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地下室の扉
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「さあ行こう、ポーリーン。
式の始まる時間だよ」
そう言ってクリスは、私そっくりの女に手を差し伸べる。
「ええ。
行きましょう。
早くあなたと結婚の誓いを立てたいわ。」
女もにっこり笑って、差し出された手に自分の手を重ね、部屋を出て行く。
私は必死に、閉じ込められた鏡の中から、彼に真実を伝えようと足掻く。
その女は、ちがう!
その女は、魔女なのよ!
けれど、私の口は動かず、心の叫びは届かない。
私は全身の色を失い、生きたまま鏡の中に封印されている。
心の奥底から愛しいクリスの名前を叫びたいのに・・・!
こんなに悲しくて悔しいのに、涙すら流れない。
行かないで!!
そう願う私の前で、部屋のドアが閉まる。
2人が楽しそうな笑い声をあげながら、去って行くのがわかった。
あの時・・・、あの時もっと気をつけていれば、こんなことにはならなかったのに・・・。
あれは、家庭教師のシャローナから、舞踏会のダンスがなっていないと叱られた時だった。
私の家は、第一貴族のベルバルディ家。
母は国王の妹・マリオナ、
私は三姉妹の末っ子だ。
母マリオナと共にやってきた、家庭教師のシャローナは、躾に厳格でなんでも王家と同じような品性と振る舞いを求めてくる完璧主義者。
私たち三姉妹は、いつもシャローナの怒鳴り声に怯えていた。
今日は舞踏会のダンスの稽古の日。
上の姉2人は、課題をなんとかクリアしたが、私は最後の最後で失敗してしまった。
パートナー役の執事の足を、思いっきり踏んづけてしまったの。
「ポーリーン様!!」
シャローナの金切り声が上がる。
「情けない!
なんですか今のターンは!」
私はその声にすくみながら、姉2人の方を見る。
2人とも渋い顔をして、私を睨んでいる。
『あんたのせいで、こっちまでとばっちり受けるのよ!?』
と、いう顔だ。
「す、すみません。
シャローナ。
もう一度やり直します。
お願い、セバスティ。」
そう言って、執事のセバスティの方に向きなおろうとした時、シャローナが鋭く両手をパーン!と打ち鳴らした。
そして、
「そこまで!もう結構。
舞踏会の日はお姉様方2人だけの出席にしましょう。
ポーリーン様は、病気ということで欠席していただきます。」
と、言った。
「そんな・・・!」
私は思わずシャローナの方を向いて、両手を胸の前で握り合わせた。
貴族の社会において、舞踏会は大事な社交の場。
ましてや第一貴族の家系は、王家に次ぐ家柄としてその娘たちの出席はとても大切なことなのに。
わ、私だけ欠席なんて、後から何を言われるか・・・。
そんな私の気持ちなどおかまいなしに、シャローナは騒ぐ。
「今のような失態を皆の前でする方が、よっぽどこの家の格を下げてしまいます!
マリオナ様の御名を守らねば、私が王太后様より託された責任が果たせません!」
シャローナのいつもの言葉だ。
この人はお母様のことが、ひいては王家のことが一番なの。
それさえ守られるなら、後はどうでもいい人。
「罰として、ポーリーン様には『テパトの教会』へ行き、そこの裏手に生えている『シュムシュラ』の葉を、籠いっぱいに摘んできていただきます。」
シャローナは冷たく言い放った。
「えぇ!?
『テパトの教会』へ!?」
私は叫んだ。
テパトの教会は、この街でも一番古い教会で、遥か昔からあると言われている。
そこに生えるシュムシュラの葉は、魔除けの効能が強いという言い伝えがあった。
私は仕方なく1人籠を持って、シュムシュラの葉を摘みに行く。
「うぅー臭いー。」
シュムシュラの葉は、摘んだ瞬間に強烈な臭いがする植物だ。
「これを燻して出入り口を清めると、舞踏会や結婚式で悪いことが起きないんだっけ。」
私は鼻をつまみながら籠に入れて行く。
どうしてこの教会にしか生えないんだろ。
そう思っていると、教会の中から司祭様が顔を出した。
「ポーリーン様、精がでますな。
私は所用で今から教会を留守にします。
よかったらシスターマルティナが、その香を落とす手洗い水を用意すると言ってますが、いかがですかな?」
私はそれを聞いて、喜んで頷く。
「お願いします!」
そう言って、教会の中に入っていった。
シスターマルティナが、控室から手招きをしてくれている。
私はチャペルで十字を切ると、すぐに控室へと向かった。
「ポーリーン様、ラベンダーを煮込んで作った手洗い水です。
シュムシュラの匂いを消すにはこれが一番。」
私はほんのりとラベンダーの香りがする、その手洗い水の入った桶に手を浸す。
「ふぅ、よかった。
ありがとうございます、シスターマルティナ。」
「いえいえ、私は今から表の掃除をいたします。
ごゆっくり。」
シスターは控室を出ていった。
しばらくすると、祭壇の方から何やら音がする。
私は何事かと祭壇を覗いたが、何もない。
気のせいかと思ったら、また音がする。
私は音の正体を探ろうと、祭壇の近くに歩み寄った。
「何?
なんの音かしら?」
歌声のような、音楽のような、不思議な音がする。
下の方から?
思わず下を向いたその瞬間、床が外れて私は下に転げ落ちた。
「いったー!」
思わず叫ぶ。
どうやら地下に続く階段のようだ。
奥の方から、不思議な音が聞こえてくる。
薄明かりの中よく見ると、その奥に美しい扉があり、何かの部屋があるみたい。
私は導かれるように、その扉に近寄っていった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
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そう言ってクリスは、私そっくりの女に手を差し伸べる。
「ええ。
行きましょう。
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女もにっこり笑って、差し出された手に自分の手を重ね、部屋を出て行く。
私は必死に、閉じ込められた鏡の中から、彼に真実を伝えようと足掻く。
その女は、ちがう!
その女は、魔女なのよ!
けれど、私の口は動かず、心の叫びは届かない。
私は全身の色を失い、生きたまま鏡の中に封印されている。
心の奥底から愛しいクリスの名前を叫びたいのに・・・!
こんなに悲しくて悔しいのに、涙すら流れない。
行かないで!!
そう願う私の前で、部屋のドアが閉まる。
2人が楽しそうな笑い声をあげながら、去って行くのがわかった。
あの時・・・、あの時もっと気をつけていれば、こんなことにはならなかったのに・・・。
あれは、家庭教師のシャローナから、舞踏会のダンスがなっていないと叱られた時だった。
私の家は、第一貴族のベルバルディ家。
母は国王の妹・マリオナ、
私は三姉妹の末っ子だ。
母マリオナと共にやってきた、家庭教師のシャローナは、躾に厳格でなんでも王家と同じような品性と振る舞いを求めてくる完璧主義者。
私たち三姉妹は、いつもシャローナの怒鳴り声に怯えていた。
今日は舞踏会のダンスの稽古の日。
上の姉2人は、課題をなんとかクリアしたが、私は最後の最後で失敗してしまった。
パートナー役の執事の足を、思いっきり踏んづけてしまったの。
「ポーリーン様!!」
シャローナの金切り声が上がる。
「情けない!
なんですか今のターンは!」
私はその声にすくみながら、姉2人の方を見る。
2人とも渋い顔をして、私を睨んでいる。
『あんたのせいで、こっちまでとばっちり受けるのよ!?』
と、いう顔だ。
「す、すみません。
シャローナ。
もう一度やり直します。
お願い、セバスティ。」
そう言って、執事のセバスティの方に向きなおろうとした時、シャローナが鋭く両手をパーン!と打ち鳴らした。
そして、
「そこまで!もう結構。
舞踏会の日はお姉様方2人だけの出席にしましょう。
ポーリーン様は、病気ということで欠席していただきます。」
と、言った。
「そんな・・・!」
私は思わずシャローナの方を向いて、両手を胸の前で握り合わせた。
貴族の社会において、舞踏会は大事な社交の場。
ましてや第一貴族の家系は、王家に次ぐ家柄としてその娘たちの出席はとても大切なことなのに。
わ、私だけ欠席なんて、後から何を言われるか・・・。
そんな私の気持ちなどおかまいなしに、シャローナは騒ぐ。
「今のような失態を皆の前でする方が、よっぽどこの家の格を下げてしまいます!
マリオナ様の御名を守らねば、私が王太后様より託された責任が果たせません!」
シャローナのいつもの言葉だ。
この人はお母様のことが、ひいては王家のことが一番なの。
それさえ守られるなら、後はどうでもいい人。
「罰として、ポーリーン様には『テパトの教会』へ行き、そこの裏手に生えている『シュムシュラ』の葉を、籠いっぱいに摘んできていただきます。」
シャローナは冷たく言い放った。
「えぇ!?
『テパトの教会』へ!?」
私は叫んだ。
テパトの教会は、この街でも一番古い教会で、遥か昔からあると言われている。
そこに生えるシュムシュラの葉は、魔除けの効能が強いという言い伝えがあった。
私は仕方なく1人籠を持って、シュムシュラの葉を摘みに行く。
「うぅー臭いー。」
シュムシュラの葉は、摘んだ瞬間に強烈な臭いがする植物だ。
「これを燻して出入り口を清めると、舞踏会や結婚式で悪いことが起きないんだっけ。」
私は鼻をつまみながら籠に入れて行く。
どうしてこの教会にしか生えないんだろ。
そう思っていると、教会の中から司祭様が顔を出した。
「ポーリーン様、精がでますな。
私は所用で今から教会を留守にします。
よかったらシスターマルティナが、その香を落とす手洗い水を用意すると言ってますが、いかがですかな?」
私はそれを聞いて、喜んで頷く。
「お願いします!」
そう言って、教会の中に入っていった。
シスターマルティナが、控室から手招きをしてくれている。
私はチャペルで十字を切ると、すぐに控室へと向かった。
「ポーリーン様、ラベンダーを煮込んで作った手洗い水です。
シュムシュラの匂いを消すにはこれが一番。」
私はほんのりとラベンダーの香りがする、その手洗い水の入った桶に手を浸す。
「ふぅ、よかった。
ありがとうございます、シスターマルティナ。」
「いえいえ、私は今から表の掃除をいたします。
ごゆっくり。」
シスターは控室を出ていった。
しばらくすると、祭壇の方から何やら音がする。
私は何事かと祭壇を覗いたが、何もない。
気のせいかと思ったら、また音がする。
私は音の正体を探ろうと、祭壇の近くに歩み寄った。
「何?
なんの音かしら?」
歌声のような、音楽のような、不思議な音がする。
下の方から?
思わず下を向いたその瞬間、床が外れて私は下に転げ落ちた。
「いったー!」
思わず叫ぶ。
どうやら地下に続く階段のようだ。
奥の方から、不思議な音が聞こえてくる。
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