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魔女の罠
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翌日、私はクリスとの結婚を両親に伝えた。
喜ぶ?
涙を流す?
平民と結婚なんて、と大反対?
・・・そのどれでもなかった。
「いいわよ。」
「幸せにな。」
これだけ。
上の姉二人が昨日の舞踏会で、有力な貴族と婚約したから、むしろ暗い噂のある私はいない方がよかったの。
私を惜しんでくれたのは、執事とメイドたちだけ。
シャローナ?
大喜びで、結納金を弾んでくれたわ。
だって、彼女の中では、王家の血筋ではない私はいてはいけない存在。
彼女の望むベルバルティ家にようやくなるんだもの。
門の外まで見送ってくれたのは、やっぱりメイドたちと執事。
結婚式には、メイド長と執事が来てくれることになった。
両親は・・・、体面があるから来ない。
「これがポーリーン様の分の財産の手形。
こちらが結納金の分。
それから、身の回りのものです。
ホントにこれだけでよろしいのですか?」
執事のセバスティが、目を潤ませながら荷物を積んでくれる。
「もちろんです、セバスティ。
そしてメイド長、みんな。
あなたたちこそ、私の家族です。
屋敷に残した残りのドレスや家具は売ってもらって構わないわ。
皆さんのお給金の足しにしてください。」
メイドたちはみんな涙を流している。
「式はテパトの教会でしたね。
すぐに後を追いかけます。」
メイド長が、ハンカチで目頭を拭っている。
私は迎えに来たクリスと、荷物を積んだ馬車に乗り込んだ。
「ポーリーン様。
シュムシュラの花束です。
この切り花はラベンダー水に浸しておりましたので、決して臭いません!
花言葉は、『永遠の愛と幸福』です。
花嫁の前途を祝して!」
メイドたちが、小さなブーケを渡してくれた。
私は喜んで受け取ると、手を振る。
クリスが鞭を振り、馬車を走らせ始めた。
屋敷がどんどん小さくなっていく。
一緒に育った姉たちも、屋敷の窓から手を振ってくれた。
表に出ることをシャローナに禁じられているのだろう。
屋敷が見えなくなり、私はシュムシュラの花束を見る。
「葉っぱしか見たことなかった。
花が咲くのね。」
「シュムシュラの花は、年に一回のこの時期にだけ咲くらしい。
メイドさんたちが、教会の裏手に押しかけてきてたくさん摘んでいったと、シスターマルティナが言ってた。
君は彼女たちに愛されて育ったんだな。」
「そうね。
私の家族はあの人たちだわ。」
私はそういうと、クリスの肩に頭を預けた。
「今日から、俺も家族だよ。」
その言葉に笑みが漏れる。
「うん、嬉しい・・・。」
馬車は、教会へとたどり着く。
私は馬車を降りると、花嫁衣装を持って控室へと入っていった。
中ではシスターマルティナが、支度を手伝うために待ってくれていた。
急いで着替えて、お化粧をしてもらう。
教会の表が騒がしくなってきて、どうやらクリスの一族が、やってきたみたいだ。
「あ、そうだ、ポーリーン様。」
シスターマルティナが、ブーケからシュムシュラの花を一本とると、ベールに挿してくれる。
「祖母から聞いたおまじないです。
シュムシュラの花は一本だけでもいいから、身につけておけと。
魔除けになるそうですよ?」
私は鏡に映るその様子に、笑顔で頷いていた。
このまま式を終えて、それからあのドレスを・・・。
そう思った時だった。
スズーーーン!!
教会の外から大きな音がした。
人々の叫び声と、司祭様の悲鳴が聞こえる。
私は急いで教会の外に飛び出した。
そこには、クリスと同じようにフードをかぶった数人のハンターが、大きな魔物と戦っていた。
魔物の頭は三つ。
ケルベロス!!
ハンターの数が多く、ケルベロスはすぐに劣勢になったけれど、三つある頭のうち、一頭が誰かを咥えている。
まさか・・・まさか!!
ハンターの一人がケルベロスの首を落として、咥えられた人物を助け出している。
残りのハンターが残る二つの首を落とし、ケルベロスは溶けるように消えていった。
私は震えながら、救出されたハンターを確認しに行った。
私が来るのを見て、他のハンターたちも道を開けてくれる。
そこにいたのは・・・、血まみれになったクリスだった。
「いや・・・いやよ。」
私は泣きながらクリスの頭を抱える。
クリスは苦しそうに私を見ながら、血泡を吹いて、喋り始めた。
「ポ、ポーリーン・・・、絶対にケシェペの力を使うな・・・。
奴の狙いは・・・、これだ・・・。
俺を殺して・・・、君に最後の願いをさせる気だ・・・。」
私は必死にクリスの目を見つめる。
「愛してる・・・シュムシュラちゃん・・・、俺のポーリーン・・・。」
クリスの目から光が消え、瞳孔が開いていく。
私は泣き叫んでクリスを抱きしめた。
もっと、もっと早くあのドレスのこと打ち明けていれば!!
あんなに何回も願いをしなかったら!!
こんなことにはならなかったのに!!
私は、クリスの頭をそっと地面に置くと、馬車の方に向かって走り出した。
馬車の荷台から衣装箱を開くと、ケシェペのドレスを取り出す。
それから教会に入ると、祭壇の床板を外して、地下へ駆け降りた。
ケシェペの部屋の扉を開けて、鏡の中の彼女の姿を確認する。
あの時のまま、色は腰のあたりまでしかない。
この状態なら、生き返りの魔法を使っても大丈夫かもしれない。
私は花嫁衣装を脱ぎ捨てると、ケシェペのドレスを纏った。
「クリス、クリスを返して!」
ケシェペの鏡を見ながら、最後の願いを叫ぶ。
ケシェペの体の色がものすごい勢いで戻っていった。
上半身が色づき、首から上まで肌の色が戻っていく。
でも、長い髪の色はそのままだった。
私はほっとして、ケシェペのドレスを脱ごうとした時、ケシェペの閉じていた目がぱっちりと開き、私を見た。
次の瞬間一気に髪の色が戻っていく。
「ありがとう、ポーリーン。」
艶然と微笑むケシェペが、ゆっくり鏡の中から出てきた。
喜ぶ?
涙を流す?
平民と結婚なんて、と大反対?
・・・そのどれでもなかった。
「いいわよ。」
「幸せにな。」
これだけ。
上の姉二人が昨日の舞踏会で、有力な貴族と婚約したから、むしろ暗い噂のある私はいない方がよかったの。
私を惜しんでくれたのは、執事とメイドたちだけ。
シャローナ?
大喜びで、結納金を弾んでくれたわ。
だって、彼女の中では、王家の血筋ではない私はいてはいけない存在。
彼女の望むベルバルティ家にようやくなるんだもの。
門の外まで見送ってくれたのは、やっぱりメイドたちと執事。
結婚式には、メイド長と執事が来てくれることになった。
両親は・・・、体面があるから来ない。
「これがポーリーン様の分の財産の手形。
こちらが結納金の分。
それから、身の回りのものです。
ホントにこれだけでよろしいのですか?」
執事のセバスティが、目を潤ませながら荷物を積んでくれる。
「もちろんです、セバスティ。
そしてメイド長、みんな。
あなたたちこそ、私の家族です。
屋敷に残した残りのドレスや家具は売ってもらって構わないわ。
皆さんのお給金の足しにしてください。」
メイドたちはみんな涙を流している。
「式はテパトの教会でしたね。
すぐに後を追いかけます。」
メイド長が、ハンカチで目頭を拭っている。
私は迎えに来たクリスと、荷物を積んだ馬車に乗り込んだ。
「ポーリーン様。
シュムシュラの花束です。
この切り花はラベンダー水に浸しておりましたので、決して臭いません!
花言葉は、『永遠の愛と幸福』です。
花嫁の前途を祝して!」
メイドたちが、小さなブーケを渡してくれた。
私は喜んで受け取ると、手を振る。
クリスが鞭を振り、馬車を走らせ始めた。
屋敷がどんどん小さくなっていく。
一緒に育った姉たちも、屋敷の窓から手を振ってくれた。
表に出ることをシャローナに禁じられているのだろう。
屋敷が見えなくなり、私はシュムシュラの花束を見る。
「葉っぱしか見たことなかった。
花が咲くのね。」
「シュムシュラの花は、年に一回のこの時期にだけ咲くらしい。
メイドさんたちが、教会の裏手に押しかけてきてたくさん摘んでいったと、シスターマルティナが言ってた。
君は彼女たちに愛されて育ったんだな。」
「そうね。
私の家族はあの人たちだわ。」
私はそういうと、クリスの肩に頭を預けた。
「今日から、俺も家族だよ。」
その言葉に笑みが漏れる。
「うん、嬉しい・・・。」
馬車は、教会へとたどり着く。
私は馬車を降りると、花嫁衣装を持って控室へと入っていった。
中ではシスターマルティナが、支度を手伝うために待ってくれていた。
急いで着替えて、お化粧をしてもらう。
教会の表が騒がしくなってきて、どうやらクリスの一族が、やってきたみたいだ。
「あ、そうだ、ポーリーン様。」
シスターマルティナが、ブーケからシュムシュラの花を一本とると、ベールに挿してくれる。
「祖母から聞いたおまじないです。
シュムシュラの花は一本だけでもいいから、身につけておけと。
魔除けになるそうですよ?」
私は鏡に映るその様子に、笑顔で頷いていた。
このまま式を終えて、それからあのドレスを・・・。
そう思った時だった。
スズーーーン!!
教会の外から大きな音がした。
人々の叫び声と、司祭様の悲鳴が聞こえる。
私は急いで教会の外に飛び出した。
そこには、クリスと同じようにフードをかぶった数人のハンターが、大きな魔物と戦っていた。
魔物の頭は三つ。
ケルベロス!!
ハンターの数が多く、ケルベロスはすぐに劣勢になったけれど、三つある頭のうち、一頭が誰かを咥えている。
まさか・・・まさか!!
ハンターの一人がケルベロスの首を落として、咥えられた人物を助け出している。
残りのハンターが残る二つの首を落とし、ケルベロスは溶けるように消えていった。
私は震えながら、救出されたハンターを確認しに行った。
私が来るのを見て、他のハンターたちも道を開けてくれる。
そこにいたのは・・・、血まみれになったクリスだった。
「いや・・・いやよ。」
私は泣きながらクリスの頭を抱える。
クリスは苦しそうに私を見ながら、血泡を吹いて、喋り始めた。
「ポ、ポーリーン・・・、絶対にケシェペの力を使うな・・・。
奴の狙いは・・・、これだ・・・。
俺を殺して・・・、君に最後の願いをさせる気だ・・・。」
私は必死にクリスの目を見つめる。
「愛してる・・・シュムシュラちゃん・・・、俺のポーリーン・・・。」
クリスの目から光が消え、瞳孔が開いていく。
私は泣き叫んでクリスを抱きしめた。
もっと、もっと早くあのドレスのこと打ち明けていれば!!
あんなに何回も願いをしなかったら!!
こんなことにはならなかったのに!!
私は、クリスの頭をそっと地面に置くと、馬車の方に向かって走り出した。
馬車の荷台から衣装箱を開くと、ケシェペのドレスを取り出す。
それから教会に入ると、祭壇の床板を外して、地下へ駆け降りた。
ケシェペの部屋の扉を開けて、鏡の中の彼女の姿を確認する。
あの時のまま、色は腰のあたりまでしかない。
この状態なら、生き返りの魔法を使っても大丈夫かもしれない。
私は花嫁衣装を脱ぎ捨てると、ケシェペのドレスを纏った。
「クリス、クリスを返して!」
ケシェペの鏡を見ながら、最後の願いを叫ぶ。
ケシェペの体の色がものすごい勢いで戻っていった。
上半身が色づき、首から上まで肌の色が戻っていく。
でも、長い髪の色はそのままだった。
私はほっとして、ケシェペのドレスを脱ごうとした時、ケシェペの閉じていた目がぱっちりと開き、私を見た。
次の瞬間一気に髪の色が戻っていく。
「ありがとう、ポーリーン。」
艶然と微笑むケシェペが、ゆっくり鏡の中から出てきた。
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