鏡の中の魔女

たからかた

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魔法で心は買えない男

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舞踏会を終えて、私は部屋で一人、今日起こったことを思い出していた。

みんな私の美しさのとりこになり、貴族一のプレーボーイといわれたサリトナ卿まで、真剣にプロポーズしてきた。

もちろん、そでにしてあげたけれど。

あはは!なーんて気持ちがいいのかしら。

みんな、私に勝てない。

シャローナも姉様たちも、そう、王家の方々でさえも。

だって私は今、こんなに美しいんだもの。

今ならどんな人にも愛してもらえる。

そう、あのクリスにだってきっと・・・。


そう思っていると、部屋の窓を叩く音がする。

え?
ここは二階よ?

そう思って窓の方を見ると、クリスが木に登って窓の外から私を呼んでいた。

私は嬉しくなって駆け寄った。

今の私を見てもらえる!
もう、シュムシュラちゃんなんて言わせない!

そう思って窓を開く。

笑顔の私と対照的に、クリスは、暗く沈んだ顔をしている。

「ごきげんよう、クリス。
今日はね、とても楽しい舞踏会だったの!
見て、私綺麗でしょ?」

そう言われて、クリスはどこか作り笑いのような表情を浮かべた。

「・・・、あぁ、その顔ね。
綺麗だよ」

何よ、その薄い反応は!
もっと他の男たちのように、目に星を浮かべてくると思ったのに・・・。

「今日はシュムシュラちゃんなんて呼べないでしょ?
こんなに綺麗な私を。」

私は期待を込めて彼を見る。
この姿を一番見せたかったのは彼なのに。


そう願う私の心とは裏腹に、クリスは困ったような顔をした。

「確かに呼べないな。」

「でしょ?
私ね、あなたに私の名前・・・。」

「変身の魔法を使ったんだろ?」

クリスは語気を強めて言い放った。

・・・え?

そして私の手を掴むと、窓の外に引きずり出した。

「わぁ!」

思わず声を上げるが、素早く口に布を咬まされる。

私はそのまま抱き抱えられて、クリスと一緒に木の下に飛び降りた。

クリスは信じられない身体能力で、塀をこえると、外に繋いでいた馬に飛び乗る。
そして、私をテパトの教会地下へと連れていった。

そしてケシェペの部屋に入ると、私を鏡の前に降ろす。

「見ろ。
奴はもう、ここまで色を取り戻してきている。」

クリスに、口に咬まされた布を外してもらないながら、私は鏡を見た。

最後に見た時は、ドレスのすそあたりしかなかった色が、今は首のあたりまで戻っている。

私はさすがにぞっとして、今かかっている変身の魔法を解いた。

するとみるみる色が落ちて、腰のあたりまで色がなくなっていく。

一度にこんなに広範囲の色が、変わるなんて・・・。

「言っとくが、生き返りの魔法も、これくらい魔力の消費がでかい。
もっと大きいかもしれない。」

クリスは私を見つめて、手を握ってきた。

「シュムシュラちゃん。目を覚ませ。
今は面白いだろうが、このままでは君の人生全部、この魔女に奪われてしまうぞ。

その魔力は、君を溺れさせるための罠だ。

甘い快楽に溺れさせて、全てを奪い去るのがこの魔女のやり口なんだ。」

私はクリスを見つめ返す。
ここにいるのは、絶世の美女の魔法が解けてしまった、素の私だ。
なんの取り柄もない、叱られてばかりのダメな私。

そう思うと、あれほどみなぎっていた自信が、へなへなと音を立ててしぼんで行く。

それに、またこの名前で呼ばれるなんて・・・。

「その名前で、呼ばないでったら・・・。」

私は声を絞り出すように、訴えた。

「私・・・、何をやってもダメで・・・。」

涙がこぼれてくる。

「魔法を使えるようになって、とても嬉しかった。
だって失敗がないんだもの。」

「・・・そうだな。」

「なんでもすぐ叶う。
怒られることも、できない自分を情けなく思うこともない。
周りから褒められて、注目されて、私・・・。」

俯く私の目から涙がこぼれ落ちた。

「絶世の美女にもなれた。
なりたかった私。
なれなかった私。
理想のいえ、それ以上の私・・・。」

クリスは黙って聞いている。

「あなたにも、きっと気に入ってもらえると思ってた。
今日の舞踏会の貴族たちのように、褒めて讃えてそして・・・。」

舞踏会の時の貴族たちの賛辞と、熱烈な愛の言葉を思い出す。
彼からも欲しい。いいえ、彼からだけ欲しい。

「私を好きになってくれる、って。」

つぶやいただけで、妖しい光がクリスを包む。

けれど、クリスの胸元にある水晶がカッと輝いて、その光を弾き飛ばした。

「俺に魔女の魔法は効かない。
他の男なら、今ので君に惚れてるんだろうがな。」

低い声でクリスは言い切る。
私は無力な自分に打ちひしがれていた。

ほら、ね。
やっぱりうまくいかない。

「こんなことしなくても、俺は・・・、俺は今のシュムシュラちゃんが好きだよ。」

・・・え?
クリスの言葉に涙が止まる。

彼は頭をいて、れたように後ろを向く。

「最初に会ったときにシュムシュラの臭いがしてたのに?」

「強烈だったなー、あれも。」

「二回目に会った時も、シュムシュラのことでからかったくせに。」

「正直、あの時は俺にも臭いが移ったよ。
帰ってすぐに頭からラベンダーウォーターをかぶったさ。」

「私、あなたの警告、聞かなかったのよ?
それに、それにあなたまだ・・・、私の名前・・・シュムシュラちゃんとしか言わない。」

「ポーリーン・・・だろ?」

初めてクリスの口から私の名前が聞こえた。

驚いて彼の背中を凝視する。

「どうして?
私、教えてない。」

「聞いたんだ、シスターマルティナに。」

「いつ?」

「君に会ったあとすぐ。」

え・・・。
じゃ、門の前で会った時は、もう名前を知っていた?

じゃ、なんであの時も今も呼んでくれないの?

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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