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舞踏会の夜
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クリスの肩を掴む力が強くて、私は思わず、
「痛い!」
と、叫んだ。
クリスはハッとして手を離す。
「ごめん。
シュムシュラちゃん。」
そう言うと、彼は少し距離をとった。
さっきまで怖い顔をしていたが、今は元の顔にもどっている。
それにしても・・・、なんでシュムシュラちゃんなのよ!?
「わ、私を、シュムシュラちゃん、て呼ばないで!」
と、私は言った。
「いつもシュムシュラの香りがするからさ。
今だってかなり臭ってる。」
クリスは、からかうように笑う。
私は赤くなりながら、睨みつけた。
「もう!
あの時も今も、シュムシュラが近くにある時ばかり来るんだもの!
いつもはこんな・・・!」
「はいはい。
そうでしょうとも。
でも、少なくとも今はピッタリの名前だろ?」
「な、な、何よ!
知らないくせに!」
こんなやりとりをしながら、なぜか楽しい気分になっている私がいた。
さっきまで身も凍るような雰囲気だったのに、今はとてもあたたかい。
もう少しこのまま話していたいな・・・。
「お嬢様?大丈夫ですか?」
その時メイドの声がした。
クリスも表情を変えて私を見る。
「シュムシュラちゃん、また来る。
あまり奴の魔力を使うな。
奴の色の戻り方は、使う魔力の量によって決まる。
特に変身と生き返りの魔法は、危険だ。
いいか?忘れるなよ。」
と言い残し、彼はフードを被ると風のように去っていった。
私はその後ろ姿を呆然として見送っていた。
また来る?
来てくれるの?
それはいつ?
またすぐに会いたいと望んでしまう。
メイドが呼びにきたので、シュムシュラの葉を片付けて屋敷に戻る。
屋敷の中に入った途端、シャローナが呼び止めてきた。
「ポーリーン様、先程の殿方はどなたですか?」
クリスのことだ。
大方、屋敷の窓から見ていたのだろう。
「か、彼はクリスと言ってこの間教会に行った時に・・・。」
「貴族ではないようですね。
つまり、平民の男性とポーリーン様はお付き合いをされてらっしゃると?」
「そんなんじゃないわ!
か、彼は私を助けてくれた人なの!」
「肩に手を置くほど親しいご様子でしたが?」
シャローナは、獲物の弱みを見つけて嬉しそうだ。
私はつんとそっぽを向いて、部屋に戻った。
むしゃくしゃするわ。
あのドレスに着替えよう!
そう思ってドレスに手を触れた時だった。
「熱い!」
思わずドレスに触れた手を引いた。
ドレスが触れた指先には、火傷したかのような痕ができている。
「な、なぜ?」
私は戸惑った。
そして、私は全身からシュムシュラの香りがしていることに気づいた。
まさか・・・、さっきまでシュムシュラを燻していたから?
魔除けのシュムシュラをドレスが嫌がってるの?
私は慌ててお風呂に入ると、全身をくまなく洗ってドレスに触れた。
さっきまで感じていた熱を、今は感じない。
クリスの忠告を思い出し、ドレスを纏うのを躊躇していると、ドレスからあのとてもいい香りがしてきた。
私は操られるように身に纏う。
「せ、せめて今度の舞踏会まで。」
私は自分の姿を鏡に映すと、うっとりしながら、言い訳を口にしていた。
そして、舞踏会の当日。
私はあのドレスを纏って出席していた。
もちろん、周囲の目にはこの日のために新調された舞踏会用のドレスに見えている。
貴族や王族との挨拶を終えて、ダンスの時間になる。
男性たちが思い思いの女性をエスコートしていくのだけど。
・・・。
私のところには誰も来ない。
また、シャローナね。
どうやら、私とクリスの仲を吹聴して回ったよう。
貴族の社会では、未婚の女性が許可なく異性と、ましてや平民と付き合うことをとても嫌う。
馬鹿みたい。
こんな高飛車な人たちより、クリスと話していた方がずっと楽しいのに。
シュムシュラちゃんと呼ばれるのは嫌だけど、また、話したいな。
そう思っていると、ヒソヒソと声が聞こえてくる。
「あれか?
平民の男と密通したと言う娘は。」
「恥知らずなこと。
よく、顔が出せたものね。」
「マリオナ様のご令嬢らしいじゃないか。」
「いや、あの子はマリオナ様ではなく、ベルバルディ卿が浮気してメイドに産ませた子らしいぞ。」
「どうりでマリオナ様と似ていないのね・・・。」
私はその言葉にうんざりした。
シャローナが王家に呼び戻されて屋敷にいなかった年があり、私はその時に生まれている。
そのせいか、私はお母様の子供ではないと、シャローナは決めつけているのだ。
同時期に、たしかに一人のメイドが妊娠していたそうだが、彼女はそのまま姿を消したために、真実はわからない。
私も一度、お母様に確認したけれど、確かに自分が産んだと言った。
それでもシャローナは、頑なに思い込みを変えない。
「マリオナ様の娘なら、もっと美しいはず。」
「上の二人の姉はあんなに綺麗なのにな。」
「やっぱりあの子はマリオナ様の娘ではないのかもしれん。」
私はため息をついた。
もうたくさんだ。
「美しくなりたい・・・。
そう、絶世の美女に。」
私は俯きながらつぶやく。
そして・・・顔を上げると、目の前に異様な光景が広がっていた。
舞踏会の会場中の男性が、こちらに列をなして誘ってきたのだ。
「ポーリーン様!私とダンスを。」
「いや、私だ!私と踊ってください!」
「押すな!私が先だ!」
私が戸惑っていると、他の女性たちも驚愕の表情で見ている。
「なんて綺麗なの・・・。」
そう言っているのが聞こえる。
綺麗?
私が?
私は壁の鏡に自分の姿を映して驚いた。
そこには、見たこともない絶世の美女がいた。
思わず自分まで見惚れてしまう。
この魔法は解きたくない。
ずっとこのままでいたい。
そう思いたくなるくらい、私は美しかった。
「痛い!」
と、叫んだ。
クリスはハッとして手を離す。
「ごめん。
シュムシュラちゃん。」
そう言うと、彼は少し距離をとった。
さっきまで怖い顔をしていたが、今は元の顔にもどっている。
それにしても・・・、なんでシュムシュラちゃんなのよ!?
「わ、私を、シュムシュラちゃん、て呼ばないで!」
と、私は言った。
「いつもシュムシュラの香りがするからさ。
今だってかなり臭ってる。」
クリスは、からかうように笑う。
私は赤くなりながら、睨みつけた。
「もう!
あの時も今も、シュムシュラが近くにある時ばかり来るんだもの!
いつもはこんな・・・!」
「はいはい。
そうでしょうとも。
でも、少なくとも今はピッタリの名前だろ?」
「な、な、何よ!
知らないくせに!」
こんなやりとりをしながら、なぜか楽しい気分になっている私がいた。
さっきまで身も凍るような雰囲気だったのに、今はとてもあたたかい。
もう少しこのまま話していたいな・・・。
「お嬢様?大丈夫ですか?」
その時メイドの声がした。
クリスも表情を変えて私を見る。
「シュムシュラちゃん、また来る。
あまり奴の魔力を使うな。
奴の色の戻り方は、使う魔力の量によって決まる。
特に変身と生き返りの魔法は、危険だ。
いいか?忘れるなよ。」
と言い残し、彼はフードを被ると風のように去っていった。
私はその後ろ姿を呆然として見送っていた。
また来る?
来てくれるの?
それはいつ?
またすぐに会いたいと望んでしまう。
メイドが呼びにきたので、シュムシュラの葉を片付けて屋敷に戻る。
屋敷の中に入った途端、シャローナが呼び止めてきた。
「ポーリーン様、先程の殿方はどなたですか?」
クリスのことだ。
大方、屋敷の窓から見ていたのだろう。
「か、彼はクリスと言ってこの間教会に行った時に・・・。」
「貴族ではないようですね。
つまり、平民の男性とポーリーン様はお付き合いをされてらっしゃると?」
「そんなんじゃないわ!
か、彼は私を助けてくれた人なの!」
「肩に手を置くほど親しいご様子でしたが?」
シャローナは、獲物の弱みを見つけて嬉しそうだ。
私はつんとそっぽを向いて、部屋に戻った。
むしゃくしゃするわ。
あのドレスに着替えよう!
そう思ってドレスに手を触れた時だった。
「熱い!」
思わずドレスに触れた手を引いた。
ドレスが触れた指先には、火傷したかのような痕ができている。
「な、なぜ?」
私は戸惑った。
そして、私は全身からシュムシュラの香りがしていることに気づいた。
まさか・・・、さっきまでシュムシュラを燻していたから?
魔除けのシュムシュラをドレスが嫌がってるの?
私は慌ててお風呂に入ると、全身をくまなく洗ってドレスに触れた。
さっきまで感じていた熱を、今は感じない。
クリスの忠告を思い出し、ドレスを纏うのを躊躇していると、ドレスからあのとてもいい香りがしてきた。
私は操られるように身に纏う。
「せ、せめて今度の舞踏会まで。」
私は自分の姿を鏡に映すと、うっとりしながら、言い訳を口にしていた。
そして、舞踏会の当日。
私はあのドレスを纏って出席していた。
もちろん、周囲の目にはこの日のために新調された舞踏会用のドレスに見えている。
貴族や王族との挨拶を終えて、ダンスの時間になる。
男性たちが思い思いの女性をエスコートしていくのだけど。
・・・。
私のところには誰も来ない。
また、シャローナね。
どうやら、私とクリスの仲を吹聴して回ったよう。
貴族の社会では、未婚の女性が許可なく異性と、ましてや平民と付き合うことをとても嫌う。
馬鹿みたい。
こんな高飛車な人たちより、クリスと話していた方がずっと楽しいのに。
シュムシュラちゃんと呼ばれるのは嫌だけど、また、話したいな。
そう思っていると、ヒソヒソと声が聞こえてくる。
「あれか?
平民の男と密通したと言う娘は。」
「恥知らずなこと。
よく、顔が出せたものね。」
「マリオナ様のご令嬢らしいじゃないか。」
「いや、あの子はマリオナ様ではなく、ベルバルディ卿が浮気してメイドに産ませた子らしいぞ。」
「どうりでマリオナ様と似ていないのね・・・。」
私はその言葉にうんざりした。
シャローナが王家に呼び戻されて屋敷にいなかった年があり、私はその時に生まれている。
そのせいか、私はお母様の子供ではないと、シャローナは決めつけているのだ。
同時期に、たしかに一人のメイドが妊娠していたそうだが、彼女はそのまま姿を消したために、真実はわからない。
私も一度、お母様に確認したけれど、確かに自分が産んだと言った。
それでもシャローナは、頑なに思い込みを変えない。
「マリオナ様の娘なら、もっと美しいはず。」
「上の二人の姉はあんなに綺麗なのにな。」
「やっぱりあの子はマリオナ様の娘ではないのかもしれん。」
私はため息をついた。
もうたくさんだ。
「美しくなりたい・・・。
そう、絶世の美女に。」
私は俯きながらつぶやく。
そして・・・顔を上げると、目の前に異様な光景が広がっていた。
舞踏会の会場中の男性が、こちらに列をなして誘ってきたのだ。
「ポーリーン様!私とダンスを。」
「いや、私だ!私と踊ってください!」
「押すな!私が先だ!」
私が戸惑っていると、他の女性たちも驚愕の表情で見ている。
「なんて綺麗なの・・・。」
そう言っているのが聞こえる。
綺麗?
私が?
私は壁の鏡に自分の姿を映して驚いた。
そこには、見たこともない絶世の美女がいた。
思わず自分まで見惚れてしまう。
この魔法は解きたくない。
ずっとこのままでいたい。
そう思いたくなるくらい、私は美しかった。
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