャムプリン夫人は嬉しそうに頷く。
「確かに恋した相手から、告白されることが多いわね。
ふふ、どの殿方もちゃんと愛したのよ。
精一杯その時愛を注いできたから、後悔は一度もないの。」
「アダム伯爵は、今でもあなたを待ち続けて他の雌猫の求愛は受け付けないとか聞いたことがあります。」
ジェニーの目が冷たく光る。
ジャムプリン夫人は、
「そうなの。
でも、今私はマッシュがいいのよ。
恋してるのはマッシュ王子!」
私は目を覆った。
これは・・・、この正直さは、ジェニーでなくてもジャムプリン夫人を不快に感じてしまう。
この言葉に見栄や嘘はないだろう。
だが、アダム伯爵が忘れられないばかりに、ジャクリーヌが受け入れられない現実が今回の引き金なのだ。
「・・・アダム伯爵はもう愛してないわけですよね?」
ジェニーは、念押しするように問いかける。
「彼はいい思い出よ。
あぁ、マッシュ、早く会いたい。」
私はここにアダム伯爵を呼ぶべきだったと後悔した。
その時だ。
ホテルの部屋の外が騒がしくなった。
何事かと思っていたら、アダム伯爵が、ジャムプリン夫人が入るところを見たから部屋を開けろと喚いている。
そのまま体当たりする音が聞こえ、自分はオーナーだから、鍵を持ってこいと騒ぎ立てた。
ついにマスターキーによって、鍵があけられ、
アダム伯爵の目の前で扉が大きく開いていく。
ジェニーもジャムプリンも、目をまん丸くして、彼を見つめていた。
アダム伯爵は、ジャムプリン夫人を見つけて、真っ直ぐ彼女の前にくると、ぎゅっと前足を握った。
「よかった!
毎日君に会いたいと願っていたよ!」
アダム伯爵の熱烈なアプローチに、ジャムプリン夫人は、目を白黒させている。
ジェニーは、嫉妬の目でジャムプリン夫人を見ていた。
「ご、ごきげんよう、アダム。」
ジャムプリン夫人は挨拶をする。
私は早くからこうしていればよかったと気づいた。
これで、アダム伯爵は、ジャムプリン夫人に見切りをつけるだろう。
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