鏡の中の魔女

たからかた

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愛の告白

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「私の名前、なんでちゃんと呼んでくれないの?」

振り向かないクリスの背中に、尋ねた。

「い、いや、なんだか、ほら・・・。」

「なんだか、何?」

「シュムシュラちゃん、が言いやすいんだよ。」

「そう呼ばれるの、嫌いなの!」

私は語気を強めて言った。

「俺は好きだ。」

クリスは、はっきり言い切った。

え・・・、なんだか複雑。

「シュムシュラちゃんて呼べるから、君と話せる。
ボ、ポーリー・・・ンなんて、い、言いにくい・・・。」

クリスの声がどんどん小さくなっていく。

なんなの?
そんなに発音難しい?

「私の名前、嫌いなの?」

「そうじゃない。
そうじゃなくて・・・。」

そう答えると、クリスはフードをかぶってしまった。

なんなのよ。
私は腹が立ってきた。

「もういい。」

そう言うと、顔を背けた。

「呼びだくないならいいわよ。
私は・・・、あなたが好きだったけど、名前をちゃんと呼んでくれない人なんか嫌い。」

目の前がなんとなく暗くなり、背けていた顔を戻すと、クリスが目の前で私を見つめていた。

いきなり近くで見つめられて、一瞬で顔が赤くなる。
なんて真剣な目。
そして強くて優しい目。

「ポーリーン・・・。」

静かに呼ばれて動けなくなる。

胸がドキドキと鼓動を鳴らして、彼にも聞こえるんじゃないかと不安になる。

「君を愛してる。」

はっきりとそう言われて、周りの音が聞こえなくなった。

ほ、本当なの?
夢じゃないの?

魔法も使ってない。
絶世の美女でもない。

ただの私がいるだけなのに。


「本当に?」

「そう。」

「本気なの?
わ、私、絶世の美女じゃないのよ?」

「俺がいつ絶世の美女を愛してるなんて言ったんだよ。」

「そ、そうだけど、綺麗な人の方がいいでしょ。」

「君は綺麗だ。君がいいんだ、ポーリーン。」

クリスは、真っ直ぐな目で言葉を紡ぐ。

・・・、本気なんだ。

聞きたかった言葉。
欲しかった気持ち。

胸の奥から熱くなって、嬉しくてたまらない。
笑顔が溢れて、涙がせり上がってくる。

そのまま二人で抱きしめ合って、体温を感じながら、気持ちを確認し合った。

・・・離れたくない。
ずっとこうしていたい。

強くそう思った。

「シュムシュラちゃ・・・いや、ポーリーン・・・、この部屋から何を持ち出した?」

クリスに言われて、私は着ているドレスだと答える。

「あの日も一度は着たけど、怖くなって元のクローゼットの中に置いていったの。
それなのにいつの間にか、私の部屋のクローゼットに入っていたのよ。」

クリスはそっと体を離して、ドレスを見る。

「おそらく、この部屋に入った時から目をつけられていたんだな。
君がそでを通して、彼女の魔力を行使した時から、繋がってしまったんだろう。」

「どうすればいい?燃やすの?」

「いや、普通の炎では燃やせない。
処分するには、儀式をしないとな。
明日、俺の一族が集まるんだ。
ドレスを渡してくれ。」

私はそう言われて固まった。

「渡すのはいいけど・・・
このドレスはまた勝手に動いて、ついてくるかもしれないわよ?」

クリスも思案し始めた。

そして、
「結婚しよう、ポーリーン。」
と、言った。

えええ!?

さっき愛の告白をされて、もう、結婚?

出会って数日なのよ?

展開の早さについていけない。

「魔女との縁を切るには、これが一番確実なんだ。
魔女は、未婚の乙女を好む。
つまり、誰かと愛し合う前の魂の方が利用しやすいんだよ。
だから結婚して、魔女の条件を崩す。
その上で儀式にのっとり、そのドレスを燃やすんだ。」

・・・、つまり、結婚によって魔女と縁を切った上でドレスを処分する、と。

そのための結婚・・・。

私はクリスを見る。

「貴族の君に、庶民の生活は出来ないかもしれないが・・・。
共に来てくれ。
そばにいて欲しい、ポーリーン。」

クリスの言葉に迷いなく彼の手を握る。

「私は生まれは貴族だけど、心は庶民なの。」

そう言って微笑む。

「家庭教師のシャローナに、小さい頃から邪険にされててね。
教育はレディとしての振る舞いを叩き込まれたけど、扱いはメイド並だった。
お母様もお父様も、私がずっとメイドたちと寝起きしていたのを知らなかったのよ?」

クリスは驚いて私を見る。

「ご両親は、そんなに子供に無関心?」

「貴族の行事さえ無難にこなしていれば、普段どう生活しようと興味なかったようよ?
たまに物を買い与えるだけ。
教育はシャローナに任せっきりだったし。」

「そんな・・・。」

「メイドたちと離れて、自分の部屋で寝起きするようになったのは、今年になってからよ。
ほら、結婚できる年齢になったから。
流石さすがにシャローナも、外聞を恐れて私の部屋を確保してくれたわけ。」

「なぜ?」

「私は父とメイドの間に生まれた子だと思われているからよ。」

私は苦い物を飲み込むように話した。

「母は、自分が産んだと言い張ってる。
でも、わからないの。
姉たちも、その時のことは覚えてないそうよ。
ただ、私は母に全然似てないと言われる。」

舞踏会での噂話が思い出されて、悲しくなってくる。

「見て、私の手。
水仕事や厨房の仕事、粗相の罰という名目で、姉二人がやらないようなことばかりしてきた。

手仕事といえば刺繍くらいしかかしないような、貴族の手じゃないでしょう?

両親の目からは注意深く隠し、ふびんに思って手助けしようとしてくれる人には、王家の名前をチラつかせて黙らせる。
それがシャローナのやり口よ。」

「初めて会ったあの日、君の手を握った時に貴族の手じゃないと感じたよ。
貴族のお嬢様が、供も付けずにシュムシュラを一人でみに来るなんておかしい、と思ったしな。」

クリスは私の手を握ると、そっと口付けた。

「俺の好きな手だ。
だけど・・・、俺との結婚はハードルが高いだろうな。
実態はどうあれ、世間的に身分は差がある。」

「シャローナにね、私はもうあなたと密通していると、言いふらされてるの。
今日の舞踏会で。」

私はにっこりと笑ってクリスを見た。

「利用しない手はないわ?
誰も私を庇わなかったのよ?」
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